私たちの「生きづらさ」は、いったいどこから来ているのだろう。たとえば、誰かと100%「わかり合う」ことや、隙もないほど「完璧」であることを求めたり求められたりして、人は「生きづらさ」に直面するのではないか。
数多くのCM音楽を手がけ、他アーティストへの楽曲提供も積極的に行っているシンガーソングライター、 THE CHARM PARKのメジャー1stアルバムは、『Timeless Imperfections』と名付けられた。直訳すると「色あせない未完成品」。人は「完璧」なものほど色褪せない魅力を放つと考えがちだが、彼はそこに疑問を投げかける。「未完成」なものこそ、実はタイムレスなのではないか? と。そんなメッセージが込められた2枚組のアルバムは、「いま」という「未完の連続」を生きる私たちにとって、「生きづらさ」から解放される手がかりとなるかもしれない。彼はいま、どんな思いでこの作品を作り上げたのだろうか。
「未完成なものこそ色褪せないんじゃないかな」というのが、いまの僕の気持ちです。
—前作『THE CHARM PARK』がリリースされたのが、ちょうど1年前でした。そこからのCHARMさんの道のりを、まずは振り返ってもらえますか?
CHARM:前のアルバムを出したのが去年の11月で、翌月からツアーがあったんですけど、そのあと少しブランクがあったんです。まさに今回のメジャーデビューに向けて、契約諸々の準備期間で。もちろん、その期間にも曲は書いていたのですが、いざメジャー移籍となると気持ちにも少し変化がありましたね。
—どんな変化でしょう?
CHARM:たとえば金銭面。もちろん、インディーズの頃も考えてはいたのですが、どうやったら赤字にならないか、よりシビアに考えるようになりました。新しいレーベルの人たちと、お互いが「契約を結んでよかった」と思えるようにしたいですし、そのためにどうしたらいいのかを考えながらの1年でしたね。
—ニューアルバム『Timeless Imperfections』は、ファーストにして2枚組ということにも驚いたのですが、サウンドの傾向もだいぶ変わりましたよね?
CHARM:そうですね。前作は、1枚で自分の持ち札を出し切ろうと思ったので、いろんなタイプの楽曲が並んだバラエティー豊かな作品になったと思うんですよ。でも今作は、あまり振り幅を持たせず、全体のトーンを揃えてみました。
トーンの違う2枚のアルバムを、気分によってかけっ放しにできるようにしたかったんです。たとえば、片方はドライブミュージックとして楽しんでもらい、もう片方は部屋でひとりでじっくり聴いてもらう、みたいな。どちらのディスクがどんな気分に向いているかは、僕があまり決めつけたくないので、自由にセレクトしてもらえたらうれしいです。
—タイトルもユニークですね。この由来はなんですか?
CHARM:日本語で直訳すると、「色褪せない、未完成なもの」がしっくりきますかね。一般的に「完璧なものこそ色褪せない」とされているじゃないですか。でも、僕のいまの気持ちとしては「未完成なものこそ色褪せないんじゃないかな」と。それがテーマになっているんです。
自分自身も、以前は「完璧」と言われる音楽を好んで聴いていたし、そういう音楽を作りたいと思っていたんですけど、最近は「ちょっと物足りない曲」に惹かれるようになってきたというか。
—「ちょっと物足りない」ですか。
CHARM:「この曲、完璧だな」と圧倒されるよりも、「完璧じゃないんだけど、そこがいいよね」と思えるような楽曲ですね。もともと僕はテクニック志向のギタリストで、たとえばDream Theater(1989年にアメリカにてデビューしたプログレッシブメタルバンド)とか大好きだったんです。自分がボストンのバークリー音楽大学(以下、バークリー)に行った動機のひとつは、Dream Theaterのメンバーがみんなバークリー出身だったからというくらい(笑)。最近だと、アデルやブルーノ・マーズの楽曲も完璧だと思います。歌唱力、メロディー、歌詞、アレンジの豪華さや演奏力など、すべて非の打ち所がない。もちろん、そういう音楽はいまも素晴らしいと思っているのですが、自分の関心はもう少し「Imperfection」なものへ向かっているんですね。
—そうしたCHARMさんの気持ちの変化に理由ってありますか?
CHARM:どうだろう……。おそらく、気分のようなものもある気がします。一度、完璧なものを目指して、それに飽きて崩して、しばらくしたらまた違う形で完璧な音楽を目指して……みたいな。そういう意味では、いまの音楽シーンは全体的に少し完璧から外れていこうとしているのかも知れませんね。「ポップ」と言われている音楽に、少し疲れ始めてきているのかなと。
完璧な「正解」ばかりを追い求めていた頃に比べたら、すべてにおいて肩の力を抜くことができるようになったかもしれないですね。
—お話を聞いていて思ったのは、未完成なもののほうが、その「余白」の部分が別の時代では新たな魅力となり得ることもある気がして。
CHARM:確かに。古い音楽がいまも聴き継がれているのは、そういうことかも知れないですよね。演奏も録音も昔のほうが荒いはずなのに、なぜそれが色褪せず、いまの音楽よりもいいとさえ思われているのかと言えば、その「荒さ」やちょっとしたミス、揺らぎがあるからじゃないかなと思っていて。
もちろん、当時の人は別に「未完成なものを作ろう」と思ってそうしていたわけではないでしょうし、そこを意図的にやったとしても「Timeless」になるとは限らないのですが。
—確かに(笑)。でもそういう「未完成な余白」があったほうが、聴き手の想像力を投影しやすいということもあるでしょうね。
CHARM:本当にそうだと思います。「これはAである」と言われてしまったら、受け手はA以外を選択する余地がなくなってしまう。Aと決めつけられなければ、こちらはいくらでも自由に想像できますからね。
—CHARMさんはV6や登坂広臣(三代目J Soul Brothers)、ASIAN KUNG-FU GENERATIONなど錚々たるアーティストへの楽曲提供も行っていますが、そういうことを意識するようになってから楽曲提供やプロデュースの仕方も変わりましたか?
CHARM:自分の中の完璧な「正解」ばかりを追い求めていた頃に比べたら、すべてにおいて肩の力を抜くことができるようになったかもしれないですね。特にプロデュースや楽曲提供に関しては、相手があってこその仕事なので、あまりガチガチに決め過ぎないほうがいい結果が出るんじゃないかなと思うようになりました。まずは相手の「正解」を待って、それに対して自分はどういうアプローチをしたらいいか、以前よりも臨機応変に考えられるようになったというか。
ただ、相手に「正解」を委ねたとき、自分が思っていたものからあまりにかけ離れてしまうと若干切なさを感じます(笑)。もちろん、それはそれで「仕方ないな」と思うんですけどね。
無理矢理わかり合おうとするより、わかり合わない関係のほうがむしろ素敵じゃないかなと思うんです。
—今作の“フォー・ユー”の歌詞は、ある種の「Imperfection」について歌っているようにも感じました。
THE CHARM PARK“フォー・ユー” (Apple Musicはこちら)
CHARM:実はこの曲、歌詞のテーマは自分以外の大事な人を思うときの、僕自身のスタンスなんです。たとえ家族だとしても、人と人との関係性で「100%わかり合うなんてことはない」と僕は思っていて。無理矢理わかり合おうとするより、わかり合わない関係のほうがむしろ素敵じゃないかなと思うんです。
—「わかり合えるはず」と思ってしまうから、そうじゃないときに辛くなるんですよね。「わかり合えない」を前提にコミュニケーションをすれば、もっと楽になるのにな、と思うことはあります。
CHARM:そうですね。歌詞にある<小声で告げた愛の言葉は聞こえなくていいよ そのままがいいよ><暗闇の中ときの行方は見えなくていいよ その方がいいよ>というフレーズは、まさにそのことを歌っています。
—そのフレーズを読んだとき、CHARMさんが日本語と英語をミックスした歌詞を書いているのは、それによって受け手に言葉が届くスピードや強度を、コントロールしているからなのかなと思ったんです。大事なことは日本語で言ったり、強い言葉は英語にしてオブラートに包んだりしているのかなと。
CHARM:確かにそれはありますね。本来、僕自身はそんなに歌詞を重視するタイプではないんですね。音楽を聴くときは、まずサウンドやメロディーに耳がいく。結構、歌詞を重視する人もいますけど、「それなら別に音楽じゃなくてもいいんじゃないかな?」って思うくらいで。あ、別に否定しているのではなくて(笑)。
—わかります。それぞれの楽しみ方がありますからね。
CHARM:なので自分の音楽も、言葉の響きだけを感じながら聴き流してくれてもいいし、わからなくてもいいと思っていて。でも、「ここは聴かせたい」と思う部分はシンプルな日本語にすることがあります。なので、日本語と英語をミックスしているのは、おっしゃるような理由がなくもないです。でも逆に、伝えたいことをあえて英語にしたり、他愛のないことを日本語にしたりすることもあるかもしれない。
ひとりで曲を作ると、当然自分と向き合う時間が多くなります。
—本作で、もっともオプティミスティックでストレートな楽曲は“カルペ・ディエム”だと思うのですが、曲名は、ローマの詩人・ホラティウスの詩に登場する語句から拝借しているそうですね。直訳すると「その日を摘め」、つまり「いまこの瞬間を楽しめ」「いまというときを大切に使え」という意味だとか。
THE CHARM PARK“カルペ・ディエム” (Apple Musicはこちら)
CHARM:はい。この曲は、動画CM (日本郵便 かもめ〜る Web 動画「ラストセーラー」篇)に起用されたもので、最初に先方からお題をいただいたんです。「若い人たちにエールを贈るような曲にして欲しい」と。僕自身もそのテーマに共感しつつ、若い人だけでなくさまざまな世代の人を応援する歌詞にしたいなと。
お題ありきとはいえ、自分が普段思っていることを、おっしゃるようにストレートに書くことができました。「1日1日を思いっきり生きる」ということは、人生にとって最も大切なことのひとつなんじゃないかなと思うんです。
—CHARMさんの楽曲は、この曲のように高揚感がある一方で、常に寂寥感、孤独感が漂っていて、そこに強く惹かれます。それってどこから来ているんでしょう。
CHARM:なんでしょうね(笑)。単純に、ある程度までひとりで作っている音楽だから、聴くと1対1で向き合っているように感じてもらえるのかも知れません。ひとりで曲を作ると、当然自分と向き合う時間が多くなりますし、誰に向かって歌っているのかわからなくなるときもあるんですよね。もしかしたら、そこから出ている孤独感なのかも知れません。
—そういう制作スタイルは、今後も大きく変えるつもりはないですか?
CHARM:いまのところはないですね。ある意味、自分のアイデンティティーのひとつでもあるのかなと思うし。ただ今回、メジャーに移籍して以前よりも予算があったので(笑)、レコーディングでは自分が好きなミュージシャンにも参加してもらっています。もちろん、曲作りからデモ制作まではすべてひとりでやっているのですが、それをスタジオでいくつか差し替えてもらいました。なので、これまでに比べるといろんな人のグルーヴやニュアンスが楽曲の中に混じっていると思いますね。
ただこれ以上、人に任せられないという怖さはありますね。もちろん、僕なんかより数十倍演奏の上手い人はたくさんいます。「餅は餅屋」じゃないですけど、プレイヤーだけでなくエンジニアでも、山ほどいると思います。ただ、自分と相性のいい人にはまだ巡り合えていなくて。そこの「孤独感」や「寂寥感」もあるかも知れない(笑)。
—そういう人を探してはいる?
CHARM:そうですね。相性のいい人が、いずれ見つかれば楽かなとは思います(笑)。でも、曲を作るときのルーティンは決まっているし、それ自体は大変とも思っていないですからね。誰かに演奏してもらったり、エンジニアリングをお願いしたりすれば、それで得るものがあるのと同時に失うものもあると思っていて。もちろん「よし悪し」ではなく、どちらを自分が選択するのか? という問題なんですけどね。
もしまた生まれ変わったとしても、また同じ母親のお腹から生まれて、同じ人生を歩み、同じ失敗を繰り返すのも悪くない。
—“Mothers”は母親に向けて書いた曲ですか?
THE CHARM PARK“Mothers”(Apple Musicはこちら)
CHARM:そうです。母とは8年以上離れて暮らしているのですが、最近は自分の周りでも結婚して母親になった人が増えてきて。頑張っている姿を見ていると「母も大変だったんだろうな」って思うようになりましたね。
そうすると、街を歩いていても、自分と同世代のお母さんたちが目に止まるようになってくるじゃないですか。「母ってすごい仕事だな」と改めて思い、その気持ちを曲に込めました。
—だから複数形になっているのですね。
CHARM:そうなんです。最近は、自分のライブにも子連れで来てくれるお客さんが多くなってきて。うれしいことだし素敵だなあと思っていたんですよね。お母さんという存在は、「Imperfections」ではなく「Timeless」。いつの時代も色褪せないし、それはこれから先もずっと変わらないですよね。
—この曲の歌詞、<If we can do life again, I'd choose the same I'll make the same mistakes again>(もし僕らがもう一度やり直しても、僕は同じ過ちを繰り返すことを選ぶ)というフレーズがとても好きです。
CHARM:うれしいです。もしまた生まれ変わったとしても、また同じ母親のお腹から生まれて、同じ人生を歩み、同じ失敗を繰り返すのも悪くないなと思って書いた部分です。
—CHARMさんが「いま」の自分を肯定できているからこそ、言えることなのだなと思いました。“カルペ・ディエム”とも繋がっている気がします。
CHARM:ああ、言われてみればそうですね。去年、そして今年とアルバムを出して気づいたのは、やっぱり「いま」を語りたくなるということなんです。いまの自分が思っている気持ち。そうじゃないと、歌詞も偽りになってしまうような気がして。だからきっと、また来年、再来年と作品を出すことができれば、そのときの「いま」を素直に書いていくと思います。いまという瞬間は、その都度違うものじゃないですか。でも、いつでも「いま」は「いま」だし、「いま」よりもタイムレスなものはないですよね。
- リリース情報
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- THE CHARM PARK
『Timeless Imperfections』(2CD) -
2018年12月5日(水)発売
価格:3,402円(税込)
RZCD-86709/10[CD1]
1. 三十一
2. アタック
3. Imperfection
4. マジック
5. カルペ・ディエム
6. Turn It Around
7. ワンダーランド
8. Leap of Faith
[CD2]
1. タイムレス
2. くちづけ
3. Mothers
4. 君の声が聴こえてくるよ
5. For Me
6. 休日
7. フォー・ユー
8. Put your love in it
9. Always
- THE CHARM PARK
- イベント情報
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- 『THE CHARM PARK Timeless Imperfections Tour 2019』
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2019年1月14日(月・祝)
会場:宮城県 仙台enn2nd2019年1月18日(金)
会場:大阪府 梅田バナナホール2019年1月20日(日)
会場:福岡県 福岡ROOMS2019年1月25日(金)
会場:愛知県 名古屋ボトムライン2019年1月27日(日)
会場:東京都 渋谷クラブクアトロ
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- 『Timeless Imperfections』リリース記念イベント
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2019年12月8日(土)
会場:大阪府 TSUTAYA EBISUBASHI2019年12月9日(日)
会場:愛知県 タワーレコード名古屋パルコ店2019年12月15日(土)
会場:東京都 代官山蔦屋書店2019年12月16日(日)
会場:福岡県 タワーレコード福岡パルコ店2019年12月22日(土)
会場:北海道 HMV札幌ステラプレイス
- プロフィール
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- THE CHARM PARK (ざ ちゃーむ ぱーく)
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2015年リリースの1stミニアルバム『A LETTER』から本格的な活動をスタート。ほぼすべての録音を自身で行い、英語詞と日本語詞を絶妙なブレンドで独自の世界観を築いている。また劇団キャラメルボックスの劇伴や映画のサウンドトラックなどの他に大橋トリオのツアーサポートや共作、南波志帆のサウンドプロデュースなどサイドワークでも大いに注目を集める。2018年に入り、フジテレビ『ストリートワイズ・イン・ワンダーランド―事件の方が放っておかない探偵―』の主題歌「ワンダーランド」を3月に配信リリース。6月には、竹内涼真が出演のメナード 薬用ビューネ2017/ 2018 TVCMソング「フォー・ユー」と話題のタイアップソングを収録したシングル『カルペ・ディエム / フォー・ユー ep』、そして7月にSEIBU SOGO「2018年全国一斉母の日テスト」WEB動画楽曲で使用された新曲「Mothers」を収録した『Mothers ep』を2カ月連続配信リリース。7月に開催の東名阪仙ツアー『WONDERLAND TOUR』では更に動員を伸ばし、GREENROOM、SLOW LIVE、オハラブレイク等各地フェスにも続々と出演。12月に、2枚組の1stメジャーアルバム『Timeless Imperfections』をリリースする。
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