存在そのものから、とても根の深いサイケデリアを感じさせるバンドである。少年期からの幼馴染4人と、その中心人物の兄によって構成される5人組バンド、空中カメラ。音楽制作だけでなく、ミュージックビデオ、イラスト、デザイン、ウェブ制作なども自分たちで手掛けることで独自の世界観を強固に構築している彼らが、情報とカルチャーの海を泳ぎ、玩具すらも楽器に変えながら生み出す作品たち。それは、まるで桃源郷のように、甘く、気持ちよく、そして気だるく、この世界と、ひとりぼっちのベッドルームの狭間をフワフワと漂っている。一見とてもポップだが、その根底には、とても鬱屈とした精神性も感じさせる……そんな音楽だ。一体、この5人は、空中カメラとはなんなのだろう? 聴けば聴くほどに、そんな疑問が頭の中にこびりつく。
そんな彼らが5月29日にリリースした新作アルバムのタイトルは、『COMMUNICATIONs』。タイトルが示すように、このアルバムでは、様々な形態のコミュニケーションが描かれていくが、それは決して、満たされたコミュニケーションではない。ここに描かれているのは、「あなた」や「世界」との届かない距離の中で無力感に襲われ、祈るように手を伸ばしながら、狂おしい思いを抱え続ける主人公たちだ。この5人はこの先、一体どのようなコミュニケーションを、この世界を繰り広げていくのだろうか? 5人全員インタビューで、この弾けるようなポップスの根底にある精神性をのぞき込んでみた。
不登校だったし、前に出たがりはしないんだけど、目立ちたがり屋だった(笑)。(竜)
―「幼馴染の4人+ボーカルの兄」という根の深い関係、ミュージックビデオやデザイン、イラスト、ウェブ制作までも自分たちで完結させる活動スタイルも含めて、非常に強固なコミュニティを形成していますよね。端から見ると、存在自体がサイケデリックにも見える、というか(笑)。
田中(Key,おもちゃ&その他):カルト集団的な(笑)。
寒川(Gt,おもちゃ):ヤバいな(笑)。
―そこまでは言ってないです(笑)。そもそもは、隼さん以外の4人で空中カメラは始まったんですよね。根本的に、空中カメラはどんな感覚を共有している集団なのだと思いますか?
牧野(Ba,Cho):それぞれ別の部活とか別の仲よしグループでバラバラに遊んでいたけど、文化的な話を共通項にしてギュッと集まったっていう感じだと思います。そもそも、全員が最初から仲がよかったわけではなくて、この3人(寒川、田中、牧野)が、それぞれ別ルートで中村(竜、隼)の家に遊びに行っていたんですよね。
竜(Vo,Gt):そうだね。僕は中学校の頃に不登校だったんですよ。その頃に、放課後にみんながうちに遊びに来る感じになっていて、このメンツが集まってきたんですよね。
―不登校だけど家が溜まり場になっているって、不思議な感じもしますね。
田中:不登校とはいっても、なぜか竜はクラスの人気者だったな。文化発表会でギター弾いたりして。
竜:そうだね。元々、バスケ部に入部したんですけど、そこが合わなくて。それから部活をサボると同時に不登校になっていったんですけど、運動会とか修学旅行みたいな、行事ごとには必ず行く感じだったんですよね。
隼(Dr):竜くんは小学生くらいの頃から、あまり学校が好きそうじゃなかったんですけど。でも、目立ちたがり屋なんですよね(笑)。
田中:その感じは、今もあるよね。
竜:前に出たがりはしないんだけど、目立ちたがり屋っていう(笑)。
―なるほど(笑)。
寒川:僕も中学校の頃は不登校だったんですよ。みんなで一緒になにかをやるっていうことがひどく苦手で。集団に所属して、なんらかの役割を得るっていうことをイヤだと思ってしまう性格だったんです。だから、どこにも属せないし、友達もできないし。でも、高校で初めてこいつらと友達になって、そのまま空中カメラにつながっていて。自分にとっては、今でもここが一番居心地のいい集団だし、空中カメラ以外の集団に属したら自分がどうなってしまうかわからないくらいです。
キャッチーだけど禍々しさの残っているものとか、情報量が多いけどポップなものが好きっていうのが、このメンバーの共通点かもしれない。(田中)
―寒川さん的には、何故、空中カメラという集団は居心地よく属せるのだと思います?
寒川:さっき牧野も少し言っていましたけど、やっぱり、共通言語になるカルチャーの話があったのがよかったんだと思います。音楽や漫画の話が通じるっていうのが一番よかったんですよね。
―全員の共通言語となっていたカルチャーっていうのは、どんなものだったんですか?
竜:奥田民生さんに始まり、漫画だと『AKIRA』とか、松本大洋さんの作品とか。あと、フリッパーズ・ギターに、学校の授業で習っていたThe Beatlesに、たま。ちょうど、僕らが中学生くらいの頃にYouTubeが出回り始めたんです。なので、自分たちで検索して『イカ天』とかを見ることができるようになったのが大きかったです。
たま『犬の約束』を聴く(Apple Musicはこちら)
牧野:僕ら1990年代前半生まれって、多感な時期にYouTubeでいろんな文化を横断的に摂取できるようになった、わりと最初の世代だと思うんですよ。そういう中で、いろんな文化を摂取しながら好きな文化を共有できたのが大きかったんだと思います。
田中:その中でも、今竜が言ったような、キャッチーなんだけど禍々しさの残っているものとか、情報量が多いけどポップにまとまっているものが好きっていうのが、このメンバーの共通点になっていったのかもしれない。今の僕らの曲もそうなんですけど、いろんな情報や文脈を詰め込みながらも、最終的にはポップにまとまっているものがいいなと思うんですよね。
ヒップホップとかに対してアンチではないけど、「ハーモニーが豊かなものを聴きたい人だっているでしょ?」とは思う。(田中)
―情報を詰め込むっていうのは、自分たちの作品作りにおいて大事なポイントですか?
竜:そうですね。今回の『COMUNICATIONs』でも、参照点や引用もとは沢山あるんです。例えば、“SPACE RANGER”とかのスペーシーなサウンドは、ELOをもとにしていたり。
空中カメラ『COMMUNICATIONs』を聴く(Apple Musicはこちら)
田中:あと、“My silly friend”は、曲の構成はJellyfishっぽくして、ギターソロはQueenで、とか。あと、フリッパーズ・ギターからの影響を受けた曲もあるし、大瀧詠一さんの影響を受けた曲もあるし。好きだから自然に出てきたものもあるし、敢えて記号として入れている部分もあるんですけど、そうやって自分たちが影響を受けてきた要素を曲の中に入れていくことで、聴いた人がニヤリとしてくれたら、それもコミュニケーションとして楽しいのかなって。
寒川:空中カメラがやっていることって、この世にあるいろんな情報とか、これまでの時代にあった自分たちが「いいな」と思ったすべてを、創作物として結晶化させるっていうことだと思うんですよ。そして、「これが、自分たちの体に流れているものだ」っていうものを作り上げて、世の中に提示したいんですよね。
田中:今、世の中的に主流の音楽は完全に音が減っていく流れにあるけど、僕らは、隙間があれば音を詰め込みたいと思ってしまうので。別に、今流行りのヒップホップとかに対してアンチな態度をとりたいわけではないけど、「メロディが強くて、ハーモニーが豊かなものを聴きたい人たちだっているでしょ?」とは思うんですよね。僕もそのひとりなんですが。
―「ハーモニー」って、空中カメラの音楽性を語るうえで大きなポイントだと思うんですよね。それこそ、皆さんが好きだったというThe Beatlesやたまだって、ハーモニーに魅力がある音楽だったわけで。何故、空中カメラはハーモニーに惹かれるのでしょう?
寒川:原体験的なものじゃない?
竜:そうだね。僕らが小学校の頃に『ハモネプ』が流行ったんですよね。その頃に、隼が家で多重録音をして、ひとりでアカペラを作り始めたりしたので、僕もそれを真似したりしていて。そこから、The Beatlesを聴くようになっていったっていう。それが今でも、自分が曲にコーラスを入れたがる理由かもしれないです。
ノベルティソングの面白さに、大瀧詠一さんの存在を知ることで気づいた。そこが出発点なんですよね。(牧野)
―なるほど。いくら「ハーモニー」と言っても、竜さんの中には、「ひとりで作りだすもの」という感覚がはじめはあったんですね。
竜:そもそも、父は学生時代に音楽をやっていて、父が作った多重録音のテープを聴かせてもらったりもしていたんですよね。それに、家にベースやピアノもあったし、学校を休んでいる間に楽器を触る時間も多くて。
その頃からギターのコードをピアノに移して音を録って、「これが和音か」って。そうやって音楽を始めた当時、山下達郎さんや斉藤和義さん、桑田佳祐さん、奥田民生さんみたいに、ひとりで全部できてしまう人たちがカッコいいと思ったんですよ。そこに対する憧れもあったので、いろんな楽器を練習し始めて。
―そういう光景を、当時隼さんは見ていたわけですよね?
隼:そうですね。竜くんは「勘違い」が上手いというか。自分が好きなことに対しては、「自分は絶対にこういうことができる」って思い込めるんですよね。好きなことに対して真っ直ぐというか。だから、楽器を練習するのも「練習する」っていう感覚じゃなくて、ひたすら自分の好きなように楽器を楽しんでいるっていう感覚なのかなって思います。
竜:そこから、高校1年生くらいの頃に僕がMTRを買って、ふざけたCMソングを作ってみたんです。それを田中に聴かせたら、「いいじゃん、曲を丸々作ろうよ」っていう話になって、バンドが始まっていったんですよね。
寒川:最初はシャンプーのCMソングだったよね?
竜:そう、「シャンプーは夏の贈り物」みたいな(笑)。
空中カメラ『Dr.KIDS LIFE』を聴く(Apple Musicはこちら)
―最初がノベルティソングって、かなり特殊なバンドの始まり方ですよね(笑)。
牧野:でも、ノベルティソングの面白さって、後から大瀧詠一さんの存在を知ったりすることで気づいていった感じもあって。「俺たち、正しかったんだ」みたいな。だから、意外とそこが出発点なんですよね。
竜:そこから10年くらい、よく続いてるよねぇ。
田中:確かにねぇ。例えば大学とかで結成されたバンドだと、「形にならなかったら就職しよう」とか、「売れなかったら辞めよう」みたいな意識が芽生えたりもすると思うんですけど、僕らの場合はそういう意識が生まれる前から続いているから。
寒川:それぞれ、違う大学には進んだけど、結局、このメンツでつるんできたもんね。小学生の頃って、誰かの家が溜まり場になるじゃないですか。「あいつの家にはゲームがある」みたいな理由で。空中カメラはずっとそういう場所なんですよね。
田中:子供の溜まり場だよね。「あいつの家には『こち亀』が全巻あるから行こう」みたいな。
寒川:一生これか? 老人ホームに入っても、結局、竜のいるホームに集まる、みたいな(笑)。
竜:なんでだよ!(笑)
人間と人間が100%同じ気持ちになることなんてなくて。どこかに「ズレ」を描かないと嘘臭すぎる。(寒川)
―自作のノベルティソングから始まって、好きなカルチャーの要素を取り入れ続けながら、遊びの延長のような形で空中カメラは続いてきた。結果として、今の空中カメラから生まれる音楽も、非常にポップで遊び心溢れるものになっていますよね。ただ、そういう音楽を求める意識の前提にあるのは、ある種の「閉塞感」や「退屈」によるものなのかなっていうことも、この音楽からは感じるんですよね。
牧野:ああ、子供の遊びって、基本的には「退屈」から生まれますよね。その感覚は正しい感じがします。
―例えば新作『COMMUNICATIONs』も、タイトルが示すように、個々の楽曲で歌われているのは様々なケースでのコミュニケーションの在り様だと思うんです。そして、それぞれの曲で共通しているのは、「届かない距離感」がすごく需要視されていることだと思うんです。極端に言えば、「コミュニケーションは上手くいかない」という前提が、そこにはある。
竜:そうですね。これまでの僕らの曲って、「空中カメラが作った世界のお話」みたいな曲が多かったんです。でも、今回の作品では、より現実的で具体的な関係性を描いてみたかったんですよね。「こういうもどかしい気持ち、わかるでしょ?」みたいな感じで。「ドラマみたいに華やかな展開になるわけないじゃん」って思う反面、それに憧れる部分もある……そういう混沌とした気持ちが、今回の歌の世界になっているのかなって思います。憧れはあるけど、上手くいかないなぁっていう精神状態というか。
寒川:どれだけ「心がつながっている」っていうことをお互いに言ったところで、人間と人間が100%同じ気持ちになることなんてなくて。必ずどこかに「ズレ」は描かないと、あまりにも嘘臭すぎるっていうのはありますよね。誰だって、誰かとつながりたいって思っているけど、でも、つながることができるツールのせいで、ディスコミュニケーションが大量に起こる世の中になっているわけじゃないですか。
―まさにそうですね。
寒川:だから結局は、コミュニケーションって上手くいかないものだと思うんですよ(笑)。でも、上手くいかないにしても、それを閉じてしまうと、なにもできなくなってしまうし、なにも進まなくなってしまうから。だからこそ、そういうズレた世界観を、明るい曲調に乗せたいなって思うんだと思います。
自分は怠け者だけど、なにもできないまま日が暮れたりすると人一倍後悔する……。そんな焦燥感を解消してくれるのが、音楽を作ったり、漫画を描いたりすることだっていうのも昔から知っている。(竜)
―このアルバムの歌詞って、情景が思い浮かびやすいものが多いと思うんですよね。出てくるキャラクター同士の関係性が伝わりやすい。でも7曲目の“パラボラ荘”だけは、歌の中の関係性がよくわからないんですよ。UFOとかジャンキーが出てくるし。これは一体、どのようなモチーフで書かれたんですか?
田中:この曲は、竜にとっての「世界」対「自分」でしょ?
竜:そうだね。この曲は、主人公がアパートで独り暮らしをしていて、隣人がヤク中で毎晩独り言を呟いているのに聞き耳を立てている、みたいな感じです。自分の周りで明らかにおかしいことが起こっているんだけど、自分は自分で、窓を開けたらUFOが飛んでいるし、変なものが見え始めてしまっている、みたいな……。
この曲を書いた翌日から免許合宿に行かなきゃいけなくて、家を出る不安もあったと思うんですよね(笑)。それで、頭の中がゴチャゴチャしたような曲になったのかなぁ。このアルバムにこの曲があるのは、自分の原点的な部分を出している感覚はあると思います。
寒川:この曲だけは、かなり昔に作ったんですよ。2013年に出した『UFO E.P.』っていうCD-R作品に入れていた曲の再録なんです。あの頃の竜らしさが、すごくよく出ている曲だと思う。歌詞的にはすごく閉じていて、竜の頭の中で完結しているような世界観だと思います。
ある種、中村竜の正直な部分というか。家にひとりっきりでいる感じ。この“パラボラ荘”は、空中カメラの「素」の部分っていうことでもあると思うんです。別に、他の曲が嘘をついているわけではないけど、でも、これが空中カメラの内臓にあるものというか。
―そういう、竜さんの中にある閉じた部分……それは、さっき言った「退屈」みたいな感覚とつながるのかもしれないですけど、その感覚と今こうやって音楽を作っていることは、竜さんの中で、どんな関係性で成り立っているのだと思いますか?
竜:自分はすごく怠け者で内向的な性格だけど、なにもできないまま日が暮れたりすると人一倍後悔する……。そんな人間なんです(笑)。でも、そんな焦燥感や喪失感を唯一解消してくれるのが、自分にとって、音楽を作ったり漫画を描いたりすることだっていうのも昔から知っている。
小学校の頃は、漫画家になりたかったんですよ。自由帳に漫画を描いて、友達に見せて回ったりしていて。自己満足でも、自分でなにかを作って、それを見てもらうっていうことがすごく気持ちよかったんですよね。
竜:だからまぁ、基本的には出不精なんだけど、でも、誰かが自分の部屋に入ってくるのはウェルカムで、でも、入り浸られるのは気持ち悪いなぁっていう……そんな感じです(笑)。
田中:わがままだなぁ(笑)。……でも、竜のそういう閉じた部分を、編曲やアートワークやビデオを通して絶妙なバランスに仕上げる。空中カメラって、そういうバンドだと思います。
- リリース情報
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- 空中カメラ
『COMMUNICATIONs』 -
2019年5月29日(水)発売
価格:2,592円(税込)
VMAN-082
- 空中カメラ
- イベント情報
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- 『空中カメラ主催「シャッターチャンス」』
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2019年6月30日(日)
会場:東京都 渋谷HOME
ゲスト:ayU tokiO - 『空中カメラ ワンマンライブ』
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2019年8月2日(金)
会場:東京都 渋谷O-nest
- プロフィール
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- 空中カメラ (くうちゅうかめら)
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中村竜(Vo,Gt)、田中野歩人(Key,おもちゃ&その他)、牧野岳(Ba,Cho)、寒川響(Gt,おもちゃ)、中村隼(Dr)の5人からなるバンド。幼、小、中、高校の同級生(1992~93年生まれ)とその兄で構成される。宅録ユニットとしてスタートし、徐々にライブ活動を開始。1960~1970年代英米ポップ・ロックのフィーリングと、1980年代ニューウェイブのエッジ感と、J−POPのメロディ感覚が絶妙に混ざり合った、大ポップワールドを展開中。ビデオ、デザイン、イラストレーション、ウェブサイト、漫画までメンバーが手掛ける。
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