総合芸術制作会社デリシャスカンパニーを率いる建築家・半田悠人は「建築に親近感を持ってほしい」と話す。かつて『テラスハウス』に出演し、多くの人々に注目される立場になったからこそ感じた「エンターテイメント」の持つ力強さが、自らが建築家として進む方向を照らしたのだという彼が、建築の仕事に感じる「光」とはどのようなものなのだろうか。
空間を豊かにするLIXILの壁材商品「エコカラット」の新プロジェクトLIXIL「PEOPLE & WALLS MAGAZINE」とCINRA.NETがコラボレーションし、空間と人との関係にフォーカスし、インタビューを行っていくこの連載。第二回目となる今回は、1991年に閉業した映画館をデリシャスカンパニーが改装したスペース「元映画館」で取材を実施。壁に対してもユニークな発想とこだわりを持ち、利用する人それぞれにとって心地よい空間作りを目指す半田が、思い描く理想の建築家の姿を聞いた。
建築って縁がない人からは興味を持たれないものになってしまう。僕がやるべきことは、そういうことじゃないなと思ったんです。
―半田さんは幼い頃、大工さんに憧れていたそうですね。
半田:子どもの頃、工作が好きで。きれいなダンボールやお菓子の蓋を使ってビー玉の迷路を作ったり、レゴを説明書通りじゃなく自由に作って楽しんでいました。あれが僕の原体験だったと思います。それと今やってることは大きく変わらないですね。
中学生の頃には建築家になりたいと思っていたんですけど、当時は建築家がどういうことをするのか実はあまりわかっていなくて。「家を建てる人」くらいのイメージしかなかったし、「画数が多いからかっこいい」くらいの理由で建築家になりたいと思っていました(笑)。
―デリシャスカンパニーはどのように立ち上げられたのでしょうか。
半田:もともとは東京藝術大学時代の仲間たちと「アーティストユニットになろう」という軽いノリで始めたんです。藝大にはグループで活躍している人たちがいて、先輩である藤元明さんたちがやっている「REBIRTH PROJECT」を見て、それぞれの能力がグループの中で発揮されているのって面白いなと思ったし、SIDE CORE(2012年、高須咲恵と松下徹が発足し活動を開始したアーティスト)とも仲がよくて影響を受けました。
だから、立ち上げ時には会社にするつもりはなかったんですけど、最初からなぜか「デリシャスカンパニー」という名前だったんですよね。覚えやすいし、かっこつけてないからという理由だったんですけど、今思えば会社化するという伏線でしたね(笑)。
―当初はどのような活動をされていたのですか。
半田:まず展示をしたんですよ。僕が『テラスハウス』に出た直後だったこともあってか、いろいろな人が会場に来てくれて。でもそこで世間とのアートに対するギャップをすごく感じました。
―それはどうしてでしょう。
半田:会場に来ても作品をまったく見てくれなくて。もちろん買ってもくれません。言ってしまえば、「僕とちょっと話してみたい」という人が多かったんです。もちろんありがたいことではあるけれど、残念でもありました。
一方で、僕はそれからエンタメってすごく大事だなと思うようになったんです。建築って結構内輪なところがあるんですよ。堅くて難しい言葉もたくさん使われるし、建築に縁がない人からはどんどん興味を持たれないものになってしまう。僕がやるべきことは、そういうことじゃないなと思ったんです。だからこういう企画の取材にも出ますし、もっと親近感を持ってほしいんです。
古いものを残すときは、そのまま保存するんじゃなく、必ず時代とともに刷新していかなきゃいけないと思っています。
―いわゆる建築家像とは違う部分にご自身の活動の行き先はあると思われたんですね。半田さんは建築物を作るうえでもそうした考え方を持っているのでしょうか。
半田:根拠なくルールに則っているだけの、既成概念にとらわれたものは基本的につまらないと思っています。だから何かを作るときにもその発想が基盤にあって、そうした意味で、僕は動くものにいつも可能性を感じるんです。
例えばここ(元映画館)を作るときも、もともとスクリーンのある壁ごと動いたら面白いなと思っていて。実現はしなかったんですけど、設計図も引きました。仮にスクリーンが動いて、スクリーンの裏に空間が生まれたら、誰かが映画を観て楽しんでいる裏で、ホテルが営業されていたりして。そういうことを想像するだけでわくわくします。
「元映画館」製作過程
―「元映画館」は1991年に閉業した映画館「日暮里金美館」を改装されたスペースですが、特徴的な壁など、全体に映画館時代の名残が残されているのが印象的です。
半田:最初にこの場所に来たとき「なんだこの壁?」と思いました。多分この色は煙草のヤニ汚れなんですよね。でも、それがかっこいいからあえて手を入れないようにしようと思って、元の壁にまったく塗装せず、残しています。あと、この壁は遮音壁なんですよ。
―遮音壁?
半田:昔の映画館は、今みたいに音響設備が発達していなかったので、空間全体に音を反響させることでサラウンドを作っていたんですよ。なので壁の作りも左右非対称なんです。ここにも、スピーカーはセンターに一つしかないんですけど、それでもすごく鳴り響きます。
―まだテクノロジーが発達していない時代だからこそ、壁を有効活用していたんですね。そうした由来を知ると、空間をより面白く感じます。
半田:この場所をただの物件としてとらえたら、全然違う改装をすると思います。実際にそういう話も結構あったらしいんですけど、僕らは「終わった映画館として開きたい」というプレゼンをして貸してもらって。でも、だからといってこの場所を映画館として復活させることはしたくないと思ったんです。
古いものを残すときは、そのまま保存するんじゃなく、必ず時代とともに刷新していかなきゃいけないと思っています。すごく昔に見た『情熱大陸』で、あるクリエイターの女性が「伝統は革新を持ってしか引き継がれない」と言っていたことが、僕はずっと印象に残っていて。そういう温故知新的な感覚を大切にしています。
建築家は、カウンセラーのようであるべきだと思うんです。
―中学生の頃漠然と憧れを持っていた建築家に実際になってみて、どのようなことを感じていますか。
半田:学べば学ぶほど哲学的で、非常に面白い学問だなと思っています。いまだに答えがわからないし、ものすごく大変で、辛いことも多いです。でも時折、光が差す瞬間があって、だからやめられないなと思います。
―例えばどんなときに、その光を感じるのですか?
半田:今すごく苦しんでいる仕事があって。これまではいわゆる大手の会社が手掛けていたクライアントの仕事なんですけど、新しい風を吹かせたいということで、僕らに依頼が来たんです。すごくいい仕上がりになってきたんですけど、だからこそクライアントにも、もっとよくしたいというこだわりが出てきて。何度も修正があったし、納期も大変で、すごく辛いんですけど、一方で、これだけ人を諦めさせない、動かす力のある空間を作れたんだなということに喜びを感じるんです。
―人の心を揺るがすことができたというのが、半田さんにとって仕事をするうえでの「光」なんですね。
半田:建築は、資本主義経済と密接に関わっています。憧れの家があっても、99%の人がそこには住めない。つねに理想と現実のギャップが大きいんですよね。限られたお金の中でどれくらい頑張れるかが僕らの戦いです。
でも、憧れに近づけるだけじゃデザイナーの仕事とは言えないから、その人の理想を上書きしたいといつも思います。建てたい人と共犯者になって、一緒に作りあげるような気持ちです。なので、いつも儲けに関係なくめちゃくちゃ動いてしまうのですが(笑)。
―半田さんはどんな建築家でありたいと思っていますか。
半田:売れている建築家やデザイナーの人たちには、スター性があるし、自分の色がはっきりあります。僕もそういう存在に憧れたことがあるんですけど、今はまったく違います。建築家は、カウンセラーのようであるべきだと思うんです。クライアントの理想を、きちんと形にして返すことが大切だし、キャッチボールしながら、相手の想像力を補ってあげることが大事だなと、まだまだ未熟ながら思っています。
LIXIL「PEOPLE & WALLS MAGAZINE」では、半田悠人さんのインタビュー後半を掲載。 「壁が斜めになったら天井になるのか?」「壁があると人は落ち着くのか」など、建築家としての目線から半田さんらしい壁へのこだわりや面白さを語っていただきました。
- プロジェクト情報
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- LIXIL「PEOPLE & WALLS MAGAZINE」
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壁は間取りを作るためのものだけではなく、空間を作り、空気感を彩る大切な存在。その中でインテリアや照明が溶け込み、人へのインスピレーションを与えてくれる。
LIXIL「PEOPLE & WALLS MAGAZINE」は、LIXILとCINRA.NETがコラボし、7名のアーティストにインタビューを行う連載企画。その人の価値観を反映する空間とクリエイティビティについてお話を伺います。
- プロフィール
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- 半田悠人 (はんだ ゆうと)
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幼少のころに見た大工さんに憧れ、挫折と紆余曲折を経た後、建築の道へ進む。総合芸術制作会社デリシャスカンパニー主宰。現在も建築家として数々のプロジェクトを手がける。
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