ましのみの人間的開花。世界と自分を閉ざしていた、呪いを破って

シンガーソングライター・ましのみが、ミニアルバム『つらなってODORIVA』を3月18日にリリースする。爪切男原作のドラマ『死にたい夜にかぎって』の主題歌“7”を含む本作は、去年、大学を卒業したましのみにとって、その音楽人生の第二章の幕開けを告げる記念碑的な作品といえるだろう。

これまではビジュアル面も含めた「ましのみ」というキャラクターを全面的に打ち出すような作風だったが、本作でましのみが試みているのは、1音1音の質感や、声の震えや揺ぎといった「ディティール」によって、作品にリアルを閉じ込めようとする、繊細で空間的な音楽表現。横山裕章(agehasprings)、sasakure.UK、パソコン音楽クラブといった編曲陣、さらにサポートドラムの諸石和馬(ex. Shiggy Jr.)の手も借りながら、ましのみは、その体温を、感情を、音楽に刻み、あなたに届けようとしている。

ましのみは「これまで、ほとんど音楽を聴いて育ってこなかった」と語るが、しかし彼女の耳は、街のざわめきや日常から溢れる生活音も「音楽」として捉えている。誰かのため息だって、彼女は「音楽」として捉えるかもしれない。教科書に載っている類の文脈ではない、ましのみ自身の人間としての「歴史」が、この音楽には込められている。だから、この『つらなってODORIVA』という作品には、空間と時間があり、温度がある。「この音楽は自分に向けて鳴っている」と、聴く人は感じるだろう。少なくとも、僕はそう感じた。

ましのみ
1997年2月12日生まれのシンガーソングライター。2016年3月、ヤマハグループが主催する日本最大規模の音楽コンテスト『Music Revolution 第10回東日本ファイナル』で約3000組の中からグランプリを獲得。2018年2月、大学在学中に『ぺっとぼとリテラシー』でメジャーデビュー。2020年3月18日、ドラマ『死にたい夜にかぎって』のオープニング主題歌“7”を収録したミニアルバム『つらなってODORIVA』をリリース。

世間を「怪物」と思っていた2年間。ポップな音楽を突き刺すように鳴らしていたワケ

―新作『つらなってODORIVA』のタイトル、なぜ表記は「踊り場」ではなく「ODORIVA」なんですか?

ましのみ:人に言うようなことじゃないんですけど、これは「GODIVA」みたいな見た目にしたかったんですよ。なんというか、ご褒美みたいにしてあげたくて(笑)。

―いい話です(笑)。今作を聴かせていただいて、独特な「ズレ」や「ゆらぎ」、「隙間」のようなものが、音楽として捉えられているように感じたんです。以前のましのみさんの音楽は、もっと輪郭がはっきりしたものだったと思うんですよ。

ましのみ:そうですね。今回は、隙間やゆらぎ、生活感や温かみを意識して、音楽を作りました。私は初の全国流通盤がメジャーデビュー作だったんですけど、それから去年出した2ndアルバム(『ぺっとぼとレセプション』)までの2年間くらいはずっと、世間を怪物として見ている感覚が自分のなかにあって。特に1stアルバムは。

「世間という怪物に対して、いかに突き刺すか?」ということを考えながら音楽を作っていたんです。なので、心地よさよりも「いかに耳につくか?」を考えたうえで言葉選びやサウンド作りをやってきたし、パッと耳につきやすい音であることを優先して考えていました。

ましのみ『ぺっとぼとリテラシー』(2018年)収録曲(Spotifyで聴く / Apple Musicで聴く

ましのみ:結果として、派手なものだったり、スクエアで隙間のない音楽になっていたと思うんですけど、それは、音楽を聴く人のことを度外視していたというか……それもそれで一つの美学だったのでいいと思ってるんですけど、私が世間に対して、すごく閉じていたんだと思うんです。

―怪物に喰われないように、攻めながら身を守っているような状態ですね。

ましのみ:歌詞を書くときにも、自分の内側のネガティブを掘っていくことが、いい歌詞を書くことにつながると思っていて。だから、人と会わないようにしたり、友達ともなるべく遊びに行かないようにしていたんです。

ましのみ『ぺっとぼとレセプション』(2019年)収録曲(Spotifyで聴く / Apple Musicで聴く

―当時のましのみさんは、なぜネガティブを掘ることが「世間に突き刺さる音楽」につながると思っていたのでしょうね?

ましのみ:そもそも私、昔から綺麗に作られすぎているものは好きじゃなくて、明るい歌を聴いても、疎外感を感じてしまう人間だったんです。なので、暗い音楽ばかり聴いていた時期もあったんですよ。でも、暗い気持ちで暗い音楽を聴くと、さらに暗い気持ちになって、そしてまた、暗い気持ちで暗い音楽を聴いて……って、負のループに落ちてしまうんですよね。

だからこそ私は、聴き手を負のループに落とさずに、聴き手の気持ちに寄り添って、すくいあげてくれるような音楽をずっと求めていて。「歌詞はネガティブだけど、明るくなれるような曲調の音楽がやりたい」って、インディーズの頃からずっと言っていたんです。

「幸せを感じちゃいけない」と思い込んでいた高校時代。ましのみの音楽の奥にある「疎外感」の正体

―ましのみさんのなかにある根本的な疎外感というのは、どういったところから生まれているのだと思いますか?

ましのみ:もともと、不安症なんです。音楽に対する気持ちも、3歳くらいの頃は「歌手になりたい!」って堂々と言えていたんですけど、物心ついてからは誰にも言えなくなっちゃったんですよね。「イタい子」扱いされたくないっていう気持ちが強かったし、普通のサラリーマン家庭で育ったので、音楽をやっている人たちを「外れ者」とする価値観のなかで生きてきたから。

ましのみ:高校生の頃は、頑張って勉強して、親に褒められるような道に進んで、バリキャリになろうと思っていたんです。

この間、高校の頃の友達に会ってびっくりしたんですけど、高校生の頃の私、「恋愛はしなくていいから結婚したい。子どもは老後のために欲しいけど、離婚してもいい。相手に頼らず、依存せずに生きることができるように稼ぎたい。だから、バリキャリになりたい」って言っていたらしいんですよ……この感じ、伝わりますかね?(笑)

―なんだか、「こう生きなきゃいけない」と、自分をカチコチに固めているというか……。自分で自分を呪ってしまっているような感じですよね。

ましのみ:昔から、囲って囲って、自分を守っていたんですよね。私、高校の個人面談のときに、「普通の幸せが欲しいんです!」って泣いていたらしくて(笑)。

―(笑)。

ましのみ:自分では全然覚えていなかったんですけど(笑)、そもそも、そういう性格なんですよね。その向上心ゆえに、幸せを感じちゃいけないとも思っていたし……だから、疎外感を感じやすかったんだろうなって思う。

そういえば、「不器用な超完璧主義」と言われたこともありました(笑)。「完璧にできるわけじゃないのに完璧主義だから、ずっと自分の首を絞め続けているよね」って。

ましのみ:そういう人間だから、世間を斜めに見て、それゆえに疎外感を感じて、テレビで流行っている歌を聴いて、「どうせみんな、綺麗な歌ばかり歌うんでしょ?」って、皮肉っぽく思っている……そんな過激派だったんです(笑)。

―それでも、大学に入って、音楽をはじめたわけですよね。そこで解放される瞬間もあったのでは?

ましのみ:むしろ、大学に入って一層、疎外感が強くなってしまった感じもあって。自分でも音楽をはじめたから、曲の歌詞をよく読むようになったんですよ。そうしたら、流行りの歌の歌詞を見ても、自分の生活とまったく一致しないというか、「そんなに綺麗な起承転結になるわけないよね?」とか、「そんなにハッピーエンドで終わるわけないよね?」って思っちゃう。

でも、そういうものが世間の中心にあることもわかっていたし……だから、皮肉的というか、悲観的な感情がずっとあったんだと思います。もちろん好きな歌はあって、大森靖子さんの“ノスタルジックJ-pop”とか、大好きでした。あと、クリープハイプやRADWIMPSも聴いていましたね。こういう音楽なら寄り添ってくれるなって。

ましのみの人間的開花。世界を閉ざしていた彼女が、音楽家として目覚める

―先ほど「歌詞はネガティブだけど、明るくなれるような曲調の音楽をやりたい」とおっしゃっていましたけど、新作『つらなってODORIVA』は、そういった作為を超えたところで、「存在」そのものを感じることができる作品だなと思っていて。とても大切な変化が今、ましのみさんのなかで起こっているのかなと思うのですが、どうでしょう?

ましのみ:まさに、そうだと思います。2ndアルバムを作り終わったタイミングで、これまでやってきたことに手応えを感じつつ、自分のこだわりの強さにも気づいたりして、なんとなく自分のセンスにも自信を持つことができるようになってきたんです。

そもそも、私、音楽をほとんど聴いて育ってこなかったんですね。とにかく、歌うこととか踊ること、それで人に喜んでもらうことが好きで音楽をやってきたから。そういう部分に由来している自分の感性を壊されるのが怖くて、音楽を聴いたり、勉強することも拒んできた部分もあって。でも私の感性は、誰かと喋ったりしても壊されることはないし、むしろ誰かと話すことによって、照らし出されることがあるかもしれないって、今は気づくことができているんです。

ましのみ:それに、いろんな音楽を聴いたうえで得ることのできる技術と、私自身の感性は、ちゃんと両立させられるものなんじゃないか……そんな気持ちも出てきました。そういう気持ちになれたのが2ndアルバムをリリースした直後で、そこからガラッと、自分のモードが変わっていったんです。

―それが、今作の作品性につながっている?

ましのみ:そうですね。心地いいんだけど面白い、生活感があるんだけど違和感がある……そういうものを作りたいっていう意識が、今の自分にはあります。

そのために今作では、今までよりも生音を活かしたり歌のキーを下げたり、ピアノをメインにしてみたり、初めて生ドラムを入れたり、音楽的にも自分のこだわりをどんどん出していきました。

ましのみ『つらなってODORIVA』(2020年)収録曲(Spotifyで聴く / Apple Musicで聴く

ましのみ:2ndアルバムまでは、詞曲は私自身で書くものの、アレンジは大部分をプロの方に任せていたし、見え方も、周りの人の客観的な視点に任せてきた部分が大きくて。「ましのみ」というプロジェクト自体、分業制で成り立ってきたところが大きかったんですよね。それは、私がそうしたかったから、そうしていたんですけど。でも分業でやっていくには、今の私はこだわりが強すぎると思う。

―もっと、自分で自分自身をコントロールしたい欲求が出てきているんですね。

ましのみ:そもそも、メジャーデビュー当初のエレクトロポップの路線は、当時のディレクターが、私に合うんじゃないかって考えてくれたもので。もちろん私自身もいいと思って、意見を出しあって進めてきたんですけど、でも今は、「もっと、自分で自分のことをトータルプロデュースしたい」と思っています。

打ち込みも勉強しはじめたんですけど、サウンドからビジュアル面まで、自分で細かく考えたうえで見せたい。そんな気持ちで作れた最初の作品が、今作なんです。

―音楽とましのみさんの距離が近づいた、ということですね。

ましのみ:まさに、そうですね。「やっと近づいてきたな」っていう感じあります。最近はプライベートでも人と会うようになって、「だんだんと人間的になってきたな」って自分では思っているんです(笑)。

―音楽を聴く機会も増えましたか?

ましのみ:前よりも聴くようになりました。でも、聴けば聴くほど、私は、どのジャンルの音楽でも好きなんだなって思いましたね。ジャズも好きだし、環境音楽も好きだし、同世代の人たちが作っている、あえてチープな音を使ったローファイなものも好きだし、オルタナ系のバンドも好きだし……でも、どのジャンルにものめり込みたくないというか。

「私」という存在が、いろんな音楽を好きな塩梅で組み合わせられる、統括する中心にいられればいいなと思うし、せっかく生きているからには、自分にしかできないことをやりたいなと思います。そうでないと、意義が見出せないから。

「突き刺す」から「寄り添う」へ。ましのみサウンドの変化の背景

―モードが変わったことによって、音楽を通して聴き手に与えたいものも変わったと思いますか? もしかしたら、「与える」という言い方は、適切ではないかもしれないですけど。

ましのみ:そこは変わっていなくて。もし、リスナーの人の心や気分がすごく落ちているのなら、それを少し上に上げたいし、普通の気分なら、すごく楽しくさせたいし。

私は自分が発信するものを通して、リスナーの心を、そのときの状態から少しでもいいから上昇させたいんです。それはずっと一貫してきたものだと思います。

ましのみ『ぺっとぼとレセプション』(2019年)収録曲(Spotifyで聴く / Apple Musicで聴く

ましのみ:ただ、デビューした頃はリスナーの方も人間じゃなくて塊のように見えていたけど、今はちゃんと「人」として見えるようになった……そこは変わりました。

前は「突き刺す」だったけど、今は「寄り添いたい」と思う。ただ、決して意識するのではなくて、自分のなかから自然に出てくる優しさや温かみを音楽に出していけば自然に、生活感のある、寄り添える音楽になるんじゃないかと思うんですよね。

―「生活感」というのが、今作のましのみさんの音楽性を語るうえでのキーワードになっていますよね。音楽によって表現される、あるいは音楽によって伝わる「生活感」とは、ましのみさんにとってどんなものですか?

ましのみ:端的なところでは、私、インディーズの頃からサンプリングが大好きで。実際の日常から生まれる生活音をサンプリングして、それを音楽に使うことで、自分の生きているなかで鳴っている音が、ちょっとドラマチックになったり、ロマンチックになったりする……そういうのが前から好きです。

ましのみ:あと、私、The Beatlesを1~2年前に初めて聴いたんですよ。なんのアルバムか忘れちゃいましたけど、The Beatlesの作品を聴いたときに、「空間の音が入っているな」と思ったんですよね。スタジオが見えるというか、「鳴り」が見えるような感覚があったというか。

―音が可視化されるような感覚というか。The Beatlesの作品からそういうものが伝わってくる感覚は、よくわかります。

ましのみ:そうやって、録り音の温度が伝わることで、その音楽が生活に結びついて、温かみをもらえる……そういう感覚も、音楽から伝わる「生活感」なのかなと思います。

The Beatles『With The Beatles』を聴く(Apple Musicはこちら

―温度を感じることができる音。そこから生活感が伝わってくる。

ましのみ:私がデビューしてからの2年間でやってきたことは、「エレクトロ」に縛ってきた部分もあったので、そこにもどかしさもあったんです。「もっと、音楽に温度をのせられたらな」ってずっと思っていて。

私、映像で言うと、フィルムライクなものが好きなんです。今回、“7”は『死にたい夜にかぎって』の主題歌として書いたんですけど、ドラマもそういうテイストの録り方なんですよね。

ましのみ:私、インディーズ映画も好きなので、“7”を作るときは「テアトルで上映されている映画みたいな感じがいいです」って言っていたんですけど(笑)、編曲の横山(裕章、「agehasprings」所属のプロデューサー)さんが「じゃあ、歪んだリヴァーブ感かな」って言ってくれて、「そう、それです!」みたいな。

音楽家として目覚めた彼女を支えた、3組のミュージシャンたち

―横山さんはデビュー期からましのみさんの作品に関わられていますけど、勝手知ったる関係だからこそ、今のましのみさんのモードが明晰に伝わったのかもしれないですね。

ましのみ:本当に、横山さんはずっと一緒にやってきた関係性なので、今までの文脈もわかってくれたうえで意思の疎通ができるのが嬉しかったです。“7”に関しては、まず自分でmicroKORGを使って音を入れたり、自分で録ったサンプリング音を入れたり、ビートを配置したり、細かいところまで作り込んで、横山さんにお送りしたんです。そのうえで一緒に作り上げていく作業だったので、なおさら、横山さんじゃないとお願いできないことでした。

ましのみ『つらなってODORIVA』(2020年)収録曲(Spotifyで聴く / Apple Musicで聴く

―加えて、今作にはsasakure.UKさんとパソコン音楽クラブが、曲ごとに編曲者としてクレジットされています。一緒に音楽を作りたいと思う人たちに、ましのみさんから声をかけていったのでしょうか?

ましのみ:そうですね。まず、sasakuraさんに関して言うと、いわゆるボカロ的な「おもちゃ箱をひっくり返したような音」という感じではなくて、むしろ、おもちゃ箱のような面白さやあえてのチープさ、違和感は残しつつも、そのなかから洗練された音を持ってきて組み合わせることで、上質な作品に仕上げている方だと思っていて、そこがすごく好きだったんです。

ましのみ“エスパーとスケルトン”を聴く(Apple Musicはこちら

ましのみ:今回、“エスパーとスケルトン”では、そんなsasakureさんのエッセンスに生音の温かみを入れたいと思って、最初はエレピだったところに、私のピアノを入れさせてもらいました。

―“NOW LOADING”の編曲をされたパソコン音楽クラブはどうですか?

ましのみ:パソコンさんはめちゃくちゃ好きで、ライブも行っていたんです。パソコンさんに関しては、機材とかの面白さで評価されている面もあると思うけど、私、彼らのリフがめちゃくちゃ好きなんですよね。リフが超かっこいいなと思う。

それに、電子音楽としてギチギチに作り込むよさもわかったうえで、あえて「ゆらぎ」を残すことで、温度を感じられる音楽になっているというか……ビートに生活感、温度があるなと思うんです。

ましのみ:今回の“NOW LOADING”は、ループの音楽なんだけど飽きない、メロウな感じのものを作りたくて。ヘッドアレンジ(作曲の初期段階に作る大枠のアレンジ)もそこまで作り込みすぎず、「センスで遊んでください」というお願いの仕方をしました。

ましのみ“NOW LOADING”を聴く(Apple Musicはこちら

「温度」や「生活感」をサウンドに取り入れた先で、ましのみは歌うべきテーマを自然と恋愛に定めた

―「温度」を音楽のなかに閉じ込めようとしたときに、ましのみさんは空間的な音の「鳴り」や、音そのものの質感、いわば、音楽のディティールに神経を研ぎ澄ませることによって、それを成し遂げようとするわけですよね。「音楽を聴いてこなかった」と言えど、その態度は非常に音楽家的なものだと思うんですよ。

ましのみ:あぁ~、そうなんですかね。

―そう思います。最後の曲“のみ込む”は、ましのみさんご自身が編曲にクレジットされていますが、この曲はどのようにして作られたんですか?

ましのみ:“のみ込む”は、事務所にアップライトピアノが置いてある6畳くらいの部屋があるんですけど、そこで歌詞も作り込まず、ピアノを弾きながら20分くらいで作った曲なんです。そこの部屋鳴りがとてもよくて。私の声と生ピアノだけが鳴っている、その狭い部屋の感じを閉じ込めることができればいいなと思っていたんですよね。

ましのみ“のみ込む”を聴く(Apple Musicはこちら

ましのみ:私としては、この曲はドラムの諸石(和馬)さんとの共作のような曲だと思っていて。諸石さんって、ドラマーというよりは、「音の魔術師」という感じの人なんですよね。この日のレコーディングのときも、雨の音が鳴るシンバルとか、動物のあごの骨で作られたパーカッションとか、いろんな楽器を持ってきてくださって。

私と諸石さんにしかわからないくらいの細部まで理解してくれて、私がこの曲に入れたかった空気感を入れてくださったんです。この曲のレコーディング中は、私、ずっと号泣してました(笑)。

―結果として“のみ込む”は、本作で最もシンプルで、でも独特な温度がある曲になっていますね。

ましのみ:今回は恋愛が軸のミニアルバムにしたいと思っていたんですけど、特に“のみ込む”は、フラれたり、別れたり、喧嘩したあとのひとりの帰り道や、ひとりで部屋にいるときの休息というか、逃げ場になるような曲にしたいと思っていて。だから本当に目の前にいるような、その人だけに向けて歌っているような気持ちで歌いました。

―特に今作の収録曲は、ラブソングといっても、どこか満たされていなかったり、極端な感情を抱えている人の想いが描かれているような印象を受けました。今回の作品が「恋愛」を軸にしようと思ったことには、どのような理由があったのでしょうか?

ましのみ:そもそも、私の歌詞は人間関係をテーマにすることが多くて。それは、私が生きているなかで、人間関係でいろいろ思うことが多いからだと思います。恋愛って特に、人間関係に関する悩みが色濃く出ますよね。私自身、10代の頃から人間関係で落ちる瞬間を実感してきたからこそ、そういう気持ちをすくい上げるような曲を作れたらなと思っていて。

今回、“エスパーとスケルトン”と“薄っぺらじゃないキスをして”は、去年の夏くらいにはあったんです。そのあとにドラマのお話をいただいて“7”ができたので、その3曲から、すごく自然に「恋愛」が軸になっていきました。

ましのみ“薄っぺらじゃないキスをして”を聴く(Apple Musicはこちら

―世の中の多くの恋愛の歌に関して言えることですけど、「恋愛」というモチーフは、人と人のコミュニケーションを描くという点で、人間の本質に迫りうるテーマだと思うんです。ましのみさんが音楽に「温度」や「生活感」を求めたときに、「恋愛」が歌うべきテーマになったことは、すごく必然的なことでもあったのかな、と思いました。

ましのみ:たしかに、そうかもしれないです。

迷ったり葛藤したり、満たされなさを抱える「普通」の人生を、ましのみは、ささやかに肯定する

―「不安症だった」とおっしゃっていましたけど、今のましのみさんを見ていると、不安が「なくなった」というよりは、不安を「受け入れた」という表現がしっくりくるのですが、どうでしょう。

ましのみ:そう、そうなんですよ。今は、音楽に関しても人生に関しても、「好きなことをやろう」「今、楽しいことをやろう」って思えるようになりましたね。

―今、将来のことや、未来の自分について考えたりはしますか?

ましのみ:将来のことは、昔より考えなくなりました。2ndアルバムを出すまでのほうが、漠然と大きな「将来」のことを考えていたし、それに対して自己犠牲を払っていたなと思う。「今」を犠牲にして未来のために投資していたからこそ、コンテストでグランプリを獲っても、メジャーデビューしても、喜ばずに抑え込んでいて。

でも、「このまま人生終わったらヤバイな」って思ったんですよね。もちろん、「いっぱいリリースしたい」とか「自分で最終形までアレンジをできるようなりたい」とかはありますけど、たくさん計画を積んでも仕方がないなって、今は思います。私は、放っておいても自分の首を絞めるタイプだから(笑)。最近は、目先のことをやるのがちょうどいいなって思っています。

―自分のようなタイプの人って、世の中にはたくさんいると思いますか?

ましのみ:いると思います……私、普通なので(笑)。「普通」っていう言葉もあんまりよくないかもしれないですけど、人それぞれに違いがあるのは前提に、同じ時代に生きている以上は、同じような景気のなかで、同じようなものを享受して生きてきているはずで。きっと、同じような悩みを抱えていたり、同じようにダウナーになっている人はいるんじゃないかなと思う。

ましのみ:私は今年で23歳なんですけど、周りの同世代を見ても、誰も「100パーセント後悔しない」と言える人はいないと思うんですよね。就職した人も絶対に悩んでいるし、私だって「就職したほうがよかったのかな?」って迷うこともあるし。どこにいても、誰にだって絶対に葛藤があって、全部が満たされてはいないと思う。

―ましのみさんにとって、この『つらなってODORIVA』という作品を通して見える自分自身とは、どんな存在ですか。

ましのみ:肯定されたいんだなって思います。このアルバム自体が、肯定してあげるアルバムなんですよ。日々、生きていて、恋愛や人間関係でつらいことやしんどいことを経験していたり、全然頑張れなかったり、止まっちゃったり、後退しているような感覚を持ってしまう……そんなときのことを、タイトルで「踊り場」と呼んでみたんです。

踊り場も連なっていけば、意味のある階段の一段になるから、大丈夫だよって。自分のために作った作品ではない、むしろ、聴いている人たちに向けて作ったはずだったんだけど、振り返ればこのミニアルバムには、私が歌ってほしい曲ばかりが入っているなと思うんです。私、こんなに肯定してほしかったんだなって思いました。

ましのみ『つらなってODORIVA』を聴く(Apple Musicはこちら

リリース情報
ましのみ
『つらなってODORIVA』初回限定盤(CD+DVD)

2020年3月18日(水)発売
価格:3,000円(税込)
PCCA-04934

[CD]
1. 7
2. NOW LOADING
3. エスパーとスケルトン
4. 薄っぺらじゃないキスをして
5. のみ込む

[DVD]
1. 7(Music Clip)
2. エスパーとスケルトン(Music Clip)
3. 『Digest of「ぺっとぼとリテラシー vol.3~レセプションパーティーin TOKYOでひとつになりまショータイム~@渋谷ストリームホール」』
4. mashinoMeeting
5. 『Making of 「エスパーとスケルトン」 Music Clip』

ましのみ
『つらなってODORIVA』通常盤(CD)

2020年3月18日(水)発売
価格:2,000円(税込)
PCCA-04935

1. 7
2. NOW LOADING
3. エスパーとスケルトン
4. 薄っぺらじゃないキスをして
5. のみ込む

イベント情報
『ましのみワンマンライブ 「ODORIVA」』

2020年5月13日(水)
会場:大阪府 アメリカ村BEYOND

2020年5月20日(水)
会場:東京都 WWW X

番組情報
『死にたい夜にかぎって』

2020年2月23日(日・祝)から毎週日曜24:50~にMBS、2月25日(火)から毎週火曜25:28~に放送、2月25日(火)から毎週火曜にTSUTAYAプレミアムで配信

監督:村尾嘉昭
脚本:加藤拓也
原作:爪切男『死にたい夜にかぎって』(扶桑社)
オープニング主題歌:ましのみ“7(ナナ)”
エンディング主題歌:アイナ・ジ・エンド“死にたい夜にかぎって”
出演:
賀来賢人
山本舞香
戸塚純貴
今井隆文
青木柚
櫻井健人
玉城ティナ
小西桜子
中村里帆
安達祐実

プロフィール
ましのみ
ましのみ

1997年2月12日生まれのシンガーソングライター。2016年3月、ヤマハグループが主催する日本最大規模の音楽コンテスト『Music Revolution 第10回東日本ファイナル』で約3000組の中からグランプリを獲得。2018年2月、大学在学中に『ぺっとぼとリテラシー』でメジャーデビュー。現在までに2枚のアルバムと1枚のシングルをリリースしている。また、LINE LIVEやSNSで発信するショート動画など個性的な発信も行っている。2020年3月18日、ドラマ『死にたい夜にかぎって』のオープニング主題歌“7”を収録したミニアルバム『つらなってODORIVA』をリリース。



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