「ナンセンス」とはポップにおいて誉め言葉である。田辺太郎亮介曰く「Oasisもなにも言ってない」とのことであり、かつて「ジョン・レノンの魅力は?」と問われたグリフ・リース(Super Furry Animals)も、「ダジャレ、あとはナンセンスな韻を踏むところ」と答えている。意味のない言葉は、意味を飛び越え伝播する。
北海道出身の大学生によるスリーピース、zo-sun parkの魅力はまさしくそれだ。UKロックと歌謡曲を掛け合わせ、語感とメロのよさを追及したキャッチーな歌を、西海岸の気分で歌う。彼らの音楽を聴いていると、なんだかいろんなことがどーでもよくなってくるのだ。聴き手に飢餓感を与える全8曲21分というスピード感も含め、1stアルバム『MAL FROM』は「もっと聴きたい」と癖になるポップソングである。果たして彼らは、曲者なのか切れ者なのか。2019年の『ワン!チャン!!』オーディションでグランプリを獲得し、晴れて初の全国流通盤をリリースしたバンドの素顔を覗いた。
もっと日本の音楽にも多様性があればいいのになって思うんです。(田辺)
―人生で最ものめり込んだ音楽はなんですか?
キクリン(Ba,Cho):ハイスタ(Hi-STANDARD)ですね。元々ギターをやっていて、ハイスタはほとんど弾けるくらいコピーしまくりました。精神性がかっこよくてハマりましたね。
ヤマセ(Dr,Cho):僕が音楽をちゃんと聴くようになったのは中学2年生くらいからで、OKAMOTO'Sを好きになりました。あと、幼少期から親がずっと家でTHE BEATLESをかけていて、中学生になってから聴きなおしたらすごくいいなと思って。洋楽ではTHE BEATLESが好きです。
―田辺さんは?
田辺(Vo,Gt):僕が高校生のときに一番のめり込んだのはandymoriとThe Libertinesです。
―The Libertinesは、zo-sun parkの音楽に直結していますね。
田辺:最初はわからなかったんですよ。The Libertinesの1st(『Up The Bracket』)を聴いても、音圧もないし、なにをやっているのかさっぱりわからないなって。なのに、なんでかクセになってくるんですよね。“Time For Heroes”とか、まじでイカしてるなあって思うようになりました。
The Libertines“Time For Heroes”を聴く(Apple Musicはこちら)
―資料には「飽和が目立つ若者の音楽シーンに新しい風を吹かせる」と書かれていますね。これがこのバンドの原動力なんじゃないかと思ったんですが、どういうときに飽和を感じて、その中でどういう音楽をやりたいと思ってますか。
田辺:僕は元々ドラムをやっていて、高校生の頃から軽音部でバンドをやっていたんですけど、周りはギターロックばっかりで。その「右に倣え」みたいな感じには違和感があったというか。ドラムをやめたタイミングで、僕ももっと好きなことをやりたいと思うようになって。
もっと日本の音楽にも多様性があればいいのになって思うんです。みんな同じようなジャンルの音楽をやっているけど、世の中にはいろんなジャンルがあるじゃないですか。もっといろんな音楽がヒットすればいいと思うんですよね。
面白いCMソングが好き。冷静に聴いたらイカれてるじゃないですか?(田辺)
―ここまでポップな音楽性を追求したいと思ったのはなぜですか?
田辺:なぜポップなのかっていう理由はいくつかあって。まず、僕は人間としてめちゃくちゃポップなんですよ。とにかく面白いものが好き。東京03さんが好きでライブも観に行ったり、面白いCMソングも好きですね。
―たとえば?
田辺:雑誌『幼稚園』(小学館)のCMで流れる「『幼稚園』の〇月号は小学館」っていう曲とか、みんな当たり前に聴いているからなにも思ってないですけど、冷静に聴いたらイカれてるじゃないですか? のっけから「フレーーーー!!!」みたいな。
―狂気ですよね。
田辺:そういうものもすごく好きで、自分の音楽にもイカれたポップさを取り入れようとしているんだと思います。
zo-sun park“サイダー”を聴く(Apple Musicはこちら)
―なるほど。
田辺:あと、僕は暗いことが歌えないんですよね。ノエル・ギャラガーも「暗い曲を歌っている人もいるけど、明るいことを歌うのが一番いいぜ」って言ってるんですけど。で、もうひとつ、僕は曲を作るとき、本当は英語で歌詞を書きたいんです。
―普段聴くものが海外の音楽だから?
田辺:そう。でも、英語を喋れないので、なんとか日本語で洋楽感を出したいんです。そこでウルフルズさんみたいな英語っぽい日本語に憧れたときに、語感ってめちゃくちゃ大事だなと思って。たとえば“ランドセル小学生”とか、語感を大事にして作っていった結果、ポップなワードしか出なかったんです。
昔のものに憧れがある。札幌は歴史が浅い街だから。(ヤマセ)
―海外の音楽にシンパシーを感じるのはなぜ?
田辺:僕はUSもUKもその他のヨーロッパも全部好きなんですけど、USだったらオルタナティブも好きだし、西海岸のSublimeとかThe Beach Boysも好きで。最近だったらTwin Peaksを聴いています。単純に、かっこいいですよね。
―かっこいいものに憧れる?
田辺:うん、そうだよね?
キクリン:僕もそうですね。自分もそうなりたいっていう欲が強い。
田辺:向こうの音楽はファッションもかっこいいじゃないですか。Twin Peaksのライブ映像見たことあります? てろてろのダサい革ジャンを着て、昔のヤバいサングラスをして、ハットをぶら下げていて、マジでイカれてるなって思います。ああいうの見ると、「おお!」ってなりますね(笑)。
―ただ、一方で作品からは歌謡曲のエッセンスも感じます。
田辺:そうですね。吉田拓郎さんや泉谷しげるさんは聴いていました。あと、はっぴいえんどやサニーデイ・サービスも好きで、ネバヤン(never young beach)が出てきたときには、すごくオシャレだなって思いました。「歌謡曲と西海岸じゃん」って。
―歌謡曲に惹かれる理由は?
田辺:「お前」って言うところがいいですよね。「お前と俺は」って歌うのがオシャレだなって思います。あと、僕、昔のものが好きなんですよね。
―というのは?
ヤマセ:札幌は歴史が浅い街だからね。
田辺:そう。やたら雪でやられるので、建物も新しい物が多くて。
ヤマセ:だから、憧れみたいなものかもしれないです。僕の小学校に樹齢1300年の樹があったんですけど、小学生の僕には信じられなくて。自分たちが生まれてないときからあるものって、不思議だなと思います。
―The LibertinesもandymoriもThe Beatlesも解散しているわけですが、古いものをアップデートして、自分なりの形で発表したい願望がありますか?
田辺:ああ、そうですね。それこそ英語みたいな日本語で歌うってことをandymoriもやっていたと思うんですけど。昔のものをもっと身近に感じられるようなものを作りたいなと思います。
「断捨離音楽」って感じです。(田辺)
―『MAL FROM』は、まず尺が短いところがかっこいいなと思いました。一番長いものでも3分9秒、この短さはなにを意識してのことですか?
zo-sun park『MAL FROM』を聴く(Apple Musicはこちら)
田辺:僕、飽き性なんです。普段音楽を聴いているときも、1番が終わったら次の曲に行ったりするんですよね。不完全なものがすごく好きだし、スリーピースっていう制約がある以上、2番でガラッと変えるのは蛇足だなって思っちゃう。それなら物足りないくらいで終わった方がいいかなという思想があって。「断捨離音楽」って感じです。
―断捨離されている分、随所に出てくるコーラスはすごく印象的ですね。
田辺:そうですね。そもそもは僕の歌がすごく下手で、どうにかしてごまかすためにコーラスをつけたんですけど。
―(笑)。
田辺:The Beach BoysとかTHE BEATLESとか、やっぱりいいバンドはコーラスがいいし、CMソングっぽさを出したくてコーラスを入れているところもあります。
―なんでそんなにCMソングが好きなんですか?
田辺:なんででしょうね? やっぱり耳に残るからですかね。僕、もはや勝手にCMソングを作って歌っちゃうんですよ。
キクリン:そう、この人本当におかしいんですよ。
田辺:こないだもキクリンめっちゃブチ切れそうになってました(笑)。
キクリン:ずーっと歌ってるし、しかもキャッチー過ぎてイライラするんすよ。
田辺:俺はいつからこんなになっちゃったんだろうね?
キクリン:出会った日からおかしかったです。初めてLINEを送ってきたときの1文目が、ここでは言えないような内容で。俺、この人苦手だなと思いました。
―(笑)。
田辺:ネットでイキってる人だと思ったんだよね?
キクリン:うん。
田辺:(笑)。今は古着が好きなんですけど、高校の頃は金髪で革ジャンを着て、ジョージコックスを履いていましたね。
バンドは楽しいからやってるだけだよね。(キクリン)
―キャッチーな楽曲はもちろん、歌詞に意味を持たせないところが秀逸だと思います。
田辺:Oasisもなにも言ってないですからね。僕の曲も同じことですね。なにも考えずに聴いてくれたらなと思います。
―他のメンバーもそういう音楽が好きですか?
ヤマセ:そうですね。洋楽も歌詞がわからないまま聴いていますけど、わからないことのよさがあるんですよね。ゆらゆら帝国の歌詞も、「ソレ」とか「アレ」とかなんのことを言っているかわからないけど、雰囲気でなんとなく崇拝しちゃうというか。わからないまま、すごい人なんだなって思わせる感じが好きですね。
田辺:ミステリアスだよね。“空洞です”とか本当にすごい。作りたいです。
ゆらゆら帝国“空洞です”を聴く(Apple Musicはこちら)
―音楽性もそうですが、斜に構えているひねくれたメンタリティがありますよね。
田辺:そうなんです。なんでだろう? 俺はひどいよね?
ヤマセ:うん。
―(笑)。でも、世の中を斜めから見ていて、なおかつこういう音楽をやるっていうのは、メッセージ性ばかりが重視される日本の音楽シーンへのカウンターにも思えます。
田辺:ああ、そうですね。僕、あんまり歌詞に共感することってないんです。映画に感動して泣くことは1年に1回くらいあるんですけど、普段音楽を聴いて泣いたりしないんですよね。
キクリン:僕もあんまりないな。
田辺:とにかく毎日ずーっとお酒を飲んでいるので、泥酔してキクリンと熱いことを言い合ったりはするんですけど(笑)。曲の中でそれをやっちゃうと寒いなって思っちゃう。
キクリン:バンドは楽しいからやってるだけだよね。
田辺:うん。僕たち「だけ」聴いてとは言わないんで、僕たち「も」聴いてって感じですね。だからBGMでもいいんですよね。外で酒飲んだりアイス食べながら聴いていただければなと思います。
なんのために生きているかって言われたら、楽しく暇潰ししたいから。(田辺)
―バンドとして目指しているところはあるんですか?
田辺:正直なことを言うと、このバンドを結成したときはただふざけて曲を作ってたんですよ。肩肘張って音楽をやるのは嫌だと思って、“自転車のチューブを見せて”っていう曲を遊びで作ってたら、キクリンがすごくいいからみんなに聴かせたらいいじゃんって言ってきて。
―それでヤマセさんを誘って結成?
田辺:そう。それからいっぱいライブにも誘われるようになって、変なミュージックビデオを作ったら「いい感じだね」って言われて、「オーディション出ない?」って言われて出たらグランプリをいただいて……さっぱり状況がわかってないんですよ。
―ただ、今日話していて明らかですけど、田辺さんは音楽、お笑い、映画など、カルチャー全般に興味を持っている方ですよね。
田辺:そうですね。映画館でバイトをしていたくらい、映画も好きです。名作と言われるものは死ぬまでに見ておきたいですね。だから別に、音楽だけがめちゃくちゃ好きっていうわけではなく、もし国に「お前はもう音楽をやるな」って言われたらずっと映画を見ているし、もしかしたら自分で映画を撮るかもしれない。なんでも好きなんです。
―じゃあそれも禁止されたら芸人を目指すかもしれないと。
田辺:そうなんですよ。てか、本当は芸人になりたかったんです。コントをやりたくて演劇部に入ったんですけど、あまりにも暗い人が多かったので、これは俺には無理だなと思って。軽音部に行ったら明るそうな人がいっぱいいて、そこから音楽の道に傾倒していきました。
―カルチャーや娯楽全般に惹かれるのはなんでだと思いますか?
田辺:ないとつまらなくないですか? なんのために生きているかって言われたら、楽しく暇潰ししたいからというか。1回きりの人生なので、いっぱい楽しんだ方がいいですよね。ちょっとよく生きる、みたいな。ヤマセはどう?
ヤマセ:僕は服も5着あればいいし、ご飯もコンビニで食えればいいです。
田辺:……ロマンチックなこと言うね。
―(笑)。
田辺:zo-sun parkはロマンチックバンドです。
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料金:無料
- リリース情報
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- zo-sun park
『MAL FROM』(CD) -
2019年11月20日(水)発売
価格:1,980円(税込)
品番:EGGS-0431. 恋のキューピッド
2. サイダー
3. アンビリーバボーデイズ
4. TOKERU
5. パラソル
6. shy boy
7. オーライ
8. さよならバラ色の人生
- zo-sun park
- プロフィール
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- zo-sun park (ぞーさんぱーく)
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2018年初頭、田辺太郎亮介(Vo,Gt)、キクリン(Ba,Cho)、ヤマセ・ハン(Dr,Cho)により札幌にて結成。オールドスクールともニューウェーブとも捉えられるポップソングが若い女の子とおじさんにウケている。フロントマン田辺は無類のUKロック好きであり、キクリンは魚類の刺し身が好きである。ヤマセは風貌と年齢の不一致により女性にモテない。結構な頻度で「楽曲が良い」「人気が出そう」等と評されるが全くもって実感がわかないため、本人たちは憤りを覚えている。
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