引きこもりやいじめ、不登校、あるいはそれに関連するニュースは、元号が「令和」に変わった今も途切れる気配を見せない。否、それどころかむしろ増加し、深刻化する一方のようにさえ思う。インターネットやSNSが普及し、物心ついたときからそれらに囲まれ育った子供たちは、常に自分が「どう思われているか?」を伺いながら、世間との距離を測りながら生きているようにも見える。
「壁」を背負った異色のアイドル・みんなのこどもちゃんは、もはや後戻りできないそんなディストピアの中で、生きる意味を模索し続けている。今年5月よりスタートした、5か月連続デジタルリリースの第1弾シングル『壁』は、引きこもり〜不登校だったほのかとしなもんが、いかにして壁を背負うに至ったのかを赤裸々に綴ったヘビーなメッセージソングに仕上がっている。
サウンドプロデュースを務めるJin Tanaka(BACK DROP BOMB)に、「40代の自分にもリアルに響く」と言わしめた、ほのかの書く歌詞世界は、一体どのような経験から生まれてきたものなのだろうか。「誰にも媚びない」生き方を貫くほのかと、彼女に会うため引きこもりを脱したしなもんに話を聞いた。
今の私たちにとって「壁」は必要なものというか、守ってくれる存在だと思う。(ほのか)
─取材中にも「壁」を背負っているんですね。そもそもなぜお2人は「壁」を背負うことになったんですか?
ほのか:打ち合わせのときにスタイリストさんが、私たちになにかを背負わせたいとおっしゃって……(笑)。2人とも引きこもりで、心に壁を持っていたという話をしたら「じゃあ、壁を背負うのはどう?」みたいな話になったのがきっかけでした。
─今回、5月から5か月連続でリリースされるシングルの第1弾もタイトルが『壁』です。みんなのこどもちゃん(以下、こどもちゃん)にとって、「壁」というのは重要なキーワードなのですね。
ほのか:はい。この曲の中で<おとうさん / おかあさん / ふたつの黒い壁が / わたしを孤立させる>と歌っているように、自分にとって最初の「壁」は両親でした。それがずっと嫌だったというか、自分を孤立させる煩わしいものというふうに感じていたんです。
でも、小学生になってインターネットという「壁のない世界」の中に飛び込んでいったときに、たくさんの中傷を受けて。やっぱり「壁」って必要なんだということに気づいて、今度は自分で壁を作ってその中に逃げ込んだんですよね。だから、今の私たちにとって「壁」は必要なものというか、守ってくれる存在だと思っています。
─「ネットでの中傷」というのは、ブログをやっていたときの出来事ですか?
ほのか:そうです。ブログを始めたのは小学校6年生の頃だったんですけど、当時自分が抱えていた気持ちのモヤモヤを、吐き出す場所を求めていたんですよね。学校がどれだけ嫌か? とか思ったことを赤裸々に書いていたのを、クラスメートに見つかってしまって。
それまでは、ブログを通じて知り合う人も増えてきて「なんて生きやすい世界なんだろう」と思っていたのが、だんだん「ネットって怖い」と思うようになっていって。中傷を受けるようになってからは「なんでこんなこと始めちゃったんだろう……」となってしまいました。
ブログを閉鎖してもスクショを取られたりして、ずっと残ってしまうじゃないですか。そんなことも全く考えずに始めてしまったのを、後悔したこともありました。「もし、ネットをやってなかったら今頃普通に生活していたかもしれない」って。5年生の頃から不登校気味だったんですが、ブログがバレてからはなおさら行きにくくなってしまいましたね。
─その当時は、セキュリティのことなどあまり考えていなったんですかね?
ほのか:全然考えていませんでした。本名でやっていたし(笑)。軽い感じで始めたブログだったけど、割とランキング上位になってしまったことも、(クラスメートに見つかった)理由の1つだったのかな。実際、ブログ経由でデビューのお話もいただいたし。こどもちゃん結成の前に、そのアイドルグループで活動を始めたことも、より学校へ行きにくくしていました。
─しなもんさんがほのかさんを知ったのも、ブログがきっかけだったとか。
しなもん:はい。見始めてすぐに閉鎖しちゃったので、主にTwitterを見ていました。
─それで「会いに行こう」と。その頃、しなもんさんも不登校気味だったんですよね?
しなもん:外にもほとんど出てない状況でした。というのも、小4の終わりくらいに、体調不良で2週間くらい欠席したんです。それで「もうダメだ」って。勉強にもクラスの雰囲気にも「ついていけない」と思っちゃったんです。
─その状態で、面識のないほのかさんにわざわざ会いに行くって相当なモチベーションだと思います。
しなもん:あははは、確かに。私はもともとアイドルに興味がなくて、会いに行ったこともないし、メールを送ったこともなかったんですけど、なぜかほのかのことは「面白い人だなあ」「会いたいなあ」って思ったんですよね。
ほのか:4歳も下の子に「面白い」とか言われるの嫌だなあ(笑)。
─その頃のほのかさんは、さっきおっしゃっていたアイドルグループを辞め、歌舞伎町のカフェで働いていたんですよね。Twitterにどんなことを書いていたんですか?
ほのか:リプしてくる人たちに、ガンガン喧嘩売ってました。なにか言われたら、とりあえず上から返したりして(笑)。そのくせネットしか居場所がなかったから、1分おきくらいにツイートしていた時期もありましたね。「今電車に乗ってる」「電車降りた」みたいな。今日はなにを食べて、どこへ行って、いつ寝るかまで行動を全部報告してたんですよ。
「アイドルになりたい」というより「有名になりたい」というか、承認欲求に近いものだったんだろうと思います。(ほのか)
─そんな2人の出会いがきっかけで結成された「みんなのこどもちゃん」ですが、最初はしなもんさんを軸とした4人組のアイドルグループだったんですよね?
ほのか:はい。私は当時、別のグループにも誘われていて、どうしようか迷ったんですが、紆余曲折あってこどもちゃんに入ることになりました。
─ほのかさんは、一度アイドルグループを経験して、それを辞めてカフェで働いていたわけで。アイドル活動のいい部分と大変な部分、両方見てきたと思うのですが、再びその世界に戻ろうと思ったのは?
ほのか:実は、最初のアイドルグループを辞めた理由が、真面目にやっている人が誰もいなかったということだったんです。思っていることや改善すべきだとことを、運営さんや事務所の社長に話したんですけど、全然変わらなくて。しかも、例えば練習でも「遊びたいから休む」みたいな子が普通にいて、あまりのゆるさに辟易したというか。
「やりたくなくて辞めた」のではなく、「ちゃんとやりたかったのにできなかったから辞めた」っていう感じだったんです。アイドル自体はまだやりたいことではあったんですよね。
─しなもんさんは、自分が軸となるアイドルグループが立ち上がることについては、どんな心境だったんですか?
しなもん:最初はめちゃめちゃ軽い気持ちで「オッケーオッケー」って言ってましたね(笑)。内輪のみのイベントで一回ライブやったら解散すると思っていたんです。そしたら次のライブも、その次のライブも予定が決まっていって……。もともと人前で歌うのも嫌いだったので、秋葉原でライブとか本当に無理でした(笑)。
ほのか:その割に毎日来てたよね?(笑) こどもちゃんは多いときで7人くらいいたんですけど、基本来られるメンバーだけでライブに出てカバー曲とかやってたんですよ。そこに私としなもんは必ずいたよね。
しなもん:なんで行ってたんだろう(笑)。
─ほのかさんとしても、前のグループのゆるさが嫌だったのに、初期のこどもちゃんのそういうゆるさは大丈夫だったんですか?
ほのか:そのときは、気持ちが病んでたのか楽しかったんですよね(笑)。ハロプロのカバー曲を覚えて歌うのも楽しかったし。「アイドルになりたい」というより「有名になりたい」というか、承認欲求に近いものだったんだろうと思います。ブログを始めたのもそうですし。
─今の体制になるまでは、例えばMETALLICAの”Battery”を聴いたまま覚えて歌わされ、しかも自分で振り付けを考えさせられるなど、かなり無茶ぶりの中でメンバーがどんどん辞めていったわけじゃないですか。
ほのか:あれは試練だったよね。
しなもん:大変だった。
─そんな中、なぜ2人は最後まで残ったんですか?
ほのか:えー、わかんない……。
しなもん:実際、METALLICAとかやっているときは辞めたかったです(笑)。
ほのか:さすがに2人だけになった最初のライブは辛かったね。確かオリジナル曲は“起きたら死んでたい”と、マイク使わないでただただ叫ぶみたいな曲だけがあって。それをやっているときは本当にしんどかった!
しなもん:あと、作文を読むとかもあって。今考えると変過ぎる。
ほのか:もう、これしかないっていう心境だったんでしょうね。なくなったらもう、自分にはなにもないっていうか。
最初は他人に向けて「全員死ねばいいのに」と思って書いていたけど(笑)、最近は自分のことを書くことが多くなった。(ほのか)
─BACK DROP BOMBのJin Tanakaさんがサウンドプロデューサーとして本格的に関わるようになり、衣装やコンセプトが固まって、ようやく先が見えてきたという感じですか?
ほのか:そうですね。Jinさんとの打ち合わせの場でワードを色々書き出したんですけど、その中の「起きたら死んでいたい」というフレーズにJinさんがめちゃくちゃ共感していて(笑)。
それでさっき話した『起きたら死んでいたい』という1stシングルが生まれたんです。別に私が作詞担当と決まっていたわけじゃなかったんですけど、いつの間にかメインの作詞は私で、作曲はJinさんという体制になっていました。
─ご自身が思っていることを的確に表現できるというのは、やはりブログをずっとやっていたことが大きいのかもしれないですね。
ほのか:日記もずっと書いていたので、それも大きいのかなと思います。ブログに嫌なことを書いて、読んだ人に同情されたり、日記に嫌なことを書いて、自分を「かわいそう」と思うのが楽しかったり(笑)。
でも、たくさん歌詞を書くようになって、言葉に向き合う姿勢も徐々に変わってきていて。「今、この瞬間の感情を言葉にする」というよりは、過去に考えていたことを思い出して「こういう気持ちを知ってもらえたらいいな」というふうに思っています。
─自分のことや、体験したことについて、ちょっと客観的に見られるようになったんですかね?
ほのか:そうだと思います。
しなもん:最初のほうは、それこそ「病みの塊」みたいな歌詞だったんですけど、最近はもうちょっと広い範囲に届くようになっている気がします。どっちがいい悪いじゃなくて。
ほのか:確かに。最初の3曲くらいは他人に向けて「全員死ねばいいのに」って思って書いていたけど(笑)、最近は自分のことを書くことが多くなっている気がします。
そのときの感情に、対峙しながら書くようになったというか。なので、最近私のことを知ってくれたファンにとっては、「病んでいる人」というより「ひねくれた人」「変わってる人」という認識なのだと思います。
─昨年リリースした1stアルバム『壁のない世界』が大きな話題となり、今回のシングル連続リリースと全国ツアーのための資金をクラウドファンディングで募ったところ、目標金額の127%を達成するほど支持を集めたわけじゃないですか。今のこの状況、つまり世代を超えて共感されていることについて、どう受け止めていますか?
ほのか:えー、どうだろう。ライブは「曲がいいな」と思ってくれた人が、基本的に聴きに来てくれていると思うんですけど、見守ってくれてる感じもあるのかな……。お客さんに「共感はしないけど、ただただ感動する」と言われたことはありますね。
私たちは基本、笑顔を見せずに真顔で歌うんですけど、時々笑うとそれを観て泣く女性の方もいます。きっと「そうだよね、辛かったよね」みたいに思ってくれているのかも……親心かな?(笑) 「わかる、マジで人とか無理だよねー」みたいな共感ではなくて。
みんなのこどもちゃん『壁のない世界』を聴く(Apple Musicはこちら)
─なるほど。実際、ライブハウスまで足を運んでくれる人は、そこまで病んでいないのかもしれないですよね。ただ、現在進行形で引きこもっている人のところにも確実に届いていると思います。
ほのか:だとしたら嬉しいですね。ただ、私の書く歌詞は「その人たちに向けて」というものではなくて。まずは自分のことだけを考えて書き綴った歌詞が、結果的に誰かの共感を呼ぶものであるのが一番いい形なのかなと思います。
媚びようと思っても媚びられない。それで嫌われても「仕方ない」と思っちゃうタイプです。(しなもん)
─結成当時に比べたら、お2人の心境などもだいぶ変化してきたと思います。それに伴い、今背負っている「壁」の意味なども変わりつつあると思いますか?
ほのか:スタイリストさんに言われて背負い始めた頃は、あまり深く考えていなかったと思います。お客さんからの反応も、ライブで激しく踊ると「風が来て涼しいね」って言われるくらいで(笑)。
─はははは(笑)。
ほのか:今は「これがないとヤバい」というか。その頃よりも重要度が増している気がします。お客さんも、きっと背負ってなかったら心配するだろうし。こどもちゃんの歌詞には、お客さんを「壁」に見立てているものもあるし、ファンクラブの名前も「壁」だったりするし。今のこどもちゃんにとって、すごく大切なものだと思っています。
私たちのことを守ろうと「壁」になってくれた人たちと、その中の世界で楽しく生きられればいい、嫌いな人は入ってこなくていいや、という気持ちですね。
─“壁”は最後、<阻害され隔離される日々は / どこまでもつづくんだね>というラインで締めくくられていますしね。「壁」というと、人によってはネガティブに捉えるかもしれないけど、自分たちの大切なものを守るための「壁」というポジティブな意味合いに近い。自分たちを守ってくれる「壁」であり、次のステップへ進むために乗り越えるべき「壁」であるという意味では、「みんなのこどもちゃん」こそが2人にとって「壁」なのかなとも思いました。
ほのか:そうですね、私もそう思います。
─以前のインタビューでほのかさんが、「媚びないところ」を大切にしていると話していたのが印象的でした。そこは今も変わらない気持ちですか?
ほのか:例えば物販会場で、神対応できるアイドルの方とかいるじゃないですか。自分がそういうのできないのもあるけど「したくないな」と思います。嘘はつきたくないし、自分自身を表現するために強がることもしたくない。
─嫌なものは嫌だし、好きなものは好きと、自分の気持ちに正直でいることが大切なのかもしれないですね。それは、相手に対して真摯に向き合っているとも言えるわけですから。
ほのか:確かに。私、ファンの前でもめっちゃ素になっちゃって。友達感覚で喋っちゃうんですよね。「わあ、ありがとうございます」みたいに言えることも大事だとは思うし、それを誰にでもやっているアイドルさんを見るとすごいなと思う。
私、ファンに「え、なんで来たの?」とか言っちゃうんですよ。「今日仕事じゃなかったっけ?」みたいな意味なんですけど、誤解されることもあるのかな。しなもんも全然媚びてないよね。
しなもん:無理(笑)。媚びようと思っても媚びられない。それで嫌われても「仕方ない」と思っちゃうタイプですね。
─「嫌われる」ことを恐れない気持ちも大切ですよね。今後、こどもちゃんはどんな存在になっていきたいですか?
ほのか:最近はいろんなタイプのアイドルさんが活躍していますけど、一般的な認識としては「元気を与える存在」と未だに思われていますよね。それを変えていきたいです。
今、サポートメンバーと一緒にライブをやっているんですけど、前のこどもちゃんを知っているファンからは「絶対バンドのほうがいいよ!」って言われるんです。メンバーはみんな、パフォーマンスもすごくかっこいいし。
なので、もっともっとバンドをフィーチャーして、「アイドルとバックバンド」みたいな見え方ではない、これまでとは違う新しい形のアイドルを見せられたらいいなと思っています。
みんなのこどもちゃん『ひとりごと』を聴く(Apple Musicはこちら)
- アプリ情報
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- 『Eggs』
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料金:無料
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- みんなのこどもちゃん
『壁』 -
2019年5月1日配信
- みんなのこどもちゃん
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- みんなのこどもちゃん
『ひとりごと』 -
2019年6月1日配信
- みんなのこどもちゃん
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- みんなのこどもちゃん
『死んだうた』 -
2019年7月1日配信予定
- みんなのこどもちゃん
- イベント情報
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- 『-死んだうた-Release event』
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2019年7月1日(月)
会場:東京都 チェルシーホテル
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- 『みんなのこどもちゃん TOUR 2019 ほのかとしなもん』
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2019年8月3日(土)
会場:神奈川県 F.A.D YOKOHAMA
出演:みんなのこどもちゃん
and more2019年8月4日(日)
会場:千葉県 LOOK
出演:みんなのこどもちゃん
and more2019年8月10日(土)
会場:新潟県 GOLDEN PIGS RED STAGE
出演:みんなのこどもちゃん
and more2019年8月11日(日)
会場:山形県 Live-ARB
出演:みんなのこどもちゃん
and more2019年8月12日(月)
会場:秋田県 LIVESPOT2000
出演:みんなのこどもちゃん
and more2019年8月14日(水)
会場:北海道 Bessie Hall
出演:みんなのこどもちゃん
and more2019年8月16日(金)
会場:静岡県 Sunash
出演:みんなのこどもちゃん
and more2019年8月17日(土)
会場:岐阜県 柳ヶ瀬ants
出演:みんなのこどもちゃん
and more2019年8月18日(日)
会場:京都府 GROWLY
出演:みんなのこどもちゃん
and more2019年8月19日(月)
会場:徳島県 Crowbar
出演:みんなのこどもちゃん
and more2019年8月21日(水)
会場:広島県 Bad Lands
出演:みんなのこどもちゃん
and more2019年8月22日(木)
会場:福岡県 Queblick
出演:みんなのこどもちゃん
and more2019年8月24日(土)
会場:大阪府 ROCKTOWN
出演:みんなのこどもちゃん
and more2019年8月25日(日)
会場:愛知県 HUCK FINN
出演:みんなのこどもちゃん
and more2019年8月29日(木)
会場:東京都 LIQUIDROOM
出演:みんなのこどもちゃん
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- プロフィール
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- みんなのこどもちゃん
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人と関わりをうまく持てない『壁』を持つ少女ふたりが生きにくい今を生きる子供たちのリアルな心の叫びを歌にする。
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