2019年の「ネオ東京」を舞台にした『AKIRA』のコラージュ作品で覆われた仮囲いが取り払われ、2019年11月、ついにその姿があらわになった新生・渋谷PARCO。およそ3年の空白期間を経て、大きく変わりゆく渋谷の新たなランドマークとしてリニューアルオープンした渋谷PARCOに、かつて近未来として描かれた2019年を現実に生きる人々はどのようなものを求めるのだろうか。
この連載企画「新生・渋谷PARCOで紡ぐ、3人のお買い物ドキュメンタリー」では、制限時間2時間、予算10万円というルールのもと、3名のゲストが渋谷PARCOでのお買い物に挑む。前回のコムアイに続き(参考記事:コムアイが渋谷PARCOでお買い物。買うことは未来を見ること)今回お買い物に挑んだのは、モデル・女優の菊池亜希子。
お買い物を愛するからこそ、消費することの責任と誠実に向き合おうとする彼女は、時代の気分と欲望を先導するファッションビルで、どのようなものを買い求めるのか。生まれ変わった渋谷PARCOを巡りながら、菊池亜希子のお買い物に対する真摯な姿勢と、変わりゆく渋谷へ向ける眼差しを追った。
新しくなった渋谷PARCOを訪れたのは初めてだという菊池亜希子。まずはB1Fの「CHAOS KITCHEN」フロアへ。個性豊かな飲食店や、渋谷スペイン坂から移転したGALLERY Xなどが並ぶなか、お目当てのショップへ向かう。
ユニオンレコード 渋谷
はじめに訪れたのは、ユニオンレコード 渋谷。店内に入ると慣れた手つきで棚から1枚ずつレコードを取り出し、目的の品を探し始める。
「レコードが増えすぎて減らそうと頑張っているところなんですけど、好きなアーティストだけは揃えようと思っていて」。
ということで、自宅になかったという、キャロル・キング『喜びは悲しみの後に』と、ジェイムス・テイラー『Mud Slide Slim and the Blue Horizon』を、試聴ののちに購入。
H.P.DECO アート感のある暮らし
1Fへ上がり、H.P.DECO アート感のある暮らしへ。以前から気になっていたという猫の顔が型押しされたレザーのお財布をチェックしつつ、ここでは読者プレゼントとして、パリの陶器ブランド、ASTIER de VILLATTEの小皿を購入。
菊池:友達にもASTIER de VILLATTEを好きな子が多いので、プレゼントにしたらきっと喜んでもらえるだろうなと思って。
私の家には動物の置物やキャラクターものが多くて、来た人からはよく「いろんなものと目が合う」って言われるんです。思わず話しかけたくなってしまうようなアイテムが好きで、何もないところにも、つい目玉のシールを貼りたくなっちゃったりするくらい(笑)。そこまでいくと、人によってはトゥーマッチだと思うけど、ASTIER de VILLATTEならほどよいバランスだから、大人っぽいインテリアの家にも馴染むと思います。小さいピアスや指輪を置いておくのにちょうど良いはず。
THE LITTLE BAR OF FLOWERS
続いて訪れたのは、夜は不定期でワインショップになる花屋、THE LITTLE BAR OF FLOWERS。普段は友人の家へ行くときに手土産として小さなブーケを持参することが多いそうだが、今回は自身の結婚記念日が近いとのことで、「グリーン系の濃くないアースカラーの色味で」とお店の方にイメージを伝えて自宅用にブーケを作ってもらうことに。
PUEBCO
3F「CORNER OF TOKYO STREET」フロアに移動し、三宿にオフィスとショップを構えるインテリアブランドの直営店PUEBCOに入店。ここでは、陶器のケースに入ったトイレブラシ、淡い色味のカモフラージュ柄ティッシュケース、プラスチックでできたアンティーク調の黒いデコレーショントレイと、生活に密着したアイテムを購入。
菊池:インテリアは甘くないテイストの方が好きなので、PUEBCOのオンラインショップはよくチェックしています。今日はすごく生活感のあるお買い物になりましたね(笑)。
BerBerJin
老舗ヴィンテージショップ、BerBerJin。「PARCOにヴィンテージショップがあるのって新鮮ですよね」。原宿の店舗には、キャラクターもののTシャツを探しによく訪れるとのこと。この日もラックにかかっているTシャツから棚に平置きされたスウェットまで、くまなくチェック。
BEST PACKING STORE
旅をコンセプトに掲げ、パッキングに関連したアイテムから、アパレルやグッズが並ぶ、BEST PACKING STORE。ベルリン在住のデザイナーが手がけるMAISON EUREKAの白いタートルネックニットと、以前から心惹かれていたという、PB 0110のフクロウの写真がプリントされたバッグが気になるも、他のお目当ての店もチェックするため、残金を考慮し、一旦保留。
Meets by NADiff
「初めて知るブランドのお店がたくさんあるなあ」と興味深げに周囲を見渡しながら、4F「FASHION APARTMENT」フロアへ。フレッシュなクリエイターのプロダクトを取り扱うMeets by NADiffでは、自宅にドローイングが飾ってあるというKen Kagamiのバッジに目移りしつつも、入店してすぐ手に取っていたアーティストユニット、magmaのグラフィックステッカーを2種類お買い上げ。
菊池:ちょっと意地悪な顔がうちの猫にすごく似ていて、つい気になっちゃいました(笑)。ステッカーは普段からつい買いがちなんです。ノートやパソコンに貼ろうと思います。
PENGUIN SOUVENIR
任天堂のオフィシャルショップ、Nintendo TOKYOや、ポケモンセンターシブヤなど、アニメやゲームに関連したショップが軒を連ねる、6F「CYBERSPACE SHIBUYA」フロアへ移り、「ペンギンが旅先で蒐集してきたお土産もの」という一風変わったコンセプトの雑貨店、PENGUIN SOUVENIRに。
「自分の家の棚にすごく似てる」と話しながら、壁一面にずらりと並ぶ動物の置物や民芸品などを一つひとつ手に取る。「海外の蚤の市みたいな品揃えですよね。定期的に来たら面白いものに出会えそう」。
移動中、エスカレーター横のスペースで行われていたVR体験にも目移り。「家に欲しいんですよね。あれ(VRゴーグル)でライブの映像を見るとすごいらしいです……」と、アイドル好きな彼女らしいコメントをしつつ、再び、3FのBEST PACKING STOREに戻ってきた。先ほど迷ったニットを試着し、バッグと共に購入を決定。
Santa Maria Novella
2Fの「MODE & ART」フロアで、普段からポプリやオーデコロンを使っているという、Santa Maria Novella(サンタ・マリア・ノヴェッラ)に。レモンハンドクリームや、アーモンドソープ、リップクリームなどの香りを確かめながら、「ちょうど化粧水がなくなっていたんです」ということで、穏やかな薔薇の香りがするローズウォーターを買うことに。
ほぼ日カルチャん
再び4Fに戻って訪れた「ほぼ日刊イトイ新聞」によるほぼ日カルチャんには、「東京の文化案内所」をテーマに、都内で開催中の美術展や映画、演劇などに関連したアイテムが並ぶ。
「すごく美味しいんですよ!」と力を込めて語るカレー用スパイス「カレーの恩返し」や、ドラえもんの手ぬぐい、谷川俊太郎と長新太が手がけた絵本『めのまどあけろ』などをチェックしつつ、ミナペルホネンの手ぬぐいとマスキングテープを購入。
(渋谷の街が変わっていくことは)切ない気持ちはあります。でもそれを切ないと言ってしまうのは、自分のエゴかなとも思うんです。
お買い物の最中から「最後に、絶対はまの屋パーラーへ行きたいんです……!」と呟いていた彼女。B1Fの「CHAOS KITCHEN」フロアへ戻り、有楽町で創業53年を迎える老舗の喫茶店でインタビューを行った。
―全部で11のショップをおよそ2時間で回ってきました。
菊池:限られた予算でお買い物をする企画ってよくテレビで見かけるので、一度やってみたかったんですけど、意外と難しかったですね。かなりテンポよく回れた方だとは思うんですけど。
―ひとつの店舗でお買い物にかけた時間は大体5分から10分と、制限時間内できれいに時間配分されていたと思います。菊地さんはお買い物の決断が早くて、驚きました。
菊池:実はこの取材のために、すでに渋谷PARCOへ行った友達に話を聞いたりして、事前に結構リサーチしたんです(笑)。
今日は中学生くらいの頃に、お年玉を握りしめてお買い物をしていた感覚を思い出しましたね。当時はお買い物に行くと、ファッションビルのなかのお店を何度も往復して、限られた予算内でいかに良いものを買うか、すごく工夫していました。途中で友達と喫茶店に行ってご飯を食べながら、欲しいものを書き出したメモ帳を見て、「これを買ったらこっちの服が買えないけどどう思う? もう一度さっきのお店に戻ろう!」みたいな話し合いをいつもしていて。だから今日も、最後にはまの屋パーラーさんに来ようって決めていたんです。
―リニューアル後の渋谷PARCOに来られたのは今日が初めてということでしたが、いかがでしたか?
菊池:まだすべてをしっかりと見て回れたわけじゃないですけど、お花屋さんや、インテリアや日用品を買えるお店など、ファッション以外のお店も充実しているのが、私の世代にはすごくちょうど良いラインナップだなと思いました。
昔は渋谷PARCOには洋服を買いに行くために通っていましたけど、自分の年齢が上がってきた分、興味の対象が洋服だけじゃなくなってきていて。今の自分が欲しいと思うものの感覚にフィットしているお店が入っていて楽しかったです。
―今回のお買い物でも、雑貨やカルチャーに寄り添ったお店を中心に周りましたね。
菊池:ほぼ日カルチャんや、Meets by NADiff、今回は見られなかった任天堂のお店(Nintendo TOKYO)みたいに、ただお買い物するだけじゃなく、カルチャーを発信する場になっている感度の高いスポットがたくさんありましたね。お店を見るだけで、今注目されているものがわかる感じがします。ヴィンテージショップやレコード屋さんが入っているのも新鮮でした。
建て替え工事中は、公園通りの雰囲気が変わってしまったら悲しいなと思っていたんですけど、良い意味でアップデートされつつ、昔の思い出のなかの風景と大きな隔たりもなくて。そこは安心しましたね。あとは地下の占いコーナーも! リニューアル前から地下にありましたよね。
―公園通りの話が出ましたが、菊池さんにとって渋谷はどんな街ですか?
菊池:上京してすぐの頃、渋谷にモデル事務所の寮があって、何か月間かそこに住んでいたことがあるんです。ちょっと外に出ようとすると、すぐに渋谷の喧騒のなかなんだけど、部屋自体は高いビルの上の方の階にあったから、なんだか自分だけ隔離されているみたいで。まだ16歳くらいの私にとって、すごく不思議な環境でした。
―10代で上京して最初に住む街が渋谷というのは刺激的だったんじゃないでしょうか。
菊池:当時はちょっと怖かったですね。渋谷に住んでいたものの、当時の私にとって渋谷はあまり居心地の良い街ではなかったんです。だけど、PARCOは地元の岐阜にもあったし、ZUCCaやTSUMORI CHISATOみたいに、10代の頃に憧れていたブランドが入っていたこともあって、渋谷PARCOにはいつも逃げ込みに行っていました。
あと、当時から渋谷PARCOにはVIA BUS STOPが入っていて、なかなか見かけないインポートブランドのアイテムとか、スタンダードじゃないものが手に入ったんです。セール以外ではめったに買えないんだけど、見ているだけですごく刺激的でした。
―渋谷をアウェイに感じていた当時の菊池さんにとって、PARCOは安らげる場でもありつつ、新鮮な出会いもある場所だったんですね。
菊池:あの頃は、渋谷駅からPARCOに行くために、センター街を通ることが本当に心細くて。緊張しながら歩いていた当時の自分の気持ちをすごくよく覚えています。
今はセンター街を歩いて緊張することもないし、渋谷は友達と会ったり仕事の打ち合わせをすることが多い街で、気がついたら地元より東京にいる期間の方が長くなっているんですよね。
菊池:あとは渋谷って徒歩で行ける範囲内で全然違うものが見られるのが面白いですよね。地元が岐阜なので、名古屋にはよく遊びに行っていたんですけど、名古屋って道が平坦で、街がグリッド状になっているんです。でも渋谷は坂が多くて道が整理されていなくて、血管みたいに縦横無尽な感じ。
―公園通りの雰囲気は渋谷PARCOのリニューアル後もあまり隔たりがなかったとおっしゃられていましたが、その頃とは渋谷全体の街並みはがらりと変わったと思います。
菊池:当時とあまり変わらない風景もたくさんあるし、道は同じだったりするけど、駅前とかは、本当にすっかり雰囲気が変わりましたよね。
―菊池さんは、古くから続く喫茶店がお好きだったり、その場所ごとの固有の魅力を大切にされていると思うのですが、大きく変貌しつつある渋谷についてはどう思いますか?
菊池:やっぱり、ちょっと切ない気持ちはあります。以前の宮下公園から見る渋谷の風景とか好きでしたし。でもそれを切ないと言ってしまうのは、自分のエゴなのかな、とも思うんです。住んでいる人も代謝していくし、時代に合わせて街が変化していくのは当然のことだから。
私は昔ながらの喫茶店や古い街並みが好きだから、そういう場所を残して欲しいと思ったりするけど、そこでリアルに暮らしている人たちにとっては、そのままの形であることが必ずしも便利じゃなかったりもするし。なかなか答えが出ない問題ですけどね。
―たとえば、このはまの屋パーラーさんは、もともと有楽町で1966年から続く喫茶店ですが、2011年に一度閉店したそうです。そこから、現在のオーナーがメニューなどを受け継いで再びオープンして、こうして渋谷PARCOにも店舗ができている。時代と共に無理のない形で継続していくひとつのあり方かもしれません。
菊池:確かに喫茶店ってマスターが続けられなくなった後に、そのまま居抜きで若い人がお店を始めたりすることがありますよね。そういうときに店名が変わったりすると、残念に感じる気持ちもないわけじゃないけど、簡単にそういうことを言っちゃいけないなと。どんな形であっても、続けてくれる人がいることがありがたいと思います。
お買い物をするときもアイドルを応援する気持ちに近い部分があって。
―お買い物への思いについても伺いたいです。菊池さんは以前に編集長をされている『マッシュ』(小学館)の「わがままなお買い物」特集号で、「大好き!賛成!の清き一票を投じるつもりで一生懸命お買い物をするのだ」と書かれていましたね。
菊池:おこがましい言い方ですけど、お買い物って、その作り手のもの作りに賛同するかどうか、お金を使って意思表示とサポートをする行為だと思うんですよね。だから、何年後かにまた買いたいなと思えるブランドや、ずっと続いて欲しいと思えるお店で買いたいんです。知らないブランドの場合は、買う前に背景を調べたり、詳しい人に聞いたりもします。
―今日のお買い物でも、気になったお洋服のブランドについて、スタイリストさんに尋ねられていましたね。
菊池:普段から1人でお買い物に行っても、友達に連絡して相談したりしますね。背中を押して欲しい気持ちもあって。
私はアイドルが好きなんですけど、すごく好きなアイドルグループが解散しちゃったりすると、自分の力不足だったんじゃないかと思うんです。全然支えられていなかったし、貢献できていなかった、もっと私に何かできたかもしれないって。図々しいかもしれないですけど。だからお買い物をするときもアイドルを応援する気持ちに近い部分があって。本当に好きなものに継続してもらうために、お買い物をすることで、微々たる力ながら支えになれたら良いなっていつも思っているんです。
―買う人がいなければどんなに素敵なものであっても継続することに無理が出てしまうし、消費する側ってともすると受け身な立場になってしまいますけど、菊池さんがおっしゃられていたように意思表示でもあって、買うことにも責任はつきまといますよね。
菊池:たとえばお洋服も、安く作られた今っぽいものをシーズンごとに使い捨て的にどんどん買うのも、手っ取り早くはあるのかもしれないですけど、その行動によって、けして安くはなくても丁寧に生産しているブランドが追いやられるようなことがあったらすごく切ないなと思ってしまうんです。洋服との付き合い方はもちろん人それぞれだし、見ている方向が違うだけで、大量生産のブランドが真摯じゃないというわけではないと思うんですけど。
だからお買い物をするときは、価格相応であるかということも絶対にチェックします。デザイン性や素材に対して、価格が見合っていると思うものを買いたいから。安すぎるものは、きっとどこかにしわ寄せがいっているはずですよね。
―お買い物が好きだからこそ、いびつじゃないお買い物をしたいと真剣に考えられているんですね。
菊池:お買い物が好きな分、その責任をちゃんと感じたいと思っています。それに、家のなかの空間って限られているじゃないですか。自分が好きで買ったもののせいで生活空間が圧迫されてストレスを感じるのは意味がないと思うから、厳選したくて。
とりあえずの気持ちで買ったものって、結局捨ててしまうことも多いんですよね。でも、ものを捨てるのって、すごく心が痛い。だから、ずっと持っていたいと思えるものや、自分のスタイルが変わったとしても、友達や家族に回していけるようなものを私は買いたいんです。
- 店舗情報
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- 渋谷PARCO
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東京都渋谷区宇田川町15-1
営業時間:10:00~21:00 ※一部店舗異なります
- キャンペーン情報
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- 読者プレゼント情報
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自分らしく生きる女性を祝福するライフ&カルチャーコミュニティ「She is」のMembersの中から抽選で1名様に、菊池亜希子が選んだASTIER de VILLATTEの小皿をプレゼント。
- プロフィール
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- 菊池亜希子 (きくち あきこ)
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1982年岐阜県生まれ。女優・モデル。モデルとしてデビュー後、映画やドラマ、舞台など女優としても活躍の幅を広げる一方、著者としても活躍。現在、新刊「おなかのおと」(文藝春秋)が好評発売中。また、パーソナリティを務めるTBSラジオ「Be Style」(毎週土曜朝5:30~6:00)放送中。
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