学生時代からの同級生であるラッパーのTossとボーカリストのRyoによるユニット、sankara。彼らの1st EP『BUD』が、6月5日にリリースされた。
同時代性に富んだグルーヴ感を帯び、洗練されたトラックに、日本語と英語がナチュラルに共存するラップのバースとフックの歌メロが乗る彼らの音楽性。それは自然体の音楽表現に立ち返ったからこそ、体現できているものだという。
では、なぜ彼らはそれまで自然体でいられなかったのか。紆余曲折を経て、ここにたどり着いた道のりを2人に聞いた。
先輩に「なんかやれ」って言われて、そのタイミングで初めて2人で音楽を始めたんです。(Toss)
―まずは2人の出会いからお伺いしたいのですが、学生時代からの友人なんですよね?
Toss:高校の同級生ですね。幼少期にお互い海外にいまして。高校が「英語を話せれば受かるっしょ」みたいな学校だったんです(笑)。その高校で同じクラスになって仲よくなりました。
―それぞれどこの国にいたんですか?
Ryo:僕はハワイです。4歳から12歳までいました。
Toss:僕はロンドンですね。小1から小5まで。
―それぞれハワイとロンドンの土壌から得たものってなにか自覚してますか?
Ryo:僕は容姿を見てもらえばわかるという感じで(笑)。性格的にもユルいしフレンドリーだなと思いますね。
Toss:僕はやっぱり英語ですね。帰国してからは、イギリス訛りの英語からどんどんアメリカ訛りになっちゃって。発音がミックスされてるから、たまに友達から「気持ち悪い」って言われるんですよ。
Ryo:それで言ったらハワイの英語の発音もだいぶ壊れてるからね(笑)。
―リスナーとしてのルーツは?
Ryo:バラバラなんですけど、高校時代に共有した音楽が一緒だったのが大きいですね。英語の強い学校だったので、ハーフや外国人の同級生がいっぱいいて。昼休みは校内放送で海外のヒップホップやR&Bが普通にかかってました。
Toss:世代的にはトランスが流行ってたんですけど、周りはヒップホップを聴いてたりダンスをやってる子が多かったですね。
―同級生とイベントを打ったり?
Toss:それこそ初めてやったライブが、学校の先輩が渋谷で打ったイベントで。先輩に「なんかやれ」って言われて、そのタイミングで初めて2人で音楽を始めたんです。
―初ライブではなにをやったんですか?
Toss:DJの友だちがいて、BUDDHA BRANDの“ブッダの休日”のビートをループさせてそこにオリジナルのラップとメロを乗せるという(笑)。
―大元のスタイルで言えば、今とそんなに遠くない感じですよね。
Toss:本当にそうなんですよ。そのときにやっていた延長線上に今のスタイルがあって。結果的にですけど、今の音楽シーンの流れも含めて原点に戻っていいじゃんって思えるようになった。あと、もともとこの2人はチルっぽい曲が共通して好きで。
―BUDDHA BRANDでも“人間発電所”ではないという(笑)。
Ryo:そうそう(笑)。
―この作品を聴くと、ビートにもラップにもオンタイムな音楽からのリファレンスを随所に感じるんですけど。ラップのフロウで言えばFla$hBackSとソロになってからのKID FRESINOくんであったり。
Toss:Fla$hBackSはリアルタイムでは知らなくて。確かにKID FRESINOくんは自然に英語を使ってるなと思って注目するようになったんですけど、直接的な影響はないんですよね。でも、人に言われることは多いです。KID FRESINOくんを好きなリスナーに僕らの音楽を聴いてみてほしいなとも思いますし。
―最初に影響を受けたラッパーはいないんですか?
Toss:初めてライブをしたイベントに誘ってくれた先輩がラッパーでした。有名ではないんですけど、大きなきっかけをくれた人ですね。
僕は先にラップすることを覚えて、あとでヒップホップの文化を覚えたんですね。それこそDJの友だちに「ラップ入門」みたいな本をポンと渡されて「韻ってなんだ?」ってところから始まったんです。
その前はバンドをやりたくて高校のときにこいつ(Ryo)と黒人の同級生と一緒にバンドを組んだこともあるんです。でも、すぐに「これは違うな」となって。
Ryo:速攻で終わりましたね(笑)。
自然に曲を作れないということは、そもそも音楽をやっている動機として不純だなって。それってアウトだな、と思った。(Ryo)
―ヒップホップシーンの横の繋がりはないんですか?
Ryo:あんまりないよね。
Toss:むしろ今からシーンと繋がりたいと思っていて。ヒップホップシーンにいる人たちに僕らの曲を聴いてもらってどう感じてもらえるかを知りたい。そういうワクワク感を覚えてます。「こいつら誰やねん!」って思われたいですね。
―Ryoさんもいないですか? 歌唱面で影響を受けたボーカリストは。
Ryo:僕も気づいたら歌っていたという始まり方だったので。リスナーとしても、海外のヒップホップやR&Bと同時進行でJ-POPも聴いていました。なので、誰かみたいになりたいとか、誰かを目標にするという視点で歌を始めなかったんですよね。
曲単位でこの人のこういうところがカッコいいと思うポイントはいっぱいあるんですけど。結局はこれが自然体のスタイルなんだと思います。紆余曲折あったので、今自然体で歌えてることがなによりもうれしいんですよね。
Toss:そう。「自然体のスタイルで大丈夫かな?」と思っていたら、人から「今っぽいね」って言われることが多くて。それは素直によかったなと思ってます。
―どういう紆余曲折があったか訊いていいですか?
Toss:この人(Ryo)と20代前半のときからやっていたんですけど、当時はサーフ寄りの音楽が流行っていて。大人の言われるがままに、そういう音楽を作っていた時期があったんですよね。
Ryo:海感を出してみたりね。
Toss:でも、僕らはもともとそういうスタイルを自然体でやっていたわけではないから、やりたいこととやっていることのズレがどんどん生じてきた。それで、本当に自分たちがやりたい、心からカッコいいと思える音楽を作ろうというところに立ち返ったんです。
たまたま周りの友だちに良質なトラックを作れるやつらがいて。その点ではすごく恵まれているんですよね。それもあって自分たちで1からトラックを作ることは諦めたんですけど。
それで、前身のライブをやっている間に曲を作り溜めていって、2か月くらいで4、5曲作ったんです。そこからsankaraとしてライブもできるようにして、「どうも初めまして」って急に新しいユニットとしてライブをやり始めるという。それは悪ふざけのようでいて、僕らとしては重要なマインドチェンジだったんです。
Toss:sankaraとして動き始めてから最初はライブばかりしてましたね。現場限定でCDを配ったり。友だちに映像を作ってもらってそこに曲を付けたり。そうやって原点回帰を体感していったんです。
前の活動でいろんなことをやりすぎて、器用貧乏で微妙な感じになってしまっていて。なにをやりたいのか、どんどんわからなくなってしまった。それで、「一本筋を通したいね」って2人で話してsankaraとして始動したんです。
Ryo:お互い空気で感じてましたね。「ああ、もう無理だな」って。
Toss:このままだと音楽をやめてしまうなって。
Ryo:自然に曲を作れないということは、そもそも音楽をやっている動機として不純だなって。それってアウトだな、と思ったんですよね。
―前身の活動が嫌になったら、別の人と組んで新しい活動を始めるという選択肢もあったと思うんですよ。
Ryo:確かに(笑)。
Toss:ちょっと気持ち悪いですよね(笑)。
―いや、気持ち悪くはないんですけど(笑)、それほど2人が互いのセンスや才能を確信しているということなのかなと。
Ryo:僕は好きですよ。
Toss:(笑)。
Ryo:本当に日本一のラッパーだと思ってますから。
Toss:それは僕も一緒ですね。彼の声がすごく好きで。でも、そもそもは友だちから始まった関係なので。それが大きいかもしれない。友だち同士で始まってから「おまえの声いいね」って思えたのが大きいですね。そんなことは恥ずかしいから普段は直接言わないですけど(笑)。
Ryo:あんまり褒め合わないですね。基本的に「これくらいは飛び越えてくるでしょ」って勝手にハードルを上げてるところもあって。
Toss:お互い「どうだ!」って思いながら曲を作ってるところがありますね。いい曲ができても「イエー!」って盛り上がるようなことはないです(笑)。
Ryo:握手とかもしないしね(笑)。
―コンビ芸人みたいですね。
Toss:ああ、確かにこの関係は芸人さんっぽいかもしれない。僕らの音楽を応援してくれる共通の友だちもたくさんいるから「俺たちはまだ楽しく音楽をやってるぜ」ってその人たちにアピールして、微笑ましく思ってもらえたらいいなって。そのためにもいろんな人に自分たちの曲を聴いてもらって、自分たちの存在を認識してもらいたいんです。
『BUD』をリリースしてやっとスタートラインに立てると思ってる。(Ryo)
―sankaraの音楽の真ん中にある譲れないものはなんですか?
Ryo:結局、それも自然体で音楽を作るということになると思います。
Toss:前は歌詞の内容も誰に向けてなにを歌っているのか、自分たちでもわからないような状態だったので。でも、『BUD』では思いっきり自分たちのことしか歌ってない。
―まさにそういう感じですよね。トラックは洗練されているんだけど、リリックは生々しい。
Toss:音楽を作っている自分たちの姿をそのままにリリックにしているというか。自分の中でヒップホップはそういう音楽表現だと思っているので。その自然体の姿に今っぽい時代性を感じてもらえたらこんなにうれしいことはないですね。
―2人はトラックを作らないということですけど、トラックメイカーや映像作家も含めて仲間とクルーのように動きたいという願望もあるんですか?
Toss:クルー願望はないですけど、それぞれがそれぞれの立場で最高のものを作って、いろんな人たちを刺激する要因になればいいなとは思います。トラックに関して言えば、ゆくゆくは僕らが好きなトラックメイカーやプロデューサーと一緒にやりたいという気持ちもありますけどね。
でも、今は僕らの周りの仲間で作り上げることを大事にしたいです。そうやってファミリーと上がっていくことも、自分たちのヒップホップマインドとして大事にしたいし。
―歌詞の生々しさで言えば、『BUD』の1曲目“Slipping”から理想と現実が一致してない葛藤をラップしてますよね。
Toss:そうですね。紆余曲折があって今の自分たちがいて。今はスッキリした状態で音楽を作れてるんですけど、ここからもっといろんな人に知ってもらいたいという欲望がこの2人にはあるので。現状に満足してないし、するつもりもないという反骨心も含めてリリックにしてますね。プラス、しっかりアートとして昇華したいという気持ちがあります。
―ほとんどの曲においてバースの陰影にRyoさんのフックで光を挿し込んでますよね。RyoさんのフックがTossさんのラップを救出しているというか。その構造がゴスペルっぽいなとも思って。
Ryo:うれしいです。基本的に僕もネガティブなところがあるんですよ。だからこそ、彼がリリックで書いてることも理解できるし、僕は彼のラップに対して愛を表現してあげられたらなと思って歌詞を書いてるし、歌ってます。最終的に僕がフックで「こういうことだよ」って言ってあげるみたいな。
今回は全曲、彼にまずラップを書いてもらって、そのアンサーとして僕がフックを書いているので。その影響もあると思います。
Toss:だからバースはマイナスな要素が多い(笑)。でも、3曲目の“State of Mind”だけはちょっと違いますね。
―確かにあの曲はヒップホップ然としたストリートの青春描写というか。
Toss:そうなんです。あの曲のリリックは映画『DO THE RIGHT THING』(スパイク・リー監督、1989年公開)のオマージュでもあるんですよ。
―ああ、なるほどね!
Toss:僕らの原点である高校生のときの記憶と『DO THE RIGHT THING』を重ねて。学校でヒップホップカルチャーのカッコいいものを友だちと共有するみたいな。
―それはそれで自然体で生々しい記憶でもあるしね。sankaraの音楽をアーバンなポップミュージックとして受け止めるリスナーが多いと思いますけど、リリックでそこにいびつさを与えている。それが重要なポイントだと思います。
Toss:曲を聴き流してもいいと思うんだけど、自分たちの音楽を好きになってどんどん曲の内容を掘ってもらえたら引っかかるポイントがいっぱいあると思っていて。
それはリリックにおける英語のあり方にも言えることですね。たとえばミュージックビデオの字幕も純粋な和訳じゃなくて意訳を載っけてるんです。その意訳こそが僕らの本心だよと伝えたいところがあって。
―ここからリスナーと濃密に曲を共有するためにどんなことが必要だと思いますか?
Toss:ライブだと思いますね。
Ryo:感覚的にはまだスタートラインに立っている実感はなくて。『BUD』をリリースしてやっとスタートラインに立てると思ってるんですね。
好きになってもらう確率から、愛してもらう確率を高めていくにはライブが鍵になると思います。バンドにも勝てるようなDJスタイルを構築して、映像を上手く融合させることも大事だと思う。
Toss:6月21日の大阪と6月25日に東京であるリリースパーティーでその片鱗を見せられたらと思ってます。
sankara『BUD』を聴く(Apple Musicはこちら)
- アプリ情報
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- 『Eggs』
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料金:無料
- リリース情報
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- sankara
『BUD』 -
2019年6月5日(水)発売
価格:1,728円
rr-002a,b1.Slipping
2. Move
3. State of Mind
4.Rebirth
5.Trip
6.My life(Disco Remix)
- sankara
- イベント情報
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- 『Opus Inn & sankara W Release Party』
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2019年6月21日(金)
会場:大阪府 CONPASS
出演:
Opus Inn
sankara2019年6月25日(火)
会場:東京都 WALL&WALL
出演:
Opus Inn
sankara
ゲスト:
BlueVintage
AAAMYYY
ermhoi
Ando Kohei
and more
- プロフィール
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- sankara (さんから)
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ラッパーのTossとボーカルのRyoからなるグループ。二人とも幼き日を海外で過ごし、本場のヒップホップやR&Bに触れて育つ。その豊かな音楽経験によって培われたセンスを活かした、アーバンでスムースなトラックと、英語と日本が溶け合うような歌詞やメロディー。まさに“sankara節”と言えるオリジナリティは、生活にそっと寄り添う優しい肌触りや、パーティーを彩る華やかさ、今を前向きに強く生きられるアンセム性など、さまざまな魅力を持っている。新しい世代の感覚を以て、聴く者のシチュエーションとともに育つという、ポップソングの持つ普遍性を更新するパフォーマンスは必聴必見だ。
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