次世代のアーティストやクリエイターを支援するクマ財団。多彩な顔ぶれが揃っている3期奨学生の中に1人、一際目立った存在が確認できる。
電子工作ギャルユニット「ギャル電」のメンバー、まお。LEDを組み込んだアクセサリーやグッズなどを使って、日々「ギャルによるギャルのためのテクノロジー」を提案する活動を続けているギャル歴12年のJDI(女子大学院生)だ。
某日、東京某所。まおが訪ねたのは、編集者、ジャーナリスト、写真家として独自の活動を続けてきた都築響一のオフィス。世界の奇祭、ラブホテル、普通の人が住むアパートなど、おおっぴらに知られることのなかった文化や人々の生態を伝えてきた都築は、「ギャル+電子工作」という革新的なMIXをどのように受け取るのだろうか? 大量の本や工芸品などで埋め尽くされた空間で、まおの「テンアゲ」なプレゼンが始まった。
欲しいものがあるなら、自分なりのやり方で作ったらいい。(まお)
―今日は対談に入る前にギャル電まおさんから都築さんにプレゼンがあるとのことで、よろしくお願いします。
まお:はい、ギャル電のまおでーす。そもそも、ギャル電とは? 「ギャルも電子工作する時代」をスローガンに、ギャルによるギャルのためのテクノロジーを提案していくユニットなんですね。ドンキでArduino(アルドゥイーノ)が買える世の中を夢見てます。
Arduinoっていうのは電子工作するときに使うマイクロコンピューター(マイコン)で、秋葉原に行かないと売ってないんです。そういうのが渋谷のドンキでも普通に売られるようになったらめっちゃいいな、と。
メンバーは、ギャル歴12年のJDI(女子大学院生)であるまおのほかに、今日はいない相方のきょうこ。元ポールダンサーで、電子工作はストリートで学びました!
都築:ストリートで学べるの? どこで(笑)。
まお:100均で売ってるLEDの光り物を買ってきて、分解したり。
都築:なるほど、素晴らしい。
まお:いまは2020年で、『AKIRA』の時代設定を過ぎているのに、テクノロジーはぜんぜん追いついてないですよね。ギャル電は、そこに危機感を持ってる。未来が近づいて来ないなら、先行してうちらが電子工作をギャルたちに流行らせて、未来を迎えに行こうと思ってます。
私はもともとタイで生まれ育ったんですけど、ギャルカルチャーが大好きで日本に留学したんですよ。外から見たギャルカルチャーって、パラパラにしてもユーロビートにしても、実はめちゃ深い。
いっぽうで、いま電子工作のDIYテクノロジーも超イケてて、インドには誰でも電飾ピカピカのデコトラを作っちゃうようなブームもあります。
つまり「ギャル+テクノロジー」っていうのは、激激盛り盛り超イケてるんですよ。
都築:そうそう。アジアは独特な改造文化がありますよね。
まお:ギャル電には、ギャルのバイブスでテクノロジーを民主化したいっていう夢もあります。電子工作の教則本を読んでいると、肝心なところで「難しかったら、恋人や友だちやお父さんに作ってもらっちゃおう」とか書いてあるんですよ。マジか、と。
欲しいものがあるなら、誰かにやってもらうんじゃなくて、自分のやり方で作ったらいい。ギャルみたいに、かっこいいアイラインが引きたいって思ったら、ポスカで描けばいいんですよ。電飾だって、つなげばだいたい光ります!
……みたいなことで、野良Wi-Fiをセンシングして帯域をキャッチすると電波強度に合わせてビカビカ光るサンバイザーとか、ルーズソックスの伸び縮みで音が鳴るシンセサイザー、踊って発電するパリピもサステナブルなルーズソックス発電機とか、いろいろ作っています。テクノロジーメガ盛りマックス、電子工作マジ卍! ギャルに電子工作が流行ったらシンギュラリティは近い! 以上、ギャル電の活動紹介でした。
都築:ありがとうございました。えー、僕は何をすればいいのかな(笑)。
―いまのプレゼンの印象などから、ぜひ。
都築:タイに住んでらっしゃったとのことですが、バンコクですか?
まお:プーケットです。大学院を卒業したら、とりあえずタイでギャル電の普及計画をやっていこうと思ってます。アジアって、中国もインドネシアもインドも、派手派手デコカルチャーがすごい。だから相性いいと思うんです。
都築:それは、絶対にいいですね。中国にも、改造バイクみたいな不良文化が来ているよね。
テクノロジーって、貧乏人の味方として登場するものなんだよね。(都築)
都築:テクノロジーに関して僕自身の経験を話すと、編集者の仕事を始めたばかりの頃はかなりアナログな手作業の世界で。原稿用紙に手書きで記事を書いて印刷屋さんに渡して、写植をしてもらっていました。
まお:しゃしょく……?
都築:ほぼ滅んだ技術だからわからないよね。いまみたいにパソコンでレイアウトを作れるような時代じゃなかったから。
都築:その後、30代になった頃にいちばん最初のMacが登場した。ちっちゃいフロッピーを何枚も差し替えながら使うような代物だけど、それでも「新しい時代が来た!」という感じで。安上がりで便利に作業できるようになったのが、現場としてはとてもありがたかった。
ところが、偉い大学の先生とか批評家は「パソコンを使って新しい思考を広げることにこそ意味があるのに、『安い』とか『楽になる』で終わるとはけしからん」なんて言うわけ。それに対して、僕は「うるせえ! お前らは月給もらって研究室でごちゃごちゃ言ってればいいけど、こっちは少しでも安く作って本を1ページでも増やせるかどうかが問題なんだよ!」って怒ってたの(笑)。
まお:わかります。
都築:そのときに気づいたんだけど、やっぱりテクノロジーって貧乏人の味方として登場するものなんだよね。たとえばデジタルカメラもそう。写真評論家は「やっぱりフィルムじゃないと」なんて言うけれど、より安価にいい写真が撮れるならデジカメでまったく問題ない。実際、京都にはホームレスのデジカメ写真家もいたし。
そういうふうに新しい技術っていうのは、もちろん最初の一時期だけかもしれないけど、「持たざる者の武器」だなって気がずっとしてるんですよね。だから、ギャルが電子工作というのも面白い。ギャルって、世の中的には底辺の存在みたいに思われてるところがあるじゃない。
まお:悔しいですけど、そうですね。実際に貧乏な人も多いです。半田ごてを使うギャルはまだまだ少ないですけど、身の回りのものが壊れたら普通に自分で修繕して使い続けるのがギャルですからね。
ギャル電がまさに思っているのは、欲しいものは自分たちで作らないといけないってことです。お金を稼いでGUCCIのバッグを買うのもいいけど、自分の手を動かさないと得られないものも確実にあって。安い材料を組み合わせてオリジナルなものを作るのって、素晴らしいと思うんです。
格差から生まれるイノベーションって、あるなと思うんですよ。(まお)
都築:「手を動かす」っていうのは貧乏人の特権なんだよね。僕は1940~60年代のソビエトのレコードを収集していた時期があるんだけど、当時のソビエトはもろに社会主義国家で、聴いていい音楽とダメな音楽がはっきりあった。クラシックはよくて、もちろんロックはだめ。もしも裏からロックのレコードを手に入れて聴いたりしたら、収容所送りになっちゃうような厳しい環境です。
でもさ、当然ヨーロッパの他の国から、情報は漏れ伝わってくるわけじゃない。エルヴィス・プレスリーとかビートルズ(The Beatles)とか。そして、それを聴いた人は他の誰かにも聴かせたい、そして踊りたい、と思っちゃうんだよ。そこで作られたのが、使用済みのレントゲンフィルムを材料にした複製レコード。フィルムを丸くカットして、真ん中にタバコで穴を開けて作るんだけど、盤面に人骨の写真が写ってるんだよ。
まお:すっごいドープ! かっこいい。
都築:で、それを市場の隅っことかに隠れて売っていたわけ。頭蓋骨や肋骨柄のレコードは、いまの感覚からするとまるでアートに思えるけど、そうじゃないんだよね。やむを得ずのサバイバルのために作ったものが、結果としてたまたまかっこよいものになっただけ。つまり、本質的な欲求こそが大事なんです。
まお:ギャルもそうです。コギャルはお金がないから「ジュリアナ東京」には行けないし、化粧も満足にできない。それで、自分たちなりに肌を黒く塗ってみたりしたところから、ギャルカルチャーは始まってるんです。
都築:でも、実際にはジュリアナ東京って、お金のない大衆向けのディスコだったんですよ。六本木にあった「マハラジャ」や「キング&クイーン」は格が高くて、入場時にもバウンサーがドレスチェックをしてた。いっぽうジュリアナは庶民の出会いの場だった。
―自分は1980年生まれですけど、その違いは知りませんでした。
まお:いま見るとすっごいゴージャスな雰囲気なのに。
都築:いやいや、全然。入場料も高くなかったし、ご飯も食べ放題だし、深夜12時には閉店だしね。あそこで踊ってたのはほとんどが、会社勤めのOLやサラリーマン。会社で夕方まで働いて、最寄りの駅のトイレで着替えて遊びに行ってた。男はみんなスーツ姿だったんだよ。
まお:へー!
都築:高い衣装を買うお金もないから、ボディコンも自分で作ったり工夫してね。水着を素材にしたり、鎖や装飾を加えたりしたのも、いわばDIYなんです。そういうファッションをバカにするやつは当時も大勢いた。「パンツなんか見せてけしからん!」とか言ってさ。
でも、いまになってみると、自分たちで工夫して作るっていう姿勢も含めてかっこいいじゃない。そういうふうに、本当に面白いものって、社会一般の価値観として「下」とされるものから出てくるものだと思います。
まお:格差があるから生まれるイノベーションがあるな、って思うんですよ。相方のきょうこは私よりも年上で、昔のストリートとかクラブのカルチャーについてたくさん教えてくれるんですけど、いまのクラブみたいに、同じ空間にオタクもいればパリピもいて、何もかも無理やりフラットに扱おうとする世界では、突然変異的なものは現れない気がするんです。
昔は、差異があるからこそ生まれるプライドや意地の張り合い、そしてそのなかで全力でパーティーを楽しむというマインドがあった。私はいま、その熱量を取り戻したくて手を動かしているし、それは新しい楽しさにもつながると思うんです。
バカにされてたものが、一周回ってめちゃくちゃなオリジナリティーを獲得してるのが熱い。(都築)
都築:日本のディスコミュージックのメジャーといえばユーロビートだけど、ずっとダサいものだと思われ続けてきました。僕が『スナック芸術丸』という番組をやってる『DOMMUNE』の宇川(直宏)さんに「ユーロビート特集やろうよ」と言ったときも、「リスナーが怒らないかなあ……」って難色を示してた。実際にやってみたら、なんと「ユーロビート」がYahoo!検索の1位になっちゃったんだけど(笑)。
ユーロビートって、ヨーロッパで流行っていたのは1980年代くらいまで。そのあとはイタリアのスタジオミュージシャンたちが、日本のエイベックスから依頼を受けて、イギリス人風の偽名を名乗って作っていたんだよ。
そこから日本人向けの独自のユーロビートができあがって、ディスコから世の中を席巻して、エイベックスの『SUPER EUROBEAT』シリーズって、いまや250作を超えてるんです。エイベックスの原点であり大看板として、ずっと続けてきたの。
まお:すげえ!
都築:いわゆるオシャレさんたちからずっとバカにされてたものが、一周回ってめちゃくちゃなオリジナリティーを獲得してるのが熱いよね。
まお:私にとってのギャルもそれです。ギャル電を始めた2016年頃ってギャルは死滅してましたけど、いまは一周回って1990年代のギャルを参照した潮流が表れている。しかも昔のギャル界隈ではダサいと思われていたファッションブランドも抵抗なくミックスして、かっこよさが2周、3周してます。
都築:いまの渋谷は新しい商業ビルがどんどんできて、なんだか高級な、取り澄ました顔をしてるけど、本当はもっとノイズのある街だったでしょう。ギャル電には、渋谷をめちゃくちゃにしてほしい。
まお:ストリートを取り乱していきたいですね! 「取り乱す」だと自分が狂ってるってことだけど(笑)。女の子も男の子もみんな、ギャルのマインドを持つようになってほしいです。
―つまり、自分に必要なものは自分で作り出すというマインド。
まお:そう! ないなら作ればいい!
よく「メディアアートの人なんですよね?」って言われるんですけど、そのたびに「違います!」って。(まお)
都築:ギャル電みたいに自由な活動をしてると、うるさいことを言ってくるおじさんとかいないですか?
まお:いますね。「もっとちゃんと告知しろ!」とか。それは当たり前だから反省してますけど(笑)。でも、単に足を引っ張るだけの声に対しては、聞いてるふりをしながらも耳を塞ぐのが大事だなって思います。
都築:絶対にそう。一切聞かないほうがいい。
まお:一切聞かないようにします!
都築:僕は、美大に入ってから絵が嫌いになってしまう学生をたくさん見てきました。そもそも、美術予備校では受験のために3,000年も前のおっさんの石膏像とか描かせますよね。それで苦労して美大に入ったら、今度は「作品のコンセプトを語れ」みたいな話になってくる。だけど本当は、先生たちに理解できないようなことこそ、新しい試みのはずでしょう。
まお:私は理工系の大学院生なので、周囲にアーティストとかは全然いなくて、そのぶん自由にふるまってますね。とはいえ、ギャル電みたいな活動はほとんど理解されていませんが(苦笑)。
大学院では教育工学を研究していて、どうすればストリートにハッカー文化を広められるかをテーマにしているんです。つまり実践指向なんですけど、学問界隈だと「それって大学院でやる意味ある?」って言われがちで。それも含めて勉強中です。最終的には不良やギャルに電子工作を流行らせたいので、ワークショップを開催したりしてます。
都築:どういう場所でやるんですか?
まお:東急ハンズとか、無人島でやる音楽フェスとか。
都築:旧車會(古いオートバイに暴走族的な改造を施して楽しむ団体。主に社会人で構成されている)とかに行ってみたらどう? あとデコトラの団体も年に1、2回集まってるよね。
まお:ああ、全国哥麿(うたまろ)会ですね、行ったことあります。デコトラの方が使っているLEDって12ボルトなんですけど、それを5ボルトに変換しようっていうプレゼンテーションをしたいと思ってます。5ボルトだと、電池やモバイルバッテリーで動くんです。12ボルトは自動車用のバッテリーだからバカでかい。
都築:なるほど、実践的だ(笑)。自転車を使ってデコチャリをやってる人とかもいるでしょう。12ボルトのバッテリーだと載せるだけでも大変で、重くて走れない。5ボルトに変換する技術がシェアされたら、デコトラ、デコチャリ界に技術革新を起こせますね。
―ギャルや電子工作など、他の人が通ってこなかった道を切り拓くのがクリエイティブの役割なんですかね。メジャーな国道の横に、迂回路を作るというか。
都築:いや、そんなことはないと思いますよ。アート界隈にいる人からすれば新鮮かもしれないけど、世の中の日常生活でデコトラを見る機会はいっぱいありますから。でもアート界やデザイン界は、似たタイプの人間ばっかりがまわりに集まるから、自分たちがマイノリティーだってことに気づかないんですよ。
ギャルの全盛期だって、ギャルそのものは少なかったかもしれないけど、彼女たちから始まったルーズソックスを履いてる女子高生が全国にどれだけいたと思いますか? 100万人じゃ収まらないでしょう。つまり、そっちのほうが王道なんですよ。現代美術こそがむしろ迂回してると僕は思いますね。
まお:ギャル電も「メディアアートの人なんですよね? どんな作品を作りたいですか?」ってよく言われるんですけど、そのたびに「そうじゃないです!」って言うんです。ギャル電は単に電子工作をしているだけで、それは特別な才能があるからやっているわけじゃない。むしろ、誰にでもできる楽しいことだからやっているんです。
都築:アイドルのライブで、ファンがサイリウムを振るじゃない? あそこから独自の表現が生まれることはあっても、それはあくまで「楽しいから」やっているんだよ。それを忘れちゃいけないし、「楽しい」って気持ちをバカにしちゃいけない。ギャル電も、ただ光り物が好きなギャルってことでしょう?
まお:そうですそうです! テクノロジーも、知識の有無でマウンティングしたりだとか、小さな界隈を作りやすい世界だと感じますけど、それをもっとマジョリティーに開いていきたい。べつに難しいことなんてないんだよ、って伝えていきたいんです。
都築:とりあえずは旧車會に行ってもらって(笑)。
まお:マイコン積んで行きます(笑)。
- サービス情報
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- クマ財団
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株式会社コロプラの代表取締役社長・馬場功淳が2016年に設立。若手クリエイターの活動を支援・助成することを目的とし、25歳以下の学生を対象としたクリエイター奨学金や、勉強会、交流会などの開催、作品発表の場の提供といった活動を展開しています。
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クマ財団は、コンテンツを自ら創作している者を「クリエイター」と定義し、広く募集しています。奨学金(月々10万円、年間120万円)の支給開始時から翌年3月の『KUMA EXHIBITION』まで、奨学生の創作活動を総合的にサポートします。
- プロフィール
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- 都築響一 (つづき きょういち)
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1956年、東京生まれ。1976年から1986年まで『POPEYE』『BRUTUS』誌で現代美術、建築、デザイン、都市生活などの記事を主に担当する。1989年から1992年にかけて、1980年代の世界の現代美術の動向を包括的に網羅した全102巻の現代美術全集『アート・ランダム』を刊行。以来、現代美術、建築、写真、デザインなどの分野での執筆活動、書籍編集を続けている。1993年、東京人のリアルな暮らしを捉えた『TOKYO STYLE』刊行。1996年発売の『ROADSIDE JAPAN』で『第23回 木村伊兵衛賞』受賞。現在も日本および世界のロードサイドを巡る取材を続行中である。
- ギャル電 (ぎゃるでん)
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現役女子大学院生ギャルのまおと元ポールダンサーのきょうこによる電子工作ユニット。「デコトラキャップ」「会いたくて震えちゃうデバイス」などギャルとパリピにモテるテクノロジーを生み出し続けている。夢はドンキでアルドゥイーノが買える未来がくること。
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