haruka nakamuraにとって10年ぶりのソロアルバムにして、初のピアノソロ作品『スティルライフ』のコンセプトは、「生活に寄り添う音楽」である。自宅で1か月以上作業を続け、ミュートピアノを自ら録音して作られた本作には、温かな、優しい旋律の15曲が、自然な環境音とともに収められている。それは、ただそこにあるだけで尊い日常の大切さに改めて気付かせてくれるとともに、聴く人の心にささやかな希望の光を灯すはず。
ジャケットにも飾られている静物画を描いた祖父、ピアノ講師でもあった母、尊敬する音楽家であるNujabesなど、『スティルライフ』はharuka nakamuraの歩いてきた道のりと、その中で出会ってきたたくさんの人々との物語が詰まった作品でもある。もちろん、そこには多くの「別れ」も含まれるだろう。
しかし、優れた芸術作品というのは、一人で自らと向き合う時間の大切さを教えてくれると同時に、「一人じゃない」という勇気を与えてくれる。慈しみの眼差しを持って、『スティルライフ』とともにある日々を。
ピアノを離れてから15年経って、もう一度、向き合うきっかけをくれたのはNujabesさんだったんです。
―まずは、今回初めてピアノソロ作品を作ろうと思ったきっかけから教えてください。
haruka:もともと母親がピアノの先生で、僕も5歳頃からピアノを始めたんですけど、当時は「女の子の習い事」みたいなイメージが田舎にはあって。しかも僕は名前も「はるか」だから、いじめられたりもしたし、自ら進んでやっていたわけではなかったんです。でも、「小学校卒業までは頑張ってやりなさい」って母親と約束があったので、そこまでは続けていました。小学校を卒業してからは約束通りすぐやめて、ギターを弾くようになって、バンドを組んだりしていたんですね。そこから15年以上経って、もう一度ピアノに戻るきっかけをくれたのは、Nujabesさんだったんです。
―MySpaceに上げた曲に対してNujabesさんが反応してくれて、一緒に曲を作るようになったんですよね。
haruka:最初にMySpaceにきたメッセージは「最高のギターを弾いてください」の一言だったんです。でも“Lamp”という曲で、ビートを出しながら、セバさん(Nujabesの本名)のフルートと僕のピアノでセッションをしたときに、「ピアノの方が自分の音楽を表現できるんじゃない?」って言われて。
haruka:ちょうどその頃、(青葉)市子ともよく音楽をしていて、市子からも「harukaはギターじゃなくてピアノだね」って言われたんです。でも、ピアノは12歳でやめて、15年以上経っていたから、最初は半信半疑だったというか、「今さらピアノに戻るの!?」って感じで(笑)。
―ずっとギターでやってきたのに(笑)。
haruka:15才で東京に出てきて、家にピアノなんてなかったので、一切弾いてなかったですからね。でも、彼らの言葉に影響を受けて、バンドの休憩時間とかに弾くようになって、それでできたのが『twilight』(2010年にharuka nakamuraソロ名義でリリースした2ndアルバム)。
ただ、その頃は「みんなとセッションをするためのツール」っていう感じで、まだ全然ピアノには還ってない段階だったんです。でも、セバさんが亡くなって、音楽をやめようと思ったときに“光”という曲ができて、その曲の道しるべに「PIANO ENSEMBLE」(インタビュー記事)を組んで……ピアノと向き合う時間が何年間も生まれていきました。
―段々、ピアノに還っていったと。
haruka:PIANO ENSEMBLEの活動が終わったあとは、旅先で一人でいろんなピアノを弾くようになったんです。特に福岡のpapparayrayを始め、岐阜の本田、東京のHADEN BOOKS:、篠山のrizmの森とか、ピアノのあるところで自由に弾かせてもらって、結構曲のスケッチがたまっていって。
そんな頃にたまたまHADEN BOOKS:の(林下)英治さんが……彼も青森出身で、僕の「東京のお兄さん」みたいな人なんですけど、HADEN BOOKS:がお休みする間、お店にあったピアノを僕の家に置いていいよって言ってくれて。それで初めて自分の部屋にアップライトピアノが来て、子供の頃以来、ピアノを毎日弾ける環境が訪れたんです。
―ピアノに導かれているようなストーリーですね。
haruka:ただ、防音の家ではないので、ミュートペダルで弾いていたんです。マフラーペダルとも言いますけど、子供が家庭で練習するときなどに使うもので、弦とハンマーの間にフェルトの布を入れることで、弱音を作る。
僕はもともとその音が好きで、小さい会場でライブをするときは、よくミュートペダルで演奏していたんですよね。すごく温もりがあって、「部屋にそのまま溶け込む」みたいな音。それで徐々にこの音の魅力にはまり込んでいって、これで作品を作りたい、と思うようになったんです。
―そうして完成した新作『スティルライフ』は、自主レーベル「灯台」からのリリースになるんですよね。
haruka:そうなんです。僕の中で、音楽って、暗い海の中を泳ぎながら、遠くに見える灯台の光みたいなもので。海を漕いでいって、だんだんと光が見えてくる。それは船乗りにはすごく温かい光で、暗闇の海の中であっても、灯台の光を目指して漕ぎ続けることができる。音楽は僕にとってそういうもので、それをなんの制約もフィルターもなく、ストレートに届けたいと思ったんですよね。
市子も今年から自分のレーベルhermineを作って作品を出しています。10年くらいそれぞれやってきて、そういうフェーズに来てるのかなって話していました。そもそも、セバさんがそういう活動をしていた人でもありましたしね。
今作のアイデアは、亡き祖父の静物画がヒントだった。
―タイトルでもあり、ジャケットを飾っている静物画との出会いも、本作を作るにあたって大きなきっかけになったそうですね。
haruka:そう。20代のときは全然青森に帰ってなくて、10年ぶりくらいに帰ったときに、幼少に通った母のピアノレッスン室に行ってみたくなったんです。そこには屋根裏部屋があって、ほとんど誰も立ち入らないような場所なんですけど、なにか昔の思い出のものとかあるかなと思ってなんとなく入ってみたら、祖父の遺品や、自分が子供の頃に描いた絵とかがあって。不思議な空間だったんですよね。埃が午後の光に照らされて粒子が舞ってて、何年も時が止まったままみたいだった。……そこに包装された絵があって、開けてみたら、それは祖父の描いた花の絵だったんです。
―おじいさんは絵描きさんだったんですか?
haruka:いや。小学校の校長先生をやっていて、絵を描いていたことは家族の誰も知らなかったと思います。
僕はその絵をすごく気に入って、東京に持ち帰ったんです。それからずっと部屋に飾っていました。で、さっきも言ったように今回はミュートペダルを使って、生活に寄り添うような、誰しもの暮らしの中に「静物画」のように置いておける作品にしたいと思ったときに、「そういえば、じいちゃんの絵をずっと飾ってたな」とふと思って。
僕の今作のアイデアは、潜在的にこの絵がヒントだったんだって気付きました。屋根裏部屋からじいちゃんの絵を東京に持ち帰って、ポラロイドで撮って、ジャケットにするっていうのは、最初から繋がっていた物語のような気がします。じいちゃんはわりと早くに、僕がピアノを始めた頃に亡くなったので、あの絵がずっとレッスン室の屋根裏部屋からピアノを弾いている自分を見守っていてくれたんだなって。
haruka:今回、音楽の日々がひとつの折り返し地点を迎えたような気がしているんです。PIANO ENSEMBLEが終わって、一人で旅をする時間が増えて、ピアノと向き合う時間が増えた。そのタイミングで家にピアノが来たわけです。でも実は、ピアノって僕の中ではすごく敷居が高いというか……母親が講師だったこともあって、ピアノ演奏には厳しいので、「あなたがピアノソロを出すの?」みたいな(笑)。
―厳しい(笑)。
haruka:もちろん自分でもそう思うし、長い道のりなのはわかってるんです。でも、家で弾いている自作の小さな曲を今なら届けられると思いました。そろそろ東京を拠点として旅をする暮らしの環境を変えたいと思っていた頃でもあって。まずは部屋で鳴っている温かな曲たちを形にするところからピアノソロをスタートさせて、次はこの布を外して、生のアップライトピアノ、いつかはグランドピアノでっていう道のりを辿れたら幸せですね。
まず生活にルーティーンを作ったんです。そうすることで毎日にリズムが生まれて、それがグルーヴになっていく。
―レコーディングはご自宅で長期に渡って行われたそうで、それまで日本中を旅していたharukaさんからすると、かなりの環境の変化でしたよね。
haruka:自宅で毎日曲を作って、自分で録って、基本的に人には会わずに、作業自体はすべて一人で完結させる。年明けから1か月以上……結果的にはほぼ2か月くらいかかりました。『twilight』以降ソロアルバムを作ってなくて、PIANO ENSEMBLEは即興演奏やライブアルバムが基本で曲も長かったから、今回ソロとして真逆のベクトルでやるにあたって、まずルーティーンを作ったんです。
朝起きて、窓を開けて、花の水を入れ替えて、いつものお店でコーヒーをボトルに入れてもらって、ピアノを弾いて、録音して、夕方にはそれを聴きながら銭湯に行き、帰り道に日誌を書く、みたいな。それをすることで毎日にリズムが生まれて、それがグルーヴになっていくようなイメージでした。
―ミュートペダルを使った、いわゆる「ミュートピアノ」での演奏というのは、普通のアップライトピアノでの演奏とは全然違うわけですよね?
haruka:そうですね。ミュートピアノでの録音はすごく難しかったです。最初は部屋で自然に鳴ってる音をサラッと録るようなイメージで、そんなに困難はないだろうと思ってたんですけど、いざ録ってみると、この子(ピアノ)の独特な特徴もあり、普通のピアノを録るよりも何倍も難しくて。布が張ってある分、響かないし、音もすごく弱いから、マイクをちゃんと近づけて、音量を上げて録らなきゃいけない。でもそうすると普段は目立たない他の音、たとえば鍵盤のカタカタする音とか、ペダルを踏んだときの軋む音とか、いろんな音が入ってきちゃう。なので、できるだけペダルを踏まないように演奏したりもしました。
―でも、作品の中では「他の音」も排除することなく、それこそ生活の中で鳴っているような、自然な形で録音されているわけですよね。
haruka:音楽とともにカタカタ聴こえるところもあります。でも僕はそれでいいと思いました。このピアノの可愛らしさだし、そのままの自然な音が日常の音楽かな、と。
でも、最初に録った“新しい朝”を、写真を撮ってくれているTKCやLUCA、何人かの仲間に聴いてもらったら、「この曲はさすがに気になる」と。それで、布を変えることにしたんです。麻の布を自分で切って、それを使いました。普通の布はわかりやすく言うとカーテンみたいな厚い感じなんですけど、麻の布は織り目がたくさんあるから、隙間がたくさんある。つまり、音が抜けるんですよね。そんな感じで今回は曲のカラーに合わせて、布を使い分けてるんです。
キース・ジャレットさんが、奥さんのために自宅スタジオで一人でピアノを弾いたアルバムの音が、ものすごく好きなんですよね。
―実際の制作は、まずマイキングからスタートしたんですよね。
haruka:マイキングは今orbeというユニットも一緒にやっている田辺玄にお願いしました。僕の作品はここ何年か彼の山梨のStudio Camel Houseで録音していて、今回も彼との関係性がなかったらできないレコーディングだったと思います。アンプもマイクもなにもかも持ってきて、家にスタジオを作ってくれました。1か月半もその状態を維持するなんて、普通は無理な相談なのですが、録音が終わるまで待ってくれてありがたかったです。
―日誌ではお二人で珍しく他の作品をリファレンスとして聴いたと書かれていましたが、どんな作品を聴いたのでしょうか?
haruka:僕はキース・ジャレットさんの『The Melody At Night, With You』(1999年リリース)がすごく好きで、昔から指針にしているんです。あのアルバムは、キースさんがご病気になったときに支えてくれた奥さんのために、自宅スタジオで一人、ピアノを弾いたプライベートな作品だそうで。普段弾かないようなスタンダードな曲を優しく、温かく弾いている、あの音がものすごく好きなんですよね。だから質感として、「生活の中で弾いているピアノの温かさ」を共有しました。
キース・ジャレット『The Melody At Night, With You』を聴く(Apple Musicはこちら)
―パラメーター的なことではなくて、その作品を聴いて得られる感覚を共有したというか。
haruka:他のミュートピアノも聴くには聴いたんですけど、本当に千差万別で、人によって全然違うから、あんまり参考にならなくて。ニルス・フラームさんとか、ゴールドムンドさんとかを聴いてみても、一人ひとり全然違うよさがあるから、「僕はこの部屋の音を録音するしかないな」という思いがありました。
ただ、マイキングが終わって、いきなりインフルエンザになっちゃったんですよ(笑)。玄が帰ったら、急に具合悪くなって、1週間くらい一人で寝込んで。日誌は始めちゃったけど、全然レコーディングが始まらないから、最初の方は病院日誌みたいで(笑)。
―ミックスも含めればトータル2か月くらいあって、当然アップダウンもありますよね。
haruka:最初はミックスも玄にしてもらう予定だったんですけど、理想の音を突き詰める過程で、「今回はミックスも作曲の一部だと思うし、harukaにしかわからない理想の音があるはずだから、自分でやった方がいいんじゃない?」って言ってくれて。
制作中に友人から意見をもらったのも、今までにはなかったこと。さっきも名前を出したTKCはもともとタワレコのバイヤーで、昔から僕の作品を聴いていてくれたから、自分でミックスをしていた『grace』(2008年にリリースしたデビューアルバム)と『twilight』も聴いてくれていたんですね。それで「プロのミックスではないかもしれないけど、やっぱり本人にしか作り得ない質感が出ていると思う」って言ってくれて。その一言は大きかったです。
ミックスも自分で行ったことで、今回はどこか『grace』に立ち戻った感覚もあるんです。『grace』は故郷がテーマで、青森の環境音を録音したり、いろんな楽器を入れていました。そういう意味では、今回のピアノソロとは違うけど、でもソロの世界観としては近い。「全部一人でやる」というのも共通しているテーマですね。
haruka nakamura『grace』を聴く(Apple Musicはこちら)
今回の作品には「物語」を強く感じていたので、それも意識して曲順を決めていったんです。
―『スティルライフ』にも環境音が自然と含まれていますが、ご自宅の周りはどんな環境なんですか?
haruka:川がすぐ近くにあって、学校も近くにあるから、普通に家族の方たちがおだやかに暮らしてるような感じで、昼は子供たちの声が聞こえるし、17時には学校の鐘が鳴る、のんびりした地域です。
haruka:でも、今回は『grace』のときのように環境音を意図的に入れようとは思っていなくて。そのときにたまたま鳴って、たまたまエアーマイクに入っていた音をそのまま使っているんです。ただ、結構奇跡が起こりました。すごいタイミングで鳥の声が入っていたり、曲の終わりと同時に学校の鐘の音が鳴り始めたり。そういうものは全部切らずに生かしています。
―2曲目の“ある光”の最後に鳥の鳴き声が聴こえて、“新しい朝”に移る瞬間はとても印象的です。ただ、“新しい朝”は一番苦労した曲のひとつだったようですね。
haruka nakamura『スティルライフ』を聴く(Apple Musicはこちら)
haruka:悩みましたね。普通のピアノで弾く分には全く問題ない曲なんですけど、ミュートピアノで優しく弾くとはっきり聴こえなくて。はっきり弾くとミュートピアノ独特の不協和音が勝ってしまって、キラキラした部分、光の部分が消えてしまう。当初この曲は、1曲目の予定だったのですが、録るのに何日もかかって、「これは長い道のりだぞ」って(笑)。
―前途多難な船出だったと(笑)。実際、アレンジも行ったり来たりしたそうですね。
haruka:何回も録りました。一度アルバムから外そうかとも思ったんですが、布を変えたり、試行錯誤の末、ようやく録ることができたんです。
―結果的に、“新しい朝”は3曲目になったわけですが、“あくる日”“ある光”“新しい朝”という冒頭の曲順はどのように決まったのでしょうか?
haruka:“新しい朝”が来る前に、回想シーンを入れるようなイメージですね。“あくる日”のイントロは、幼少に通ったピアノレッスン室から聴こえてくる子供の練習曲のイメージです。レッスン室から僕は始まって、あの日々があった上で、今がある。その「今」に繋がるのが“ある光”で、この曲で時が流れて、“新しい朝”が始まる。今回の作品は「物語」があることを強く感じていたので、それも意識して曲順を決めていったんです。
この世界で、生活に寄り添う音として、心の温かみに繋がる作品になっていたら嬉しいです。
―制作期間の中で曲数が徐々に増えていって、残りの曲は秋ごろに『スティルライフⅡ』としてリリースされるそうですね。
haruka:全部で40曲くらいできたんですけど、最初に想定していた15曲を越えたくらいから、フェーズが変わっていったんです。最初は春の訪れを待っている曲が多かったんですけど、だんだん深く入り込んでいくと、秋冬の情景の曲が出てきた。
ピアノと向き合って、1か月間ほとんど人と会わずにいると、「井戸の中を下りていく」じゃないけど、洞窟の奥深くに入っていくような感覚になって、そこからまた上がってきたときに、ひとつの四季の繰り返しを感じました。なので、これは1枚のアルバムにすべてを入れるのではなくて、春と秋冬に分けた方が、1年を通して聴いてもらえるんじゃないかなって。
―1枚で1日のサイクルが感じられるし、『Ⅰ』と『Ⅱ』で1年のサイクルが感じられると。
―これは「結果的に」ではあると思うんですけど、新型コロナウイルスの影響で外に出ることが難しくなっている中で、生活に寄り添ってくれる音楽は必要とされていると思うし、誰もが改めて一人の時間を見つめ直す期間の中で、すごく意味のある作品になったとも思います。
haruka:この世界の中で、予期せずこういうタイミングでのリリースになったことには、意味があるんだろうなって思います。もちろん、このタイミングでリリースをするのは大変なことだし、こうして僕らも会えずにインタビューをしているわけですけど、だからこそ、みんながそれぞれなにかを見つめる時間になっているはずで。そういう中で、生活に寄り添う音として、誰かが少しでも安堵して深く呼吸できるようなアルバムになっていてほしいと思うし、心の温かみに繋がる作品になっていたら嬉しいです。
Nujabesさんはここに生きてるなって思うし、今も一緒に音楽をしてくれている気持ちです。
―今年はNujabesさんの10周忌で、命日には渋谷のスクランブル交差点でNujabesさんの音楽が流されましたよね。
haruka:亡くなってから3周忌くらいまでは、僕とUyama(Hiroto)さんで、セバさんの音楽を届けるはずだったライブをたくさんやっていました。でもそれ以降は、セバさんの音楽を自分たちなりに消化して届けていこうと思って、僕らはイベントとかは出演しなかったんですよね。でも10年経って、橋本徹さん(編集者、選曲家、DJ、プロデューサー。生前のNujabesが師と仰いだ人物)を中心に「渋谷で生まれたNujabesさんの音楽を、もう一度渋谷に聴かせたい」という思いで、Spotifyさんが主催になって、スクランブル交差点の全画面を使って3分間彼の音楽と映像を流す、ということが行われました。
―動画で拝見しましたが、すごい瞬間でしたよね。
haruka:そのときに“Lamp”の映像を使わせてほしいと言われて。“Lamp”の映像は、僕が自分で撮影しているシーンが多くて、セバさんと最後に会った日の逗子の海とか、彼との思い出の映像をかなり使っています。それが10年後にスクランブル交差点に映し出されて、“reflection eternal”が流れて、あの場所が静寂になって……。
もう一度、鮮明に思い出させてもらったというか、ひとつの句読点というか、この10年を振り返るきっかけにもなりました。それが『スティルライフ』を制作していた最後の方だったから、大きなポイントになりましたね。「ピアノの方がいいんじゃない?」って言ってくれたセバさんが亡くなって、10年経って、ようやく、初めてのピアノソロを出すんだなって。
―Nujabesさんの音楽はそれこそSpotifyなどを通じて、この10年間も世界中で聴かれ続けてきたわけですよね(編集部注:Nujabesは、2018年のSpotify「海外で最も再生された国内アーティスト」ランキングの3位に入っている)。
haruka:人が本当に亡くなるときって、みんながその人を忘れたときだと思うんです。そういう意味で言うと、セバさんはここに生きているなって思うし、今も一緒にいてくれている気持ちです。もちろん寂しい気持ちもあるけど、「今、いてくれてるな」って感じられるときが、これまでライブ中に何度もありました。10年やってこられたのも彼のおかげだと思う。『スティルライフ』はそんな10年を振り返り、この先の10年を目指す、節目のアルバムなのかもしれないですね。
haruka nakamura『スティルライフ』。特製紙ジャケットの中にCDとポラロイドをパッケージして届けられる(サイトを見る)
- リリース情報
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- haruka nakamura
『スティルライフ』(CD) -
2020年4月24日(金)発売
価格:3,520円(税込)
T-0011. あくる日
2. ある光
3. 新しい朝
4. うたかた
5. 君のソネット
6. Fly
7. 春からの電話
8. イーゼルを見据えて
9. サムタイム
10. 風が通り過ぎていく季節
11. 雨の日のために
12. アンソロジー
13. たしかな声
14. 17時と街
15. 予告灯
- haruka nakamura
『スティルライフ』(LP) -
2020年5月22日(金)発売
価格:4,180円(税込)
TL-1011. あくる日
2. ある光
3. 新しい朝
4. うたかた
5. 君のソネット
6. Fly
7. 春からの電話
8. イーゼルを見据えて
9. サムタイム
10. 風が通り過ぎていく季節
11. 雨の日のために
12. アンソロジー
13. たしかな声
14. 17時と街
15. 予告灯
- haruka nakamura
- プロフィール
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- haruka nakamura (はるか なかむら)
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音楽家 / 青森出身。東京・カテドラル聖マリア大聖堂、広島・世界平和記念聖堂、野崎島・野首天主堂を始めとする、多くの重要文化財にて演奏会を開催。杉本博司『江之浦測候所』のオープニング特別映像、国立新美術館『カルティエ 時の結晶』などの音楽を担当。京都・清水寺成就院よりピアノ演奏ライブ配信。CM、WEB、テレビ番組の音楽、プラネタリウム劇伴音楽などの楽曲制作、早稲田大学交響楽団との共演、Nujabesをはじめとするコラボレーション、楽曲提供、プロデュース等も手掛ける。また、柴田元幸との朗読セッション(ライブアルバムを発表)や、ミロコマチコとのライブペインティングシリーズも敢行中。evam evaなどブランドとのコラボレーションアルバムを多数発表。福岡papparayrayでのみ、特別なピアノソロ演奏を行う。2019年より、BEAU PAYSAGEとの企画で生まれた田辺玄とのユニット「orbe」、そしてLUCAとのユニット「arca」を始動。2020年より自主レーベル「灯台」を立ち上げた。
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