「家でコーラを飲みながら、ずっとゲームをしていたい」。そうボソッと口にするヒップホップのアーティストが、いま多くの支持を集めはじめている。
1993年生まれ、26歳となった彼の名は、VaVa。トラックメイカー / DJとしてキャリアをスタートさせ、KID FRESINOらにトラックを提供する一方、2017年からはラッパーとしても活躍してきた。2018年夏から3枚のEPを怒涛の勢いで発表し、2019年2月20日、満を持しての新作アルバム『VVORLD』をリリース。tofubeats、BIM、角舘健悟という旬のアーティストたちも参加した同作は、10代の頃は引きこもってゲームばかりしていたというVaVaがバーチャルと現実の世界を行き来しながら紡ぎあげた、瑞々しいアルバムになっている。
VaVaがインタビューで語った、実直な言葉。飾らずに、足元で感じるフィーリングを大切にする姿は、まるで彼の楽曲そのもののようだ。
学生時代はとにかく、僕は弱かったし、引きこもっていたんですよ。
—『VVORLD』は、どう読めばいいんでしょう?
VaVa:そのまま、ワールド(=world)です。VaVa=僕の世界、という意味がありつつも、それぞれ聴く人なりの世界を思い浮かべてもらえるだろうということで、このタイトルにしました。
—昨年夏から『Virtual』『Idiot』『Universe』と3枚のEPを立て続けに出して、そしてアルバム、と。すごいリリースペースですよね。
VaVa:もともとEPを3枚出したあとにアルバムを出す、ということを目標にしていたんですよ。内心、「いけるかなあ……」という不安もありつつ、とにかくやってみます、という感じで。去年の後半は部屋にこもりきりで、ずっと曲を作っていました。
—tofubeatsさんがやっていらっしゃる「HARD-OFF BEATS」という映像シリーズ(ハードオフで買ったレコードだけで、1時間以内にトラックを作る企画)で、ウンウン悩みながら曲を作っている様子が映っていましたが、普段の制作もあんな感じなのですか?
VaVa:「ハードオフで買ったレコードだけで」「1時間以内に」という制約を除けば、あのままです。ずっと自分の部屋にこもって……本当に、独り言だらけで制作しています(笑)。
—VaVaさんはゲーム好きとして知られていますよね。以前はスマホゲームをやりながら曲を作っていたようですけど。
VaVa:いまはもう無理ですね……去年12月に出したEP『Universe』から今回のアルバム制作期間は、そんな余裕はなくなりました(笑)。
—トラック作りは、高校の頃からやっていらしたんですよね。
VaVa:そうです。僕はサンプリングという手法でビートを作っているんですが、まずはネタ探しからはじまります。いろいろと昔の曲を聴いて、ネタもストックして。「あ、これヤバい!」というアイデアが湧いたときは、すべて投げ出して曲を作ります。ネタや自分のアイデアとめぐり合う瞬間を逃したら怖くて、あんまり人と遊べないんです(笑)。パソコンの前から動くのが怖くなるというか。
—ルーツとしては、どんな音楽が好きだったんですか?
VaVa:もともとは、すごくハードなヒップホップばかり聴いていたんです。海外だとWaka Flocka Flameとか、Ace Hoodとか……。「オラオラ!」みたいな、ムキムキのヒップホップです(笑)。
—2000年代後半から2010年代前半に活躍したラッパーたちですね。
VaVa:国内だと、B.D. the Brobusさんとか。とにかく、僕は弱かったし、引きこもっていたんですよ。中学、高校と男子校だったんですが、特に中学校は死ぬほどつまらなくて……ハブられたりもしたし、クラスのなかの階級みたいなものも本当に嫌で。
『VVORLD』に収録した“つよがりのゆくえ”は、まさにその頃のことを歌った曲です。そんなふうに弱かった僕でも、ハードなヒップホップを聴いていると、電車のなかで誰よりも自分のことを強く感じられて。
VaVa“つよがりのゆくえ”を聴く(Apple Musicはこちら)“現実 Feelin' on my mind”という曲を作って、「嫌な過去は隠さなくていいんだ」って思えた。
—弱かったり、自信が持てなかったりした学生時代はヒップホップをまとって生きていたわけですね。
VaVa:僕にとってヒップホップは、ゲームの主人公が持つ武器というか。ヒップホップを聴いている間はスーパーサイヤ人みたいな気持ちだったんですよ(笑)。だからパワーをもらえる曲ばかり聴いていましたね。高校でもそんな感じだったんですが、ある日、tofubeatsさんの“水星 feat.オノマトペ大臣”に出会ったんです。
—大きな転機が訪れた、と。
VaVa:そうです。UstreamでSEX山口さんのDJが配信されていて、そこで“水星”がかかったんです。「この曲、めっちゃいいな!」ってビックリしたんですが、コメントでみんなが「水星」「水星」って言っていて、「何だ、水星って!?」って(笑)。
当時、ミュージックビデオもレコードも出ていない状況だったんですが、調べたらトーフさんと「HARD-OFF BEATS」にたどり着いたんです。それでトーフさんにTwitterで「機材を教えてください!」ってダメもとでツイートしたら、すごく丁寧に返事をくれて。そこから一気に機材を買いそろえていきました。
—ゴリゴリのヒップホップと、tofubeatsさんのようなポップな音、両方に惹かれていたんですね。昨年12月に出したEP『Universe』に収録されたコラボ曲“Virtual Luv feat. tofubeats”が、今作『VVORLD』にも入っています。
VaVa:そうですね。『Universe』のなかでは、Yogee New Wavesの角舘さんに参加してもらった“星降る街角 feat. 角舘健悟”や、BIMとの“Hana-bi feat. BIM”も入っています。自分が作曲をするキッカケとなったtofubeatsさんと曲を作ることができたり、同じレーベルメイトのOMSBくんや、CreativeDrugStoreのin-d、JUBEとも曲を作れたりと……僕としても感慨深いですね。
VaVa:あと8月にリリースした『Virtual』からは“現実 Feelin' on my mind”という曲も収録されているんですが、この曲を作ってから、自分の考え方がちょっと変わって。「嫌な過去は隠さなくていいんだ」って思えた気がして。自分が隠していた過去を、改めて認める努力をしようと思えるようになりました。
「俺、こんなにカッコいい男じゃない」って(笑)。
—嫌な過去を隠さなくなった……どういうことでしょうか。そもそもビートメイカー / DJとして活躍しながらラップに本格的に取り組んだ前作アルバム『low mind boi』はダークで、ヒップホップ的に言えば「煙たい」くらいの作品でしたよね。
VaVa:『low mind boi』は、僕が本格的にラップをはじめて2~3か月くらいで作ったアルバムなんです。それまでCreativeDrugStoreの事務所で2年半くらい共同生活をしていたんですが、生活面でも制作面でもなかなかうまいこといかなくて。一旦ひとりになったんですが、ひとりになったらなったで「俺、何も持ってないな」と。それでこの際、ラップをしてみようと思って作ったんです。
VaVa:実は、自分は自己顕示欲が強くて……メラメラ野望も燃やしているし、「俺、やってやるぜ!」みたいな自分もいるんですよ(笑)。
—裏VaVaもいるんですね(笑)。
VaVa:はい(笑)。そうした黒い自分を出して、カッコよく作ったのが『low mind boi』だったんです。ただ、ライブをやってみると、「あれ、俺こんなにカッコよくないな」と気づいて(笑)。
—自分の実像とズレがあった、と。
VaVa:そう、「俺、こんなにカッコいい男じゃない」って(笑)。それで“Call”という曲をすぐ作ったんですけど、そのサビが<もうカッコつけないよ>という歌詞なんですよ。初期衝動としてカッコいいラッパーやアーティストの方々に憧れを抱いたのはいいものの、僕の場合はちょっと違うかもな、と。
逆にどんどん自分の弱いところが見えるようになった。中学時代、本当に楽しくなくて、引きこもってゲームばっかやってたこととか、あまり人に言いたくない過去を思い出したんです。そして、「こういう人って、もしかしたら俺以外にもいるのかな」と。隠していた内面をラップしてみることにしたんです。
「コーラ美味いわぁ」って言いながら、ずっとこもってゲームをしていたい(笑)。
—『low mind boi』を経ての“Call”も大きな転機と言えそうですね。それ以降では、音作りも、オートチューンをかけたり、トラップ寄りになったりと、大きな変化を遂げてきました。
VaVa:海外のアーティストのライブを見ていると、トラップのノリですごくアガってダイブしていて、「すごいなぁ」と思って。ただ、僕自身はダイブなんてできないです。人を怪我させたらどうしようとか、怖くて……(笑)。
—そこも怖がりなんですね(笑)。
VaVa:根本的には、目立つのも恥ずかしいタイプですね。仲間や先輩と一緒ならクラブは楽しいんですが、ひとりで行くクラブはあんまり好きじゃないですね(笑)。飲み会もあまり行かないですし、コーラが世界一の飲み物だと思ってます(笑)。
「コーラ美味いわぁ」って言いながら、ずっとこもってゲームをしていたい(笑)。自分の部屋なら、お酒も飲まなくていいし、寝間着のままでよくて、すぐ寝れるじゃないですか。だからずっと部屋にいるんですよね……うーん……すいません、ただ出不精なだけですね。
—(笑)。そんなVaVaさんが、内面を表現しつつもトラップのような熱量の高い音楽を吸収していったのは面白いですね。
VaVa:ゆるいノリだった『low mind boi』を経て、僕もお客さんも一緒にエネルギッシュになれるような曲を作りたくて。実際に作ってライブでやってみたら、フロアの景色がまったく違ったんです。一緒に歌ってくれるお客さんもいて、共感してくれる人が出てきた。「現実逃避していた部分も一緒に認めて、笑いながら踊れる」といったようなことを言ってもらったことがあって、それはとても嬉しかったですね。
仲間と楽しいことしかしていないんだけど、それすらもカッコよく見える。アーティストって、そういうことなのかなぁと。
—tofubeatsさんとの“Virtual Luv”や、“現実 Feelin' on my mind”では、ゲーム的なバーチャル世界への憧れが描かれつつ、「そこには入れない」と歌われていますよね。一方で現実はクソゲーとは言わないまでも、汚い世界だと。そのせめぎあいもひとつのテーマなのでしょうか?
VaVa:そうですね。学校が嫌で引きこもっていた男が、ご飯食ってゲームして、ご飯食ってゲームして、ひたすら『ドラゴンクエスト』や『ファイナルファンタジー』のカッコいい主人公に憧れているわけです。「よっしゃ、レベル上がった!」とか言っているけど実際の僕ではない、みたいな感じで(笑)。
男子校だったので女性にモテるという経験もなく、「こんなカッコよかったらモテるんだろうなぁ」とか(笑)、子どもっぽい願望や憧れをゲームキャラクターに対して強く抱いてきたんです。この世界に入りたい――とは、昔からすごく思ってました。「僕だけかな?」と思っていたので、それを曲や歌詞に書いたら、共感していただける人がいたというのは、本当に嬉しいことですね……。
—その飾らなさは、近年のヒップホップのアーティストや楽曲の世界観が支持を集めている、ひとつの理由のような気がします。
VaVa:もともと僕は、人間味があるアーティストが好きだったんです。たとえば、Tyler, the Creatorがそうなんですけど、ステージ上で遊んでいたり、ファレル(・ウィリアムス)を自分のフェスに呼んだときも、ファレルがライブしている間、自分はステージを降りたところで踊ってたり……かわいいんですよね(笑)。そしてそうやって、「人間だな」って思えるアーティストがすごく好きなんです。
同じSUMMIT所属のオムスくん(OMSB)のライブを観ても思うんですけど、ステージにいるとき、違う場所で話すとき、それぞれまったく変わらなくて。めっちゃ最高の人だと思いますし、SUMMITの人たちはそういう人たちだ、というイメージが僕のなかにあるんです。基本、仲間と楽しいことしかしていないんだけど、それすらもカッコよく見えた気がして。アーティストって、そういうことなのかなぁと思った気がしました。
—暮らしのテンションがそのまま活動につながっているんですよね。そういう日常への目線は、『VVORLD』にも感じます。<トイザらス 12月並んでいる人はきっといい人だ>(“Dry Ice Vibe”)とか。
VaVa:僕自身、クリスマスは出かけないような人間ですけど、SUMMITの増田さんのパソコンをチラッと見たときに、自分の子どもにあげるおもちゃのリンクが見えて。「めっちゃ最高の人だな」と思いました(笑)。あと12月に、みんなのInstagramのストーリーを見て、こんなに幸せな空間がいっぱいあるんだなと思って、このリリックに書いたんですね。
でも、僕だったら、トイザらスにあるオモチャは自分が欲しいんです。僕らの仲間もそうだと思うんですけど、トイザらスに行ったら、子どもや誰かにあげるんじゃなくて、自分たちで遊びたくなる(笑)。美味しいご飯とかも、まずは自分に食べさせたいんで……だからこそ、僕にはないものが見えたときは、すごくいいなぁと思いますね。
VaVa“Dry Ice Vibe”を聴く(Apple Musicはこちら)
—20代後半になって、そういう感情を抱くようになったんでしょうか。
VaVa:どうなんですかね……僕は、自分では「大人になった」とはまったく思えてないですね。まず、「大人って何だろう?」って思いますし。どんなに大人になっても、たとえばキャバクラに行ったり馬鹿騒ぎして飲み歩いたりする人たち。あれって若い頃に遊んでいたことと、実は中身が変わっていないように感じて、いくつになっても楽しいことはしていたいのが人間なんだろうなというか。結局、「大人になる」っていうのは年齢だけの問題かもしれないとも思って……。僕自身、年齢を重ねて大人にはなっているんでしょうけど、中身はまだ子どもだなぁと(笑)。
僕の音楽で何か強い感情を抱いてもらえるなら、こんな嬉しいことはない。
—そうした精神的な意味でも、VaVaさんのここ最近の変化は大きかったんだろうなと思います。いまの時点で将来のイメージはありますか?
VaVa:プロデュースやビートメイクに関して、「もっと強化しないと」と思っております。KID FRESINO氏の“Retarded”(2018年発表の『ai qing』収録)、BIMの“Bonita”(2018年発表の『The Beam』収録)とか、最近はいろんな人たちと曲を作れましたが、そこをさらに鍛えないとダメだな、と。僕自身、ラッパーとしての意識よりプロデューサーとしての意識のほうが強いので。
VaVa:あと、憧れからはじまって、いまこうやって音楽をいろんな人たちに聴いていただける幸せな環境にいるんですけど、一方で「他にやりたいことって何だろう?」とも考えます。ゲーム好きだからといってゲームを作るのは無理だし……そういう子どもっぽい願望が、僕のなかに他にあるのかなというのは、改めて自分と話してみたいな、と思います。
—ゲーム音楽はどうですか? 『ドラゴンクエスト』のキャラクターをタイトルにした“ロトのように”という曲も『VVORLD』には収録されていて、名作曲家・すぎやまこういちさんの名前もリリックにあります。
VaVa:そうですね! すぎやまこういちさんは、本当に超ヤバい人なんで。ドラクエのあのメインテーマ“序曲”は、トイレで5分間考えていたら、いきなりメロディーが降ってきて、全部音符で楽譜を書いたっていう人ですから……もう段違いです(笑)。僕も頑張らないとなぁ、という気持ちを持って、これからも延々と制作が続くんだろうなって感じですね。
VaVa:ゲーム音楽はもともと好きだったんですけど、最初は外で聴くのがちょっと恥ずかしかったんですよ。でも慣れると、ゲームで冒険をしているときに流れる音楽を歩きながら聴いたら、まるでそれが自分の世界のように思えた気がして。僕はいま歌詞があって成立する音楽をやっていますが、歌詞がない音楽、たとえばビートだけでもパワーのある音楽を作りたいなぁ、と思います。
—リスナーにとって、VaVaさんの音楽がそうしたパワーになればいいですね。
VaVa:そんなことがもしあったら、最高ですね。でもおこがましくも思えるというか、なかなか簡単な話じゃないと思いますね。この音楽を聴けばエモくなるとか、そんなふうにさせたくてさせられるものじゃないですし、逆に自分がそういう感情を味わいたいくらいですから……。でも、僕の音楽で何か強い感情を抱いてもらえるなら、そんな嬉しいことはないですね。
VaVa『VVORLD』を聴く(Apple Musicはこちら)- リリース情報
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- VaVa
『VVORLD』(CD) -
2019年2月20日(水)発売
価格:2,700円(税込)
SMMT-107 / XQMV-10131. Welcome to VVORLD
2. Chapter
3. 現実 Feelin' on my mind
4. Virtual Luv feat. tofubeats
5. Honey
6. Hana-bi feat. BIM
7. Dry Ice Vibe
8. Pac man
9. 8 bit Cherry
10. ロトのように
11. つよがりのゆくえ
12. 星降る街角 feat. 角舘健悟
13. Ziploc
14. Blend Prod
15. 93′ Syndrome
16. NES
- VaVa
- イベント情報
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- 『VVORLD Release Party』
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2019年2月23日(土)
会場:東京都 代官山 UNITライブ:
VaVa
OMSB
DJ:
tofubeats
KID FRESINO
okadada
shakke-n-wardaa
UNICE:CreativeDrugStore
料金:前売2,800円
- プロフィール
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- VaVa (ゔぁゔぁ)
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2012年からビートメイカーとして活動を開始。これまでビートメイカーとして、2013年「Blue Popcorn」、2016年「Jonathan」と2枚の作品を発表。またTHE OTOGIBANASHI'Sの1stアルバム「TOY BOX」や、2ndアルバ「BUSINESS CLASS」ではリード曲「Department」のプロデュースを担当。そして2017年、VaVa自身による全曲フル・プロデュースの1st ラップアルバム「low mind boi」をリリースした。その他にも、平井堅「魔法って言っていいかな?」のオフィシャルRemixや、サニーデイ・サービス「Tokyo Sick feat. MARIA VaVa Remix」を手掛けるなど、HIPHOP層以外のアーティストからも高い支持を受けている。2018年には、3枚のEPを立て続けに発表。2019年2月、2ndアルバム『VVORLD』をリリース。
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