崎山蒼志の歌と言葉の秘密。写真家・石田真澄の目から紐解く

3月18日~22日にかけて、フジテレビ系にてドラマ『平成物語~なんでもない、けれどかけがえのない瞬間~』が放送される。メインキャスト、脚本、監督、音楽、カメラマン、照明、美術、プロデューサーが全員「平成生まれ」という布陣で制作され話題になったドラマ『平成物語』の第2弾として制作された本作。このドラマに、主題歌として新曲“泡みたく輝いて”を書き下ろしたのが、卓越した技術と世界観を持った高校生シンガーソングライターとして話題の崎山蒼志。そして、スチール撮影を担当したのが、『GINZA』や『POPEYE』といった雑誌で写真を担当するほか、2018年には「カロリーメイト」の広告クリエイティブに抜擢された写真家・石田真澄。CINRA.NETでは、このふたりの特別対談が実現した。

「瞬間」を掴みにかかり、その1歩先にまでつんのめっていくような速度を持つ、現在17歳の崎山の音楽。「瞬間」を捉え、それを「永遠」にまで引き延ばさんとする、祈りのような美しさを含む現在20歳の、石田の写真。「いま」を懸命に生きるからこそ生み出される両者の作品が持つ強さは、悲しさは、切なさは、どんな場所から生まれているのだろうか。じっくりと語り合ってもらった。

写真って撮る人の「目」そのものだと思うんです。(石田)

—おふたりは、お話するのは初めてですか?

崎山:はじめてです。

石田:今朝調べていたら、誕生日が一緒だったんですよ(笑)。

崎山:そうなんですか!

左から:崎山蒼志、石田真澄 / 撮影:CINRA.NET編集部

—石田さんは、崎山さんの音楽を聴いた印象はいかがですか?

石田:歌詞がすごく好きです。私は、音楽を聴くときは邦楽が多いんですが、日本語だと語尾や空白のニュアンスもわかるので好きなんです。洋楽だと自分のなかで和訳しなきゃいけないから、本当にその曲が伝えたいことのニュアンスを汲みとりづらいんじゃないかな? と思ってしまって。崎山さんの歌詞は「え、こんなものが書けるんだ!」って、じっくりと読んじゃいます。

崎山:ありがとうございます。

石田:それに、写真ってゼロベースからスタートするのではなくて、「あるもの」を撮るんですよね。「あるもの」を別物に変えるのが写真。どこを綺麗だと思い、どこを切り取るのかも撮影者によって変わると思うので、そういう意味では、写真って撮る人の「目」そのものだと思うんです。

特に私は、「撮りたいもの」が明確にある場合が多いので、それがダイレクトに出ているとは思うんですけど、それに比べて音楽って、根本的にゼロからスタートするものっていうイメージがあって。自分の頭にあるものを音楽にしたり、歌詞にしたりするものだと思うんです。それが、私にはできないことだなぁって、いつも思います。

撮影:石田真澄

崎山:たしかに、曲作りは、よくわからないとこからはじまることが多いです。家でなんとなくギターを弾いていることも多いので。家族がテレビを見ている横で弾いたりするので、よく「うるさい」って言われます。「いま、テレビ見てるでしょ?」って。

石田:(笑)。……やっぱり、「浮かんでくるから形にしている」っていう感覚が強い?

崎山:はい。でも、たとえば「ハードコアっぽい音楽を作るぞ!」みたいなことを決めて作りはじめることもあります。ふたつ、やり方があるのかもしれないです。

—崎山さんは、写真は意識的にご覧になりますか?

崎山:たまに見ます。Twitterで回ってきた写真が素敵だと、「誰が撮ったんだろう?」って調べたりします。写真って、「一瞬」の捉え方がすごいなと思います。どうしたら、こんなに美しく撮れるんだろう? 描写できるんだろう? って……僕なんか、スマホで写真を撮ってもブレブレで、いつも意味わかんないので……。

石田:ははは(笑)。

—様々な写真家がいるなかで、石田さんは、ご自身をどのような「目」を持った写真家だと思いますか?

石田:私は、「光」の写真がすごく好きで。草にあたっている光や、人の顔にあたっている光がすごく好きなんですよね。なので、その人の顔を撮るというよりは、光を撮ってしまうんですよ。光しか見ていないので、撮ったあとに「ここに、こんなものが映っていたんだ」って気づくこともあるくらいで。今日みたいな光も、すごく好きです。太陽が出ているときが好き。

撮影:石田真澄

—崎山さんの歌詞にも、よく「光」は出てきますよね。

崎山:あぁ、そうですね。光は、綺麗なものでもあるし、オルゴールみたいな感じもします。僕、家では和室にいることが多いんですけど、光がよく入ってくる部屋で……。上手く言えないんですけど。

忘れてしまうようなことを、忘れてしまわないように書いていることは多いかもしれない。(崎山)

—崎山さんから、石田さんに訊いてみたいことはありますか?

崎山:なんというか、こう……「バババっ」と連続で撮るんですか?

石田:あぁ~、写真を撮るのが好きなので、仕事じゃなくても、日々、生活するなかで写真を撮っているんです。そのときは、ポケットにいつもカメラを忍ばせていて、パッと撮りますね。でも、私は何回も同じものを撮るというよりは、歩きながら撮るっていう感じが好きで。いわゆるスナップ写真みたいなものが好きなんですよね。仕事のときでも、連続で撮られると撮られている人が嫌な気持ちになったりするような気がして。

崎山:はぁ~。「一瞬」の描写がすごいので、バババっと撮ったなかから選んでいるのかと思いました。

撮影:石田真澄
撮影:石田真澄

石田:連写はあまりしないんです。モデルさんのように撮られることが仕事の人なら、連写されても嫌な気持ちにはならないと思うんですけど、私のほうが申し訳なくなっちゃって(笑)。「数打ちゃ当たる」みたいな感じになるのが嫌なんですよね。それなら、場所を変えたり、ポーズを変えたりしてもらうほうがいいなと思う。それに、私は、あくまでも「好きだから」写真を撮っているっていう気持ちが強いんですよね。

「絶対に撮らなくちゃいけない」ということもないし、「誰かに撮ってください」と言われて撮っているわけでもない。なによりも、「いま、ここにあるもの」がなくなってしまうのが嫌なんです。なので、その「瞬間」を撮れるように、いつもカメラを持っている。太陽だって陽が陰ったらなくなってしまうし、自分が立っている場所によっても、見える光は違う。いま、目の前にあるものは、1秒後にはなくなってしまうかもしれない……そう思いながら撮っています。

—石田さんが去年出版された作品集『light years』は、高校在学中に撮影された写真をまとめたものでしたね。

石田:崎山さんは、高校生活が終わるって考えると、嫌じゃないですか?

崎山:僕は、あまり(笑)。でも、どうなんだろう……。

石田:終わったあとに気づくかもね。

崎山:そうかもしれないです。

石田真澄『light years』より

—崎山さんの音楽にも、「瞬間」を刻むような速度があると思うんですけど、どうでしょう?

崎山:忘れてしまうようなことを、忘れてしまわないように書いていることは多いかもしれないです。歌詞でも「忘れてしまう」ってよく書くんですけど、「忘れてしまう」と歌うことで、忘れないようにしている感じはあります。

……それか、もっと客観的に見ているのかもしれないです。「忘れたくない」という気持ちがありつつ、もう「なくなってしまったもの」として書いている、というか。僕は、「ない」ものもたくさん書いているような気がします。過去にあったこととか、そこに対する郷愁とか……。「なくなってしまったもの」として書いているんだけど、それを追っている、というか。

「わかんないけど、わかる」みたいな歌詞が好きで。(石田)

—石田さんは崎山さんの歌詞をお好きだということでしたけど、崎山さんの独特な歌詞の文体はどのようにして生み出されているのでしょうか?

崎山:ふわ~っと、出てきたままに書いていることが多いんですけど、そのなかでも、なにか、言いたい意思というか……。「これ」をなんて言えばいいんだろう? みたいなことをバッと掴みにいく、というか。

吉増剛造さんや、小笠原鳥類さんという人の詩を、ネットや人のおすすめを通して知ったりして。僕も上手く受け取れているかわからないんですけど、そういう人たちの詩は、人間のわからない衝動みたいなものを言い得ている感じがして。そういうところは、影響を受けていると思います。「わかんないけど、わかるぞ」っていう。

—「詩」だけで自分の作品を成立させたい、という気持ちを持ったことはありますか?

崎山:それはないですね。最近、GarageBand(音楽制作ソフトウェア)で曲を作るようになったんですけど、変な曲を最近はいっぱい作っていて。そこで作った曲には、歌詞が追いついていないものもあります。本当は、僕は楽曲が好きなのかなって思います。バンドもやってみたいし……そうしたら、もっとサウンドに走りだすかもしれない。

撮影:石田真澄

—崎山さんにとっての現代詩のように、石田さんは、写真以外のカルチャーで、ご自身の写真に影響を与えているものって、あると思いますか?

石田:う~ん……あんまりなんですよね。私、もともとは雑誌編集か広告代理店の仕事に憧れてたんですよ。なので、雑誌や広告はコンスタントに見続けているんですけど、それ以外は学校に行くか仕事かっていう感じで……。音楽も聴くんですけど、それに直接的に影響を受けているかというと、そうでもないかな。

強いて言えば、写真展を開くときにDMなんかに文章を書いたりするんですけど、それが私はすごく苦手で、そういうときに好きなアーティストの歌詞を参考にしたりはします。それこそ、私も「わかんないけど、わかる」みたいな歌詞が好きで。ミツメっていうバンド、わかりますか?

崎山:はい、わかります。

石田:ミツメの歌詞って、なにか伝えたいことがあるかというと、そういうことではないのかなと感じます。「ある」ものを、そのまま描写しているっていう感じがするんです。なにか大きな物事や、「これは伝えたい!」っていう強いものがあって書いているというよりは、「生活」を歌詞にしている、というか。

でも、誰でもわかるんですよね。「あるよね、こういう気持ち」って。モヤモヤした気持ちを、ミツメは断定しないんです。それが私はすごく好きなんです。私も、「撮りたいこと」は明確にあるけど、「伝えたいこと」は明確にあるわけではないので。否定もしないし肯定もしない……そういう、ミツメの歌詞の曖昧さは好きですね。

崎山:僕もミツメ好きです。ミツメの『エスパー』(2017年)っていうシングルに入っていた“青い月”という曲がめちゃくちゃ好きで。歌詞が「見たまま」っていう感じで、淡々としているんだけど、どこかグッとくるものがある、というか。

石田:わかる!

ミツメ“青い月”を聴く(Apple Musicはこちら

人って、なぜか目の前にあるものは「ずっとある」と思ってしまいがちですよね。(石田)

—今回、おふたりは平成生まれだけで作られた『平成物語』というドラマに、スチールと主題歌で関わられていますけど、崎山さんと石田さんの間にある世代感や時代感のような話を聞いてみたいです。特にいまは、崎山さんのように「ひとり」で活動しているシンガーソングライターで優れた人たちが多いなって思ったりするんです。

崎山:たしかに、いま、ひとりで作っている人が多いっていうのは感じます。いい音楽を作っている人たちがたくさんいるなって思うし、そういうなかで、たまに、自分が高校生だっていうことを忘れたりもするんですけど。

石田:あはは(笑)。

崎山:よりよいものを、誰も作れないものを作りたいなっていう気持ちはあります。

—目指すべき場所は、どこなんでしょうね?

崎山:「坂本慎太郎さんみたいになりたい」と思う日があったり、「なにも言いたくないな」みたいな日もあったりして、思うことは日々変わるんですけど……考えたりするのは、田中泯さんみたいな、その場で、空気のようにして踊る存在というか。「自然」になっている感じ……上手く言えないですけど、本能のままにやっている感じ。そこにいってみたいっていうのは思います。

—田中泯さんのお名前は、以前のインタビューでも出ていましたね(参考記事:崎山蒼志が戸惑い混じりに語る、『日村がゆく』以降の喧騒の日々)。

崎山:田中泯さんが手をひと振りしただけで泣くんじゃないかと思います。「神か?」っていうくらい、すごいなって。石がたくさんあるところで踊っていたら、「石が僕に慣れてきている」って言っていたんですよ。「やべぇ!」って(笑)。

石田:(笑)。

崎山:すごく尊敬しています。

—ドラマ自体にはどのような印象を抱きましたか?

石田:このドラマは「なんでもない日常がかけがえのない日々だった」ということがテーマになっているんです。なにか大きな出来事が起こるわけでもなく、恋愛の三角関係がこじれていく、みたいな話でもなく。この物語は、主人公が大切な人を失ったところからはじまって、どんどんと過去に遡っていくんです。そのなかで、「毎日一緒にいたことが、楽しくて美しい日々だったんだ」っていうことに気づいていく。

人って、なぜか目の前にあるものは「ずっとある」と思ってしまいがちですよね。「普通は普通じゃない」っていうことに気づけないことも多い。そういうことが、このドラマでも描かれているような気がしました。「ずっと続く」ものってほとんどないし、「普通の日々も、大切な日々なんだよ」っていう。

崎山:脚本を最初から最後まで読んで、動けなかったです。話が進むにつれて、「そこにあった」ものが「ある」感じが、切なくて。

—遡っていく物語だからこその切なさですよね。

崎山:この曲(“泡みたく輝いて”)は、脚本を読んで作ったんですけど、時間は進んでいくんですけど、過去を追いかけているっていう感じで書きました。それでも、ちょっとでも前に1歩進んでいればっていう。

いつでも「時代」っていうのは狂っているものなのかな、とも思います。(崎山)

—おふたりは、「平成」という時代については、どのようなイメージがありますか?

石田:みんなが「平成」というワードに固執しているのにびっくりしました。去年の夏くらいから、「平成最後の~」みたいな言葉をたくさん聞いたし。でも、前の時代を知っていたら「平成」を特別だと思えたのかもしれないけど、私は平成に生まれて、生きてきて、これから初めてそこを抜け出すっていう感覚だから、「平成」を俯瞰できる感じでもなくて。でも、平成が終わるっていうことでムーブメントが起こるのは、いまっぽいなと思います。

撮影:CINRA.NET編集部

—崎山さんはどうですか?

崎山:昭和のことは直接知らないですけど、社会の教科書に乗っている昭和って、「家電!」みたいな感じで。人が「うぇぇい!」ってなっている、よくわかんない構図の写真が多いというか。

石田:教科書ってそうだよね(笑)。

崎山:平成は、そういう感じがないような気はします。混沌としているというか。パソコンとか、進化はめちゃくちゃしていくんだけど、天災もあったりして……。ネットとかを見ても、人の揚げ足を取って笑っているような人たちを見ると、「狂ってるな」って思うし。

撮影:石田真澄

—“泡みたく輝いて”には、<濁り狂う時代に 足をつけて あなたが笑う 時間は進む>というフレーズがありますね。

崎山:混沌とした、「濁り狂う時代」っていうものがあったときに、そこに「あなた」との記憶が、ひとつ立っているっていう……そういう感じが出したかったのかなって思います。

—「時代」って語りようもあるし、語るべきこともあるけど、でも「時代」は「時代」でしかないというか。「時代」という大きな渦のなかに垂直に立っている個々人の人生の悲しみのようなものを、崎山さんは描いたのかなと思いました。

崎山:そうかもしれないです。時代って、ガーッと、いろいろあるけど、それとは関係なく、自分の周りには記憶があるっていう。

—ただ、その背後にある「時代感」のようなものを見ると、「平成」は狂っているように見える?

崎山:そうですね、ネットとかを見ると……。でも、平成かどうかに関わらず、いつでも「時代」っていうのは狂っているものなのかな、とも思います。どうしても濁っていくもの、というか。

—たしかに。平成だけのことではなく、その前も、そのあとも、「時代」とはそういうものかもしれないですね。

崎山:そんな気はします。

—石田さんも崎山さんも、いまは実直に「瞬間」を切り取った作品を生み出していると思うんですけど、10年後や20年後に、おふたりがこの平成の終わりに生み落とした作品に触れたとき、そこには「時代」の存在が滲むかもしれないですよね。

石田:たしかに、あとから気づくことはあるかもしれないですね。

撮影:CINRA.NET編集部
番組情報
『平成物語 ~なんでもないけれど、かけがえのない瞬間~』

2019年3月18日(月)~3月22日(金)にフジテレビで5夜連続放送

監督:松本花奈
脚本:加藤拓也
写真:石田真澄
主題歌:崎山蒼志“泡みたく輝いて”
出演:
山崎紘菜
笠松将
清水くるみ
高橋和也
森優作
柳英里紗
橋野純平
諫早幸作
中山求一郎
細井学
岩谷健司
村上淳
岡山天音(特別出演)

リリース情報
崎山蒼志
『泡みたく輝いて / 烈走』

2019年3月15日(金)から配信

プロフィール
崎山蒼志 (さきやま そうし)

2002年生まれ静岡県浜松市在住。母親が聞いていたバンドの影響もあり、4歳でギターを弾き、小6で作曲を始める。2018年5月9日にAbemaTV「日村がゆく」の高校生フォークソングGPに出演、独自の世界観が広がる歌詞と楽曲、また15歳とは思えないギタープレイでまたたく間にSNSで話題になる。2018年7月18日に「夏至」と「五月雨」を急きょ配信リリース。その2ヶ月後に新曲「神経」の追加配信、また前述3曲を収録したCDシングルをライヴ会場、オンラインストアにて販売。12月5日には1stアルバム『いつかみた国』をリリース、合わせて地元浜松からスタートする全国5公演の単独ツアーも発表し即日全公演完売となった。また、初となるホール公演「とおとうみの国」が5月6日に浜松市浜北文化センター大ホールで控えている。ある朝、起きたらtwitterのフォロワー数が5,000人以上増えていて、スマホの故障を疑った普通の高校1年生。

石田真澄 (いしだ ますみ)

1998年生まれ。2017年5月自身初の個展「GINGER ALE」を開催。2018年2月、初作品集「light years -光年-」をTISSUE PAPERSより刊行。雑誌や広告などでも活躍の幅を広げる。



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