今年4本の舞台を演出する劇作家 / 演出家の根本宗子が、8月25日から9月1日まで、東京芸術劇場プレイハウスで『プレイハウス』を上演する。同作はパルコプロデュース公演で、これが初舞台となるアイドルグループ、GANG PARADEが主演を務める。
そして、同作の振付を担当するのが音楽劇からダンスまで自由自在な活動を展開するアーティスト集団、東京ゲゲゲイのMARIE。東京ゲゲゲイはMIKEY、BOW、MARIE、MIKU、YUYUの5人から成り、DREAMS COME TRUEやクリープハイプのMVにも出演している。
東京ゲゲゲイからMARIE、BOW、そして根本に集まってもらい、演技論、演出論からミュージカルについてまで、様々なトピックについて語り合ってもらった。
(根本の舞台を観て)なんなんだこの人(根本)無敵だな、しかも若い! ってびっくりしました。(BOW)
―根本さんも東京ゲゲゲイ(以下、ゲゲゲイ)も舞台の第一線でご活躍されていますが、お互いの存在を意識したのはいつ頃ですか?
根本:元々ものすごく前から存在を知ってはいたんですけど、単独公演を観に行くきっかけになったのは、『ライチ☆光クラブ』(古屋兎丸の漫画が原作の歌劇。2015年の公演に東京ゲゲゲイが出演)ですね。ステージングが素晴らしすぎて、これは演出家だけの力じゃないだろうと。私の舞台はあまりダンスシーンがないので、いいな、うらやましいなと思ったのが最初です。
それから単独公演も観に行くようになって。作品も毎回違うというか、お芝居っぽい要素が強いときもあれば、ダンス寄り、ミュージカル寄りのものもやられていて。どうやったらそんなに動けるんだろう? って、毎回ひたすら感動して帰るんです。自分が作っているものとまったく作り方が違うので、毎回驚きの連続です。
BOW:私は小劇場にお芝居を観に行くのが好きなんですが、チラシを見てずっと根本さんのことが気になっていて。初めて観たのは『クラッシャー女中』でした。謎の脚本も面白かったけど、ご自身が出演もされていて、なんなんだこの人無敵だな、しかも若い! ってびっくりしましたね。
MARIE:私は母親が根本さんのことを知っていて。根本宗子さんっていう演出家知ってる? って聞かれたことがあったので、お名前は存じあげてました。
今回『プレイハウス』の振付をやるにあたって今までの作品を映像で見させて頂いて、細い身体からは想像できない演技や演出をするなと思いました。『スーパーストライク』という公演では歌いながら踊っていて、「あ、この人踊れるな」と思いましたね。
BOW:私は今日が初対面なんですけど、こんなにふわっとした女性らしい方だとは思いませんでした。
根本:それ、よく言われます。とんでもないクレイジーなやつが出てくるかと思われるみたいで(笑)。
―今回の『プレイハウス』はミュージカルですね。根本さんは日本のミュージカル事情についてどう感じていますか。
根本:今の日本のミュージカルって、外国でやっている作品を日本でやることが8割ぐらいだと思うんです。でも、どうしても日本語に訳すると台詞が収まりきらないし、訳詞の人のセンスがすごく問われる気がしていて。最近だと『キンキーブーツ』は日本でやってうまくいっている例だと思うんですけど、「ださっ!」みたいな作品も結構ある。
この前もロンドンで『ウェイトレス』っていうすごく流行ってるミュージカルを観たんですけど、舞台設定がパイを作る名人がいるダイナーなんですよ。主人公の女の子がそこで働いてるんですけど、そもそもダイナーに日常的に行く感覚もないし、チェリーパイとか食べてないし、そこのずれがすごくあった。外国人がやっていれば非日常として楽しめるんですけど、これ、日本で自分がやるとしたらうまくできる自信がないなって。
根本:だから、自分がやるんだったらオリジナルのミュージカルをやりたいなって思っています。今回はGANG PARADEの曲を使ってやりますけど、将来的には全部自分で歌詞を書いて音楽家がいて、みたいなミュージカルを作りたいなっていうのがあるんです。
―あと、やっぱり日本人は急に歌いだすのに抵抗ありますよね。
根本:日本人にとって、そこのハードルは高いじゃないですか。よいしょってしないと。よいしょってしないでいい俳優さんが自然に流れで歌うようなものを作れれば面白いのかなと思うんですけど、なかなか……。
(『セーラームーン』のミュージカルは)自分が踊るきっかけにもなった作品ですね。(MARIE)
―皆さんがこれまで観た中で印象に残っているミュージカルは?
BOW:私は新国立劇場で観た『夏の夜の夢』(シェイクスピア作の喜劇)ですね。チョウ・ソンハさんがパックの役(劇中に登場するいたずら好きな小妖精)をやっていて。
小学生とか中学生の頃に『ガラスの仮面』が好きで読んでいたんですけど、そこで主人公のマヤがパックをやっているシーンがあったんです。ソンハさんの演技を観て、あのときのパックだ! って記憶が蘇ってきましたね。
MARIE:私は4歳のときに観た『セーラームーン』のミュージカルです。アニメから出てきた美少女がそろっていて、歌って踊って空も飛ぶし。なんて華やかなんだろうって。
BOW:4歳が観たら驚くよね。セーラムーン、生きてるんだって。
MARIE:そう。タキシード仮面もいる! みたいな。それをきっかけに舞台を観るようになったし、照明を浴びてキラキラしている人に興味がいくようになったんです。自分が踊るきっかけにもなった作品ですね。
根本:私はめちゃめちゃ好きな作品いっぱいあるんですけど、『モーツァルト!』っていう帝国劇場で定期的にやっているミュージカルで初めて中川晃教さんを観たときの衝撃が忘れられないです。日常的に歌うっていうのがベースにあって、急に歌いだしても違和感がない。すごい人がいるなあって思った記憶があります。
作品で言うと、『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』(オフブロードウェイでの上演以降、世界各地で上演されているロックミュージカル)の初演ですね。三上博史さんのヘドウィグがすごすぎて、「これできる日本人がいるんだ!」って。そもそも、日本人がミュージカルやってかっこいいと思うものが少ないので、それが完璧にできていることがすごかった。本当に凄かった。私の中で伝説です。
人間を描いているのであって、女性を描こうと思っているわけではない。(根本)
―ゲゲゲイはテレビ番組に出て知名度があがったと思うんですが、出演することに関して不安はなかったですか?
BOW:そこまで不安はなかったですね。自分たちがいつもやってるダンスでショーをするだけだったんで、そんなに変わらないというか。声援がないから盛り上がってはいないけど、やることは普段と同じなので。
―根本さんはテレビ出演に関してはどういうスタンスですか?
根本:トークのゲストでは何回か出てるんですけど、女性を悪く言うキャラにされがちなので最近はお断りすることも多くて。最初はお芝居を観てもらうきっかけになればいいなと思ってたんですけど、テレビって取り上げ方が過剰じゃないですか。一部分だけ切り取られるというか。
その辺、ダンスはうらやましいです。普段の踊りをそのまま出来るじゃないですか。演劇も一部分だけ映像を流してもらうとかありますけど、それじゃ伝わらないんですよね。だから、声かけてもらうのはありがたいけど、出方が難しいなっていうのはあります。
―根本さんだったら女性演出家、ゲゲゲイだったらリーダーのMIKEYさんがゲイを公表されていることもあり、LGBTQというところが強調されがちですよね。
根本:昔はすごい嫌だったんですよ。女性ならではの視点で脚本を書く人、みたいな言われ方が。人間を描いているのであって、女性を描こうと思っているわけではないので。もう少し多面的に観て欲しいなって。
でも、最近は丸くなったのか一周まわったのか、「まあ、私女だしな……」っていうところに辿り着いて。女性演出家っていうのがいちばん分かりやすい取り上げ方だと思うし、自分が紹介する側でもそう書くよなって思って。
最近は、女性云々のことを言われたときにどう反応するかを考えるようになったかもしれないです。あとは、その作品作品で描いていることがまったく違うので、ひとつの視点で観ないで作品ごとに観て欲しいということを言うようにしてますね。
BOW:私たちも知ってもらったり興味を持ってもらったりするきっかけがLGBTQだったり、リーダーのMIKEYさんがゲイなのは隠しきれないというか、それが印象に残るとは思います。ただ、別にゲイの人のためだけにやっているわけでもないし、ファンの人がゲイばっかりでもないので。きっかけになればいいなとは思います。
海外だと、なんなんだこの人たち? で終わる人もいる。(BOW)
―ゲゲゲイは海外でも公演をされていますが、日本との反応の違いは?
BOW:最初からゲゲゲイのことを知っていてくれているのとそうでないのでは、だいぶ温度差が違いますよね。日本だと私たちのこと知ってくれている人たちが多いけど、海外だと、なんなんだこの人たち? で終わる人もいるし。面白いことやってるなって反応してくれる人もいますね。
フランスに2か月ちょっと行ったときは戸惑いました。イェーイ! って始まる感じではなくて、シーンと静まっていて、どうなんだろう? って観客がステージを窺うみたいな。
MARIE:一方でアジアは作品を通じてコミュニケーションがとりやすかったです。フィリピンに行ったときは自分たちが湧かせたいタイミングで湧いてくれたし、中国は自分のタイミングで騒いでくれるし。同じアジア人だから、意思の疎通がしやすいのかなと思いました。
―根本さんは、海外公演の興味はありますか?
根本:やってみたいです。もちろん、海外に自分の作品を持って行くのもいいけど、滞在制作のほうが興味あるかもしれないですね。現地の人と作品を作ったら、意志疎通が難しそうだろうなとは思いますけど。
周りの劇作家とか演出家の話を聞いても、お互い「誰?」という状況からなんとか1か月で作るそうで。でも、やってみたいですね。
ギャンパレの魅力は、エモさ。(根本)
―今回、『プレイハウス』にはギャンパレことGANG PARADEが出演しますね。
根本:元々好きなグループだったんですけど、人数が多いグループのほうが音楽劇をやるときに面白いなと思って。楽曲がどれもずっとクライマックスみたいな感じだから、それをミュージカルにしたらどうだろう? っていう興味もあったんです。
ギャンパレの魅力は、エモさ、ですかね。あと、メンバーがものすごく仲良いんですよ。10人いてみんなが仲いいっていうのがすごい。
MARIE:この前根本さんとギャンパレのライブを観て、終演後に少しお話させて頂きました。仲良くなれるか心配だったんですけど、大丈夫そうなのでよかったです。ライブはエンディングみたいな盛り上がりを最初から最後までしていて、一緒になにかするのが楽しみだなって思わされるグループでした。
根本:普段ギャンパレが踊ってない振付で踊ってもらいたいなと思って、色んな振付家さんの映像を見たんですけど、ゲゲゲイって絶対ゲゲゲイが振り付けたって分かるじゃないですか。私はこの人たちが作ったと分かるものが好きなので、そこは完全に信頼しています。
MARIE:ギャンパレは体力に期待できますよね。フルマラソンみたいな感じでライブをやっていたので、なにをぶつけても体力的には平気そうだなって。私自身もたくさんの曲を一気に使ったり、舞台の振付をするのは初めてで。自分自身も未知数というか、どんなアイディアが浮かぶか分からないです。
パルコがなかったら、今のゲゲゲイがあったか分からない。(BOW)
根本:ダンスでも無理難題をぶつけてみてほしいです。できなさそうだなと思っても要求し続けるスタンスで(笑)。今、10曲くらいギャンパレの曲を使うことになっていて。新規のお客さんに気に入ってもらうのはもちろんですけど、ギャンパレのこれまでのイメージも残しつつ、新しいことをやれたらなと。
BOW:ギャンパレがどういうお芝居をするか分からないっていう状態からスタートするんですか?
根本:稽古に入ってみないと分からないですね。でも、ギャンパレは初舞台だけどステージには立ち慣れているので、初舞台の人とやる怖さというのはあまりなくて。歌っているときの表情とか歌い方で、この人は芝居がいいだろうなっていう目星はつけて脚本を書いてるんです。それがめちゃめちゃ外れることもあるんですけど。
BOW:めちゃくちゃ外れた場合はどうするんですか?
根本:今回は一人ひとりに当てて書いているので、大丈夫かなと。あと私、あんまりお芝居が上手いだけの人に興味がなくて。その場に自分としていてくれる人のほうが魅力的だなと思ったりしますね。
上手いんだか下手なんだか分からないけど妙にリアリティーがあるとか、こういう人いるよなっていうのが見えれば私の中でオッケーだったりするので。何回かギャンパレのメンバーと話したんですけど、全員のキャラがはっきりしているのでその点は心配ないかなと思います。
―過去に本当になにもできない、まずいって人はいましたか?
根本:いましたね。もちろん、すごく技術があってなんでも応えてくれる人のほうが楽しいは楽しいんです。だけど、なにもできないぞっていう人が初日に舞台に立って「あの人すごい良かった」ってお客さんに言われたときの快感はすごいものがあるんですよ(笑)。
完全に私の演出の力だとは……もちろん言わないですけど(笑)、そのためにやっているところはあるかもしれない。その人ののびしろを見極めて持ち上げていくのは嫌いじゃないかもしれないですね。
―『プレイハウス』はパルコプロデュース公演ですけど、パルコにはどんな思い出がありますか?
BOW:パルコがなかったら、今のゲゲゲイがあったか分からないですね。パルコのプロデューサーが私たちを見つけてくださって、そこから「やりましょうやりましょう」って2年ぐらい言い続けてくれたんです。そこから単独公演までやらせてもらっているので。パルコさんがいなかったら自分たちのやりたいことや可能性も広がらなかったと思います。
MARIE:今回、個人で振付をやるのは初めてなんですけど、パルコは新しいことをやらせてくれる場所っていうのはありますね。それは長年の信頼関係があるからだと思うんですけど、これからも互いに切磋琢磨していけたらなと。
―ゲゲゲイってお芝居もダンスも音楽劇もやるし、しかもダンスのための音楽も自分たちで作っている。実態が掴みづらいとこがありますよね。
MARIE:そうそう。なんでもやるよね! っていうところは、パルコと似てるかもしれませんね。私たち自身もパルコ同様、これからもなんでもやっていこうっていうスタンスでいますね。
- サイト情報
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- 『パルコ50周年キャンぺーンサイト』
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2019年1月1日からスタートしたパルコの50周年キャンペーン「50年目の、新しいパルコ。」の特設サイト。同サイトでは、インタビュー企画や謝恩企画など、随時情報が更新中。
- イベント情報
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- PARCOプロデュース
『プレイハウス』 -
2019年8月25日(日)~9月1日(日)
会場:東京都 東京芸術劇場 プレイハウス出演:
GANG PARADE(カミヤサキ / ヤママチミキ / ユメノユア / キャン・GP・マイカ / ユイ・ガ・ドクソン / ココ・パティーン・ココ / テラシマユウカ / ハルナ・バッ・チーン / 月ノウサギ / ナルハワールド)
磯村勇斗
栗原類
鳥越裕貴
富川一人
ブルー&スカイ
猫背椿
- PARCOプロデュース
- プロフィール
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- BOW (ぼう)
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1988年11月1日生まれ、埼玉県出身。高校時代に映像製作を学び、演技の勉強をしている際に、MIKEYの出演していた『渋谷アリス』を観劇。以来、MIKEYの元でダンスを学び、東京ゲゲゲイに結成時より加わる。最近では、新しい地図の『星のファンファーレ』『SINGING』の振付をするなど、活動を広げている。
- MARIE (まりえ)
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1990年7月24日生まれ、東京都出身。東京ゲゲゲイの前身、バニラグロテスクに主要メンバーの一人として参加して以来、リーダーのMIKEYがつくる作品に携わる。舞台『ASTERISK』(2015年、2016年)、近年のゲゲゲイ単独公演では衣裳を担当。最近では他アーティストに振付を提供するなどしている。『プレイハウス』で初舞台振付を務める。
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