映画館とは一線を画す『ライヴ絶響上映』、ヒットの裏側を探る

ライブハウス「Zepp」で不定期開催している『ライヴ絶響上映』が新たなヒットコンテンツになっている。

2016年より、伝説的なロックスターのライブフィルムやライブドキュメンタリーを中心に15作品40公演を上映。さらに音楽映画を上映する『キネマ最響上映』、邦楽を中心とした『110107 eiga』、「Zepp」での上映イベントと合わせると27作品70公演と回を重ね、いずれも盛況を記録している。音楽ファンを唸らせるラインナップに定評があるうえ、ライブハウスならではの「ダイナミックな音圧」と「大音量」、そして4Kプロジェクターによる「迫力の映像」が楽しめるとあって、2年半で延べ約3万人を動員。今では年1万人を超え、動員数を増やし続けているのだ。

今回は、『ライヴ絶響上映』のオーガナイザーのふたり、ライブハウス「Zepp」総支配人である森健司とソニーミュージックダイレクトの川口“KW/GC”貴史に加え、同上映会の虜になり、上映があるごとに通い詰める音楽プロデューサー三浦光紀による鼎談を実施。三浦自身もはっぴいえんどや細野晴臣らを輩出した「ベルウッド・レコード」や宮﨑駿のアニメ映画などのヒットコンテンツの立ち上げに携わり、数々のエポックに立ち会った音楽業界のレジェンドだが、そんな三浦も「時代を超える新しい体験」と言い切る『ライヴ絶響上映』の魅力に迫る。

(『ライヴ絶響上映』には)毎回新しい発見があるし、『ライヴ絶響上映』というひとつのジャンルが生まれたと言えると思います。(三浦)

—『ライヴ絶響上映』を立ち上げたきっかけを教えてください。

:「Zepp Tokyo」や「Zepp DiverCity(TOKYO)」といったライブハウスは、今でこそ365日近く埋まっている状態なんですが、以前はそこまでではなかったんですね。特に月曜・火曜は余裕があったので、そういった空き日を利用して何かできないかなと考えたのがきっかけでした。

「Zepp」にはコンサートの演出でも使用できる4Kプロジェクターを導入していたこともあって、音楽映像作品の上映会をやれたらいいなと思っていましたが、僕にはノウハウがなかった。それで映画関係の仕事の経験があった川口に「一緒にやらないか」と誘ったのが最初でした。

左から:三浦光紀、川口“KW/GC”貴史(株式会社ソニー・ミュージックダイレクト)、森健司(株式会社Zeppホールネットワーク)

:ライブハウスなので、上映するものはシンプルにライブ映像がいいだろうなと思っていたんです。だけど、特に海外ものがそうなのですが、レコード会社から発売されるライブ映像作品になると権利関係のクリアランスが大変で。なので一番やりやすかった音楽映画を上映することにしたんです。

—『ライヴ絶響上映』は2016年にスタートしていますね。時代背景ともリンクしているように思うのですが、いかがでしょうか。

川口:Netflix、Huluなどの動画配信サービスも出てきていますが、「コト消費(物ではなく体験を重視した消費のこと)」として、音響にこだわった映画館が出てきたり、ライブビューイングのような生中継で映画館を活用するような流れが生まれましたよね。吉祥寺バウスシアター(2014年閉館)を発端に映画館で開催されている『爆音映画祭』が盛りあがっていたり、「応援上映」やモノを投げたりすることも許される「マサラ上映」が出てきたり。日本もそうですが、ロンドンの映画館でも上映される作品のコスプレをして、みんなで観るイベント上映もあるみたいです。

川口“KW/GC”貴史。1971年、宮城県生まれ。現ソニー・ミュージックダイレクトのイチ社員。劇場配給と『ライヴ絶響上映』『キネマ最響上映』『110107 eiga』のオーガナイザーも務める。

—イベント上映で、さまざまな楽しみかたが提供されるようになっている一方で、昔の映画が美しい映像で蘇るフィルムのレストア(修復)も進んでいますよね。

川口:技術革新は大きいですね。フィルムで撮っている昔の映画は、もともと解像度が高いんです。それが視覚レベルで測れる限界まで美しく修復できるようになって、4Kから8Kのあいだのレベルで観られたりする。2月に上映したマーティン・スコセッシの音楽映画『ラスト・ワルツ』(1978年)もデジタルリマスター版なんです。

:それを通常の音楽ライブと同じスタイルで楽しむという。

三浦:僕はね、先日の『ラスト・ワルツ』は何十回も観ているし、『ライヴ絶響上映』で上映される作品は最低でも1、2回は観ている作品なんです。でもライブのように、前方からお腹に響いてくる轟音で観るって、ここでしか体験できないからね。全く違った体験として残るんですよ。毎回新しい発見があるし、『ライヴ絶響上映』というひとつのジャンルが生まれたと言えると思います。

三浦光紀。エグゼクティブ音楽プロデューサー。68年、キングレコード入社。72年にベルウッド・レコード(現キングベルウッドレコード)を創設。75年には日本フォノグラム(現ユニバーサル・ミュージック)に移籍。80年、ジャパンレコード(現・徳間ジャパン)設立。95年、マーキュリー・M・E(元・日本フォノグラム)代表取締役会長就任。現在は、音楽&企業プロデューサーとして好きな事だけをマイペースでやっている。

死ぬまでに聴こうと思っても聴けない量の音楽が無限に存在するなかで、三浦さんがプロデュースしてきた音楽作品が時代に左右されることなく輝いている。(川口)

川口:いろんな楽しみかたがあるなかで、マイケル・ジャクソンやプリンス、デヴィッド・ボウイなどお亡くなりになったレジェンドたちの映像やライブを、僕たち自身がどんな環境で楽しみたいかというと、「ダイナミックな音圧」と「ライブ級の大音量」が感じられるライブハウスだったんですよね。ライブを疑似体験できて、付加価値としてオフ会のような感覚にもなれますよっていう。

三浦:僕も『ライヴ絶響上映』は素晴らしいと思っているので、いろんな人たちを誘って行くんですけど、みんな「こんなのがあるんだ!」って感動しちゃう。共感ビジネスというか。映画そのものもすばらしいけど、社交場のような感覚で会場に行って、同じように喜んでいるお客さんがいる。その空間にいるだけで気持ちがいいんですよね。

『ライヴ絶響上映』歴代上映作品 撮影:山本佳代子

—昨年、Queenのフレディ・マーキュリーの半生を描いた映画『ボヘミアン・ラプソディ』(ブライアン・シンガー監督、2018年)が公開されて大ヒットしました。音楽のレジェンドたちの作品が若者層にも広まって再評価されているなど、世界的にそういう気運が高まっていますよね。

川口:音楽の話でいうと、SpotifyやApple Musicのようなサブスクリプション型(定額配信型)の音楽サービスの台頭があって。たとえば三浦さんが手がけた細野晴臣さんや大瀧詠一さんの音楽も、もちろん過去の作品ではあるんですけど、プレイリストのなかでは新しい楽曲として鳴っている。新譜も旧譜も全部平等になるんですよ。

今、死ぬまでに聴こうと思っても聴けない量の音楽が無限に存在するなかで、三浦さんがプロデュースしてきた音楽作品が時代に左右されることなく輝いている。このようなことは、映像の世界にも当てはまっていて、1970年代も2010年代もない。もはや時代性はなくなったと言えるんです。

はっぴいえんど『HAPPY END』を聴く(Apple Musicはこちら

細野晴臣『HOSONO HOUSE』を聴く(Apple Musicはこちら

—一方で、カルチャーの分断も起きていて、特定のコミュニティのなかでまとまっている若者層には広がらない状況もあると思いますが、そういった層に届けるために考えていることはありますか?

川口:そこは常日ごろ考えていることですが、卓越しているライブ映像作品はそもそも存在するので、僕らならではのセレクトで、まずはZepp上映を「続けること」だなって思います。時代が変遷しようとも色褪せることがない三浦ワークスもまさに続けてきたことの結果じゃないですか。それが1年や2年ではわからなくて、長く続けていると、自分の心や生きかたのようなものが現れて、そういうものが伝わっていく。だから日々の積み重ねでしかないのかなと。

—じゃあ「Zepp」でのイベント上映は27作もやってきたけれど……。

:まだまだですね!

川口:今後、ラインナップはどんどん増えていきますし、森さんは嫌がるかもしれないけど、あと20年くらいやろうと思っています。

:そのころには僕はもう会社にいないですよ(笑)。

森健司。1962年、愛知県生まれ。新人開発・発掘、レーベルの宣伝、マネージャー、A&Rなどを経て、現在はZeppホールネットワーク執行役員として、全Zeppの統括やホールの新規開発などに従事。

三浦:僕は『ライヴ絶響上映』の正しい中毒者だから、時が経てば経つほどいけるなと思っていますよ。あんな轟音でライブ映画を観る体験って他にないので。僕はもともとレコーディングディレクターをしていたからわかるんですけど、スタジオではあのくらいの音圧や音量で聴いているので「本来の音が鳴ってる」って思うんですよ。

しかも、僕はロックが好きだから音圧が大事で。それって体で感じるものだからね。ヘッドフォンで聴いても腹には響かないでしょう。『ライヴ絶響上映』はそういう音圧を感じられる唯一の場所ですよね。今、みんな夢中になれるものにしかお金を使わない時代ですけど、僕は仕事をサボってまで参加していますよ。

川口:病欠以外、すべて観てくださっているみたいで、ありがたい限りです(笑)。

左から:三浦光紀、川口“KW/GC”貴史、森健司

極上の遊びって「模倣」と「めまい」によるものだと思うんです。(三浦)

—音の鳴りかたは大きいんですね。それが映画館での上映と違う、ライブハウスならではでもありますし。

:もともと『ライヴ絶響上映』の構想を考えている時に、『クイーン ボヘミアの夜』(トム・コーコラン、リース・トーマス、サイモン・ラプトン監督、2016年)の上映会を全国5箇所の「Zepp」でやったんです。それはチケットも売れたし、トークイベントでロジャー・テイラー(イングランド出身のドラマー。Queenのメンバー)の写真が映し出されると黄色い歓声があがるし、「これはおもしろいな」と感じた。そのあと、映画館の音響でライブ映像作品を観る機会があったんですが、お客さんとの一体感はあるんですけど、劇場の特性上、実際のライブのように音が前からドーンと来ないんですよね。なので作品によっては、ライブハウスの環境でやるおもしさがあると感じて。もっと言えば勝算があるって思ったんです。

森健司

三浦:極上の遊びって「模倣」と「めまい」によるものだと思うんです。轟音での体験は完全に「めまい」を起こすようなもので。自分が自分でなくなるようなトランス状態ってそんなにないから、ハマっちゃいますよね。ミュージシャン本人も観たら、あの轟音にはびっくりすると思うな。

:「僕のメッセージをちゃんとわかっていてくれているな」って思うんじゃないですかね。

川口:実際、マーティン・スコセッシ監督は『ラスト・ワルツ』の冒頭で「この映画はデカい音で観ろよ」って言ってますからね。それでも巨匠スコセッシ監督も想像を絶するデカさだったと思いますが(笑)。

『ライヴ絶響上映』で『ラスト・ワルツ』を放映している様子。「THIS FILM SHOULD BE PLAYED LOUD」の記載がある 撮影:山本佳代子

—『ライヴ絶響上映』のラインナップはどのように決めているんですか?

川口:自分たちの趣味にはなりますが、ミーティングを重ねに重ねて決めています。

:いい作品であることは前提としてあって、そのうえで自分たちがやりたい作品の上映に限ってやっています。第1回の『レッド・ツェッペリン狂熱のライブ』(ピーター・クリフトン、ジョー・マソット監督、1976年)も、映画公開時にリアルタイムで観ていましたから、「僕たちが観たい」という基準でしたね。次の『メタリカ・スルー・ザ・ネヴァー』(ニムロッド・アーントル、2013年)は完全に川口の趣味ですし。

左から:川口“KW/GC”貴史、森健司

三浦:川口さんと森さんがやっているから、というのもありますよね。セレクトする感性、哲学に共鳴する人たちが集まっているわけで。

川口:ありがたい限りですね。

:そのおかげもあり、作品を選ぶことなく毎回来ていただけるお客さんが確実に増えています。

川口:そうやって、自分の趣味で作品を選んでいるものの、メタリカの上映をやろうとしていたら、同じ時期にニューアルバムを出してくれたりして。神がかってるなって思うことも起きているんです。そんなことが、次々と……。

三浦:「幸運な偶然は、強い意志が引き寄せた必然だ」っていうことだね。それこそ今後はいろんなレコード会社と提携して、リリースタイミングと一緒にやるっていうのも考えられますよね。

三浦光紀

川口:今はおかげさまで、そういう方向でアプローチをいただくようにもなりました。もちろん権利関係上、大変な場合もあるんですけど。音楽映像作品は、まず上映をしたあとに商品化して、そのあと配信という3段階は世界的にもブームを通り過ぎて常識になっていますから。

—まずは「上映」なんですね。

川口:そうですね。ただ、海外では基本的に映画館でやっているんですよ。

三浦:海外ではこういう取り組みはやってないの?

:やってないですね。

川口:「日本ではライブハウスで轟音でやっているらしい」「日本ではすごいことになってる!」って、海外でも話にあがるようになっているみたいで。デヴィッド・ギルモア(イングランド出身のギタリスト。Pink Floydのメンバー)の『ライヴ・アット・ポンペイ』(ギャビン・エルダー監督、2017年)を上映したときは、監督のギャビン・エルダーが「俺の作品が日本のライブハウスで上映される!」と聞きつけて、来場しちゃったんですよ。そしたら大感動で上映後に「ちょっと電話するわ」と、ギルモアに電話していました(笑)。「日本でこんなことが起きている!」って。

左から:三浦光紀、川口“KW/GC”貴史
デヴィッド・ギルモア『Live At Pompeii』を聴く(Apple Musicはこちら

三浦:僕はその日、監督の横に座ってた(笑)。やっぱり当事者は「全然違う」ってわかるから、より驚くんですよ。『ライヴ絶響上映』の現状って、僕が宮崎駿作品をアメリカに売り込みにいった頃にも重なるところがあるんです。

持っていった当初は、誰も相手にしてくれなくて。でも現地の大学のアニメ研究会の子どもたちとか、一部の熱狂的なオタクが大絶賛してくれた。だから、将来絶対にいけるなって思っていました。そうやって、年々評価が高まるものって、必ずどこかのオタクが発見してくれるものなんです。『ライヴ絶響上映』もそのタイプだと思いますよ!

川口:4月にはザ・ローリング・ストーンズの2作品を上映しますし、それ以降もすごい作品を予定していますので、ご期待ください!

左から:森健司、川口“KW/GC”貴史、三浦光紀
イベント情報
『ザ・ローリング・ストーンズ、ライヴ・フィルム「レッツ・スペンド・ザ・ナイト・トゥゲザー」(HDリマスター版)一夜限りのライヴ絶響上映@Zepp東阪』

2019年4月4日(木)
会場:東京都 お台場 Zepp DiverCity(TOKYO)、大阪府 Zepp Namba(OSAKA)

『ザ・ローリング・ストーンズ、  ライヴ・フィルム『スウィート・サマー・サン-ハイド・パーク・ライヴ2013』一夜限りのライヴ絶響上映@Zepp東阪』

2019年4月25日(木)
会場:東京都 お台場 Zepp DiverCity(TOKYO)、大阪府 Zepp Namba(OSAKA)

プロフィール
森健司 (もり けんじ)

1962年、愛知県生まれ。新人開発・発掘、レーベルの宣伝、マネージャー、A&Rなどを経て、現在はZeppホールネットワーク執行役員として、全Zeppの統括やホールの新規開発などに従事。

川口“KW/GC”貴史 (かわぐち たかし)

1971年、宮城県生まれ。現ソニー・ミュージックダイレクトのイチ社員。劇場配給と『ライヴ絶響上映』『キネマ最響上映』『110107 eiga』のオーガナイザーも務める。

三浦光紀 (みうら こうき)

エグゼクティブ音楽プロデューサー。68年、早大卒業後キングレコード入社、72年にベルウッド・レコード(現キングベルウッドレコード)を創設。小室等、高田渡、はっぴいえんど、あがた森魚などを発掘。75年には日本フォノグラム(現ユニバーサル・ミュージック)に移籍。矢野顕子、喜納昌吉などを発掘。80年、ジャパンレコード(現・徳間ジャパン)設立。95年、マーキュリー・M・E(元・日本フォノグラム)代表取締役会長就任。2000年に引退後、12年ベルウッド・レコード創立40周年を記念し『三浦光紀の仕事』(CD4枚組)を発売。現在は、音楽&企業プロデューサーとして好きな事だけをマイペースでやっている。



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