木村カエラが語る、大人になっても自分に正直でいることの大切さ

木村カエラのニューミニアルバム『¿WHO?』は、リード曲の“COLOR”を含む全5曲中4曲にタイアップが付いており、さらに残りの1曲はミュージカル『アニー』の主題歌として有名な“Tomorrow”で、ともすれば全体像が統一性のないものになる危惧をはらんでいる構成とも言える。しかし、ここにはフレッシュなモードを湛え様々な表情を見せながらポップミュージックと向き合っている木村カエラがいる。そのポジティブなバイブスを解放している木村カエラの「今」がそのまま本作のコンセプトのように捉えられるのだ。

実際にインタビューすると、まさに今の彼女はポップシンガーとして、一個人としてとてもいい状態にあった。ここ数年は音楽表現をするにあたり悩むことが多かったという彼女は、なぜタフなポジティビティーを解放できるようになったのか? その理由を忌憚のない言葉で語ってくれた。

最近はどんどん本当の意味で「ポジティブ木村カエラ」になってきていて。

—新作『¿WHO?』は全5曲中、4曲にタイアップが付いていますね。ともすれば作品として散漫なものになってもおかしくないと思うんですけど、その実、統一したパッケージ感がある。それはカエラさん自身が音楽と向き合うモードそのものだと思うんですね。自由かつポジティブなマインドでポップミュージックと向き合っているという印象が強いミニアルバムだなと思います。

木村カエラ『¿WHO?』ジャケット写真
木村カエラ『¿WHO?』ジャケット写真(Amazonで見る

木村:ありがとうございます。タイアップ曲が多いから作品としてどういう塊にしようかと思ったんですけど、私が来年にデビュー15周年を控えてるんですね。そこで、次のフルアルバムを作る前に、今すでにある曲はひとつの作品としてまとめたいなと思って、今回はミニアルバムを作ることにしました。

タイアップ曲が多いんですけど、そのなかで統一した意識として「子どもが喜ぶような曲がいいな」とか「世の中の人に元気になってもらえたらいいな」とか、そういう希望のある曲を作りたいという思いがメインにあります。つまり、ネガティブな曲が一切ないというか。

木村カエラ

—まさにそうですね。

木村:タイアップ曲はそれぞれバラバラではあるんだけど、そういうことをテーマに1枚のミニアルバムを作れると思ったんです。しかもそこにはいろんな色味があって、全曲木村カエラが歌っているんだけど、子どもみたいな表情を見せているものがあったり、女性的な表情を見せているものがあったり。

—1曲目の“COLOR”はまさに女性的な衝動の強さを表現していると思うし、“Tomorrow”のカバーでは少女的な表情を見せていますよね。

木村:“Tomorrow”のカバーをなぜ入れたかというと、本当は新しい曲をまた1曲レコーディングしようと思っていたんですけど、2018年も大きな地震や豪雨災害があったなかで、私に何かできることはないかとずっと考えていたんです。そこで、私自身がいつも元気をもらっていて、みんなが知っている”Tomorrow”を歌って、みんなを少しでも元気づけられたらいいなと思って。

—それが今の木村カエラのシンガーとしての役割と感じているところもありますか?

木村:私はデビュー当時からすごく心配性で。もともとネガティブな人間なので、歌っている木村カエラはその裏返しにあると思ってるんですね。なので、自分自身も元気になりたいし、曲を聴いてくれる人にも私みたいな人が絶対いると思うから、曲を聴いて元気になってほしいという思いがあって。

それをずっと続けてきてもうすぐ15年が経つんだけど、最近はどんどん本当の意味で「ポジティブ木村カエラ」になってきていて。それを音楽で表現したいという思いがすごく強くありますね。

—そういうポジティブなモードになれた要因はご自身のなかで分析できているんですか?

木村:やっぱり1年1年、年を重ねて強くなったんじゃないですかね。女性は特にそうやって自然と強くなっていくんじゃないかなと思います。

—男とは強くなるベクトルが違いますよね(笑)。

木村:男の人は子どものままでいいんじゃないですかね(笑)。

大人になると「このほうが、人が喜ぶから」って、どんどん自分の表現ではなくなってくる。

—2016年にリリースした9枚目のアルバム『PUNKY』はタイトル通りパンキッシュなモードのアルバムでしたけど、今作にはその影響もありますか?

木村カエラ『PUNKY』ジャケット
木村カエラ『PUNKY』ジャケット(Amazonで見る

木村:あのアルバムをリリースしたときは、女性としていろんな変わり目だったんです。自分にとって大切なものを探したり、すごく揺れていて。

今年の4月に『ねむとココロ』(KADOKAWA)という絵本を描いて出版したんですけど、『PUNKY』で作った“BOX”という曲と絵本のテーマが結びついたんですね。絵本を描いたときにいろんなものがスッキリしたんです。それもあって今の自分がポジティブになれている気がすごくしますね。

木村カエラ『ねむとココロ』
木村カエラ『ねむとココロ』(Amazonで見る

—デトックスできたみたいな?

木村:そう、そういう感じでした。デトックス感。『PUNKY』でパンクのような衝動を爆発させて、そのあとに絵本を描いてデトックスできたのかなと思います。

—今回のミニアルバム収録曲の“COLOR”も、絵本を描いたからこそ書けたという部分もあるんじゃないですか?

木村:すごくあると思います。絵本を描いていて大変だったのは色塗りだったんです。クーピーとポスカで描いていたんですけど、色を決めてバツン! バツン!と描いていくことで自分の芯がだんだんわかってきて。

下描きを描いたときに頭に思い浮かんだ色のイメージは変えちゃいけないんだということを、絵本を描いてるときに気づいたんです。それは音楽も同じで。最初に頭に思い浮かんだモードを貫いて作品を作っていたのが、だんだん大人になってくると、他の要素を受け入れることが多くなる。人との出会いもあるし、人の痛みもわかってくるし、自分だけの問題じゃなくなってくることもある。それで、自分の想像から生まれたものに「このほうが、人が喜ぶから」って考えて別の要素が入ってきてしまうことがあって。そうやって、どんどん自分自身の表現ではなくなってくる。そういうことを絵本の色味を選びながら感じたんです。

—絵本の制作を通して、音楽表現を見直すことができた。

木村:そう。それってアーティストとして表現をするうえで、考えてみればあたりまえのことなんですけどね。私は自分自身で突っ走りたい人間でもあるけど、普通の人でもいたいという気持ちがあって。その狭間で悩んでいた部分があったんですけど、絵本を描いたことでアーティストとしてのいいバランスを見つけることができました。

歌詞にしても、最初にパッと浮かんだ言葉は曲げると弱くなる。人と会って話したときに「こうだ」と感じることにも間違いはなくて。大人になったからこそ、そういう感情をちゃんと受け止めてブレずに発信したいと思いながら“COLOR”の歌詞を書いたんですよね。

—絵本を描くことはデビュー当時からの念願だったそうですけど、早い段階で絵本を描いていたらそういう気づきはなかったでしょうし。

木村:なかったでしょうね。だから、夢を叶えることもタイミングだなって思いますね。絵本を描きたいってずっと昔から言ってきたけど、今回オファーをいただいたときはあまり時間が作れないタイミングで。「次の音楽活動はどうする?」という時期でもあったんですけど、絵本はどうしてもやりたくて「ちょっと絵本だけはやってもいい?」ってお願いしました。で、絵本を描いたことで自分自身を整えることができたし、今、音楽活動でもいい時期に突入していると実感できています。

—音楽にしても絵本にもしても、今は大人としての視点も入るだろうし。

木村:そうですね。大人は自分自身でどうにかできるけど、子どもは手助けをしてあげないと曲がっていってしまうから。その少しの変化に大人がどう気づいてあげるかで、その子の将来もいろいろ変わっていくと思うんですよね。

絵本は6歳から7歳くらいの子に届くようにということと、さらに大人や今の自分自身にも届く内容にしたいと思ったんです。子どもも大人も、人生の環境が変わるタイミングにこの絵本を読んで元気づけることができたらいいなって。

毒を吐き出すじゃないけど、自分自身がクリアになっていく状態があの絵本によって生まれていくといいなと思ったんです。私自身、1ページ1ページ描いていくことが本当に楽しくて仕方なくて。ずっと「みんなが元気になればいいな」って思いながら描いていました。

—ポジティブなメッセージを届けようと思いながら、自分自身と対話することもできたという。

木村:そうやって作っていったから「この絵本が悪いわけない!」と強く思えたし、いろんな人からよかったという反応をいただいたときに「そうでしょ?」って思えたし、何を言われても怖くないという感じでした。そういう作品が、作っていていちばん楽しいんですよね。

昔から絵本が大好きだったので、『Scratch』(2007年2月リリースの3rdアルバム)というアルバムは絵本を描いてるような感覚で歌詞を書いていたんですよ。あと、色彩という意味では“HOLIDAYS”も同じ考えで。月火水木金土日の7日間を、虹のように7色に捉えて。泣いたり笑ったり怒ったり、いろんな日のいろんな色があって、全部合わさってきれいな虹が出る。それこそがHOLIDAYSだというのがこの曲のテーマにあって。そう考えるだけで休みの日が楽しくなるし、日曜日に「明日はもう月曜日か……」って思うよりは、また土曜日が近づくという発想になれるなと思って。

表現したいことがたくさんあって、ワクワクすることがいっぱい待ってるような感覚がある。

—カエラさんは、土日の感覚ってあります?

木村:ありますよ。私は金曜日の夜が本当に楽しみで仕方ないんです。金曜日の夜に外食をすると決めていて。平日は絶対にお酒を飲まないんです。お酒を飲んだら仕事も家事もできないから。それで、金曜日にすべてを終えてから「よし! 行く!?」みたいな(笑)。

—歌詞を書いたりするのも平日に?

木村:平日の夜中ですね。絵本を描いてるときもそうでした。

—そういう生活のサイクルのなかで、アーティストとしての表現欲求もどうアウトプットするか模索していると。

木村:その欲求が一瞬失せてしまったのが『PUNKY』の制作前後だったんですよね。自分の表現がわからなくなっちゃって。生活のなかで自分のことを後回しにした結果だと思うんですね。

—でも、それを犠牲とも言いたくないし。

木村:そう。だから、しょうがないとも思ったんです。自分でそういう人生を望んだわけだから。でも、アーティストとしては取り戻す時間も必要で。

今はもう普段の生活とアーティストでいる自分のバランスが上手く重なってきていると思います。表現したいことがたくさんあって、ワクワクすることがいっぱい待ってるような感覚。そこが、以前の「何を表現していいかわからないままやる」という感覚とは違うので、楽しいですね。

—カエラさんにとってアーティストとしてのロールモデルのような存在はいるんですか?

木村:昔はいたんですけどね。ファッションデザイナーだとヴィヴィアン・ウエストウッドはずっと好きですね。かわいいし、まっすぐだし、あの歳になってもずっとバシッとキメてる。本当の意味でパンクだなと思うし、カッコいいですね。

—シンガーとしては誰かに憧憬を抱くとか、そういうことじゃなくなってきたんでしょうね。

木村:きっとそうですね。自分が大人になったというのももちろんあるんだけど。情報が多すぎて「かわいいな」「この人のこと好きだな」って思う人がいたとしても、その人に憧れるということはおそらく今後はないでしょうね。

でも、今の若い子たちもきっとそうなんじゃないかな? 昔は絶対にこの人のCDが出たら買うという存在がそれぞれにいたと思うんですけど、今はそういう圧倒的な存在が少なくなってきてる気がする。

—アーティストの存在感もサブスク的になってるというか。

木村:そう、そういう時代なんだと思いますね。

—この人について知りたいと思って雑誌を買ってインタビューを読んだり、ファッションだったらお金を貯めて高価なアイテムを1点だけ買ったり、そういう過程がごっそり抜け落ちてる時代かもしれないですね。

木村:もちろん今でもそういうことをしてる人もいると思うけど、1人のものとかひとつのものというよりは、幅が広くなって似たようなものを拾い集めてる感じがしますね。

—強烈なひとつではなくね。

木村:そう。だから、情報があふれるってそういうことなんだなと思う。みんなが同じ感覚になるというか。

—感性や価値観が均一化されていく。

木村:この前も、今回のミニアルバムのプロモーションでインスタライブをやってみたりしたんですけど、見ている人との距離がすごく身近ですよね。

—コメントもすぐ飛ばせるし。

木村:その場で会話できるのはすごいなと思って。一方で、TikTokでもあんなに才能のある人がたくさんいて、見ていてすごく楽しいんですよ。自分の才能をアピールするのが得意な人がたくさんいるなって。

だから、アーティストという存在は一体何なのかと考えると難しいですよね。今は誰もがアーティストになれるから。もっと面白いことをしなきゃ、飛び抜けなきゃというのは今の自分の目標でもあります。常に「誰もやってないことって何かな? 私にしかできないことって何かな?」って考えるし。そういうことを考えるのが今は楽しいんですよ。

『¿WHO?』のジャケットも私の手描きがデザインされてるんだけど、今回は15周年の一歩手前ということで1499枚、私の直筆のラクガキとサインとシリアルナンバー入りのジャケットを作りました。

—レキシもやっていましたね。

木村:そうそう! 同じレーベルだし(笑)。私としてはやったことのない試みだし、今は15周年を迎えられることを感謝したくて。

私自身「木村カエラは夢」という感覚があります。

—木村カエラって、いわゆるポップアイコンであり続けていると思うんですよ。その意識に対してはどうですか?

木村:どうなんでしょう? 自分自身がポップアイコンというカタチで木村カエラを作ってきたかと言われたら、そうではないんですね。

私は普段めちゃくちゃ地味な服を着るんですよ。で、木村カエラになった瞬間に今日みたいな衣装を着るんです。自分のなかで現実は白黒で、夢の世界はカラーという感覚があって。だから、私自身「木村カエラは夢」という感覚があります。自分自身にカラフルな世界を与えたいというのが木村カエラの始まりなので。

—往々にしてポップアイコンやポップスターと呼ばれる人は自分の白黒の部分にこそ自覚的だと思いますけどね。

木村:ああ、そうかもしれないですね。

—最後に、来年の15周年に向けて今の段階で言えることを語っていただけたら。

木村:フルアルバムを作って、ツアーをしたいですね。新しい人たちとアルバムを作ってみたいなと考えていたりします。

—ポジティブなモードは次のアルバムにも続いていきそうですか?

木村:そうですね。ダーッと走っていくような歌が多くなりそうな気がしてます。今はね。私はモードがすぐ変わるから(笑)。どうなるかわからないけど、そういうイメージを今は持ってます。

リリース情報
木村カエラ
『¿WHO?』初回限定盤(CD+DVD)

2018年11月21日(水)発売
価格:2,484円(税込)
VIZL-1467

[CD]
1. COLOR
2. ちいさな英雄
3. Run to the Rainbow
4. HOLIDAYS
5. Tomorrow
[DVD]
1. COLOR (Music Video)
2. COLOR (Making Movie)
※1499枚 直筆ラクガキジャケット ランダム封入

木村カエラ
『¿WHO?』通常盤(CD)

2018年11月21日(水)発売
価格:1,944円(税込)
VICL-65071

1. COLOR
2. ちいさな英雄
3. Run to the Rainbow
4. HOLIDAYS
5. Tomorrow

プロフィール
木村カエラ
木村カエラ (きむら かえら)

2004年6月にシングル「Level 42」でメジャーデビュー。2013年、自身が代表を務めるプライベートレーベルELAを設立。2014年、メジャーデビュー10周年を迎え、ベストアルバム「10years」、8枚目となるオリジナルアルバム「MIETA」をリリース。同年10月、横浜アリーナ2days公演を成功させた。2016年、アルバム「PUNKY」をリリースし全国ツアー「KAELA presents PUNKY TOUR 2016-2017」を実施。2017年5月、JRA『HOT HOLIDAYS!』のCMソングとなっているシングル「HOLIDAYS」をリリース。2018年4月初の絵本「ねむとココロ」を出版。



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