「リュックと添い寝ごはん」が音に残す、今しかない青春の煌めき

「ここではないどこか」を求める音楽には、普遍的な魅力がある。逃避願望、というわけではない。もちろん逃げてもいいのだが、なにより、僕らの内側から湧き上がる夢想と欲望が、それを欲するのだ。新しい世界を見てみたいという願望、新しい自分に出会いたいという衝動、そして、どんな場所に行っても、どんな自分になっても、「変わらないなにか」があるはずだと信じる、心のたしかな形――。今年、高校を卒業したばかりの3ピースバンド、「リュックと添い寝ごはん」。かなり強烈なバンド名だが、彼らが3月4日にリリースした初の全国流通盤『青春日記』は、まさに「ここでないどこか」を追い求める音楽だ。

この作品には、その名の通り「青春」という季節が持つ煌めきと、「青春」がその身から過ぎ去っていくことに対する寂しさが、6曲の魅惑的な音楽になって刻まれている。すべてを手放して走り出したいという、若く猛々しい「今」と、「なにも忘れたくない」という永遠への思いが、音楽のなかで、手をつないでいる。コンポーザーである松本ユウは、本作を「本当に日記のような、今しか作れなかった作品」と語る。

すでに『ROCK IN JAPAN FESTIVAL』への出演も経験し、勢いに乗るリュックと添い寝ごはん。メンバー全員インタビューを敢行した。

※この取材は東京都の外出自粛要請が発表される前に実施しました。

圧を感じずに音楽を楽しみたいっていう気持ちで、曲を書いたんです。(松本)

リュックと添い寝ごはん
左から:松本ユウ(Vo,Gt)堂免英敬(Ba)、宮澤あかり(Dr)
2017年11月10日結成。東京都内を拠点に活動中、高校を卒業したばかりの3ピースバンド。配信サイト「Eggs」のアーティストランキングで常に上位にランクインしている。2019年夏、ロッキング・オンが主催するオーディション『RO JACK for ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2019』で優勝し、『ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2019』に出場を果たす。2020年3月4日、1stミニアルバム『青春日記』をタワーレコード限定でリリースした。

―初の全国流通盤となる『青春日記』、聴かせていただきました。1曲目“サニー”の歌い出しから、すごくいいなと思って。<サニー どうか晴れた場所を見せておくれ 大好きな音楽を圧もなく楽しみたい>というのは、音楽への愛と「ここではないどこか」への夢想を感じさせる、すごくいいフレーズですよね。

松本(Vo,Gt):あぁ、ありがとうございます。理想というか、「解放されたい」「違う場所に行きたい」っていう感覚はたしかにあって。“サニー”を書いていた頃、高2の秋なんですけど、うまく曲が書けなくなっていたんですよ。

リュックと添い寝ごはん“サニー”を聴く(Apple Musicはこちら

―それはなぜ?

松本:その前に作った“ノーマル”の再生回数が「Eggs」で伸びたことに対するプレッシャーもあったし、それまでは部活動っていう感じでやっていて、そのテンションで続けていけると思っていたんですけど、自分たちがステップアップしようとしているタイミングでいろいろなダメ出しも受けるようになって。それがイヤになっちゃって……そういった圧を感じずに音楽を楽しみたいっていう気持ちで、“サニー”は書いたんです。

松本ユウ

―そうだったんですね。

松本:あと、“サニー”を書いた頃は部活動の引退が近づいてきて、引退後もバンドを続けていくかどうかを、バンド内で探り合いながらも話し始めていた時期でした。

―未来に対しての複雑な思いがあった時期なんですね。部活を引退したあともバンドを続けていくという部分に関しては、メンバー内ですんなり話はまとまったんですか?

松本:いや、すんなりとはいかなかったです。元々メンバーは4人いたんですけど、ひとりは進路のことがあって抜けてしまって。

―この3人がバンドを続けていこうと思えたのは、なぜだったのでしょう?

松本:「バンドを」っていうよりは、このメンバーで音楽をやっていきたいという気持ちが、僕は強かったです。

―リュックと添い寝ごはんのメンバーは、どんな部分で気が合いますか。

松本:ずっと一緒にいたんですよね。それこそ高2の頃なんかは、家族よりも一緒にいた時間が長いくらい。一緒にいて楽しいです、単純に。それで音楽をやれたら一石二鳥というか、最高の曲が作れるんじゃないかと思ったんです。ずっとこのメンバーで、自分たちが聴きたい曲を作っていきたいなって。

―高2の冬のタイミングで、宮澤さんと堂免さんはどんな気持ちでしたか?

宮澤(Dr):ユウくんと同じ気持ちもあったし、私は、他に別にやりたいことがなかったので(笑)。それなら、今バンドが楽しいし、この先もやっていきたいなと思いました。

―堂免さんは?

堂免(Ba):僕は高校に入ってから、go!go!vanillasとか、Saucy Dogとか、有名なアーティストのライブに自分でチケットを買って観に行く機会が増えたんです。そのたびに、めちゃくちゃ大きいステージで、満員のお客さんに向けて音楽をやっている光景に対して、どんどんと憧れが強くなっていったんですよね。そういう憧れから、バンドを続けていくことに意識が向かっていったような気がします。

堂免英敬
宮澤あかり

周りが拳を上げると、自分も上げる。そういうのは「なんか違うな」って。こういうのって、高校軽音あるあるなんですよ。(宮澤)

―今の10代だと、音楽を始めたいとなったときにラップやDTMを選ぶ人も多いと思うのですが、3人はなぜ「バンド」を選んだのですか?

堂免:そもそも、僕は小学校の頃から陸上をやっていたんですけど、中学のタイミングでケガをして、お医者さんから「運動しちゃダメ」と言われ、そこから半分引きこもりみたいな生活を送っていたんです。そうしたら、音楽好きだった親からギターを勧められたんですよね。でも、その頃の僕のなかには、「ギターを弾くやつはミーハーなやつ」っていう偏見があって……。

松本:ん?

堂免:当時は捻くれてたんだよ(笑)。それで、「じゃあ、ベースにする」と言ってベースを買ってもらったのが、そもそもバンドに向かっていったきっかけでした。

堂免英敬

―松本さんと宮澤さんは?

松本:僕は音楽をやるとなったとき、バンドっていうものしか知らなかったんです。なので自ずとバンドを始めたんですけど、それでも僕がドラム、ベース、ギターボーカルみたいなシンプルな編成のバンドを聴き始めたのは、高校に入って、軽音楽部に入ってからなんですよね。

そもそもはSAKEROCKのようなインストバンドが好きでした。歌詞はあんまり重視せずにメロディを聴くタイプだったので。あと、SEKAI NO OWARIのような、ドラムがいないエレクトロニックな要素のあるバンドも好きでしたね。

―今のリュックと添い寝ごはんの音楽性を考えると、最初に松本さんの口からSAKEROCKの名前が挙がるのは意外ですね。

松本:SAKEROCKは、お店のBGMで流れているのを聴いたのがきっかけだったような気がします。本当に感覚的に、「あ、いいな」と思って。

松本ユウ

―宮澤さんがバンドに向かったきっかけは?

宮澤:小学校5年生くらいの頃に、児童センターでバンドをやっていたんですけど、そのバンドのドラムをやっていた子が海外に行くことになったから、空きが出ちゃって、そこで「ドラムやってみない?」って誘われたのがきっかけです。そのときはORESKABANDのカバーをやっていました。

―その頃から始まって、今でも自分がバンドをやっていることに、自分なりの理由みたいなものはありますか?

宮澤:う~ん、ない!(笑)

―ははは(笑)。

宮澤:わからないです(笑)。でも、ドラムをやっていると楽しいなって思います。ドラムは力いっぱい叩けるので、感情を表現しやすいんですよね。言い方を変えると、ストレス発散にもなるっていう(笑)。

宮澤あかり

―なるほど(笑)。今、リュックと添い寝ごはん全員で共通して好きな音楽はありますか?

松本:踊れる音楽が好きです。みんなが拳を上げるような音楽じゃなくて。僕らには拳は似合っていないような気がするんですよ。

宮澤:もっと、揺れている感じがいいよね。「ライブ」というよりは、「パーティー」っていう感覚の方がいい。

松本:そう、揺れて踊るような。そういう音楽が好きっていうのは、3人共通してありますね。

堂免:昔は拳を上げるような曲も作っていて、そういう曲を演奏しているときにステージから見える景色も、もちろんいいんですよ。でも、みんながサビになったら手を上げなきゃいけないって、どこか強要しているような感じになってしまうのがイヤなんですよね。

松本:感情が、ここ(といって拳を握る)だけに集約されていく感じが、ちょっとね……。もっと全身で楽しんでほしいよね。

堂免:そうそう。曲を楽しむことを、みんな、拳を上げることで忘れてしまっているんじゃないか? って。

宮澤:こういうのって、高校軽音あるあるなんですよ。軽音楽部の合同ライブをやると、観に来る人はバンドのオリジナル曲を覚えてくるんです。で、周りが拳を上げると、自分も上げるっていう。そういうのは、「なんか違うな」っていう感じがするんですよね。

松本:そうだね。僕らはそういう景色を見てきたからこそ、「全身で踊れる曲を作りたい」っていう気持ちが今は強いです。

『RO JACK for ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2019』で優勝し、『ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2019』に出演した際のライブ映像

―松本さんのSAKEROCKというルーツは、今の話を聞くとすごくしっくりきますね。

松本:そうかもしれないです。SAKEROCKのDVDを見るたびに、「あぁ、いいなぁ~」って思います。バンドの周りにお客さんがいて、踊っているっていう、あの光景が理想ですね。あと、ネバヤン(never young beach)やDENIMSも、同じような理由で好きですね……って、いきなり理想を語ってしまっていますけど(笑)。

松本ユウ

最近、「ネオ昭和」というフレーズが自分のなかであって。(松本)

―『青春日記』の音楽性は、ギターロックというフォーマットはありつつも、曲調やアレンジは雑多に、自分たちの可能性を探っている感じがあるなと思っていて。音楽性は、この先どんどんと変わっていきそうな予感もあるんですか?

松本:そうですね。『青春日記』に入っている曲を作っていた高校の頃は、背伸びしていたというか、「いろんなジャンルの曲を作ろう」っていう気持ちが強くて。軽音楽部の先輩にも「いろんな曲を聴け」と言われていたし、実際にいろんな曲を聴いて吸収していっている感じがあって、そのぶん、どこか無茶している感じもあったんですよ。でも、最近作っている曲は、もっと自分自身にフィットする曲が増えている感じがあるんです。

―ちょっと気が早いかもしれないですけど、この先の自分たちの音楽的方向性として見据えているものはありますか?

松本:例えば『青春日記』に入っている“グッバイトレイン”は、他の曲とテイストが違うと思うんです。端的にいうと「踊れる曲」になっていると思うんですけど、こういう方向性の曲をもっと作っていけたらなと思うんですよね。最近、「ネオ昭和」というフレーズが自分のなかであって。

―「ネオ昭和」。松本さんのなかで、どんなニュアンスを持つ言葉なんですか?

松本:最近、親に教えられた昭和の曲をよく聴くんですけど、昭和に生まれた曲を自分のなかに落とし込んで、リュックと添い寝ごはんとして発信したら、どんな曲になるんだろう? っていうことに、すごく興味があるんです。

―どんな昭和の音楽に興味があるんですか?

松本:えっと……(自身のスマホを見ながら)松田聖子さんとか。あと、チューリップ、ユーミンさん、竹内まりやさん、佐野元春さん、米米CLUB、大事MANブラザーズバンド……昭和の音楽を深く知っているわけではないんですけど、今でも聴いて魅力を感じることができる曲って、すごいなって思うんです。ずっと聴かれ続けている曲にはそれ相応の秘密があるんだろうし、そこに惹かれていますね。「昭和っぽいコード進行」とか、シンセとかドラムの「昭和っぽい音」っていうのがあると思うんです。

今しか作ることができない曲を、思い出として日記のようにとどめておきたいっていう気持ちがある。(松本)

―みなさんは今年高校を卒業したばかりですけど、高校を卒業したときはどんな気持ちでしたか?

松本:やっぱりコロナの影響もあって、卒業式がちゃんとできなかったんですよ。すぐ終わっちゃって。

宮澤:「早く帰ってください」っていう感じだったもんね。

―そっか。去年、KALMAの畑山悠月さんに取材して、高校卒業したあとの心境を聞いたときには、ちょっと暗さがあったというか(KALMAインタビュー記事)。「大人になっちまった」っていう感覚があったと彼は言っていたんですけど、みなさんはどうですか。

松本:そういう感覚もありました。「もう朝早く起きなくていいんだ」って思った反面、「あ、もう高校には行けなんだ」って思って。不思議でした。自分がふたりいるような。

―このタイミングで、『青春日記』という作品を残せてよかったと思いますか?

松本:そうですね。このタイトルは、すごくしっくりきています。「青春」って、今の自分にとっては高校3年間だし、本当に、日記みたいな作品なんですよね。6曲全部、作った時期は違っていて。

―最初に作ったのはどの曲でしたか?

松本:この6曲のなかで最初に作った曲は“ノーマル”でした。“ノーマル”は高2の夏頃に作った曲で。当時、オリジナル曲をたくさん作っていたんですけど、「毎日が変わらないなぁ」っていう感覚があったというか……毎日毎日、ずっと同じことを繰り返している感覚があって。「認めてもらいたい」っていう気持ちとか、承認欲求も強かったと思うんですけど、とにかく「変わりたい」と思っていたんです。「このまま音楽をやっていて、楽しいのかな?」とも思っていたし。そういう思いを抱えているときに、「変わらない毎日を変えていきたい」っていう気持ちで作った曲が“ノーマル”で。

―なるほど。

松本:で、その次に作ったのが最初に話した“サニー”で、“サニー”のときに抱えていた悩みから解放されたタイミングの歌として“手と手”があって。そして、「自分の高校3年間を描こう」と思って“青春日記”を作って、そのあとに“グッバイトレイン”、最後に“500円玉と少年”っていう順番で。本当にその時々思ったことを曲にしてきたなっていう感じなんですよね。

リュックと添い寝ごはん『青春日記』を聴く(Apple Musicはこちら

―一番新しい“500円玉と少年”が、どこか少年時代を回想しているような曲になっているところも興味深いです。

松本:“500円玉と少年”っていう言葉自体はずっと自分のなかにあって、「このタイトルで曲を作りたい」っていう気持ちがあったんですよね。昔の自分にとって、500円玉ってすごく高価だったよなぁって。……最近、TSUTAYAカードを更新したんですよ、僕。

―はい。

松本:小学生の頃にも、親に入会金を払ってもらってカードを作っていたんですけど、そのときは入会金の300円が、すごく高く感じたんですよね。でも、最近作ったときは、なんにも考えず300円をバッと払っていて。それに気づいたときに、「うわぁ、昔の自分と変わったわ」ってハッと気づいたんです。「大人になっちゃったわ」って。

―やっぱり、「なっちゃった」なんですね。

松本:なっちゃった、ですね。寂しさもあったので。小学生の頃は、放課後もなんにも考えずに校庭で走り回って遊んでいたなと思うと、「あの頃は楽しかったなぁ」って思う。今も楽しいんですけどね。

―松本さんの書く歌詞には、失われていくものを見つめているような眼差しがありますよね。

松本:歳とったら忘れちゃんですよ、僕はきっと。大人になったらきっと、500円が高価だったって、自分から感じることはできなくなっちゃうと思う。だから、なんでも覚えているうちに書き残しておきたいんですよね。

僕は今18歳ですけど、18歳の頃に作ったものと同じことは、20歳や30歳になったら、もうできなくなると思うんです。なので、今しか作ることができない曲を、思い出として日記のようにとどめておきたいっていう気持ちがあって……それが、『青春日記』というタイトルにもつながっているんです。今しかできないものを作っていきたいです。

リリース情報
リュックと添い寝ごはん
『青春日記』(CD)

2020年3月4日(水)発売
価格:1,650円(税込)
RICE-1
※タワーレコード限定発売

1. サニー
2. グッバイトレイン
3. 500円玉と少年
4. 手と手
5. ノーマル
6. 青春日記

アプリ情報
『Eggs』

アーティストが自身の楽曲やプロフィール、活動情報、ライブ映像などを自由に登録・公開し、また、リスナーも登録された楽曲を聴き、プレビューや「いいね」等を行うことができる、アーティストとリスナーをつなぐ新しい音楽の無料プラットフォーム。登録アーティストの楽曲視聴や情報は、「Eggsアプリ」(無料)をダウンロードすると、いつでもお手もとでお楽しみいただけます。

料金:無料

プロフィール
リュックと添い寝ごはん
リュックと添い寝ごはん (りゅっくとそいねごはん)

2017年11月10日結成。東京都内を拠点に活動中、高校を卒業したばかりの3ピースバンド。インディーズバンド、アーティストの配信サイト「Eggs」のアーティストランキングで常に上位にランクインしている。2019年夏、ロッキング・オンが主催するバンド・アーティストのオーディション『RO JACK for ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2019』で優勝アーティストに選ばれ、国内最大級のロックフェス『ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2019』に出場を果たす。2020年3月4日、初の全国流通となる1stミニアルバム『青春日記』をタワーレコード限定でリリースした。



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