フェスも、ライブも、パーティーも海水浴場も、ほぼ全て中止。新型コロナウイルス感染拡大の影響で集まって楽しむイベントが激減した2020年の夏。誰も予想していなかったパンデミックの拡大で、ダンスミュージックのシーンはどう変わったか? オンラインフェスやDJ配信、バーチャルライブなどデジタルな取り組みが広がるなかで音楽の聴かれ方はどう変わりつつあるのか?
そんなことをテーマに、DJ / キュレーターのTJO、ラジオDJでタレントのサッシャ、Spotify JapanのHead of Content芦澤紀子にリモートで語り合ってもらった。
「ステイホーム」と言われ人々の外出が減ったここ数か月。リスナー側ではチルやリラックスできる音楽への欲求が高まり、一方、アーティスト側は自分のルーツやパーソナルな音楽性を追求するようになってきているという。そして、あくまで「結果的に」ということにはなるが、そんな潮流の象徴として挙げられるのがKYGOのニューアルバム『Golden Hour』だという。
「特別な夏」となった2020年のシーンの動向を、DJ、ラジオ、ストリーミングサービスというそれぞれの視点から掘り下げた。
ストリーミングやラジオの聴取状況に変化など、ステイホーム下での音楽を取り巻く状況について。コロナウイルスに感染したサッシャ、TJO、芦澤紀子が語る
―緊急事態宣言が明けてから、サッシャさん、TJOさんのラジオやDJのお仕事はどんな感じでしたか?
TJO:緊急事態宣言が明けても、DJの仕事はなかなか現場には復帰できなかったですね。7月中旬から徐々に回復してきたんですけれど、第2波が来ているのでそれもいつまで続くかなという状況です。クラブにしても、人数制限もあるし、感染対策をしなければいけないので、大変な時期は続いていますね。
サッシャ:緊急事態宣言が出ていた頃は、テレビはリモート出演、ラジオは共演者がリモート出演でした。そこから状況が戻ってきて、テレビでもラジオでもスタジオに復帰したあたりで、延期になっていた舞台が再開されることになって、舞台終了後、共演者の新型コロナウイルスの感染が判明しました。
そこからはバタバタでした。仕事をすぐにリモートに切り替えて検査をしたら僕も罹患していたということがわかって。そこからは全ての仕事を休んで8日間入院しました。退院したあと、徐々に仕事に復帰しました。
―サッシャさんは新宿シアターモリエールでのクラスターで感染されたんですよね(舞台『THE☆JINRO-イケメン人狼アイドルは誰だ!!-』にサッシャは、マネージャー役兼ゲームマスターとして出演していた)。病状はどんな感じだったんでしょうか?
サッシャ:一番軽かった部類だと思います。38度台の熱が出て、レントゲンと血液検査をしたら肺炎の兆候は少しあったんですけれど、すぐに回復して、全ての数値が問題ないということで退院できました。悪化する可能性はあったと思いますが、結果的には軽症でした。
―ここ数か月、リモートでの仕事や授業が増えて、多くの人の暮らしが変わったと思います。そのことで音楽の聴かれ方も変わったと思うんですが、Spotifyではコロナ禍以降、どんな変化が見られますでしょうか?
芦澤:まずは使用される時間帯が変わりました。これまで、特に日本においては平日の朝と夕方~夜、つまり通勤と通学の時間帯に突出して使用されるデータがあったんです。
それがステイホームと言われるようになり、自宅にいる人が増えて、毎日が週末のようになった。時間の段差がなくなって、一日を通して聴かれ続けるように変化しました。デバイスで言うと、スマホで聴かれる率が相変わらず高いんですけれど、スマートスピーカーやPS4のようなゲームコンソールで聴かれる率が上がりましたね。
―全体的な再生回数も上がっているということでしょうか?
芦澤:そうですね。もともとストリーミングサービス自体が成長していたフェーズにあったので、その成長過程は続いています。
サッシャ:その話を聞いて、ラジオの聴かれ方と似ているなと思いました。ラジオも、前は朝起きて出勤するまでが一番聴かれていたんです。でも、それが午前中から昼にかけてたくさん聴かれるようになりました。radikoのアクティブユーザー数もこの期間ですごく上がったし、全体的に聴かれるようになっているというのも似てますね。
サッシャ&TJOは仕事でもプライベートでも楽曲を選ぶ際は、アッパーなものからチルなものへシフト。Spotify上でも、音楽にやすらぎを求める傾向が
―サッシャさん、TJOさんは、ご自身の音楽の聴き方やテイストの変化はありましたか?
サッシャ:ステイホームになっていろんな仕事がキャンセルになったこともあって、音楽を聴く時間は増えました。僕はいつもSpotifyの「New Music Friday」の日本とドイツのプレイリストを車で移動中に聴いてるんですけど、これまでは曲数が多いんで聴ききれなかったんですよ。でも、ステイホームで時間ができたから、今までだったら聴かなかったような新曲をチェックすることが増えました。
あとは、テイラー・スウィフトもそうですけれど「え? いつ作ったの?」みたいなアルバムが予告なしにリリースされることも増えましたよね(2020年7月24日にアルバム『folklore』をサプライズでリリース、アルバムとリード曲が史上初めて全米アルバムチャートとシングルチャートで初登場1位を記録した)。そういうものをSNSでチェックして聴いたりもしますね。突然出てきたりするんで、油断できないです(笑)。
TJO:僕も現場がなくなって、家で音楽を聴く時間が増えました。自分の場合はクラブDJなので、普段は現場向けのアガるチューン、いわゆるバンギンなチューンを聴いてたんですけれど、そういうものよりもっとパーソナルなもの、ゆるいもの、チルなものを聴くことが増えましたね。ラジオやライティングの仕事で選曲するときも、エモーショナルなもの、バックストーリーがあるものを選ぶことが増えました。
―周囲の人やリスナーにもそういうチルな音楽が好まれている傾向は感じましたか?
TJO:ありますね。騒がしいものがあまり聴かれなくなった。激しいフェス向きのEDMとか、そういうタイプの音楽が鳴りを潜めてる感じがします。
僕はこの期間にTwitchを使って配信でDJをはじめたんですけれど、そこに集まっているのは普段クラブに集まっているキッズというよりは、30代前後の能動的に音楽を聴いている人たちが多くて。そういう人たちが見えるようになった気がします。
―Spotifyのデータからも、こうした音楽のテイストの変化は見えましたか?
芦澤:音楽にやすらぎを求める傾向は高まりましたね。チルなもの、リラックスできる曲の再生が増えました。プレイリストにしても、家で何かをしながら音楽を聴くためのプレイリストが増えた傾向があります。
Spotifyでも「At Home」というカテゴリーを新たに作って、そのなかに「リモートワーク」「クッキング&ダイニング」といったプレイリストを入れています。そういったなかで、ジャンルとしてはローファイが増えた印象がありますね。これまでも人気のあるジャンルだったんですけれど、ここにきてさらに注目が増しているように思います。
―コロナ禍以降のダンスミュージックのシーンの変化についてはどうでしょうか。TJOさんは、アーティストやDJのマインドや作風の傾向について、どんなふうに見ていますか?
TJO:2018年や2019年くらいからその様相はあったんですけれど、踊らせるもの、機能的なダンスミュージックというよりも、ポップス路線に移行している傾向は見られますね。それとリンクして「エモ」や「チル」という単語が、ダンスミュージックのシーンでもキーワードになることが多くなってきた。歌モノも増えてきた。2020年になってそれが一気に加速したというイメージです。コロナになって、みんなパーソナルな作風になってきていると思いますし、そういう人のほうが支持を集めている気がします。
―ダンスミュージックって、基本的にはクラブやフェスやパーティーで集まって楽しむ社交の文化と密接に関わってきたと思うんです。そこが遮断されてしまったというのは大きいですよね。いわゆるみんなが集まって興奮するような音楽が生活にフィットしなくなっている。
サッシャ:ダンスミュージックはお酒とも密接に関係しているし、欧米にはホームパーティーの文化もありますからね。それも今はほとんどできない。フェスだけじゃなく、いろんな意味でパーティーが存在していない。そうなると、興奮の質が変わってくると思います。家で一人で大声で叫んで我を忘れるようなことはないわけで。そういう意味では、テイラー・スウィフトのアルバムも指針になっていると思います。ポップスターの彼女ですらインディフォークの路線になっている。
TJO:そうですね。今までは、同じ場所で大きい音で音楽を聴くという「体験のシェア」がメインだったと思うんです。それが今になって、人と人が会いづらくなったことで、内面的な「共感のシェア」が大きくなった。
サッシャ:だからダンスミュージックにしても、みんなで集まって騒ぐ音楽というよりも、じっくりと歌詞を聴かせるような曲が増えている気がします。
TikTok発のヒット曲、オンラインフェス、『フォートナイト』を使った施策……ステイホーム下で展開する音楽文化の新局面
―Spotifyのデータ上でも、音楽にやすらぎを求める傾向がみられたとのことでしたけど、サッシャさんとしてはラジオDJのお仕事を通じて感じる変化は何かありますか?
サッシャ:全然違うベクトルで話をすると、ここ最近のヒットって、ほとんどがTikTok発になっていますよね。もともとTikTokは若い人や子どもたちが多かったけど、僕もTikTokを見るようになったし、いろんな人が投稿するようになった。そういうこともあって、TikTokからのヒットが世界的に増えた気がします。ランキングを見ていても、なんでヒットしているのかわからないものがすごく多いんですよ。曲の聴かれ方が変わったなと思います。
―そうしたTikTok発のヒットはSpotifyのデータからも見える現象でしょうか?
芦澤:ありますね。TikTokで火がついて、それがソーシャルでシェアされることでチャートアクションが起こる例が顕著に増えています。バイラルチャートはもともとSNSでシェアされている、話題になっている曲をSpotifyが独自に指標化したチャートで、TikTokと直接関連性があるわけではないんですが、そこでバズった曲が結果的にバイラルチャートで上位になっている。
瑛人の“香水”やYOASOBI“夜に駆ける”もそうですし、それ以降も優里“かくれんぼ”のように、歌詞に共感を集める曲が弾き語りでカバーされてTikTokで広まっていく例が多いですね。日本だけでなく、グローバルでTikTok発のヒットは増えています。
Spotifyプレイリスト「TikTok Hits」を聴く(Spotifyを開く)
―オンラインDJやオンラインフェスのような新しい動きはどう見ていますか?
TJO:アーティストによって内容が全然違うのが面白いですね。象徴的だったのが、ポーター・ロビンソンの『Secret Sky Music Festival』。日本から長谷川白紙さんが参加していたのも含めて、この時代だからこそ実現したフェスだと思います。ポーターのプレイもステイホームの人たちに刺さりまくっていた。今年に入ってベストの配信だったと思います。
サッシャ:こないだ『Tomorrowland Around The World 2020』も開催されてましたし、『フォートナイト』のゲーム内でスティーヴ・アオキや米津玄師がライブをやっていたりもしたし、みんな家でフェスやライブを観ることが増えたと思います(関連記事:トラヴィス・スコット×フォートナイト なぜ「歴史的」だったのか?)。
サッシャ:ただ、そうなると、物理的な音量がクラブと全然違う。家のスピーカーでは腹まで響く音を再現できないし、耳元でも鳴らせない。ダンスミュージックにかぎらず、ダウンビートで低音がズンズン響くような音はちょっと鳴りを潜めたように思いますね。やっぱり、クラブに集まって大きなスピーカーで爆音を聴くという環境じゃないと、どうしても音が変わる。『Tomorrowland』にしても、ベルギーの現地にいるのと家では音を鳴らす環境が全然違いますからね。
TJO:だからこそ、どれだけアーティストのカラーを出せるかがポイントになってきた気がします。そういう意味では、KYGOがやった『Golden Hour Festival』は面白かった。自宅の庭から自然を背景にDJをやっていて、アコースティックギターの弾き語りのライブや、ヨガの時間もあったんですよね。
KYGOがプレイする『Golden Hour Festival』のクライマックスの模様
ステイホーム下で、チルにシフトするダンスミュージックの潮流について。「踊れる」ことと「リラックス」させることを両立するKYGO『Golden Hour』はその象徴と言える
―KYGOは7月に新作アルバムの『Golden Hour』をリリースしましたが、これも今語っていただいたようなチルやエモーショナルなシーンの潮流の象徴となっている感じでしょうか。
TJO:いろんな意味で、KYGOの新作は、まさに今のムードにフィットするようなアルバムだと思いますね。以前からあった流れがコロナ以降で加速して、さらにマッチしてきた気がします。
―お二人はKYGOのこれまでの歩みをどんなふうに見ていますか?
サッシャ:最初はエド・シーランやThe Weekndのリミックスで注目されてましたよね。The Chainsmokersと双璧をなしてきたと思うんですけれど、The ChainsmokersはそこからColdplayのクリス・マーティンに会って音楽の作り方が変わったと言っていた。一方でKYGOはノルウェー出身というのもあって、Aviciiにも通じる北欧の音楽文化の感じがありますね。自分の世界を維持している。トロピカル・ハウスという文化そのものを作った一人でもあるし、どの曲にもKYGO印が押されている感じがする。
TJO:ここまでブレない人はすごいなと思います。とりあえずゆったりしたかったらKYGOを聴けばいい、という。細かいところで作風は変わっているんですけれど、2015年、2016年あたりのデビュー当初のイメージから雰囲気を崩さずに来ている。
あの頃は激しめのEDMがメインな時代だったんでこういうトロピカル・ハウスの音はユニークだなと思ったんですが、そこからずっと成功し続けている。2017年の『ULTRA JAPAN』に来たときに、夕方帯のメインステージをやったんです。そのときにマーヴィン・ゲイの“Sexual Healing”のKYGOリミックスをかけたのを憶えていて。ちょうど夕焼けのタイミングで、最高にハマってたんですね。そこに来ていたオーディエンスの価値観を変えてしまったと思います。
KYGOは、『ULTRA JAPAN 2017』で前年に引き続きヘッドライナーを務めた。『ULTRA JAPAN』の公式Instagramより / TJOが『block.fm』に寄稿したKYGOの歩みを解説した記事を読む(外部リンクを開く)“Sexual Healing - Kygo Remix”を聴く(Apple Musicはこちら)
―KYGOは2010年代後半のトロピカル・ハウスのムーブメントを代表する存在でありつつ、ノルウェーのベルゲン出身で、あそこは小さい街なので同郷のKings of ConvenienceやRöyksoppの影響もきっとあるでしょうし、彼自身Aviciiが大きな憧れでもある。そのあたりの北欧の音楽シーンの文脈から捉えることができるアーティストというも特徴だと思います。
TJO:北欧って、優秀なメロディーメーカーがとても多いんですよね。KYGOも純粋にポップソングの作家としての才能があって、それがエレクトロニックな手法と混ざっている感じがします。
サッシャ:彼はもともとピアノもやっていたし、音楽的な素養もある。北欧の人って、英語も上手いし発音もきれいなんですよね。その親和性の高さもあると思います。メロディーメーカーとしての才能もあるし、言葉の理解もあって、マックス・マーティンのようなポップミュージックの作家が多く出てきている。KYGOもそういう人だと思うんですけれど、ここに来て新しいことをはじめましたよね。それが新作の『Golden Hour』に出てきている。
芦澤:Spotify Japanとしても2017年の『ULTRA JAPAN』で来日したときにOffice Visitに来てくれたのをきっかけに、その後も機会あるごとに交流が続いているんですが、2019年の『Wired』のヘッドライナー出演のときはわざわざ日本のオーディエンスのためにピアノの生演奏含めて日本人のオーケストラを集めた演出をしたりと、いつも特別なことを考えてくれています。音楽的にも、どんなジャンルが好きな人にも刺さりやすい、ある意味「日本フレンドリー」な楽曲で、DJの中でも特にKYGOとAviciiはどのプレイリストに入っても最後まで聴かれる率が高い、という傾向もありますね。
かつて憧れたヒーロー・Aviciiの遺志を受け継ぎ、ホイットニーら過去のディーヴァを今に蘇らせるーーサッシャとTJOが2020年のKYGOを語る
―サッシャさんはKYGOの新作『Golden Hour』をどう捉えましたか?
サッシャ:次のフェーズに来たなと思いました。今までは、自分が子どもの頃から聴いてきたものをトロピカル・ハウスのサウンドに落とし込んだサウンドを発明したんだけれど、今度は古い人を発掘するというか、今の時代のリスナーに昔のシンガーを紹介するシリーズをはじめた。たとえば「ホイットニー・ヒューストンが今の時代にこういう曲で歌うんじゃないか?」という。
リミックスではなく、歌を引っ張り出して、今の時代のトロピカル・ハウスにする。しかも自分からホイットニー・ヒューストンが大好きなんだって言っちゃう。若いシンガーをフックアップしてもいいところ、あえてそうしないところにも使命感を感じます。
―TJOさんはどうでしょう?
TJO:新しいアルバムは今までと違う要素もあるのに、徹底して「トロピカル王子」と呼ばせてしまう感じはすごいな、と。テクニカルな言い方をすると、いわゆる昔ながらの直球なトロピカル・ハウスを感じさせる楽曲は“Could You Love Me with Dreamlab”だけなんですよ。それでも全体にトロピカルな要素を感じさせるし、安心感がある。
あと、今回はAviciiを背負っているなと思います。去年の12月にAviciiのトリビュートコンサートで“Forever Yours”という曲をサンドロ・カヴァッザと披露していましたけれど、そこからの流れもある。もともとKYGOはAviciiをきっかけにクリエイターを目指していた存在ですし、アルバムでもところどころでAviciiっぽさがある。彼の遺志を引き継ごうという思いを感じました。
―今回のKYGOのアルバムのキーになる曲を選ぶとしたらどうでしょう?
サッシャ:僕はさっきの話の流れで“Higher Love with Whitney Houston”を選びたいですね。たぶんKYGOにとって、これが新しいシリーズの幕開けだと思うんです。アルバムをリリースした後にもティナ・ターナーの“What's Love Got to Do With It”のリメイクを発表していたし、ここから過去のヒーローやヒロインたちを紹介していくシリーズがはじまっていくんだろうな、と。
TJO:それで言うなら、僕は“Beautiful with Sandro Cavazza”ですね。Aviciiと一緒に作っていたサンドロ・カヴァッザを迎えて、Aviciiトリビュートの第2章のような曲になっている。“Freedom with Zak Abel”のザック・エイベルもAviciiトリビュートに参加していたし、“Say You Will with Patrick Droney & Petey”と” Someday with Zac Brown”も、Aviciiの“The Night”で歌ったシンガーソングライターのニコラス・ファーロングが参加している。やっぱり、Aviciiの次を背負って立つ感じがあると思います。
サッシャ:あとは“Like It Is with Zara Larsson & Tyga”ですね。この曲はザラ・ラーソンが参加しているけれど、彼女も北欧コネクションと言える。“Lose Somebody with OneRepublic”にしてもそうですけれど、OneRepublicも初期から参加しているし、最初から豪華なメンツが参加しているのもKYGOの象徴的なところですね。
コロナ禍以降、「現場で踊る」ことができなくなり、ダンスミュージックという文化の向かう先は?
―今年のダンスミュージックのシーンの先行きについても訊ければと思います。TJOさんは、KYGOの他にも印象深い作品や、新作を期待しているアーティストはいますか?
TJO:僕は圧倒的にポーター・ロビンソンですね。まだシングルしか出ていないんですが、今年に入ってからリリースした“Get Your Wish”は、今のチルなムードにフィットしている。バーチャルセルフでやっていたことも活きてきて、一気に化けた。「ポーター・ロビンソン2.0」がはじまった感じがします。時代にあっているし、今年のアルバムはとんでもない事件になるんじゃないかという気がします。
―サッシャさんはどうでしょう?
サッシャ:一つは、無名の人がもっと出てくると思うんです。なので、あえて誰というよりは今まで知らない人。10代のよく知らないトラックメイカーがヒットを飛ばすようなことがもっと起こると思いますし、そこに期待したいですね。あとはダンスミュージックで言うと、マスク時代ということでアラン・ウォーカーですね。
彼は前からずっとマスクをしていて、自分のロゴを入れたマスクも去年から売っていたんですけれど、それもコロナになってサージカルマスクっぽくアップデートされていた(笑)。今は鳴りを潜めていますけど、次に何を出してくるかには注目しています。
TJO:あと今、アーティストが自分のやりたいことをはじめている感じがしますね。売れるもの、ポップなものをやるというより、パーソナルなことをはじめている。
たとえばTiëstoがメロディックトランスをやるための「VERWEST」という新しい名義での活動をはじめたり、カルヴィン・ハリスが別名義の「Love Regenerator」でハウス・リバイバルをはじめたりしていて。それぞれのアーティストが好きだったものを今の時代にもう一度再現している流れもあると思いますね。
―それぞれのアーティストにとってもレジデンスのDJやフェスでツアーを回るスケジュールがなくなっているわけですよね。現場に出ないからこそ、それぞれのDJが自分の好きなことやルーツを追求している。
サッシャ:ちょうど去年くらいから、いろんなDJが次に何をするかを模索していた流れがありましたからね。コロナが来てそれが加速した。
TJO:そうですね。あとは話題作りというのもあると思います。KYGOにしても、普段だったらアルバムを出して、今頃はイビサ島でレジデンシーのDJをやっているんですけれど、それがなくなった。それで新曲を出していこうというので、ティナ・ターナーの“What's Love Got to Do With It”が出た。
サッシャ:今はヨーロッパだと渡航制限がなくなってきていてるので、バカンスでどこかに行く、避暑地で音楽を聴くという人はいると思うんです。でもイビサ島でのパーティーはあまりない。集まって何かをするというのはしにくい。そういう状況に対してどういう音楽が出てくるかは楽しみですね。
ただ、今回のコロナが終息したら、逆に爆音で聴くような音楽のブームが一気に来ると思いますよ。「フェスに行きたい」「クラブに行きたい」「腹に響く低音が聴きたい」という欲求が溜まってる人はたくさんいると思うんで。
TJO:いつかこの状況が落ち着いたら爆音で騒ぎたいというムードはありそうですね。
―そういう意味でも、2020年の夏は特別なシーズンになりそうですね。
TJO:生まれて初めて何もない夏ですよね。イベントもない、フェスもない、海水浴場もやってない。だから、みんな妄想でバカンスや旅行を疑似体験するようになる。だから、音楽にもリゾート感のあるようなもの、切ないものが増えている。KYGOのアルバムは家で聴いていてもバカンスになるので、そういう2020年の夏に最適なアルバムなんじゃないかと思いますね。
KYGO『Golden Hour』収録曲(Apple Musicはこちら)本稿と連動して、サッシャ&柴那典&TJOと編集部でセレクトしたSpotifyプレイリストを聴く(Spotifyを開く)
- リリース情報
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- KYGO
『Golden Hour』 -
2020年7月8日(水)発売
価格:2,420円(税込)
SICP-63271. The Truth with Valerie Broussard
2. Lose Somebody with OneRepublic
3. Feels Like Forever with Jamie N Commons
4. Freedom with Zak Abel
5. Beautiful with Sandro Cavazza
6. To Die For with St. Lundi
7. Broken Glass with Kim Petras
8. How Would I Know with Oh Wonder
9. Could You Love Me with Dreamlab
10. Higher Love with Whitney Houston
11. I'll Wait with Sasha Sloan
12. Don't Give Up On Love with Sam Tinnesz
13. Say You Will with Patrick Droney & Petey
14. Follow with Joe Janiak
15. Like It Is with Zara Larsson & Tyga
16. Someday with Zac Brown
17. Hurting with Rhys Lewis
18. Only Us with Haux[日本盤CD限定ボーナストラック]
19. Carry on with Rita Ora
20. Not Ok with Chelsea Cutler
21. Think About You with Valerie Broussard
- KYGO
- プロフィール
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- KYGO (かいご)
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ノルウェー、ベルゲン出身のDJ/プロデューサー。6歳よりピアノを始め、15歳でDJをスタート。ColdplayやRed Hot Chili Peppersを好んで聴いていたが、同じスカンジナビア地方のアーティスト、Avicii“Seek Bromance”に衝撃を受け、エレクトロニックミュージックの道を志すようになり、同時に楽曲制作を始める。南国を連想させる、ゆったりとしたビートが特徴的な「トロピカル・ハウス」の火付け役として注目を浴び、自身初のオリジナル楽曲“Firestone ft. Conrad Sewell”などが大ヒット。その後、音楽ストリーミングサービスSpotify史上最速で再生回数10億回を突破したアーティストとなった。2019年、映画『名探偵ピカチュウ』のエンディングソングに、リタ・オラをゲストに迎えた“Carry On”が起用され、話題に。2020年5月29日に配信されたニューアルバム『Golden Hour』が、7月8日に日本盤CDとなってリリースされた。
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