大阪出身の3ピースバンド、ザ・モアイズユーが、4月10日にミニアルバム『想い出にメロディーを』をリリースした。去年7月にback numberやファンキー加藤、あゆみくりかまき等が所属する「イドエンターテインメント」のオーディション『SUPEREGO』でグランプリを受賞した彼らにとって、本作はバンド結成8年目にしての初の全国流通盤となる。
多くの人々の耳を捉える普遍的なソングライティングとグッドメロディー。その端正なサウンドに乗せて歌われるのは、心のどこかに喪失感や満たされなさを抱えた人々の、切なくも柔らかな心象風景だ。彼らが奏でる曲の主人公たちは、常に手の届かない「なにか」や「誰か」に焦がれながら、不器用に、しかし美しく生きている。優れたポップスは「満たされた心」よりも「欠けた心」を描くことに長けるものだが、ザ・モアイズユーもまさに、人の悲しみに寄り添うポップスとしての力を見事に体現しているバンドといえるだろう。遂に世に羽ばたかんとする3人に、これまでのバンドの歩み、そして、その世界観の源泉を聞いた。
自分の体験でも、メロディーを付けて、歌詞を付けて、曲にすることによって、いろんな人に届くものにできると思う。(本多)
—この度リリースされたミニアルバム『想い出にメロディーを』は、ザ・モアイズユーの結成8年目にしての初の全国流通盤となります。この「8年」という期間を、ご自分たちではどのように受け止めていますか?
本多(Vo,Gt):本当に「ようやく」という感じです。自分たちが思っていた以上に時間はかかってしまったんですけど、やっと全国流通盤を出せるまでにこぎつけたな、と。
以登田(Ba):ドラムの(オザキ)リョウは今年の3月に正式加入したんですけど、それまでドラマーが何度も変わったりして、ずっと自分たちの思うようにバンドが動かすことができなかったんです。何度挫けかけたかもわからないし、その間、自分たちのやりたいことや音楽性も徐々に変わっていって。今、やっと自分たちの納得できる形になったのかなって思います。
—「8年」という月日を簡単に語ることはできないと思いますが、ザ・モアイズユーの音楽性、やりたいことというのは、どのように変わってきたのでしょう?
本多:僕と以登田は高校2年生の頃から一緒にコピーバンドをやっていて、最初は銀杏BOYZのコピーバンドをやっていたんですよ。そこから、高校を卒業するタイミングで他のメンバーは就職することになったんですけど、僕と以登田は継続してバンドを続けていこうっていうことになった。そこからザ・モアイズユーは始まったんです。
なので、最初は今よりももっと荒々しいパフォーマンスをしていて。その頃に作った曲も、銀杏BOYZにかなり引っ張られていたなって、今になると思いますね(笑)。
—今のザ・モアイズユーと銀杏BOYZを比較すると、「随分変わったな」とも思いますけど、「根底にあるものは変わっていないんじゃないか?」とも思いますね。
以登田:そうですね。その頃のなごりは若干、残っているというか、敢えて残しているというか。でも、今はもっと歌のよさを前面に出して届けようっていう方向に向かっています。
本多:大人になってきて、より曲や歌が伝わる形に変わってきたのかなって思うんです。今回のミニアルバムでも再録した“トーキョー・トレイン”が2016年にできたことで、今の方向性ができあがってきたと思っていて。“トーキョー・トレイン”は、当時仲のよかった友人が夢を追って上京することになったことがきっかけで生まれた曲なんです。僕にとって、その友人が東京に行くのはすごく大きな出来事だったので、なんとか曲にしたいと思って。
—“トーキョー・トレイン”のように、本多さんが書かれる歌詞は、実体験が多いですか?
本多:そうですね、今回のミニアルバムも、9割くらいは実体験がもとになっています。こういう、日常の中で起こった出来事を曲にするためにバンドをやっている、というか。自分だけの体験でも、メロディーを付けて、歌詞を付けて、曲にすることによって、いろんな人に届くものにできると思うんですよね。
僕はバンドをやっていることを、あまり誇らしく思っていないんです。(本多)
—“トーキョー・トレイン”だけでなく、今作に収録された曲の多くは、届かない距離にある人やものと、自分自身との関係性が歌われていますよね。それは常に「喪失感」や「満たされなさ」をはらんだものとして表現されていると思うんですけど。
本多:そうですね、それは自分の根本的な部分だと思います。曲を作るようになってから、自分の中から出てくるものは自然とそういうものが多いんですよね。
順風満帆に生きている人の歌というよりは、どこかダメで、劣等感のある人の歌を歌っている。やっぱり、この2人(本多と以登田)は「ダメな自分を変えたい」という思いをもとにバンドを始めたので、自然と出てくるのはそういう歌詞なんだろうと思います。
以登田:そうだね。人生の中で言いたいことが言えなかったり、自分の思う通りに動けなかったり……そういうことがあるからこそ、バンドをやっている気がする。
本多:あと、僕はバンドをやっていることを、あまり誇らしく思っていないんです。なんだったら、バンドをやっているっていうことは、どこか世間とズレているというか……周りから「バンドやってる変なやつ」と思われているんじゃないかと常に思っているんですよね。そもそも自分のことを歌にして、メロディーにして、人に聴かせているって……変な人じゃないですか?(笑)
—う~ん……改めて言われると……。
本多:「自分は世間とズレた変なやつなんだ」と自覚したうえで、僕はバンドをやりたいと思っていて。だから、あんまり「俺、バンドやってんねん!」って、人に大きな声で言えないんですよね。常に小さな声で「バンドやらさせてもらってます」くらいの気持ちなんです。
—なるほど……。バンドマンとしては、かなり不思議なスタンスですよね。
本多:それでも、ここまでバンドを辞めていないというのは、どこか自信がある自分がいるのかな? っていう気もするんですけどね。心の底では「俺ならやれる!」って思ってきたからこそ、辞めずに続けることができたのかもしれない……。
でもバンドって、辞めることにも勇気がいるんですよね。僕はこの8年間、「辞める」って言い切る勇気もなかった人間だと思うんです。どこかで「バンド辞めます!」って言い切ることができれば楽になれたのかもしれないけど、それもできなかった。その結果として、今、命拾いできたのかもしれない。
曲に関しては誰にも負けていない自信がずっとあったんです。(本多)
—話を聞けば聞くほど、本多さんの人となりが気になってきますね。オザキさんはザ・モアイズユーに正式加入したばかりですけど、それゆえに本多さんという人物を客観視できる部分もあるのでは?
オザキ(Dr):僕が思うのは、これまでいろんなバンドマンを見てきましたけど、ここまで楽曲に対して繊細に意見を出す人はいなかったなということですね。音量差であったり、楽曲の細部に対する感情やイメージのニュアンスであったり……そういう部分に対するこだわりが明確にあるし、それをすごくわかりやすく伝えてくれるんです。そういう部分は、個人的にすごく惹かれています。
—そうした楽曲の細部に対するこだわりは、どういったところから生まれるのだと思いますか?
本多:自分が「ここだ!」と思う部分に対しては絶対に妥協したくなくて。僕は、自分が唯一誇れるのは「楽曲」だと思うんです。これまでバンドをやってきて、僕よりギターが上手い人は周りにいっぱいいたし、歌が上手い人もいっぱいいたし、顔がかっこいい人もいっぱいいた。でも、曲に関しては誰にも負けていない自信がずっとあったんです。なので、そこだけは見失わないようにしながら、今日までバンドをやってきたんだと思います。
—楽曲至上主義的なスタンスというのは、本多さんの中で一貫しているものですか?
本多:そうですね。「自分の中にあるものを表現する」ことをやり切るというよりは、いろんな人と感情を分かち合ってこそ、ザ・モアイズユーは魅力が完成するバンドだと思っています。
自分の武器は、いい意味でも悪い意味でも、人の顔色を窺うクセがあることだと思うんですよね。常に、目の前にいる人に対して「この人はどう思っているんだろう?」って思いながら人と接している人間なので、人の気持ちを汲み取るということは上手くできているんじゃないかと。なので、「この曲はどうすれば人に届くのかな?」ということを考えるのは、他のバンドよりも得意なんじゃないかと思います。
なんでもないやつには、なんでもないなりの闘いかたがあるし、弱いやつには弱いやつの美しさがある。(本多)
—ザ・モアイズユーのバンドとしての野心は、今、どんな場所にあるんですか?
本多:「武道館に立ちたい!」みたいな思いがないと言ったら嘘になりますけど、あまりにも漠然とした夢過ぎてしっくりこないんですよね。もっとシンプルに、ザ・モアイズユーを好きだと言ってくれる人がただただ増えてほしい。日本国民みんなが「ザ・モアイズユーが好き」っていう状態が一番いいのかな……。
—すごく謙虚に、すごく大きなことを言いますね(笑)。
本多:すみません(笑)。
—本多さんの感性は、すごく特殊なもののように思えます。所謂バンドマン的なエゴとはかけ離れているけど、大きな野心は感じるし、「バンドを辞める」と決断できなかった勇気のなさや、人の顔色を窺ってしまう一見ネガティブなクセを、ウィークポイントだと自覚しながらも強みにも変えている……。自信があるのか、ないのか、わからない。でも、音楽をやるに当たっての強い確信はあるようにも思える。
本多:そうですね……本当に、ずっと、自分がなんにもない人間だと思いながら生きてきたんですよ。今でも覚えているんですけど、小学校のとき、成績が6年間ずっとABC評価で全教科Bだったんです。お母さんに「あんたほど普通な人間はこの世におらん」って言われて。
オザキ:辛らつ(笑)。
本多:勉強ができるわけでも、できないわけでもない。足が速いわけでも、遅いわけでもない。自分はどうしようもなく「普通」の人間なんだって思いながら生きてきたんです。自分は「普通の人生」というものを歩むものだとずっと思っていた。
でも、バンドに出会ってしまって、「自分のことを歌わなあかん!」って思ったんですよね。人としてはあかんところやコンプレックスが武器になる、それが音楽なんだということを、銀杏BOYZとかを聴きながらずっと感じてきた。
そんな自分が歌うからこそ、今、「自分にはなにもない」って思っている人に、なにかを感じてもらえるんじゃないかと思うんですよね。なんでもないやつには、なんでもないなりの闘いかたがあるし、弱いやつには弱いやつの美しさがあるから。そういうことを伝えられたらいいなと思うんです。
—なるほど。
本多:……それに、バンドマンの中にいると、僕みたいに「普通」なやつって、逆に普通じゃないんですよ(笑)。バンドマンって変わり者ばかりですからね。そんな変わり者ばかりの中に、こんなに普通なやつがいたら、逆に変やと思う。バンドマンって、本当に変なやつ多いからなぁ……。
—そんな、しみじみと(笑)。
オザキ:それは、俺らも含むの?
本多:お前ら、みんな変やっ!
—でも、そんな「普通」の人間から出てくる歌が、常に、どこか「満たされなさ」や「切なさ」を抱えた歌になっているのは、人間とは、本質的に満たされない悲しい生き物なんだということを、暗に提示しているようにも思えますね。
本多:あくまでも「自分がそう思っている」って言える歌詞じゃないと、伝わらない気がするんです。そういう意味で、僕はポジティブな自分を演じ切ることはできないような気がします。それに、人は根本的に、手が届きそうで届かないものに惹かれ続ける生き物だと思うんですよね。届きそうで届かない距離感に魅力を感じるというか。
そのときは辛かったり、苦しくても、過ぎてみれば、自分を成長させてくれていた……そういうものが「いい想い出」だと思う。(本多)
—先ほど話に出た“トーキョー・トレイン”も「届きそうで届かない距離」を歌っているように思えるし、“花火”で歌われるのは、物理的な距離の遠さではなくて、近くにいるのに既に「別れ」を感じている恋人同士の、切ない心の距離感ですよね。
本多:“花火”を書いたのは結構前なんですけど、その頃、4年間くらいお付き合いした人と別れたんです。僕は人生で4年も同じ人と付き合ったことがなかったので、ダメージがすごく大きかったんですよね。なので、「この出来事を曲にせず、どないすんねん!」と思って書きました。“花火”はバンドをやっていて初めて書いたラブソングなんですけど、やっぱり日常の出来事に衝撃を受けて曲を書くっていうサイクルが多いですね。
—曲にすることで、気持ちが楽になったりするものですか?
本多:いや、そういうことはないですね。ただ、「曲になった」という事実があるだけ、というか。この悲しさを誰かにわかってもらいたいわけでもなく、ただ、アイデアをもらったっていう感じです。
もちろん、「フラれてよかった」と思うわけではないんですけど、「こんな曲を書く機会が与えられた!」みたいな……。ミュージシャンとしての自分が「これを曲にしろ」と言ってくるような感じなんですよね。悔しかった出来事も、曲にすれば、ただ「悔しかった」だけでは終わらない。自分の武器になるから。
—自分自身の人生に降りかかる悲しみや苦しみの出来事を、曲のテーマとして冷静に見てしまう……それは本多さんの優れた作家性であり、ミュージシャンとしての「業」の深さも感じますね。
本多:生きていて、悔しいことも、悲しいことも、間違いもたくさんありますけど、それらもすべて、ひとつのアイデアとして与えられている感じなんです。どんどん曲にしないともったいないし、それがザ・モアイズユーの世界観になっているのかなって思います。
それに、僕にとっての「いい想い出」って、単純に楽しかった出来事ではなくて。そのときは辛かったり、苦しくても、過ぎてみれば、自分を成長させてくれていた……そういうものが「いい想い出」だと思うんですよね。今回のミニアルバムのタイトルが『想い出にメロディーを』になったのも、自分が、そんな「想い出」という過去にヒントをもらいながら曲を書いてきたからっていう理由もあります。
—“雪の降る街”は以登田さん作の楽曲で、歌詞も以登田さんが書かれていますけど、本多さんから見て、以登田さんの書く歌詞はどんな魅力がありますか?
本多:イト(以登田)ちゃんの歌詞は、僕から見てもピュア純度が高いというか……。僕の歌詞には哀愁があるとするならば、イトちゃんの歌詞はキュンとくるんですよね。僕とは違う種類の真っ直ぐさがあるなって思う。ラブソングしか書かないよね?
以登田:そうね。僕が生きている理由は、女の子がいてくれるからなので。
オザキ:すごい、言い切ったねえ。
以登田:女の子に対して思うことを歌詞に書いているし、女の子がいなかったら、バンドもやっていないと思います。男だけの世の中って、想像しただけで悲惨じゃないですか?(笑)
本多:今の発言って、一歩間違えればチャラいだけだと思うんですよ。でも、そうならないのは、イトちゃんのピュア純度の高さの成せる技なんですよねぇ。
オザキ:(本多)真央さんの歌詞は、聴いている人が自分の過去とリンクさせることができると思うけど、イトちゃんの歌詞はすごく個人的かつ、幻想的な部分がありますよね。
以登田:確かに、妄想しまくって歌詞を書いたりしてる。「こうなったらいいなぁ」みたいな。
—確かに、本多さんの書かれる歌詞は、作家的なスタンスが強いというか、冷静さと客観性を持って書かれているような感覚があるけど、以登田さんの書かれる歌詞は、視点がすごく主体的ですよね。そう考えると、すごくバランスのとれたソングライタータッグによって、ザ・モアイズユーは成り立っていますね。
本多:確かに、そんな気がしてきました(笑)。
ザ・モアイズユー『想い出にメロディーを』を聴く(Apple Musicはこちら)
- アプリ情報
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- 『Eggs』
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アーティストが自身の楽曲やプロフィール、活動情報、ライブ映像などを自由に登録・公開し、また、リスナーも登録された楽曲を聴き、プレビューや「いいね」等を行うことができる、アーティストとリスナーをつなぐ新しい音楽の無料プラットフォーム。登録アーティストの楽曲視聴や情報は、「Eggsアプリ」(無料)をダウンロードすると、いつでもお手もとでお楽しみいただけます。
料金:無料
- リリース情報
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- ザ・モアイズユー
『想い出にメロディーを』 -
2019年4月10日(水)発売
価格:1,944円(税込)
EGGS-0391. 光の先には
2. fake
3. 花火
4. 雪の降る街
5. 何度でも
6. トーキョー・トレイン
7. 桜の花びら
- ザ・モアイズユー
- イベント情報
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- 『ザ・モアイズユー「想い出にメロディーを」TOUR』
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2019年5月12日(日)
会場:愛知県 R.A.D2019年6月16日(日)
会場:福岡県 Queblick2019年6月28日(金)
会場:広島県 CAVE-BE2019年7月12日(金)
会場:愛媛県 Double-u Studio2019年7月14日(日)
会場:新潟県 GOLDEN PIGS BLACK2019年7月15日(月・祝)
会場:宮城県 enn 3rd2019年7月27日(土)
会場:東京都 O-Crest2019年7月28日(日)
会場:大阪府 Pangea※全会場ゲストあり
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- 『リリース記念フリーライブ』
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2019年4月14日(日)
会場:大阪府 タワーレコード梅田NU茶屋町店
- プロフィール
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- ザ・モアイズユー (ざ・もあいずゆー)
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本多真央(Vo,Gt)、オザキリョウ(Dr)、以登田豪(Ba)の3人からなる大阪出身のセンチメンタルロックバンド。どこか懐かしくも親しみやすいキュンとくるメロディーが最大の武器。2ndデモシングル「花火」のMVはインディーズながら18万回再生を突破している。2017年イナズマロックフェスへの出場権をかけた、イナズマゲートでグランプリを獲得。2018年7月にはback numberが所属するイドエンターテインメントのオーディション『SUPEREGO』でグランプリを獲得。
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