今年、デビュー10周年を迎えるOKAMOTO’Sが、8枚目となるフルアルバム『BOY』を1月9日にリリースした。前作『NO MORE MUSIC』で、確実に新たなフェーズに入ったOKAMOTO’Sは、この『BOY』というアルバムに、自分たちが何者であるかを見事に刻みつけている。過去でも未来でもなく、「今」を生きるロックバンドの、生々しく、誠実な姿がここにはある。「OKAMOTO’Sは、今が最高で最強だ」と、このアルバムを聴けば断言できる。そんな素晴らしいアルバムだ。
今回、CINRA.NETでは、3部構成のインタビュー記事で、OKAMOTO’Sの現在地に迫ろうと思う。まず第1部では、ショウ&コウキのソングライターチームに、歌詞やソングライティング面における、近年の変化を聞いた。そして第2部では、ハマ&レイジのリズム隊に、現在の音楽シーンにおけるOKAMOTO’Sの特異さを語ってもらい、そして第3部では、メンバー全員で、新作のタイトルとなった「BOY」という言葉が示すものについて語り合ってもらった。大ボリュームの記事となったが、ここまでしなければ、今のOKAMOTO’Sは捉えられないのだ。今の彼らのヤバさを、存分に堪能してほしい。
第1部:ショウ&コウキが語る、OKAMOTO’Sの音楽的転機
—前回のCINRA.NETでの取材が、シングル『BROTHER』(2016年)のタイミングだったんですけど(参考記事:華々しいデビューの後に挫折を味わったOKAMOTO'S、復活を語る)、前作『NO MORE MUSIC』(2017年)、そして新作『BOY』を聴くと、やはりあのタイミングはすごく大きな変化の瞬間だったんだと改めて思うんです。まずショウさんとコウキさんに、ソングライティング面での『BROTHER』以降の変化を語っていただければと思っています。
コウキ(Gt):『BROTHER』以降は、内省的な方向に向かっていったというか。今までは「人にどう見られるか?」を必要以上に気にしていたし、かっこつけてきたつもりでしたが、それが半径100メートルくらいの範囲のことを歌いはじめた。
コウキ:並べるのもおこがましいですが、The Beatlesも、最初は恋愛のことを歌っていたりしていたけど、“In My Life”(1965年に発表された6作目のオリジナルアルバム『Rubber Soul』収録曲)くらいから、だんだんと自分たちの子ども時代だったり、内省的なことを歌うようになっていったじゃないですか。その流れにも似ているのかなと思います。
ショウ(Vo):確かにそうだね。個人的な話をすると、“BROTHER”までは「自分はこういうふうになりたい」という憧れで音楽を作りがちで。「自分がこういう音楽を好きで、こういう人になりたい」「こういう音楽をみんなにも聴いてほしい」といった、強烈な憧れが目の前にありすぎて、他のことが考えられなかった。
それはそれで、バンドをはじめたて特有のエネルギーや熱量があって、いいものだと思いますが、その熱量はだんだんと下がってくるんですよ。飽きるというわけではないのですが、やり続けると、どこかが摩耗してしまう感じがある。
—何事においても、「熱が下がる」というのは避けられないですよね。ずっと高い熱量を持ち続けているつもりでも、案外、無理して自分を騙し続けているだけだったりすることもあるし。
ショウ:自分の熱が平熱に近づいてきて、少し冷静になると、周りが見えるようになってくる。そこで、「もっと自分自身を表すにはどうしたらいいか?」「自分ってどういう人間なんだろう?」ということを考えはじめたときに、それを音楽で表現したほうがいいような気がしたんです。
映画でも漫画でもそうだと思いますが、表現って作り手の本当の気持ち、素直な自分を出せれば出せるほど、他の人にはない強いエネルギーになる。そういう考えに変わっていきました。
ショウ:あと一番考えていたのは、「後世に残るものにしたい」ということです。俺はずっと、出たばかりの新譜よりも昔から残ってきた作品を愛して聴いてきた部分があるので、「残るものを作りたい」という欲求がすごくあって。
でも、「後世に残るものを作ろう」と思って音楽を作ったところで、実際にそれが残るかどうなるかなんて誰にもわらない。それなら自分のやるべきことは、できるだけ「今」の自分を描くしかないんです。そして、それが「そのとき、その瞬間」を生きている人たちの心にどれだけハマるかで後世に残るかどうかは決まるような気がしてきて。「まだ曲にしていない自分ってどこにいるんだろう?」と考えながら曲を作ることは増えていますね。
—「まだ曲にしていない自分」というのは、自分自身でも捉えられていない、「未知の自分」みたいなことでもあるんですかね?
ショウ:そうですね。もはや「想い」や「感情」なんてあとからついてくるだろうという感じで、自分の事実や自分が見た景色を羅列していく。そうすることで、「今」の自分自身の具体的な出来事と出来事の間に流れる抽象的なものの存在……「これって、こういう意味もあったんだ」「俺ってこういう人でもあったんだ」ということに、あとから気づかされるような感覚があって。
それに、くるりの岸田(繁)さんが「優れた作家は未来を予言する」って前に話していて。それが本当かどうかは俺にはまだ計り知れないところがあるのですが、自分の等身大だと思って書いたことに、あとから他の人たちの想いが乗っかったりすることで別の意味合いが表れることはあると思うんです。
今の若い世代の人たちは、いかに自分の好きなものをわがままに表現しようとしているかという姿勢のほうを評価してくれていると思う。(ショウ)
—たしかに後世に残る曲って、そういうものなのかもしれないですね。その曲が生まれた瞬間は、おそらく、その曲に刻まれているのは作者のパーソナルな心情なんだけど、そこに人々の気持ちが重ねられることで、20年後や30年後、時代や世代を象徴するものとして語られるっていう。
コウキ:今回の『BOY』で歌っていることは暗い心情だったり、不安感が刻まれているものも多くて、「これ、本当にわかってもらえるのかな?」って今もすごく心配なんです。「もっと派手なことを書いたほうがいいんじゃないか?」「わかりやすく盛り上がるテーマがあったほうがいいんじゃないか?」ということを考えたりもしました。「曲も歌詞も暗すぎるんじゃないか?」って。
ショウ:今回のアルバム制作において、俺とコウキはものすごく不安になる要素が多くて。何度もふたりで話し合いました。「もっと派手なフックを作らないとダメなんじゃないか?」とどちらかが言いはじめたら、もう一方が「いやいや、これで大丈夫」ってなだめる、というか……その繰り返しで。
でも、今の若い世代の人たちは、「メディアがプッシュしている音楽だから聴く」というスタンスではないですよね。いかに自分の足で立っていて、いかに自分の好きなものをわがままに表現しようとしているかという姿勢のほうを評価してくれていると思うんですよ。そういうところを信じながら貫いていったイメージです。
—でも、そこまで「暗さ」や「不安感」が曲に刻まれるのは、どうしてなのだと思いますか?
ショウ:ひとつは、28歳という自分たちの年齢感が要因としては大きいのかなと思います。
—それはきっと、『BOY』というタイトルが示唆している部分でもありますよね。この点に関しては、のちほど4人全員に語っていただこうと思っているんですけど。
ショウ:なるほど。あと、今回のアルバムは「サイクルの速さ」ってということもテーマとしてありました。ネットの普及が要因として大きい要素だと思いますが、今は流行りがどんどん次へ次へと移行していってしまう感覚があって。その「速さ」って、基本的には嘆かれていると思うんです。サイクルが速すぎて、本当にいいものが残っていかないというか。
でも、世の中がそういう速いテンポ感のサイクルになっていったことを、このアルバムでは肯定したかった。今の10代や20代前半ぐらいの人たちは、この速いテンポが当たり前のなかで生きているじゃないですか。前の時代のことなんて知らないし、関係ないと思うんですよ。
—まさにそうだと思います。ただ最初にも話に出ましたけど、これまでのショウさんは基本的に「昔から残ってきたものが好き」というスタンスがあるわけですよね。
ショウ:まさしく。だからこそ、個人的には勇気がいることでもあって。1曲目の“Dreaming Man”では、「自分たちにはヒット曲がない」という悲しみも含めて、「今の人が何かを作ってもムーブメントなんて起こらないし、俺たちがやっていることが認められる日なんて来ない。ただ、俺たちが俺たちでわかってやるしかないんだ」ということを歌いたくて。
でもそれ自体は、俺のような昔の音楽が好きで、レコードも大好きでという回顧的な人間が、自分の大好きなものがたくさんある「過去」を否定することでもあると思っていて。それはすごく勇気のいることでしたが、だからこそ、今の俺がこれを歌うことに意味があるなとも同時に思うことができたというか。
「もう1回、シンプルなロックをやる」っていう選択肢が、自然と自分たちのなかから出てきた感じがあった。(コウキ)
—サウンド面でいうと、『NO MORE MUSIC』は目に見えてヒップホップ的な質感が強い部分もあったと思うんですけど、今作は土台にそうした質感を残しつつも、一聴して「ギターのアルバムだ」って思わせられる感覚がありました。
コウキ:たしかに、これまでで一番「ギターのアルバム」になったかもしれないです。「もう1回、シンプルなロックをやる」っていう選択肢が、自然と自分たちのなかから出てきた感じがあって。
ショウ:「ぶっ壊したい」という気持ちが、曲を作っているときに生まれてきて。整合性なんてつかなくていいから、とにかくぶっ壊したかった。この数年間で、「主張はないけど、スタイルはいい」といった音楽が流行った時期があったと思うんですよ。『NO MORE MUSIC』は、まさにそんな「主張よりもスタイル優先の時代」の真っ只中に出た作品という感じがします。
ショウ:俺らもスタイル優先の音楽は大好きなんですよ。むしろ、日本では「やっとスタイルのかっこいい音楽が評価されるようになった」という側面もあると思いますし。でも、今の自分が一番発したいエネルギーは、それではなかったんですよね。スタイルを破壊するような、刺激的で、冷たさよりも熱さのあるものを求めた。結果的に、すごく生身のサウンドになりましたし、これで正しかったなと思います。
コウキ:うん、正しかった。
—では、このブロックの最後に、ずっと訊いてみたかったことなんですけど、おふたりには、歌詞を書くうえで影響を受けた人などはいますか?
ショウ:俺は、チャールズ・ブコウスキーかな。『くそったれ!少年時代』(1982年)なんかは、邦題も最高だと思う(笑)。ブコウスキーと、あとは、中島らも。それにルー・リードも好きですね……。破滅的で孤独な人が好きなんだと思います(笑)。
コウキ:僕は、作家だったらポール・オースターが好きです。ロマンチックな物語を多く書く人で。将来結婚する人が、実は10代のときに隣のマンションに住んでいた人だった、みたいな……そんな話ばっかり書いている作家なんですよね。彼の『偶然の音楽』(1980年)っていう小説は、今回のアルバムの“偶然”の歌詞の元ネタです。
第2部:OKAMOTO’Sは客観的に見てどんなバンドなのか? ハマ&レイジが自己分析
—ハマさんとレイジさんのおふたりに伺いたいのは、現在のシーンにおけるOKAMOTO’Sの立ち位置についてです。ハマさんもレイジさんも、バンドにとどまらず、もっと言えば音楽にとどまらず、様々な人たちと接点を持ちながら活動されていますよね。そうして「外側」を知ったうえで、自分たちのことをどのように定義づけているのだろう? というところを掘り下げていければと。
ハマ(Ba):なるほど。逆に、インタビュアーさんはどういうふうに、僕らのことをご覧になっていますか? 自分たちの立ち位置を具体的に言葉にすることって、僕らにとってはすごく難しいことで。自分たちの立ち位置こそ、自分たちで一番見えづらい部分というか。
レイジ(Dr):わかりやすいラベリングが俺らにはないからね。年齢もジャンルも超えていろいろな人たちとつながってきたし、アルバムにもいろいろなジャンルの曲が詰まってるし。
—「バンドシーン」という観点から見ると、OKAMOTO’Sは「孤独なバンド」という印象はあるんですよね。日本の大型フェスに出てもシンパシーを感じるバンドはそういないだろうし、むしろ、ハマさんがサポートされている星野源さんのような方や、レイジさんが関わっていたKANDYTOWNのようなヒップホップアクトのほうが、精神性としても通じる部分は大きいんじゃないか? という印象があって。
ハマ:僕らはこういう編成でやっている以上、どうしてもいろいろな人たちと「バンド」というひと言で括られてしまいますが、形態としての「バンド」という括りのなかでシンパシーを感じる存在は少ないですね。まず、昔から音楽のことが好きすぎるがゆえに、まずそこにひとつの壁があるというか(笑)。
それに、そもそもOKAMOTO’Sは自己プロデュースがめちゃくちゃなんです。音楽に対する過剰なこだわりが周りから怖がられたり、面倒くさがられる要因になったりもする反面、YouTubeでOKAMOTO’Sを検索すると、ミュージックビデオの下に4人でうんこのおもちゃで遊んでいる動画が上がっていたりするんです。それも、自分たちで上げている動画ですし……。もう、自分たちでも意味がわからない。
—(笑)。
レイジ:俺らは、ザ・ドリフターズとかザ・スパイダースとかに近いんじゃない? 俺たちは「芸能」のパーセンテージが高いバンドだと思うんですよ。他のバンドが上げている動画を見て、編集の荒さにイラついたりしますから。「そういうところ、ちゃんとやれよ!」って思ったり。
ハマ:OKAMOTO’Sは音楽以外のものも含めて、「エンターテインメント」に対する感覚が鋭いバンドではあるかもしれないです。音楽であろうとなんであろうと、人前に出るからには、楽しさ、感動、共感……いろいろなものをすくい取らないといけない。そこに対するプライドが高いんだと思います。デビューする前から、「ライブは衣装を着てやるもんだろう」と当たり前のように言えていた4人ですし。
—OKAMOTO’Sの広範な活動は、「エンタメ」や「芸能」という言葉がしっくりきますね。
ハマ:それこそ、僕は2011年から(星野)源さんのお手伝いをさせていただいて、彼がどうやって活動してきたのかを肌で感じる部分もあって。
源さんは、「どっちかにしろ」と周りに言われながらも、演技と音楽を両方やり続けることで、ものすごく深い部分でエンタメに向き合ってきた方だと思うんです。あれほどエンターテインメントに対して鋭く感性を持っている人は、活動形態や年齢が違っても一緒にいて面白いですし、刺激になります。
僕らの意味のわからないめちゃくちゃなスタンスが、この2年ぐらいで確実にお客さんに響きはじめている。(ハマ)
ハマ:それに、僕が知っているレベルでも、今はヒップホップのほうがかつてロックバンドが持っていた「夢」を感じさせる力や、「こんなこともやっちゃうんだ」という驚きから与える説得力は強いと思います。
レイジ:確実にバンドよりもヒップホップのほうがかっこつけてるからね。今はヒップホップのほうが、俺らが昔好きだったロックに近いなって思う。KANDYTOWNのメンバーだったり、ヒップホップの連中とつるんでいると、「かっこつけることを忘れちゃいけないな」って思わされますし、ものすごく強いポリシーを見せつけられると、「簡単に折れちゃいけないんだな」と改めて気づかされることもある。
ハマ:別に、「バンド」というものに悲観的な想いがあるわけではないんですけどね。もっと僕ら自身の懐が大きければ、ライブ後に「最高だったぜー!」とか言い合えたのかもしれませんが僕らはずっと、ライブ終わりに袖でグチグチ言いながら帰っていくことのほうが多かったので(笑)。
レイジ:ちょっと前にYogee New Waves(以下、ヨギー)と対バンしたんですけど、初めてに近いポジティブな感覚で「対バンしたな」って感じることができたんです。たとえば黒猫チェルシーぐらい近いバンドだと、もはや兄弟感が強すぎて、対バンと言いつつ親戚の集まりみたいになってしまう部分があるけど、ヨギーとはお互いが共鳴し合ういいライブができた感覚があって。
レイジ:音楽の話がちゃんとできたのが大きかったのかな。打ち上げでも「The Rolling Stonesのアルバムでどれが一番好き?」みたいな話ができて、すごく盛り上がった。こういう感覚を抱けたことって、これまでほとんどなかったんですよ。
ハマ:たしかに最近楽しい対バンは増えてきたよね。雨のパレードとの対バンも、打ち上げも含めて楽しかった。数年前は本当に無理だったんですよ。打ち上げも、「話すことないだろうから、いいや」という感じで。
—ありきたりな言い方になってしまいますけど、「OKAMOTO’Sに時代が追いついてきている」という感覚は、受け手としてもあるんですよね。OKAMOTO’Sがデビュー時から体現していたジャンルレス / ボーダレスな感覚って、確実にこの数年で世界のポップシーンの前提になってきたし、それはロックバンドも例外ではなくて。日本でもそうした感覚を根底に持ったバンドが増えている印象はありますね。
ハマ:なるほど。あとは、俺らの意味のわからないめちゃくちゃなスタンスが、この2年ぐらいで確実にお客さんに響きはじめているという実感もあって。徐々にライブのキャパシティーも大きくなってきているし、10年続けてきたことによって僕らのカメレオン的な部分がきちんと伝わりはじめているというか。
自信過剰なバンドだよね、OKAMOTO’Sって(笑)。(レイジ)
レイジ:この間、東阪でホールワンマンをやったんですけど、第1部では公開レコーディングをしてみせて、その音源はチケットについているQRコードからダウンロードできるようにして。で、第2部では1時間くらいのしっかりとしたライブ。それが終わってから、アンコール前にしょうもない映像を流して、アンコール1曲目はペンライトを振りながらヘッドセットを着けて客席に下りて歌うという。
—もう、本当にわけわかんないですね(笑)。
レイジ:本当に、自分で自分が何をやっているのかわけがわからなくて(笑)。「俺たち、怒り狂いすぎてるな」って思いました(笑)。でも、めちゃくちゃ面白かったし、今のOKAMOTO’Sはこの「わけのわからなさ」がまかり通っているんです。実際にお客さんから「やりすぎ」とも言われないし。
ハマ:あのホールワンマンは決して自分では言いたくない言葉ですが、「これはOKAMOTO’Sにしかできない」という言葉がお客さんから出てきたので成功だったなって思います。それに、みんな少なからず浮足立っている状態でしたが、僕は自分のあるべき姿のように自然でした。アイドルでもないくせに、「もっと2階に手を振らないとダメだな」とか思いながらやっていたので(笑)。
ハマ:それに、こういうめちゃくちゃなことが出来てしまうのは、出てきたアイデアを、4人のうちの誰も拒絶しなかったからこそだとも思っていて。
レイジ:たしかに。誰かひとりがアイデアを出したら、すぐに「いいね! やろう!」ってなるもんね。
ハマ:個々の考えがありつつも、誰かひとりがやれる気になったら周りも「やれる」と思える共同体だと思うので。
—それは「バンド」であることの強さと言えるかもしれないですね。
ハマ:仮に、もし自分が大学生ぐらいだったら、「ヒット曲もないのにOKAMOTO’Sって、なんであんなにいろいろやれるんだ? 何様なんだ?」と思うかもしれないですけどね(笑)。
レイジ:そういう意味で言うと、自信過剰なバンドだよね、OKAMOTO’Sって(笑)。「自分たちはどういうバンドですか?」という質問の答えは、「自信過剰なバンド」っていうのが一番しっくりくるかもしれない。このやり方でやっていてなぜか、不安がないんですよ。なんか、自分をめっちゃ信じてるというか。
ハマ:それもこれも、やっぱりライブに来てくれる人たちや評価してくれる人たちのおかげですね。売り上げとは別の部分で全く違うジャンルの人たちや、違う職種の人たちに認められ続けたという事実は大きいです。個人的にも、こんなにいろいろな人のもとで演奏することになるなんて思ってもみなかったですし。
でも、僕らのこの「何でもあり」なやり方にシンパシーを感じてくれる人は絶対にいると思うし、このめちゃくちゃなバンドの在り方に救われる人もいると思うんです。これが「バンド」という形のひとつのスタンダードになればいいですよね。そうすれば、もっと面白いバンドがたくさん出てくると思います。
第3部:大人と少年の狭間で、OKAMOTO’Sの4人が「BOY」と名づけた感覚
—ここからは4人全員で、新作『BOY』について語っていただければと思います。まず、この『BOY』というタイトルはどういったニュアンスを持つものなのでしょう?
ショウ:このタイトルは、アルバムを作っていくなかで出てきました。最初にも話したように、28歳の自分たちのリアルタイムの姿が刻まれたものが曲としてできてきていた。そして、それと同時に「バンドが10周年なんだ」という想いも心の隅にあって。28歳で10周年……それって、実はすごく複雑な部分もあるんです。
「まだまだ、ここから行けるぞ!」という現役感もありながら、10年分の蓄積もあって、確実に失ったものや摩耗したものもある。14歳の頃には絶対に否定できなかったものを、今は否定できてしまう自分もいる。そうやって「少年期が終わったよね」という気持ちと、「中学の同級生でバンドを組んでいる限り、いつまでも少年だよね」という気持ちの狭間に自分たちがいる感覚です。
—その「狭間にいる」感覚を言い表そうとしたとき、『BOY』というタイトルが一番しっくりきた、ということですか?
ショウ:そうですね。なので、このタイトルに関してはハッキリとした答えがあるわけでもなくて。結婚して、子どもがいるメンバーもいるけど、中学の頃からの同級生で組んだバンドをずっとやっている……といった言いようのない状態を表したかったというか。
—たしかに、レイジさんとコウキさんはご結婚されて、家庭がありますもんね。レイジさんにはお子さんもいらっしゃるし。
コウキ:単純な話、小学校の頃に思い描く20代後半なんてすごく大人なイメージでしたけど、いざ自分がなってみると、意外と少年のマインドから変わらずに大人になっていくものなんだなっていう驚きがあるんです。でも、どこかで歳を重ねるごとに、いろいろなものから興味を失っていく感覚も自分のなかにはあるし……。
レイジ:「『BOY』じゃなきゃいけねえな」っていう感覚もありますしね。背伸びして、かっこつけて、世間知らずな感じって、ロックをやるうえで絶対に必要なものだと思うので。どう足掻いたって、Ramonesを聴いて「かっけえ!」と思う感覚は一生消えないと思うんですよ。だから、いくつになっても「BOY」は「BOY」だけど、現実的には「BOY」ではなくなっていく……っていう。
—「BOYじゃない」という状態も内包したうえで、このアルバムを「BOY」を名づけている……この感覚は、このアルバムからすごく伝わってくるものだと思います。
レイジ:このアルバムは1曲目が“Dreaming Man”で、最後の10曲目が“Dancing Boy”で、「Man」と「Boy」を行き来するような構成になっているんです。そのうえで、アルバムタイトルにした「BOY」っていう言葉は、はっきりとしたものじゃなくて淡い意味合いを持っているものだと思う。そのグラデーションこそが今回の作品性だし、俺らの10年間にも通じているものだという感覚があります。
ショウ:昔の自分って、声が大きいじゃないですか。自分の心のなかにずっといて、「最初に好きになったロックが最高に決まってるじゃん!」と言ってくるそいつの姿って、今の自分に比べたら見劣りする、ダサい格好をした中学生ですが、そいつの声はすごく純粋で、大事な気がするんです。そこを乗り越えて、今の自分が肯定したいと思って書いた曲たちが、ある種、自分のなかにある「Man」の感覚としてこのアルバムに入っていると思います。
OKAMOTO’S“Dancing Boy”を聴く(Apple Musicはこちら)バンドって人間的にものすごく不自然。(ショウ)
—「Boy」と「Man」の狭間にある「言い切れなさ」が、過去でも未来でもない「今」なんだっていうリアルさもありますよね。
レイジ:この「言い切れない」感じって、きっと俺たちだけじゃなくて多くの人が抱く感覚でもあると思うんですよ。
ショウ:そうだね。この感覚はミュージシャンに限らないことだと思う。大学を卒業して社会に出て5~6年経った人が、「違う道もあるかも」って考えはじめたり、あるいは結婚したりという転機の期間が、今の自分たちくらいの年齢からはじまる気がします。
人生における大きな決断を、もう1回自分の意思でするタイミングというか。世の中のことも俯瞰して見えるようになってくるし、「このまま続けるのか?」といった悩みが出てくる。続けるとしても、「自分を新鮮なまま保てるのか?」という不安も出てくるし。
ハマ:僕らは人間的に、そういう部分に人一倍不安を抱くタイプでもあって。さっきレイジと話したヒップホップの人たちのように、折れずにポリシーを貫くスタンスに憧れを感じる部分もありますけど、同時に僕らはこの10年間で、折れないとわからなかったこともたくさん経験してきたので。
ショウ:あと、このアートワークをデザインしてくれた北山(雅和)さんと話していたとき、「どのくらいの『BOY』感なの?」と訊かれて。俺としては「中2くらいの感じです」と答えたんです。
反抗期になって、食卓から離れるときに背中を向けた状態で、父親に「くそジジイ」なんて呟いてバンッと扉を閉める、というか……。面と向かって「死ね」と言うほどは極悪じゃなくて(笑)。見ていないところで中指を突き立てている感じ……そういう温度感がいいなと思いました。
OKAMOTO'S『BOY』ジャケット(Amazonで見る)
—なるほど……。「面と向かって言わない感じ」って、この「BOY」という言葉のニュアンスを捉えるうえで、すごく重要なポイントかもしれないですね。
ショウ:あと、最近よく考えることは、狂信的に音楽が好きで「音楽しかない」と思える人じゃない限り、「音楽で食っていこう」なんて思わないですよね。お金を稼ぎたかったら、絶対に他のことをやったほうがいいと思うし。
それに、音楽じゃなくても「表現することが好き」な人の場合、そのとき自分の周りにいる、自分が面白いと思った人と何かを表現するほうが自然だと思っていて。そういう意味で、バンドって人間的にものすごく不自然で。10年や20年、同じ人と、同じ形態で、同じように作品を作り続けることって、本当に不自然なことだと思うというか。人間なら、人生のそのときどきで自分のブームがあって、結婚したり子どもが生まれたりして変わっていくほうが自然なはずなのに、それでもひとつの形にこだわりながら音楽を続けていく……。
—人間、変わっていくことのほうが自然なんだっていうのは、僕も思います。
ショウ:でも、不自然さを受け入れたうえでバンドを続けているのは、強烈に音楽が好きで、「音楽しかない」と胸を張って言い切れるからなんです。別に、「音楽に救われた」なんて言うつもりはありませんが、「これしかない」って、たしかに俺らは言える。そういう感覚も、この「BOY」という言葉に込めたかったのかもしれない。
OKAMOTO’S『BOY』を聴く(Apple Musicはこちら)芸術って「言いようのないもの」を、できる限りのことで体現しようとしてきたものですよね。(ハマ)
ハマ:ここまで話してきた「言い切れない」感覚、あるいは強烈に何かを好きでいるような感覚って、男女問わず持っているものだと思うんです。もちろん、女性の場合は「GIRL」でもいいと思いますが、僕たちは男女問わず、その感覚そのものを「BOY」と名づけてみたということだと思います。
ショウが「中2くらいの感じ」と言いましたが、たとえば、伊集院光さんが「中二病」という言葉を考えついたのも、みんながモヤっとしていたものを捉えてみせた、すごい発明だったと思っています。それとはもちろんニュアンスも違うものですが、もっともっと形がないものを、俺らは「BOY」と呼んでみた。
—みなさんの話を聞いていて、思い出した存在がいて。僕、チャーリーXCXが大好きなんですよ。
レイジ:え、そうなんですか(笑)。
—はい(笑)。チャーリーXCXは2017年に“Boys”という曲を出していて、そのちょうど1年後に、“Girls Night Out”という曲を出したんです。僕は彼女と世代も国籍も性別も違うけど、彼女が歌う「Boy」や「Girl」という言葉の持つ力に、ものすごく惹かれ続けていて。彼女が歌う「Girl」という主体にも、僕は感情移入できてしまうんですよね。「これは一体、なぜなんだろう?」って考えたんですよ。そこで出た答えが、まさに「名づけようのないものを名づけてみせた」感覚だったんです。
レイジ:なるほど。
—彼女が歌う「Girl」や「Boy」って、額面的な「女の子」や「男の子」というニュアンスを超えるんですよね。性別や年齢の問題ではなく、ひとえに、定義づけられない自分自身の存在を「Girl」と呼んでみた。そして、そんな自分自身が魅了され、同時に、わかり合うことのできない他者の存在を「Boy」と呼んでみた――そんな感覚がある。まさにOKAMOTO’Sの『BOY』も、そういうことなんじゃないか? って。
ショウ:ものすごくきれいにまとめていただいた(笑)。「自分」と「他者」の定義づけか……たしかにそういうことのような気もしますね。
—ポップカルチャーが生まれはじめた1950年代には、「ティーンエイジャー」という言葉が、「大人と子どもの狭間にいる人」の存在を捉えたという話がありますけど、どれだけ時代が変わっても、やはり「どれでもない人」を語る言葉は、求められるものなんだろうなと。
ハマ:やっぱり芸術って「言いようのないもの」を、できる限りのことで体現しようとしてきたものですよね。音楽も同じで、音色を決めたり、歌詞を書いたり、曲を作ったり……そういう行為は、やっぱり言葉にできないものを表現しようとするということなんだろうなって、改めて思います。
レイジ:だからこそ「これが俺たちだ!」っていうことなのかもしれないよね。OKAMOTO’Sはずっと、自分たちで自分たちのことがわからなくてモヤモヤしてきたけど、10年間考え続けてやっと出てきた言葉が「BOY」だったのかもしれない。
- リリース情報
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- OKAMOTO'S
『BOY』初回生産限定盤(CD+DVD) -
2019年1月9日(水)発売
価格:4,104円(税込)
BVCL-951/2[CD]
1. Dreaming Man
2. Hole
3. FOOL
4. Higher
5. ART(FCO2811)
6. 偶然
7. NOTHING
8. Animals
9. DOOR
10. Dancing Boy
[DVD]
レコーディングドキュメンタリー
- OKAMOTO'S
-
- OKAMOTO'S
『BOY』通常盤(CD) -
2019年1月9日(水)発売
価格:3,564円(税込)
BVCL-9531. Dreaming Man
2. Hole
3. FOOL
4. Higher
5. ART(FCO2811)
6. 偶然
7. NOTHING
8. Animals
9. DOOR
10. Dancing Boy
- OKAMOTO'S
-
- OKAMOTO'S
『BOY』完全生産限定アナログ盤(12インチアナログ) -
2019年1月9日(水)発売
価格:4,860円(税込)
BVJL-30
- OKAMOTO'S
- イベント情報
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- 『OKAMOTO'S 10th ANNIVERSARY LIVE “LAST BOY”』
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2019年6月27日(木)
会場:東京都 九段下 日本武道館
料金:メンバー直筆サイン入りオリジナルチケット5,500円 一般5,400円
- 『OKAMOTO’S 10th ANNIVERSARY LIVE TOUR 2019 "BOY"』
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2019年4月6日(土)
会場:神奈川県 横浜BAY HALL
2019年4月13日(土)
会場:静岡県 浜松窓枠
2019年4月14日(日)
会場:三重県 松阪M'AXA
2019年4月20日(土)
会場:長野県 長野CLUB JUNK BOX2019年4月21日(日)
会場:石川県 金沢EIGHT HALL
2019年5月16日(木)
会場:青森県 青森Quarter
2019年5月18(土)
会場:北海道・札幌PENNY LANE 24
2019年5月19日(日)
会場:北海道・札幌PENNY LANE 24
2019年5月23日(木)
会場:京都府 京都磔磔
2019年5月25日(土)
会場:香川県 高松MONSTER
2019年5月26日(日)
会場:滋賀県 滋賀U☆STONE
2019年6月1日(土)
会場:広島県 広島CLUB QUATTRO
2019年6月2日(日)
会場:鳥取県 米子AZTiC laughs
2019年6月8日(土)
会場:群馬県 高崎club FLEEZ
2019年6月9日(日)
会場:宮城県 仙台RENSA
2019年6月13日(木)
会場:鹿児島県 鹿児島CAPARVO HALL
2019年6月15日(土)
会場:福岡県 福岡DRUM LOGOS
2019年6月16日(日)
会場:熊本県 熊本B.9 V1
2019年6月22日(土)
会場:愛知県 名古屋DIAMOND HALL
2019年6月23日(日)
会場:大阪府 なんばHatch
- プロフィール
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- OKAMOTO'S (おかもとず)
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オカモトショウ(Vo)、オカモトコウキ(Gt)、ハマ・オカモト(Ba)、オカモトレイジ(Dr)による、中学校からの同級生で結成された四人組ロックバンド。2010年、日本人男子としては最年少の若さでアメリカ・テキサス州で開催された音楽フェス『SxSW2010』に出演。アメリカ7都市を廻るツアーや豪州ツアー、香港、台湾、ベトナムを廻ったアジアツアーなど、海外でのライヴを積極的に行っている。2019年1月6日には8枚目となるオリジナルアルバム「BOY」の発売が決定。さらには6月27日に自身初となる東京・日本武道館でのワンマンライブの開催が発表された。
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