当時高校生だった「たかはしほのか」と「ゆきやま」を中心に2014年に結成されたリーガルリリー。これまでに『the Post』『the Radio』『the Telephone』のミニアルバム3部作を発表し、昨年7月に行われた『the Telephone』リリースツアーのファイナルでサポートだった海が正式加入、現在は3ピースとして活動している。グランジやポストロックからの影響を感じさせる攻撃的かつ繊細なバンドアンサンブルと、たかはしが無垢な感性で描く思春期性と本質の入り混じった歌詞が独自の個性を作り上げる、未完の大器である。
彼女たちは3月にアメリカ・オースティンで行われた『SXSW』に参加。当初は日本人アーティストをメインとした『SXSW JAPAN NITE』のみに出演する予定だったが、急遽現地のアーティストとともにライブをすることとなり、その経験が非常に大きかったという。現在行われている『春はあけぼのツアー』が始まる直前、アメリカから帰ってきたばかりの3人に会いに行き、『SXSW』での気づきと、「3部作以降」について話を聞いた。
私、邦楽ロックってあんまり好きじゃなかったんですけど、それがアメリカではウケた。(たかはし)
—つい先日アメリカの『SXSW』に参加して、計3本ライブをしてきたそうですが、まずはその感想から話していただけますか?
たかはし(Vo,Gt):2016年にカナダでライブをしたことがあるんですけど、今回も行く前は「ただライブをしに行くだけ」というか、「北海道に行く」くらいの感覚だったんです。でも、アメリカに行ったことで、自分たちの音楽に自信が持てました。最初はお客さんが0人だったんですよ。
ゆきやま(Dr):飛び入りしたときだよね。
—もともとは『SXSW JAPAN NITE』の関連で2本ライブをやる予定だったけど、その間に急遽1本決まって、それはアメリカのバンドと一緒だったそうですね。
たかはし:1回目のライブを観た人が誘ってくれて……マイケルだっけ?
ゆきやま:ブライアン(笑)。彼のイベントに出るはずだったバンドが急に出られなくなったらしく、「代わりのバンドを探してる」って誘ってくれて。
たかはし:シアトルのバンドに挟まれてたよね。
—お、たかはしさんの好きなグランジの本場じゃないですか。
たかはし:そう、本当にグランジだった。超かっこよかった。
たかはし:最初は全然人がいなかったんです。でも、曲をやっていくに連れて、お客さんが増えていって……あんなの初めてだよね。
ゆきやま:で、こっちもどんどん楽しくなっていって。
たかはし:そうそう、フォー! って盛り上がって。そこでの一番の気づきは、私、日本独自の邦楽ロックってあんまり好きじゃなかったんですけど、それがアメリカでウケたこと。
ゆきやま:周りのバンドが「グランジだ!」みたいな、私たちがもともと聴いていた、いかにもなアメリカのバンドだったから、逆に自分たちの音楽を新鮮に感じたというか。
たかはし:海外でやると、自分が外国人であることに気づいて、自分たちがやってるのは民族音楽なんだって思いました。
しかも、日本と盛り上がる部分が違うんですよ。日本ではサビで手を挙げる……リーガルリリーのライブではほとんど手は挙がらないけど(笑)、サビで盛り上がる。でも、あっちで一番盛り上がったのは、私のギターだけのところだったんです。ゆっくりのアルペジオのところでめっちゃ盛り上がって、「これだ!」と思って。
海(Ba):盛り上がりの波をわかってくれて、そこでちゃんと盛り上がってくれたよね。“蛍狩り”という曲は、ポエトリーリーディングみたいにずっと語りで、あとはバックの演奏の波で曲を作るんです。それをやったときに、日本語はわからないだろうけど、音の波を感じて、ギターの盛り上がりと一緒に……。
たかはし:思い出してテンション上がってきた(笑)。
リーガルリリー“蛍狩り”を聴く。“蛍狩り”は、アルバム『the Post』に収録されているシークレットトラック。“好きでよかった。”の10:56頃から流れ始める
—サビのメロディーや歌詞じゃなくて、ちゃんと自分たちが聴かせたい演奏の部分に反応してくれたと。
ゆきやま:手応えを感じました。ライブが終わったあとに結構話しかけてくれて、「魂を感じた」みたいなことを何回か言われて嬉しかったな。
たかはし:嬉しいね。私、なに言ってるかわからなくて、ずっと「サンキュー!」って言ってたけど(笑)。
みんなが聴いてるようなJ-POPとかって、難解過ぎてついていけないんですよ。(たかはし)
—「邦楽ロック」がアメリカでちゃんとウケたという話は面白いですね。
たかはし:1回目のライブはわざとパワーポップっぽい、邦楽っぽくない曲をやったんです。でも逆に“リッケンバッカー”とかのほうが盛り上がったから、こういう曲をちゃんと作っていけばいいんだって思いました。
—以前は「邦楽ロック」と距離があったわけですか?
たかはし:親が洋楽ばっかり聴いてたから、日本人の曲って全然知らなくて。学校で、みんなが聴いてるようなJ-POPとかって、難解過ぎてついていけないんですよ。
—コードとか展開が多いから難解に聴こえるってこと?
たかはし:かなあ。全然覚えられないし、なにがいいのか全然わからなくて。
—洋楽のほうがシンプルな反復だったりしますもんね。
たかはし:波で行ける感じだったというか。でも、SEKAI NO OWARIを聴いてから邦楽ロックを聴くようになって、グランジとかは自分にはできないけど、これなら自分でもできるかもと思って。それで、私がやるべきなのは“リッケンバッカー”みたいな曲だと思うようになったんです。
—アメリカでウケたことで、その想いが確信に変わったと。
たかはし:そうです! それが言いたかった(笑)。
ゆきやま:メロディーにしろオケにしろ、邦楽の特徴的な感じって、日本にいるとあんまり気づかないけど、向こうに行ったら「こんな個性的なことやってたんだ」って思った(笑)。
たかはし:“リッケンバッカー”って、めっちゃ個性的なんだなって。私たち変だったよね。
ゆきやま:向こうで観たシアトルのバンドって、ギター2本とドラムで、女の子が叫んでて、それもすごくかっこよかったんですけど、自分たちはそれとは違うことが嬉しくて、自信が持てたというか。自分のバンドが再定義されたような感覚でした。
私たちがライブでやるべきことは、その場所の景色を変えることなのに、その場所の景色に音楽をやらされてた。(たかはし)
—海さんはどう感じましたか?
海:セットリストを作るときに、周りの雰囲気に合わせにいっちゃう部分があったんですけど、アメリカの2回目のライブはセットリストも感覚的に決めて。かっこいいことをやればそれでいいんだって思いました。
—日本だと、イベントの雰囲気に合わせちゃってた?
海:サーキットとかフェスだったら、「明るめな感じにしよう」とか、そういうのはあったんです。でも、そのときかっこいいと思ってる曲をただやればいいんだなって。
たかはし:私たちがライブでやるべきことは、その場所の景色を変えることなのに、その場所の景色に音楽をやらされてたんです。その気づきはデカかった。
ゆきやま:アメリカでも最初は浮いてる感じだったけど、やってると段々その場に馴染んで新しい世界ができていく感があって、すげえ面白かった。
海:ステージと観客の距離がだんだん縮まっていったよね。
たかはし:だからみんなライブをやるんだなって。今までライブをやる意味なんて考えてなかったけど、やっと気がつきました。
考えれば考えるほどダメじゃん? 「私たち3人は幸せになろうぜ」だけでいいよね。(たかはし)
—途中で「私たちのライブは手がいっぱい挙がる感じではない」という話もありましたが、では逆に、リーガルリリーがそもそもライブで大事にしているのはどんなことですか?
たかはし:自分たちが無意識になれることが一番よくて。絵と一緒で、絵を描いてる人は意識を持ってるけど、絵自体はそこにあるだけで意識がない。ライブでも、弾いてる側の意識はないほうが、お客さんがいろんなことを考えてくれるから、無意識でいたいんです。集中すると無意識になれるので……ライブって、瞑想みたいな感じじゃない?
ゆきやま:「入る」みたいな感覚はあって、入り込めるとすごく楽しいよね。みんなが没入してるとお客さんも楽しいし、それが一番目指すところかもしれない。
—「自分たちがよければいい」みたいな閉じた感覚とも違って、自分たちが無意識の状態になれることが、お客さんにとってもいいっていう考え方だと。
海:水族館みたいな感じっていうか。最初は「水槽の中の魚とお客さん」みたいな感じだけど、それが海になるというか、そういう感じかな。
たかはし:いいねー。ライブしたくなってきたなあ。
ゆきやま:今はもうなくなってしまったんですけど、高校生の頃、リーガルリリーのホームだった新宿JAMとかでインディーズのバンドをよく観ていた時期があって。その頃好きだったライブが、今海ちゃんが言ってくれたような感じでした。波に飲まれるような感じ。でも、それを意図的に作ってるのがわかるバンドだと、観ていて恥ずかしくなる。
たかはし:そういうのはつらいよね。
ゆきやま:普段誰かとしゃべってて取り繕っちゃう自分みたいなのを感じちゃうから、ライブではそうじゃない場所を作りたいなって。
—無意識や没入感を大事にするきっかけとかってあったんですか?
たかはし:前は見られるのが嫌だったから、「見られてない」って思いながらやってました。だから、私もお客さんのほうを絶対見ないし……今も見ないですけど。
ゆきやま:最初の頃って、なにも考えずにライブをしてたと思うんですよ。そこから徐々にいろいろ考えるようになっちゃって。でもアメリカでライブをしたことで、また考えなくなったかも。
たかはし:それめっちゃわかる! 「1年間なにしてたんだ?」って感じ。
ゆきやま:考えることも大事なんだけど、考えちゃうと感覚が微妙になっちゃうんです。しかも「考えないようにしよう」って思った時点で、考えちゃってる(笑)。
たかはし:人間関係と一緒。考えれば考えるほどダメじゃん? 「私たち3人は幸せになろうぜ」だけでいいよね。
高校生のときは、反抗的なことばかり思ってたんですけど、最近性格よくなった気がする。(たかはし)
—さっきのライブの話もそうだけど、ほのかさんはどちらかというと、コミュニケーションが苦手なタイプなのかなって思います。そんなほのかさんにとって、「曲を作る」ということにはどんな意味がありますか?
たかはし:確かに、私は人と話すことがそんなに得意じゃないですけど、詞にして、歌にすると、めちゃめちゃ伝えられるなって思って。私が本当に言いたいこと、私にとっての真実を唯一言える場所が音楽で、曲を作ることで嘘をつかずに会話ができるんです。
—これまで発表してきた『the Post』『the Radio』『the Telephone』の3部作(2016~2018年に発表したミニアルバム)って、ちょうど10代後半から20歳に作ってることもあって、思春期性が閉じ込められてると思うんですね。少しずつ大人になって、ほのかさんも徐々に外に開かれていったような印象を受けるんですけど、その自覚ってありますか?
たかはし:ありますね。10代の間に人って一番変わるじゃないですか? だから、たかはしほのかの、リーガルリリーの、一番大事な時期を記録できてよかったなって思う。「CD出さないほうがよかったかも」って思ったこともあったんです。もっとちゃんと自信がついてから出したほうがよかったかなって。でも、記録として作れてよかったなって思いました。
—日記のようでもありますよね。そのときどきの自分の感情を残してきた。
たかはし:日記は三日坊主になっちゃうけど、曲なら書けるんです。
—ゆきやまさんは3部作を通じてのほのかさんの変化をどう感じていますか?
ゆきやま:だいぶ違いますよね。破壊性みたいなのはちょっとなくなったかも。
—うん、攻撃性はちょっと減って、優しさが出てきたように感じます。
たかはし:高校生のときとかは、「みんな死ね」「マジ消えろ」って反抗的なことばかり思ってたんですけど、最近になって……性格よくなった気がする。
ゆきやま:ほのかはもともと破壊的な部分と優しい部分と両方持ってたんですよ。最初は破壊の部分のほうが目立ってたけど、最近はもともとある優しさのほうが目に見えるようになってきたっていうか。
たかはし:優しさをちゃんと出せば……みんなも優しくしてくれる、みたいな。だから、3部作を経て、そっちを表現しようと思ったのかも。
—『the Telephone』はそこが明確に出てるかなって。
たかはし:でも、『the Telephone』を作ってたときの自分はあんまり好きじゃなくて。最近やっと『the Post』や『the Radio』を作ってたときの自分に戻れた気がする。
ゆきやま:その感覚は私も共有できてるかも。『the Telephone』のときは「ちょっと違う自分だな」って。
たかはし:ゆきやまもそうだった?
ゆきやま:うん、メンバーが1人いなかった(海は2018年7月に加入)っていうのも大きいと思うけど、作ってるときの空気感も、ノリノリではなかった。もちろん、曲自体はすごくいいものができたと思うし、それを含めて作品なんだけどね。
たかはし:戻れてよかった。一周回ったよね。今はめっちゃバンドやってる感じがするし、生きててよかったなってすごく思います。
今後も適当にやったほうがいいんだろうなあ。考えないほうが、偶然がどんどん起きるから。(たかはし)
—アメリカでの経験も踏まえて、次の作品が3人としての本格的な一歩になるでしょうね。『the Telephone』の最後の曲は“せかいのおわり”ですけど、いつだって終わりはなにかの始まりで、これからリーガルリリーとして新しい世界と対峙していくことになると思う。その覚悟についてもお伺いしたいです。
たかはし:“せかいのおわり”って最後の曲だっけ? 3部作の最後が“せかいのおわり”って……すごい!(笑)
—途中で話してくれた「SEKAI NO OWARIが始まりだった」っていう話とも紐づいてきそう。
たかはし:すごい! この3部作って、偶然が積み重なってできてるんですよ。『the Post』『the Radio』『the Telephone』っていうタイトルも……。
—全部「なにかを伝える手段」ですよね。
たかはし:そう! そういうのもあとで気づいたんです。面白いなあ。
—でも、偶然って潜在意識の表れだったりしますもんね。
たかはし:さっき「覚悟」って言われましたけど、今後も適当にやったほうがいいんだろうなあ。考えないほうが、偶然がどんどん起きるから。例えば、デートに着ていく服って、考えれば考えるほど変になっちゃうじゃん?
ゆきやま:で、最終的にいつもの着ちゃう(笑)。
たかはし:そうそう(笑)。だから、やっぱりなにも考えないほうがいいんだと思う。考え続けるんだけど、でも考えない。芸術以外の面ではちゃんと考えて、芸術に向かうときだけはなにも考えずにやればいいのかもしれない。
—それもアメリカでのライブで改めて気づけたことのひとつですよね。
たかはし:行ってよかったなあ。
—3月20日からは『春はあけぼのツアー』が始まります。最後に、そこに向けて一言ずついただけますか?
海:いろいろ話をしましたけど、アメリカに行ってなにを得たかって、まだ具体的にはわかってなくて、日本でライブをやるとそれがわかるのかなって思うから、すごく楽しみです。
たかはし:方言ってあるじゃないですか? 普段話す言葉のイントネーションが違うと、音楽の感じ方も違うと思うから、そういうお客さんの変化が各地で見られればいいなって。
ゆきやま:アメリカと日本ほどの差はないにしても、地方でも違いが感じられるといいですね。よくMCで「ここのお客さんは違うね」とか言ってる人いるけど、「本当?」って思うから。
たかはし:あれは8割嘘だよ。MCでは本当のことだけ言おうね。
- イベント情報
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- 『リーガルリリーpresents「春はあけぼのツアー」』
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2019年4月2日(火)
会場:愛知県 名古屋 HUCK FINN2019年4月4日(木)
会場:東京都 渋谷CLUB QUATTRO2019年4月14日(日)
会場:大阪府 梅田 バナナホール
- リリース情報
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- 『the Telephone』(CD)
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2018年6月6日(水)
価格:1,728円(税込)
BIOTOPE-0031. スターノイズ
2. うつくしいひと
3. いるかホテル
4. overture
5. 僕のリリー
6. せかいのおわり
- プロフィール
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- リーガルリリー
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東京都出身ガールズ・スリーピースバンド。メンバーは、たかはしほのか(Vo,Gt)、海(Ba)、ゆきやま(Dr)。儚く透明感のある詞世界を音の渦に乗せて切り裂くように届ける。2014年に当時高校生であったVo.Gt.たかはしほのかとDr.ゆきやまが出会い、リーガルリリーを結成する。TOKYO FM『SCHOOL OF LOCK!』主催、未確認フェスティバル2015 準グランプリ獲得、カナダ3都市を回る海外公演ツアーに参加する等、10代の頃より精力的にバンド活動を行う。自主レーベルのBiotope recordsよりミニアルバムを3枚リリース、2018年の『スペースシャワー列伝2018』に参加する等バンドの勢いは留まることがない。2018年7月に新メンバーにBa.海が加入をし、ガールズ・スリーピースとして新体制となる。
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