Yogee角舘健悟×Sorry Youthが語る、日本と台湾の音楽事情

チャイルディッシュ・ガンビーノやケンドリック・ラマーら、音楽を通じて、社会にメッセージを発信するアーティストが支持を集める世界の音楽シーン。一方で、日本を含むアジアの音楽にはどういったメッセージが込められているのか?

今回は東京出身のバンド、Yogee New Wavesのフロントマン角舘健悟が登場。台湾第3の都市・高雄(Kaohsiung)を訪れ、現地のバンドSorry Youth(拍謝少年)の維尼(ウェイニ)と対談した。

日本と台湾の歴史的背景の違いや、バンドファンの反応から、それぞれの土地が持つ音楽文化に迫る。

信念を持って、音楽を続けて生きていくこと自体が、社会に対するメッセージになっていると思います。(角舘)

—今年チャイルディッシュ・ガンビーノ“This is America”が世界的に騒がれた音楽シーン。そのほかビヨンセやケンドリック・ラマーなど「社会的なメッセージ」を含んだ音楽が世界で注目されている点について、角舘さんと維尼(ウェイニ)さんはどう感じていますか?

角舘:“This is America”もそうだけど、人種差別など社会問題をエンターテイメントとして表現できるのは音楽ならではの良いところだと思う。でも、僕が住んでいるのは日本で、自分の身近に起こっていることでしか判断ができないんですよね。もしかしたら、人種差別されている人じゃないとその問題ってどう表現していいかわからないのかなって思います。

真意はわかりませんが、YMOが自分たちを「Yellow」と名付けたのは自然なことで、僕たちが「Black Yogee」と言っても仕方ない。なので、僕自身は自分のライフスタイルの圏内で起きていることを音楽にしています。

角舘健悟(Yogee New Waves)、維尼(Sorry Youth)

—より自分が身近に感じられるテーマで、楽曲を作っているということですね。

角舘:人種差別という話ではないかもだけど、自分の幼少時代の経験を話すと、親からのプレッシャーが強い家庭で育ってきて、99%が就職するような私立の学校に通ってたんです。その中でミュージシャンを目指そうとする自分は外れもので、常に「マイノリティー」という意識をずっと持ってきました。

こういう状態って社会の縮図で、社会でも圧倒的なマスに対して、自由業で食べていくという生き方やスタンスの人間って少数派なんです。でもそこに信念やアイデンティティーを持って、音楽を続けて生きていくこと自体が、社会の中で自分のメッセージになっているんじゃないかと思っています。

維尼:自分も、角舘さんと同じで、親からすごく厳しく育てられてきました。そんな僕が音楽に対して大事にしていることは2つあるんです。1つは自分の内面から出てくる感情で、2つ目は外からの情報収集や知識です。

特に台湾は社会的なルールも多いし、その中で自由を求めて音楽をしている人たちも多い。自分はミュージシャンという立場で、社会的に不自由な人たちがどうしたら自由になれるかを常に考えているんです。

新しいアルバム『兄弟沒夢不應該』(2017年)は、僕たちの拠点・高雄の若者が抱えている社会問題をテーマに作った曲が多くて。さらに具体的な社会問題を曲に取り入れるだけでなく、積極的にデモに参加することで、社会に対するメッセージになればとも考えています。

台湾は「自分たちが社会を変えていかないと自分たちの居場所がなくなってしまう」という危機感を持ってる人が多い。(維尼)

—音楽にかかわらず、台湾のアーティストやクリエイターは社会や政治に対してストレートに自分たちのメッセージを作品や活動を通して表現することが多い印象ですが、日本ではどうなのでしょうか?

角舘:自分は社会や国が持っている課題みたいなものに対して、「音楽で表現しよう」ということはしません。どちらかというと、自分の100m圏内の人たちがどういう生活をして、なにを考えているのかを意識して音楽を作っています。

角舘:もちろん日本にも社会や政治の問題はいっぱいあると思う。でも、それ以上に日本で生きる人たちの生活のために、自分がなにをしてあげられるかが大事だと思います。元メンバーはいま名古屋で銀行員をやっているんだけど、たとえば彼のためになにができるか。それをなんとなく思ってあげること、それが大事なんだと思います。

維尼:2014年に台北で「ひまわり学生運動」というものが勃発しました。これは、僕たち台湾の若者にとって「台湾人」というアイデンティティーをかけて立ち上がったデモとして、歴史的にも大きな事件だったんです。僕自身もデモに参加して、警察との衝突が最も激しかった行政院で留置所に入れられるという経験をしました。留置所の中で隣の人から「Sorry Youthの維尼ですか?」って聞かれたときは恥ずかしかったですけど(笑)。

角舘:恥ずかしがることない!(笑)面白いエピソードですね。

維尼:これまでの歴史を踏まえても台湾は、「自分たちが社会を変えていかないと自分たちの居場所がなくなってしまう」という危機感が強いし、このデモ以降、さらにそれを意識するようになりました。この環境の違いが、台湾と日本の音楽に対するスタンスの違いにつながっていると思います。

台湾はさまざまな言語が共存している点があって、それによって音楽も変わってきます。(維尼)

—環境やスタンスが違う中で、東京と高雄の音楽には、それぞれどんな特徴がありますか?

角舘:ここ数年、日本はブラックミュージックをルーツにした音楽が流行っていて、チルアウト的なサウンドのアーティストが人気ですね。だけど10年前はパワフルで、どちらかと言うと「立ち上がれ」的なサウンド、ジャンルで言うとロックが人気だったと思うし、さらに10年前に遡ると、フィッシュマンズや渋谷系が人気だった。この「リラックス」と「激動」のサイクルが、そのときどきの日本の若者のモードとリンクしている気がします。

チルっぽさだけではもの足りず、前作『WAVES』(2017年)では少しロック寄りにサウンドを変えています。また、エスケーピズムが戻ってきましたが。あと、Yogee New Wavesに関係ないんですが、最近リズムマシーンを購入して、テクノを作ったり、90年代ごろのアシッドハウスを聴いたりしています。もともと Yogee New Wavesをやる前は、パンクバンドのドラマーだったしね。

維尼:え、ドラマーだったんですか? 知らなかった。台湾は小さい国だし、音楽やカルチャー全般の歴史が日本に比べると浅くて。1987年に戒厳令が解除されて、ようやく台湾が民主化してからが台湾のポップミュージックの歴史なんです。

けど、日本と同じように音楽のトレンドはあると思います。ちょうど「ひまわり学生運動」の頃は激しめのサウンドのロックやパンクが人気で、最近は落日飛車(Sunset Rollercoaster )というアーティストなど、チルアウトな音楽が人気なんです。政治や社会問題に対して、どこか落ち着き始めた空気感が関係しているのかもしれません。

維尼:あと台湾と日本の違いの1つとして、台湾にはさまざまな言語が共存している点が挙げられます。中国語、台湾語、客家語、そして原住民語。その言語によって、文化や生活の背景が違ってくるし、音楽自体も自ずと違ってくるんです。

僕らSorry Youthの歌詞は台湾語がメインで。高雄で中国語より歴史の長い台湾語と、自分たちの好きなロックを融合させたいと思っています。僕ら以外にも、高雄では最近台湾語をあえて使う若いバンドは増えてきているんです。

その土地で生まれた音楽を、その土地で聴くのがすごく好きなんです。(角舘)

—Yogee New Wavesも高雄でライブを行っていますし、Sorry Youthも東京でライブを行っています。お互いに、相手の地域で行ったライブを通して、感じたことはありますか?

角舘:日本のファンとは違い、「キャーキャー!」と、アイドルばりの黄色い声援が多くて、すごく驚きました(笑)。日本だと割と静かに聴く人が多いので。

維尼:20年前、台湾で最初に流行ったジャンルがロックやパンクだったので、それが基本になってしまったんです。それ以降、ゆるめの音楽をやっても、ノリや反応が同じになってしまっていて(笑)。

角舘:そうなんだ! だからロックっぽい曲でもチルい曲でも反応がすごくて。

維尼:自分のライブでもそうですけど、1曲目で自分たちもまだまだ盛り上がる前なのに、客の方がすでに盛り上がってしまっていて。「え、ちょっとまだ早いよ」っていつも思う(笑)。あと、台湾ではライブハウスに1人とか少人数で行く習慣はあまりないんです。友達を誘ったり、大人数で行くのが主流かもしません。

角舘:へー!「パーティー行くぞ!」みたいな感じなんですね。日本だと少人数が主流かも。1人で来る人も多いし。この間アジアツアーで韓国、台湾、香港、中国、タイと行ったんですけど、台湾は異色で、どんな曲でも踊るに踊る(笑)。「Yogee最高ー!」みたいな感じで盛り上がってくれて、それをステージから見ててすごく嬉しかったですね。

Yogee New Wavesがツアーでまわった高雄のライブハウス「草舎」

—Yogee New Wavesも含め、アジアでライブをする若い日本のバンドやアーティストが増えていますね。おふたりはどう感じていますか?

角舘:最初台湾ツアーに誘われたとき、台湾のみんなが自分たちの音楽に対して良い反応をしてくれたことに驚いたしすごく嬉しかった。これまでと違って、ネットを通じて好きな音楽が国境を越えて共有できること、本当に壁はないんだなってことを改めて感じました。

維尼:台湾で人気がある日本のミュージシャンやアーティストは3つに分けられると思います。1つ目は[ALEXANDROS]などのメジャーアーティスト、2つ目はenvyのように長年台湾でライブをしていて固定ファンが付いているアーティスト、そして3つ目はYogee New Wavesや never young beachのような若手アーティスト。

僕ら台湾のミュージシャンにとっても3つ目のアーティストの音楽はすごく新鮮だし、可能性を感じます。そういうアーティストが高雄にやって来てくれるのは嬉しいし、励みにもなるんです。

角舘:ありがとう! 実は今日、車の中で雨の高雄の街並みを見ながら、Sorry Youthの曲を聴いていたんです。街の様子とすごくマッチして、維尼たちがなぜこういう音を作っているのかが理解できました。その土地で生まれた音楽を、その土地で聴くのがすごく好きなんです。きっと僕の住んでる東京でYogee New Waves を聴いたらきっと理解してもらえると思う。

あと、ファンの人の中には、海外に行ったときに僕らの音楽を無性に聴きたくなる人がいるみたい。Yogee New Wavesの音楽は、エスケーピズム(逃避)とサバイバルの要素を含んでいて、だから海外でも東京を思い起こさせるんだと思うんです。

維尼:じゃあ次回東京に行ったときは、角舘くんの生活している街に行ってYogee New Wavesの曲を聴くね!

サービス情報
『潮風感じる、ゆるい街 台湾・高雄』

3人の著名人の高雄旅が楽しめる、高雄市観光局の日本向け公式サイト。Yogee New Waves角舘健悟の他に、奇界遺産やクレイジージャーニーで知られるフォトグラファー佐藤健寿、モデル武居詩織が巡った高雄を掲載中。

リリース情報
Yogee New Waves
『Summer of Love』

2018年10月10日(水)配信リリース

イベント情報
Yogee New Waves
『CAN YOU FEEL IT TOUR』

2018年11月18日(日)
会場:静岡県 浜松 窓枠

2018年11月23日(金・祝)
会場:京都府 京都 磔磔

2018年11月24日(土)
会場:香川県 高松 DIME

2018年12月02日(日)
会場:新潟県 新潟 NEXS

2018年12月03日(月)
会場:石川県 金沢 AZ

2018年12月09日(日)
会場:愛知県 名古屋 ダイヤモンドホール

2018年12月10日(月)
会場:大阪府 大阪 BIG CAT

2018年12月13日(木)
会場:東京都 お台場 Zepp DiverCity

料金:前売3,500円(ドリンク別)

プロフィール
角舘健悟 (かくだて けんご)

1991年生、東京出身。2013年にバンド、Yogee New Wavesを結成し、ボーカルとして活躍。2014年4月にデビューe.p.『CLIMAX NIGHT e.p.』を全国流通でリリース。2018年3月にはメジャーデビューとなる3rd e.p.「SPRING CAVE e.p.」をリリースし、アジア3ヶ国(台湾、香港、タイ)を含めた全12箇所のリリースツアーを開催。11月からは全国8都市でのワンマンツアー「CAN YOU FEEL IT TOUR」の開催が決定。

維尼 (ウェイニ)

台湾の高雄出身。台湾のインディーロックバンド拍謝少年(Sorry Youth)ギタリストとして、2005年活動開始。1stアルバム「海口味」を2012年にリリース。台湾各フェス『大港開唱(Megaport Festival)』や『蚵寮漁村小搖滾(Small Oyster Rock)』などに出演。また日本でも『SUMMER SONIC 2015』に出演。また、文章も好きで、作詞家・ライターとしても活躍する。



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