昨年復活を遂げ、今年は谷川俊太郎、いとうせいこうをヘッドライナーとして、2日間にわたって開催されるポエトリーリーディングのイベント『ウエノ・ポエトリカン・ジャム6~はしれ、言葉、ダイバーシティ~』。「~はしれ、言葉、ダイバーシティ~」という副題のごとく、ポエトリーリーディングのシーンでは馴染みのある人々から、短歌や俳句、そしてヒップホップのミュージシャン、さらには一般公募のオープンマイクに至るまで、「言葉」を用いた幅広いジャンルの表現者たちが、今年もズラリと顔を揃える。昨年、主催者たちの予想以上の活況を呈し、今年は初の2日間開催に踏み切ったという『ウエノ・ポエトリカン・ジャム6』は、なぜいま復活を遂げ、多くの人々から支持されるに至ったのだろうか。
『ウエノ・ポエトリカン・ジャム6』実行委員会の2人――自身もポエトリーリーディングのシーンで活躍する代表の三木悠莉、普段は自身のレーベル「胎動」を基盤にジャンルレスに動きつつ、パンクハードコアでもバンド活動をしているikomaに話を聞いた。
初めてステージ上で自分の詩を読んでみたんですけど、「これはちょっと面白いぞ」って思って(笑)。(三木)
—そもそも『ウエノ・ポエトリカン・ジャム』(以下、『UPJ』)とは、どのような経緯で始まったイベントなのでしょう?
三木:第1回目は2000年になるのですが、詩人で作詞家のさいとういんこさんという方が始められたイベントです。そのあと数年ごとに開催されていたんですけど、途中で主催の方が変わられて。
ikoma:1回目、2回目はさいとういんこさんがメインで、3回目、4回目は、また別の方が代表をやられていたんです。
—それを昨年からお二方が引き継がれたと。三木さんは、2012年からポエトリーリーディングの活動を始めたということですが、それ以前は何をなさっていたんですか?
三木:詩を書くこと自体は、10代の頃からずっとやっていたんですけど、それをどこかに発表するとかはまったくやってなくて、ホントに自分の趣味としてやっていたんですよね。
私が楽しむために詩を書いているっていうのは、まわりの友だちとかも知っていたんですけど、あるときポエトリーリーディングのオープンマイクのイベントに誘ってくれた方がいて。それで、リーディングなんてしたことないし、「できるかなあ?」って思いながら、初めてステージ上で自分の詩を読んでみたんですけど、「これはちょっと面白いぞ」って思って(笑)。
三木:それからオープンマイクのイベントに行くようになって、そのうち他のイベントとかにもゲストで呼んでもらえるようになりました。
ポエトリーリーディングのシーンは、一人ひとりの濃さが、すごいんです。恐ろしいぐらい濃くて、キャラ立ちのすごい人たちばかり(笑)。(ikoma)
—ポエトリーリーディングの現場の何が面白いと思ったのでしょう?
三木:やっぱり、普段何をやっているのかも全然知らない人たちが、ただ本当に言葉が好きとか詩が好きっていう共通点だけで同じ会場に集まって、その場で自分の詩を読んで、また去っていくみたいなところですかね(笑)。
それが月に1回とか、同じ場所で行われているのって、すごい面白いことだなって思うんです。ある意味、日本人的じゃないというか。もちろん、ポエトリーリーディング自体、日本ではあまり活発じゃないとうのはあるんですけど、それだけに、日本においては、これからどんどん面白くなっていくジャンルなんじゃないかなって思いますね。
—ikomaさんは、そのシーンの何に惹かれたのでしょう?
ikoma:僕自身は単純に、そこにいる人が魅力的だったら、何か一緒にやりたいって思うタイプなんですよね(笑)。ポエトリーリーディングのシーンは、規模は小さいけど、一人ひとりの濃さがすごいんです。もう、恐ろしいぐらい濃くて、キャラ立ちのすごい人たちばかりだっていう(笑)。そこが面白いと思ったんです。
—なるほど。
ikoma:ただ、いまシーンの規模は小さいと言いましたけど、2000年代の半ばに『UPJ3』が開催された頃は、お客さんが1500人とか入ったり、すごい盛り上がりがあったみたいなんですよね。だから、一回盛り上がったあと、またちょっと収束した感じはあるのかもしれないですね。
ヒップホップといまの日本のポエトリーリーディングのシーンは、切っても切れないところがあるんですよね。(ikoma)
—その2000年代半ばの盛り上がりというのは、何だったんでしょう?
三木:恐らくなんですけど、『UPJ』と並行して、『新宿スポークンワーズスラム』(以下、『SSWS』)っていうイベントがあったんです。それも『UPJ』と同じく、さいとういんこさんが始められたイベントなんですけど、新宿MARZというライブハウスで、リーディングの対決イベントをやっていて、のちのち、錚々たるアーティストになられる方、特にラップのシーンとかですごくビッグになる方が、そこに出てらっしゃったりしたんですよね。
ikoma:ヒップホップのライターでいまは構成作家をやられている古川耕さんが審査員に入られていたり、出演者もMC漢さんだったりKEN THE 390さん、DOTAMAさん、COMA-CHIさん、なのるなもないさんや環ROYさんがいたりして。あとは小林大吾さんやMOROHAさんや不可思議/wonderboyさんも出場したそうです。そうやって、詩人とラッパーが対決するイベントがあって、それが結構盛り上がっていたんです。
—なるほど。その頃は、ポエトリーリーディングのシーンとヒップホップのシーンが、ちょっと重なっていたのですね。
ikoma:そうですね。2000年代に入ってから、降神さんだったり、言葉が文学的なラッパーの方が出てきたときに、わりと共鳴した部分があったんです。さいとういんこさんも、『B-BOY PARK』(1997年~2017年まで、代々木公園で開催されていたヒップホップのイベント)のMCバトルを見て、『SSWS』を始めたって言ってたぐらいなので。ヒップホップといまの日本のポエトリーリーディングのシーンは、切っても切れないところがあるんですよね。
—その後、ヒップホップはフリースタイルの流行などもあり、シーンが拡大していきましたが、ポエトリーのほうは……。
ikoma:うーん、シーンとして無くなったわけではないんですけどね。日本全国には、ポエトリーリーディングやオープンマイクをする人が、結構いたりはするので。でも、あんまり集まるきっかけがなかったり、各々が繋がってないところもあるんです。
三木:みんな結構個人主義なんですよね。だから、何かを取りまとめるような人がいなかったというか、その盛り上がりを牽引してくださるような方が、あまり出てこなかったところがあって。
ikoma:もちろん、今回『UPJ6』の後援をしてくださっている『ポエトリースラムジャパン』だったり、ポエトリーリーディングの大会をされたりする方はいらっしゃったんですけど、なかなかそれに続くようなイベントがなくて。
—そういう状況だからこそ、お二人は『UPJ』を復活させようと?
ikoma:そうですね。とりあえず一発、大きいことをやらなくちゃダメなのかなっていう気持ちはありましたね。
三木:そう、自分たちで何かをやっていかないと、多分何も変わっていかないなっていうのはあります。
物が溢れていて、もっと本質的なところに、みんな目が行くようになっている。それによって、言葉や詩っていうものが再注目されている。(ikoma)
—去年『UPJ5』を実際やってみてどうでしたか?
三木:去年は900人ぐらい入ったんですけど、1日でそこまで入るとは、実は私たちも思ってなくて。500人入れば大成功かなと思っていたところ、全国各地からいらっしゃってくれたみたいで。普段接する機会がなくても、こういうことをやると参加してくれるんだっていう、そういう手応えみたいなものは、すごく感じましたね。
ikoma:結構、他のジャンルから来てくれた方も多かったみたいなんです。それこそバンドでボーカルやってる人がふらっと見にきてくれたりとか、他ジャンルのイベントのオーガナイザーの方が結構来てくださったりとか。さまざまな表現の人たちが集まってきてくれました。
多分、いまの若い人たちって、例えば『UPJ6』に出演するギターとポエトリーリーディングのユニットであるAnti-Trenchもそうなんですけど、もう一回言葉の表現みたいなものに興味を持っている人が多いような気がするんです。ポエトリーリーディングみたいな表現の場に「行ってみようか?」ってあまり抵抗なく思える感じがあるというか。
三木:いまの若い子って「何々離れ」とか言われますけど、物よりも自分の好きなことを大切にするようになってきているじゃないですか。そうなると言葉っていうのは、心にすごく密接に結びついているものだから、むしろ、私たちの世代よりも言葉をすごく大切にするのかなっていうのは感じていますね。
ikoma:たしかに、物が溢れていて、それよりもっと本質的なところに、みんな目が行くようになっているっていうのはありますね。それによって、言葉や詩が、再注目されている感じもあります。
SNSがあるおかげで、1億総表現者じゃないですけど、何かを発することのハードルが、すごい下がったと思う。(三木)
—そこにはひとつ、SNSの普及も影響しているのかもしれないですね。昔以上にみんな、言葉に対して敏感になっているというか。
三木:ああ、それはたしかにあるかもしれないですね。
ikoma:『UPJ6』には、東直子さんや枡野浩一さんといった短歌の人にもご出演いただくんですけど、短歌はやっぱりSNSとすごく相性が良かったみたいなんですよね。そもそもが凝縮された言葉だから、Twitterとかで読まれたり広まったりしやすいんです。それで、ちょっとしたムーブメントというか、盛り上がりが起こったりしている。そういう意味で、SNSと言葉っていうのは、すごく相性が良かったのかもしれないですよね。
歌人の東直子のTwitterでは、毎朝「おはようございます」の挨拶とともに詩的な言葉が添えられている
三木:あと、SNSがあるおかげで、1億総表現者じゃないですけど、何かを発することのハードルが、すごい下がったと思うんですよね。そこで「いいな」ってものに出会ったときに、その思いを発したり共有する文化もSNSのおかげで広がってきたと思うし、同じものを好きな者同士がいままで出会えなかったのに、いまは出会える時代になってきたんですよね。これが好きなのって、私だけじゃないじゃんみたいな。
ikoma:そういう意味で、マイナーな趣味とかでも、各ジャンルで集まりやすくなってきているところはあるのかもしれないですよね。
広い意味で、言葉の表現が集まるお祭りにしたい。(三木)
—昨年の好評を受けて、今年の『UPJ6』は、初の2日間開催となりますが、それぞれの日のヘッドライナーが谷川俊太郎さん、いとうせいこうさん(「いとうせいこう is the poet」名義)という、これまた豪華な並びになりましたね。
三木:そうですね。谷川さんは昨年に引き続き出演してくださることになりました。いとうせいこうさんは、ジャパニーズヒップホップの元祖の方ですし、あとアーバンギャルドの松永天馬さんは、もちろん音楽活動をされてらっしゃる方なんですけど、実は『詩のボクシング』(ポエトリーリーディングの対決イベント)で優勝されていたり、ルーツ的には詩と繋がっているんです。そんななか、さらには町田康さんという、文学界のスターも出演してくださることになりました。
—ラインナップを決めるにあたって、敢えていろんなジャンルの人たちに出演してもらおうみたいな意図もあったのですか?
三木:ありましたね。あまりジャンルが偏らないようにしようというか、どんな人がこの場所に出たら盛り上がるだろうか、みんなが嬉しいと思うだろうかっていうのは、すごくリサーチしました。
三木:あとやっぱり『UPJ』は、「ポエトリー」という言葉がついているけど、広い意味で、言葉の表現が集まるお祭りにしたいよねっていうのは、常々2人で話していることでもありました。私たちはポエトリーで、あなたたちは短歌だ、みたいに分けるのってすごいもったいない。隣接するジャンルだけに、お互いが学び合うとか吸収し合えることがたくさんあるにもかかわらず、それが混ざり合わないというのは、すごい損をしているんじゃないかって思うんです。
だから、今回で言ったら、詩と短歌、俳句、あとはヒップホップとか、本当に広い意味で、どの方向からでもいいから、言葉の表現だったらOKにしています。
ikoma:これに関しては、狭いジャンルの中でやっていてもしょうがないっていう感じがありましたね。普段、いくらでも自分たちの小さいコミュニティの中でやれるんだから、こうやってある程度大きなことをやれるときは、もっと外に向かったことをやったほうがいいのかなって思います。
もちろん、「詩とは何か?」とか、そういう尖ったテーマも大事だし、それを追究する人も必要だとは思うんですけど、その一方で、どんどん切り開いていく人というか、外に向かって拡声器で声を上げていくような役割の人も、やっぱり必要だと思うんですよね。
三木:「これが詩だ」みたいな話をする人はすでにいっぱいいるし、私たちはそうじゃないというか、もう何なら、どこにでも詩を見つけてやろうみたいな気持ちかもしれないです。でも、それってホント、どっちもないといけないというか、どっちもあることが、いちばん健全だなって私は思うんですよね。
ikoma:健全であるっていうのは、結構大事だと思うんですよね。外に向かって、ちゃんと開かれているかどうか。何か詩についてとか言葉について一生懸命考えたりしていると、だんだん言葉が重くなってきて、閉じていってしまうみたいなところが、やっぱりあると思っていて。そういう意味で、健全とか明るいとか開かれているってことを、もう一回、この規模でやってみたいですね。
三木:そのためには、来てくださるお客さんのハードルみたいなものは、なるべく下げたいっていう。そんなふうに思っているんです。
詩のイメージをちょっと新しくしたいというか、「詩2.0」じゃないけど、リフレッシュして、新しいスタートを切りたい。(ikoma)
—ちなみに、去年の会場の雰囲気は、どんな感じだったんですか?
三木:私自身も、ライブ活動をやってきた中で、いちばん多い数のお客さんの前でやって、やっぱり、それはもう特別ですよね。そもそも、野外でやるっていうこと自体、詩の世界では滅多に無いことですし、あれほどお客さんが歓声を上げてくれる場所も、詩の世界では無かったなって思って。そういう意味でも、すごい特別な体験でしたね。
ikoma:とりあえず、お客さんの熱気がすごかった。多分、お客さんも、あんな大っぴらに「詩が好きだ!」って言える環境はないから、その熱気が本当にすごくて、お客さんも含めて、エネルギーの塊みたいな感じでしたね。そもそも、こういう濃いジャンルが好きな人たちが集まっているという時点で、すごいエネルギーなんですよ(笑)。あと、みんながこのイベントをいいものにしたいっていう空気みたいなものが、こっちにもすごく伝わってきたんですよね。
三木:去年も今年も、クラウドファンディングで資金を募ってやっているから、みんなで協力して開催しているっていう気持ちが、やっぱりお客さんの中にも大きいです。ホント、みんなであの場所を作っている感じがあったというか、我がことのように考えてくださる人がすごい多かったし、今年もきっとそうなるんじゃないかなって思っています。
—こういうポエトリーリーディングの野外イベントの可能性みたいなものも感じたのでは?
ikoma:そうですね。たしかに可能性はすごい感じました。やっぱり、ポエトリーリーディングのシーンって、すごい濃くて面白いから、もっと注目が集まれば、いろんなことが起きるんじゃないかなっていう期待はしています。
これは先輩の受け売りでもあるのですが、詩や言葉っていうのは最小限の要素だから、何かとコラボレーションみたいなことが、いくらでもできると思うんですよね。最初に言葉があって、それに即興で音楽をつけることもできるし、音楽から始まって、それを言葉にしていくこともできる。その言葉を、書道とコラボ―レーションして、その場で書いてもらったりすることもできるし。もちろん、単に詩を朗読するだけでも、十分面白い。そういう意味でも、面白いジャンルだなって思うんですよね。
三木:言葉って、全員持っているものですからね。そう考えると、無限にやれることはあるんじゃないかって思ったりもするんです。私たちは、とにかくそうやって言葉を用いてみんなをハッピーにしたいというか、新しい出会いを作りたいと思っているんですよね。
ikoma:詩のイメージをちょっと新しくしたいというか、「詩2.0」じゃないけど、もう一回リフレッシュして、新しいスタートを切りたいっていうのもあって。だからこそ、多くの人に来ていただいて、詩の現場に触れていただけたらなって思っているんですよね。
三木:あと、やっぱり現場ならではの空気感があるというか、ポエトリーリーディングを聴くだけだったら、多分動画とかを見ればいいんですけど、その空気感みたいなものは、その場にいないと絶対わからないと思うんです。『UPJ6』は、入場無料のイベントでもありますし、是非当日立ち寄って、ちょっとでもその雰囲気を感じてみてもらえたらなって思います。
- イベント情報
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- 『ウエノ・ポエトリカン・ジャム6 ~はしれ、言葉、ダイバーシティ~』
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2018年9月15日(土)、9月16日(日)
会場:東京都 上野水上音楽堂 上野恩賜公園野外ステージ9月15日出演:
谷川俊太郎
松永天馬(アーバンギャルド)
TOLTA
コトナ
死紺亭柳竹
道山れいん
三角みづ紀
宮尾節子
文月悠光
GOMESS
東直子
北大路翼
Anti-Trench
MC Mystie with DJ soul-t
小林大吾
カワグチタケシ
村田活彦 a.k.a. MC長老
and more
9月16日出演:
いとうせいこう is the poet
町田康
ジュテーム北村
木下龍也
カニエ・ナハ
狐火
ジョーダン・A.Y.・スミス
タムラアスカ
和合亮一
MAKKENZ
桑原滝弥
花本武(ブックス・ルーエ)
猫道+タダフジカ
萩原朔美+carry音
月映TSUKUHAE
三木悠莉
and more
料金:無料
- プロフィール
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- 三木悠莉 (みき ゆうり)
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2012年よりポエトリーリーディングを始める。ウエノ・ポエトリカン・ジャム5、6代表。ポエトリー・スラム・ジャパン2017秋全国優勝。パリで開催されたポエトリースラムW杯に日本代表として出場。同会期中開催の俳句スラム優勝。復活の言い出しっぺとしてUPJの仕事をもりもりやっている逆境に強いポエトリーバカ一代。2児の母。この愛じゃ負けないんだ。
- ikoma (いこま)
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1983年生まれ。ジャンルの壁を超えるイベント「胎動」とレーベル「胎動LABEL」を主宰。Club~Livehouse、Art Galleryまで年間60本ペースでイベントを開催。高円寺フェスに「胎動 Street Special Session」、肉フェスでは「大学生ラップ選手権」として参加。ポエトリースラムジャパン東京大会を担当、対決型イベント「V系vsMETAL」、お笑い企画、短歌のマガジンの発売、Mc Battleオーガナイズなど、ジャンルの狭間を自由に行き来する。またハードコアバンド・BROKEN LIFEではヴォーカルを担当。
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