NABOWAが語る、結成15年の境地 誰にも媚びない揺るぎない自信

Ginza Sony Parkで毎週金曜日の夜をはじめ、不定期に行われている入場無料のライブプログラムが『Park Live』だ。「音楽との偶発的な出会い」をコンセプトにした同プログラムに前日、東京・代官山UNITでのワンマンライブを終えたばかりのNABOWAが出演。Sawagiのコイチ(Key)を迎えた5人編成で登場した彼らは、4月24日にリリースされたばかりの新作『DUSK』からの楽曲を中心に1時間ほどの演奏を行った。

NABOWAの音楽において、テクニカルなフレーズや複雑なアンサンブルが肝となっていることはたしかだ。しかし、各パートが混然一体となってまっすぐ胸に飛び込み、広大な景色が眼前に広がっていく今の彼らのサウンドを「ポストロック」と言い表すことには、どうしても躊躇いがある。「普遍性、大衆性はポップであることに依存しない」としたインストゥルメンタル――それは、今でも拠点とする京都のストリートでのライブ活動をバンドの出発点とし、今年15周年となる年月を経てNABOWAがようやくたどり着いた理想郷のようだ。この日のステージを終えたばかりの4人に、今のNABOWAを形成する重要な「出会い」と新作について伺った。

NABOWAは、路上ライブをしていたのがはじまりなんですけど、今日はその感覚に近いものがありました。(景山)

―代官山UNITでのワンマン公演と2日連続のライブでしたが、今日の『Park Live』の演奏はいかがでしたか? 当日開催発表の無料ライブということもあり、たまたま通りかかったようなお客さんもいたでしょうし、客席と同じ高さのステージなど普通のライブハウスとは違った環境だと思いますが。

景山(Gt):もともとNABOWAは、京都の四条通りのデパート前とかで路上ライブをしていたのがはじまりなんですけど、今日はその感覚に近いものがありましたね。当時は歩いている人たちに向けて、期待されてないなかでいかにして「もっと観たい」と思ってもらえるか、ということを考えたライブをやっていたので、改めてこういう環境も実は得意なんじゃないかなと感じました。

川上(Dr):たしかにストリートライブに近いかも。

山本(Violin):路上でやっていた当時は、大前提として耳障りにならないように気をつけていた部分があるんですけど、そこだけ今回は違いますね。偶然観てもらうという気負いがない路上ライブ的な要素はありつつ、自分たちが表現するものをしっかり受け取ってほしいという意識もあった。だから原点に回帰しつつ、15年の蓄積してきたものも乗ったライブができる環境で、すごくいい機会でした。

NABOWA(なぼわ / 左から:山本啓、川上優、景山奏、堀川達)
京都を拠点に活動している4人組インストゥルメンタル・バンド。2019年4月に発売した『DUSK』を含め、現在までに6枚のアルバムをリリース。国内外大型フェスへの出演や、近年は、台湾3都市ツアー、香港ワンマンを行うなどライブアクトとしてアジアでも高い評価を獲得している。

―今回のインタビューは『Park Live』のコンセプトである「出会い」になぞらえて、今年15周年でアルバム『DUSK』をリリースされたばかりの今のNABOWAに変化をもたらした重要な「出会い」について伺いたいです。

山本:特にこの5年くらいは各々で活動することも増えて、その経験をNABOWAに持ち帰ってまた4人で音楽を作るという感じになっていて。だからそれぞれに「出会い」はあると思います。

景山:たしかに。僕の場合は、この5~6年で韻シストのTAKUさんにギターを教えてもらうようになったのが大きいですね。これまで僕はギタリストとしてブラックミュージックを通ってなかったんですけど、韻シストのライブを観てヒップホップをバンドサウンドに取り入れる際のギターアプローチにやられてしまって。そこから連絡を取ってギターを教えてもらうようになったんです。

それまでギターはずっと独学でしたけど、教えてもらうことで初めて知ったルールもあって、ちゃんと勉強と練習せなあかんなと。音楽に対する考えも自分のなかで変わりましたね。

―TAKUさんが弾くギターのすごさはどんなところにあるのでしょうか?

景山:ループのフレーズを弾いていても、しっかりグルーヴを作っていたり、そのなかにメロウなコードを差し込んでくるところですかね。グルーヴって人を惑わせる曖昧な言葉だと思いますけど、TAKUさんに「グルーヴってどうやったら出せるんですか?」と聞いたら「グルーヴって言っても人によって解釈がいろいろいあるから、とても一言では言えんけど、ひとつあるのはポケットみたいに入るポイントがあるからそこをめがけて音を置いてあげるっていうような感覚はあるかな」って言われて。「なんじゃそれ~!」と思ったんですけど、またいろんな音楽を聴いて試行錯誤して相談しに行ったら、間違えている部分をロジカルに解説してくれるので自分のギターのアプローチが広がりました。

あとは川谷絵音さん(indigo la End、ゲスの極み乙女。など)との出会いも大きいです。自分のソロをTHE BED ROOM TAPE名義でやりはじめたときに、川谷さんがTwitterでアルバムのことを書いてくれて。

同じメンバーで15年もやっていると、「この曲は嫌がられるやろな」というのもわかるんですよ。(堀川)

―THE BED ROOM TAPEの“命の火”(2015年)でゲストボーカルに迎えたり、インストバンドichikoroで活動をともにしたりと、川谷さんの存在は景山さんのソロ活動に大きな影響があるのかなと。

景山:そうですね。ゲスの極み乙女。のレコーディングにも参加させてもらいましたしね。(2016年発表の『両成敗』収録曲“id 1”に参加)。今までNABOWAのレコーディングしか知らなかったので、自分とは全然違うレコーディングの現場に立ち会えたことも大きいです。

THE BED ROOM TAPE『YARN』(2015年)収録曲

ichikoro“James?”を聴く(Apple Musicはこちら

―山本さんはいかがでしょうか?

山本:自分の場合、この4人の関わりのなかで変化していった感覚があります。ソロでは自分を突き詰めるアプローチでNABOWAとは全く別物なんですけど、最近は場所と音楽の関係について考えるような試みをやっていて。ある場所にBGMをつけるというテーマから1日に7時間くらい延々とアンビエントのライブをやってみたり、ソロはそういう個人的な興味を探求する意味合いが大きくて。

逆にNABOWAは、自分と好みの違う人たちが集まっているから一番自分を変えてくれる場所でもあるんです。音楽を介して相手の好みや嗜好を受け入れて、ひとつにまとめていくなかで自分もちょっとずつ変わっていく。そうやってアルバムごとに客観的に変化を捉えられるのが楽しいんです。

―なるほど。川上さんはいかがでしょうか?

川上:僕はここ3年ほど、Polarisのサポートドラムをやらせてもらっているのが大きいですね。彼らの音楽はかなり特殊で、ドラムのどこを気にしているかというと音を出すタイミングと音の長さで。オオヤ(ユウスケ)さんと柏原(譲)さんに見えている、あるべき音楽の姿に細かく応えていくことをなによりも求められるんですよ。

この同世代の4人だけでやっていたときはそこまで考えていなくて、特に最初のうちは若かったし、どうしても自分のプレイにフォーカスしがちで。でもいろんな経験を通じて、「ドラムをこうしたい」ではなく「バンドとしてこういう音を出したい」という考え方になれたし、出したい音のイメージも明確になったと思います。特に今はPolarisをやらせてもらって、ずっとお客さんが聴いていられるような心地いい演奏のポイントを学んだと思います。

―最後に堀川さんお願いします。

堀川(Ba):自分は4人のなかで他の人とやる活動は一番少なくて、(川上)優くんと2人でやっているWONDER HEADZというユニットだったり、ハンマーダルシマー奏者のyuichi FUJISAWAさんと一緒にやっていたり、jizueの井上くんともユニット(Benjamin Disco Sketch)を組んでいます。でも、どの活動でも自分が曲を作ることが多いので、その人たちの意見を聞くことがあまりないんです。

川上:NABOWAの曲の土台作りも多くは彼が占めているので。

堀川:とはいえ、バンドが変わって関わる人や使う楽器が変わると、メロディーの作り方は変わるんですよね。だから影響とか変化というわけではないですが、自分のなかでこういうメロディーの使い方があるんだと気づくことはあります。あと、同じメンバーで15年もやっていると、「この曲は嫌がられるやろな」というのもわかるんですよ。でも違う人とやったときには喜んでもらえたりするから、そうすると気持ちがアガりますね。

NABOWA

今回の作品は、「わかりやすさ」や「ポップさ」を犠牲にしてしまったところがあるかもと感じていて。(山本)

―みなさんそれぞれにアウトプットが増えたことによって、やりやすくなった部分があるんですね。

川上:NABOWAは各々が作る曲の寄せ集めではなく、この4人でひとつの音楽を作ることを目的にしていますから。それはしんどいですけど、正直に言っていかないとダメなんですよね。

山本:4人とも明確に好みがあるし、みんなそれぞれの好みもわかっている。そういう関係のなかで曲を作るのはすごく大変なんですよ。だから音を鳴らしている時間よりも、相談している時間がどんどん長くなっています。今回の『DUSK』の制作にもすごく時間かかったのはそういう理由もあって。

川上:スタジオに入っているのに1時間半喋っているだけってことも今回多かったね。

景山:でもその時間は無駄ではないんですよね。一番大事。

山本:今まで共通言語がなさ過ぎて、感覚で音を合わせるしかなかったんですけど、NABOWA以外のいろんな経験を経て、ピンポイントですり合わせができるようになったんだとも言えると思います。

―今までNABOWAはここのフレーズが気持ちいいとか、この曲はバイオリンが印象的……というようなフックの部分で気持ちが高揚することが多かったんですけど、今回の作品『DUSK』は、アルバム全体で描き出す風景が鮮やかで4人の演奏のまとまりで聴かせる作品だと思いました。

山本:おっしゃるとおりだと思います。もっと前からそういう音楽をやりたくて、ようやく、この4人の音にたどり着けた感触がある。一方で今回の作品は、「わかりやすさ」や「ポップさ」を犠牲にしてしまったところがあるかもと感じていて。もちろん、ライブを観てくれたら気に入ってくれるものを作れた自信はありますけど、歌モノをメインに聴いているような人が一聴して夢中になれるようなキャッチーなフックは『DUSK』にはないのかもしれないなと。

―そういったポップさを犠牲にしてまで、『DUSK』でやろうとしたことはどういうことなのでしょうか?

川上:表現として、「誰にも媚びない」ということでしょうか。今までは、いわゆる「ポップスの作り方」も意識してしまっていたんです。でも、インストで歌モノ的な曲作りばかりやっていくとパターン化してしまうんです。J-POPの曲をシンセでメロディーなぞったスーパーで流れているような音。ああいうBGMのようになってしまう危険性もある。そこから逸脱しようというのが今回のテーマでした。Aメロ、Bメロ、サビを2回繰り返して……という作り方を排除して自由になりたかったんです。

山本:でも、J-POP的な要素を薄めるようなやり方もしたくなかったんですよ。あえて複雑なリズムにしたり、転調したりってことはインストバンドがよくやる手法ですし。シンプルに聴こえるんだけど、今までにある音楽から逸脱しているようなことをしたかったんです。だからめっちゃ時間かかっちゃいました。

川上:初めて当初のスケジュールをばらしたもんね。

山本:本当は去年出す予定で。これまでの作品は締め切りを全部守ってきたけど、今回は仕方なかった。

川上:(堀川)達と(景山)奏が作ってくれた曲の土台はあったから予定どおり出そうと思えば出せたんですけど、今までの作り方と同じになってしまうところが引っかかったんです。今回はこだわり抜かなければいけないテーマだったから、スタッフも理解してくれたんだと思う。アルバム全体で見ても満足度の高い作品になりました。

お客さんがどう思うかよりも、自分たちが自信をもってやれることのほうが大事。(川上)

―ここ数作はゲストボーカルを迎えた曲も収録されていましたが、今回は久々に全曲インストとなった作品ですね。

景山:“PARK ON MARS”のアルバムバージョンでは畠山美由紀さんに声を入れていただいたんですけど、そこ以外はインストですね。

山本:実は今回もボーカルを迎えた曲を作ろうとしていたんですよ。でも、スケジュールの都合で入れられなかったんです。ただ、そこはやはり縁でしかないので。収録されなかった曲のなかに、あとあとになって韻シストのサッコンさんとかNAGAN SERVERくんに参加してもらったものがあって、それはライブでは何回かやっているのですがまた別の機会に発表できたらと考えています。結果論ですけど、今回のアルバムのテーマとしてもインストだけでよかったかもしれないですね。

堀川:ボーカル曲を入れたくてアルバムを作っているわけではないからね。

山本:ボーカルが入る曲はやっぱりアルバムのなかでも映えるんですよ。その力に今まですごく助けてもらったし、歌モノを作ることは勉強にもなる。メロディーラインをバイオリンで弾くと単調になってしまうものも、歌だと成立させてしまえる強さがあるので。『DUO』(2011年)のようなボーカルアルバムも今のモードで作ったら違うものができ上がると思うし、今後挑戦したいですね。

NABOWA『DUO』を聴く(Apple Musicはこちら

―歌モノが入らないことでより「J-POPからの逸脱」というテーマが明確になっていると感じました。逆に参考にした音楽などはありますか?

川上:曲によってそれぞれリファレンスが違いますね。“SAYONARA INAGO”はルース・ヨンカーの隙間があるような感じだし。

景山:“UMA”はQuanticだったよね。

川上:“PARK ON MARS”は西海岸のジャズですね。

山本:これは仮タイトル、“マットソン”でした。

堀川:そうやった! 完全にThe Mattson 2です。

川上:それでマスタリングも西海岸の人にお願いしたしね。

―ダディ・ケヴさんですね。カマシ・ワシントン、Flying Lotus、Thundercatなども手がけられているビートメイカー / エンジニアですが、どのようなサウンドを期待してお願いしたのでしょうか。

川上:カルロス・ニーニョからの流れですかね。

山本:カルロス・ニーニョには2014年の10周年のときにリミックスアルバム(『Nabowa Meets Carlos Niño & Friends』)を作ってもらって。

川上:音のスケールも大きいし、広大な土地で音楽を鳴らしている彼がやってくれたら、日本の環境で作られた緻密なこのアルバムを全体的に包み込んでくれるようなサウンドに仕上げてくれる気がしたんです。

NABOWA『DUSK』を聴く(Apple Musicはこちら

―アルバムを聴いていても、本日のお話を伺っていても、15周年の節目にあたって、しっかり今までのキャリアの集大成となる音楽ができているんだなという感じがします。

川上:たしかに今回は、この4人で表現できるものを凝縮できた感覚があります。これまでは完成してもすぐ、「次はなにをするかな?」と考えていたんですけど、いい意味で今は達成感がある。まずは12月まで続く15周年のツアーで『DUSK』に集中して、そのなかでNABOWAの次にやることは見えてくるんだろうなという感じがしています。

景山:今回、『DUSK』はトレンドを全く取り入れてないし、こうやったら聴いてもらえるんじゃないかというフックや装飾の部分を取っ払った作品だから、少し地味なアルバムだと思っていたんです。でも自分たちの技術とやりたいことがようやく近づいたと実感しているし、今日のライブでもお客さんにしっかり伝わるということがわかった。

NABOWA

山本:今まで、自分たちのやることに裏づけがなさ過ぎたんですよね。「自分たちはかっこいいと思うけど、今の時代のトレンドとは違うだろうし大丈夫かな?」っていうような不安を抱えながらやってきた。それはたぶん、僕らが路上ライブからはじまっていて、時代性なんて意識してなかったからなんですけど「こういう音楽がしたい」っていう具体的なビジョンはなかったし、インストだから伝えたいメッセージがあるわけでもなかったんですよね。

でもお客さんがどう思うかよりも、自分たちが自信を持ってやれることのほうが大事だって15年経ってようやく気づいたというか。だから今、ポップさを省いても自信を持ってかっこいいって言える作品を作れたんだと思います。

NABOWA
イベント情報
『Park Live』

2019年5月12日(日)
会場:Ginza Sony Park 地下4階

ライブハウスともクラブとも一味違う、音楽と触れ合う新たな場となる"Park Live"。音楽との偶発的な出会いを演出します。
開催日:毎週 金曜日20:00 - 、不定期

リリース情報
NABOWA
『DUSK』(CD)

2019年4月24日(水)発売
価格:2,700円(税込)
DDCB-12109

1. DUSK
2. NINETY EIGHT
3. PARK ON MARS
4. ALINEA
5. UMA
6. JOE
7. TE
8. SAYONARA INAGO
9. MADANIS
10. DAYBREAK

プロフィール
NABOWA (なぼわ)

京都を拠点に活動している4人組インストゥルメンタル・バンド。2019年4月に発売した『DUSK』を含め、現在までに6枚のアルバムをリリース。国内外大型フェスへの出演や、近年は、台湾3都市ツアー、香港ワンマンを行うなどライブアクトとしてアジアでも高い評価を獲得している。



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