やっぱり、自分のことは自分で語らなければいけない――そんなことを、ラッパー・ASOBOiSM初のフルアルバム『OOTD』を聴くと感じる。「OOTD」とは「Outfit of the Day」の略で、「今日のコーデ」という意味だという。鋭く突き刺すような怒り、理知的なユーモア、脆く繊細な感傷、そして、甘くしたたるような愛情……日々のなかから生まれる様々な感情が刻まれたリリックは曲ごとに生々しく、コロコロと表情を変えていくが、アルバム全体を貫くトーンは、とても柔らかくメロディアス。聴き手の生活にそっと寄り添いながら、生活の細部に宿る感情のグラデーションを力強く肯定するような、そんなアルバムに本作は仕上がっている。小さな独り言も、吐き捨てられた愚痴も、このアルバムのなかでは宝石のように輝いている。
ASOBOiSMは、2015年に「たなま」という名義でギター弾き語りを軸としたシンガーソングライターとしてデビュー。その後、2017年に現在の「ASOBOiSM」へと名前を変え、表現の軸をヒップホップへとシフトチェンジ。そして、OLとして働きながら音楽活動を続けてきたという異色の経歴の持ち主だ。そんな、彼女にしか生きることのできない人生の、その一回性に実直に向き合った末に生まれた音楽には、ASOBOiSMという「個」のリアルが克明に刻まれている。valknee、田島ハルコ、なみちえ、Marukido、あっこゴリラと結成した「Zoomgals」での活動でも注目を集める彼女。その表現の根底にある意志に、単独インタビューで迫った。
内に秘めたものを、心が揺れ動く瞬間を言葉に。ASOBOiSMが語る、自らのラップスタイル
―初のフルアルバム『OOTD』がリリースされましたが、このアルバムを改めてご自分で俯瞰してみると、どんなことを感じますか?
ASOBOiSM:ブレてないな、と思います。アルバムに入っているのはこの2年間くらいで作ってきた曲たちなんですけど、音楽をはじめた19歳の頃は、ここまで自分に正直になれてはいなかったと思うんですよ。でも、ASOBOiSMになってからは、自分の感情に素直に曲を書いてきたなと思います。
―ASOBOiSMさんは、もともと「たなま」という名義で、ギターの弾き語りを軸に活動されていたんですよね。そこから表現方法の軸がヒップホップになり、ASOBOiSMとしての活動していくなかで、曲に素直さが生まれてきたということでしょうか。
ASOBOiSM:そうですね、たとえば“HAPPOUBIZIN”とか、“PRIDE”とか、こういう自分の愚痴がそのまま出ているようなタイプの曲は、たなまの頃は書かなかったと思います。
ASOBOiSM:弾き語りをしていた頃は、誰かに褒めてもらうために曲を書いていたなと思うんですよね。遊びがなかったというか、尖ったところがなさ過ぎて、周りに溶けていくような感じがあって。あまりにも普通というか……「普通」がなにかもわからないんですけど。
―今のASOBOiSMさんにとって、曲を作るということは、自分の感情を曝け出すようなことでもある?
ASOBOiSM:日記というほどではないですけど、愚痴っぽいことも含めて、自分の心が揺れ動いた瞬間に、携帯のメモにそれをバーッと書きなぐるというか、打ちなぐって(笑)、そこから私は曲を作っていくんです。きっと、私は感情の起伏が激しいほうなんだろうと思うんですよね。仕事でも私生活でも、人間関係が上手くいかないこともあるし、もちろん女性だから生理だってあるし。
―なるほど。
ASOBOiSM:最近、中高生に曲作りを教える「GAKU」というプロジェクトに講師として参加したんですけど、そこで私が教えていた高校生の女の子が、自分のノートを見せるのをすごく恥ずかしがっていて。書いたものを「見せて」と言うと、全部消しゴムで消しちゃったんです。感情を大っぴらにするのって、ここまで勇気がいることだったんだって、改めて気づきました。私はそれが当たり前だと思ってやってきたから。今の私は、大胆にというか、素直に、直感的に、曲を書いているなと思います。
―心が揺れ動く瞬間をメモに書くというのは、昔からずっと続けていることなんですか?
ASOBOiSM:昔からたまに日記は書いていました。小学生の頃に書いた日記が出てきたことがあったんですけど、赤いペンで「○○(名前)、うぜー!」とか、「あいつを見返してやる」とか書いてあって(笑)。
―ははは(笑)。
ASOBOiSM:ヤベエやつだなと思うんですけど、今と全然変わってないなとも思います(笑)。負けず嫌いだし、内に秘めるものは大きいというか。ぼんやり生きているタイプではないので、感情が壁にぶち当たることは多いです。
個性を消して働くこと、他人の人生と比べて引け目を感じること……窮屈な社会で、自分だけの言葉を見つけられる「ラップ」の持つパワー
―「GAKU」で出会った高校生のように、「自分を見せる」ということに恥ずかしさを感じることはなかったですか?
ASOBOiSM:いやあ、私はむしろ気持ちよかったですね(笑)。ありのままの自分を受け入れてくれることって、社会に出るとそうそうないと思うんですよ。たとえば、会社で働いていると、ありのままでいられないことはたくさんあって。私は銀行の事務で働いていたので、自分の個性を消さなければいけないことも多かったんです。でも、ラップならそういう部分を思いっきり出せるし、それは恥ずかしくないし、気持ちいいことです。最高だなって思います。
―アーティスト活動をしていくなかで、人に「教える」という立場に立つことって、すごく特別な経験だと思うのですが、「GAKU」での「教える」という行為を通して、自分自身が得ることができたものはありますか?
ASOBOiSM:私が出会った高校生の彼女は進路に悩んでいて、その子がノートに書いてくれた言葉のなかに、「青春コンプレックス」という言葉が出てきたんですよ。「この言葉はどうして生まれたの?」と訊いたら、「サマー・コンプレックス」という言葉からきているらしくて。
「サマー・コンプレックス」というのは、みんなが爽やかに遊んでいるイメージを「夏」という季節に対して抱くのと比較して、「自分は夏を謳歌できていないんじゃないか?」と思ってしまう状態のことを指す言葉らしいんです。そこから、彼女は「青春コンプレックス」という言葉を作ったんです。
―面白いですね。言葉が生まれる瞬間というか。
ASOBOiSM:そう、すごく面白くて。「青春コンプレックスってどういうことなの?」と訊くと、「私は、自分のカメラロールを振り返ったら、友達と遊んでいる写真はあんまりないけど、犬と夕日の写真ばかりで……」と言っていて。
それって全然悪いことではないんだけど、世間が作り上げてしまった青春イメージが勝手にでき上がっていて、それが彼女のなかでも膨らんで、それに囚われて……って感じなんだと思うんです。私はその子に新しい言葉をもらったような感覚にもなって。こういうことって、人と一緒に曲作りをしないと得ることができないものだし、私もすごくいい体験をさせてもらっているなと思っていますね。
―高校生の子が「青春コンプレックス」という言葉を生み出すような、「自分の気持ちを自分で語らなければいけない」という欲求に突き動かされて何かが生まれるというのは、本当に、モノ作りの本質という感じがします。
ASOBOiSM:そうですね。ラップは特に、シンプルに「歌詞を書く」ということだけじゃなくて、それに加えて、韻を考えたりしていくなかで、ラップだからこそ生まれる造語があったりするんですよね。私は、ラップのそういうところが好きですね。
「『揺れて聴けるような感じにしよう』ってことは、コロナ禍だからこそ思いました」
―具体的に、曲はどのような工程で作られていくんですか?
ASOBOiSM:曲によるんですけど、私は、感情がすごく揺れ動いてキツくなっているときは、曲を書かないんです。それが一旦通り過ぎて、自分の心が平常になったときに、メモを見返して、俯瞰して、「こういう曲を書いたら面白いな」と思うものをテーマに書きはじめる感じで。
なので、まずは「プライドの高い男のことを書こう」みたいにテーマを決めて、そこからボイスメモで、フックになる部分のメロディと、降りてきたときは歌詞も録るんです。そのあと、Logicで打ち込みをしたり、spliceとかでビートを探したりしますね。あとは、ギターをポロポロ弾きながら滅茶苦茶に歌ってみて、ハマった瞬間から広げていくこともあります。
―『OOTD』のなかには、ギターが聴こえてくる曲もありますね。ギターという要素は、弾き語り時代から続くASOBOiSMさんの音楽の特徴になっているのかなと思うのですが。
ASOBOiSM:そうかもしれないです。特に、最後の“Wasabi”という曲では全部のギターを自分で弾いていて。他にも、たとえば“あまのじゃく”なんかは柔らかい曲調だと思うんですけど、これはデモの段階からアコースティック調で、それに対して、アレンジしてくださった関口シンゴさんが「僕ならこうするよ」と返してくれたのが、めちゃくちゃよくて。
ASOBOiSM“あまのじゃく feat.関口シンゴ”を聴く(Apple Musicはこちら)
―僕が『OOTD』を聴いて感じたことなんですけど、それぞれの曲のリリックで綴られていることには、怒り、悲しみ、弱さ、強さ、愛情……そういった感情の起伏があり、すごく緩急があると思うんです。ただ、作品全体としては、非常にメロウに聴けるというか。音楽的には非常に柔らかい作品で、そこがすごく心地いいなと。
ASOBOiSM:意識していたわけじゃないんですけどね。ただ、このアルバムのなかにコロナ禍だから書いた曲はないんですけど、作品全体を組み立てていくときに「揺れて聴けるような感じにしよう」ってことは、コロナ禍だからこそ思いましたね。みんな家で音楽を聴く機会が多くなっているから、BGMになれるような配置にしたほうがいいなと。
―コロナによる自粛期間は、ASOBOiSMさんはどのように過ごされていましたか?
ASOBOiSM:7月末に働いていた職場を退社したんですけど、それまでは自粛期間中も普通に出勤しなくちゃいけなくて結構、病んじゃいましたね(苦笑)。自粛期間はほとんどいつもと変わらず、普通に会社に行って、会社が終われば音楽活動をして、土日も音楽活動をして。そんな生活でした。「つらー」って感じでしたね。会社を辞めてからは、もう最高なんですけど(笑)。
―(笑)。
ASOBOiSM:「昼まで寝ていいんだ!」みたいな(笑)。でも、好きなように自分の生活を組み立てるのって、案外難しくて。それまでずっと、朝早くに出社して、夜決まった時間になったら帰るっていう生活だったけど、曲作りって1日8時間労働とかじゃないし。だからこそ、会社を辞めてすぐの頃は「今日、全然音楽できてないな」って罪悪感が湧いてくることもあったんですけど、最近はどうすればいいかわかってきました。
普通ってなに?――Zoomgalsの面々との関係を通じて見つけた、ASOBOiSMとしてラップするべき言葉
―5月にZoomgalsとしてリリースされた“Zoom”でも、銀行で働かれていた頃のことを歌われていましたね。
ASOBOiSM:そうですね。あの曲は、みんな「わかる!」って言ってくれて(笑)。
―Zoomgalsのメンバーって、みんなそれぞれ個性が違うけど、そんな人たちが一緒に音楽を作れているところに、このユニットの幸福感があるような気がするんです。ASOBOiSMにとって、Zoomgalsは居心地のいい場所ですか?
ASOBOiSM:Zoomgalsは個性を尊重するグループだし、居心地はいいです。それぞれが得意不得意はもちろんあるけど、全員が全員の存在を肯定するんです。たなまとしてギターの弾き語りをやっていた頃も友達はいたんですけど、でもどこか、今のZoomgalsの関係性とは違うんですよね。
―これだけ多様な面々のなかにいることによって、「自分とは何者か?」ということも深く理解できそうだなと思います。
ASOBOiSM:私はどちらかというと普通というか……普通がなんなのかは、わからないですけど。めっちゃグレたこともないし、特別なバックグラウンドはなくて。でも、普通に働いていたりするからこそ、音楽1本でやっていたら絶対に書けないことを私は書けるし。そこが私の強みなんだろうなとは思いますね。
―今日、何度か「普通」という言葉を言いかけていますけど、その都度、ご自分で引っかかっている感じですね。
ASOBOiSM:つい「普通」と言ってしまうんだけど、「普通」がどういうものか、私もわからないんですよね。たとえば、私は人生で1番になったことがないんです。テストで1番になったこともないし、すごく可愛いわけでもない。成績表でいうとオールBみたいな、数値的にスタンダードな場所にいるんですけど、「だから自分は普通なのか?」と考えると、きっと世の中の人からしたら、私って普通じゃないことをやっていると思うんです。
―そうですよね。
ASOBOiSM:だから、考えれば考えるほど「普通」がどういうものなのか、わからなくなるんです。Zoomgalsのなかにいると、私って普通……というか、平凡な女の子だなって思うこともあるんですけど。
ASOBOiSM:でも、私に限らず誰もがきっとそういう部分はあるんですよ。だから、あんまりよくないなと思うんです、「普通」っていう言葉を連発するのは。
―難しいですよね、つい口から出てくる言葉でもあるし、人に伝えるときは、この言葉が一番伝わりやすいような気もするし。でも本当は、「普通」という言葉では簡単に形容できないものが、そこにはあって。
ASOBOiSM:そうなんですよ。本当は、すごく言語化が難しいものが奥にはあるんですよね。「普通」と言っても、それは、決して無個性なわけではないから。人生を歩んできて、なにもないわけがない。それぞれが書ける言葉があると思うし、それぞれの意見があると思います。そこは、大事にするべきですよね。自分が特別かどうか、自分がマイノリティかどうかではなくて、自分の意見を持って、それを発信することが大事なんだと思う。
社会の常識や会社の規律、周りの目に囚われぬよう。遊び心は忘れずに
―ラップという表現について改めて伺いたいのですが、たなまからASOBOiSMへと変化する、そのターニングポイントにはMOROHAの存在があったそうですね。MOROHAから、どのようにラップ表現を掘っていったのでしょうか?
ASOBOiSM:MOROHAさんを初めて聴いたとき、あれがラップだとは思っていなかったと思うんですよ。カテゴライズできない人たちだし、あの音楽は「詩」だと思うし。ただ、初めてMOROHAさんに出会った、その体験からラップを聴きはじめて、そこからスチャダラパーさんを聴いて「気取らない日常を切り取るようなラップをやりたいな」と思ったり。あと、サイプレス上野さんの存在も大きいですね。
―サイプレス上野さんは、今回のアルバムでは“TOTSUKA”でフィーチャリングされていますね。上野さんは、同郷ということですよね。
ASOBOiSM:そうですね。私は横浜の戸塚区出身なんですけど、人に「戸塚出身」といっても伝わらないから、ずっと人に話すときは「横浜出身だよ」と言っていたんですよね。これ、戸塚あるあるだと思うんですけど(笑)。でも、サイプレス上野さんを聴くようになってからは、「私は戸塚出身。サイプレス上野と一緒」って言うようになりました(笑)。地元の誇りというか、地元のスターって感じですね。
ASOBOiSM:この曲のレコーディングの現場も立ち合ったんですけど、ホントにかっこよかったです。今までの私のラップの録り方って、いいテイクを切り貼りしていくことも多かったんですけど、サイプレス上野さんは、16小節のヴァースをフルでやって、「ちょっと違う」と思ったらもう1回頭からやるっていう感じで。それが「ヤバっ! かっこいいっ!」って。フェイクがないというか、言葉の説得力も違うなと感じましたね。その影響で、私も最近はヴァースを続けて録るようになりました。
―戸塚はどんな場所ですか?
ASOBOiSM:昔は結構田舎だったんですけど、最近は開発されて、いろんなお店もできているんです。ただ、それでもやっぱり目立たないというか(笑)。戸塚は、私みたいな街だなって思います。都会とも言えないし、田舎とも言えないし、どこにカテゴライズもされない街なんですけど、そういうところが私っぽいというか。自分のことを考えると、戸塚っぽいなと思います(笑)。
―スチャダラパーを見て「気取らない表現」をラップでやりたいと思ったということですが、ユーモア感覚のようなものも、ASOBOiSMさんは、自分の表現のなかで大切にされていますか?
ASOBOiSM:社会人になって、遊び心が消えていったような気がするんですよね。周りの目だったり、会社の規律だったり、そういうものに囚われすぎて、どんどん窮屈になっていく。「金髪で会社に出社したからどうなんだ?」って感じじゃないですか。罪を犯しているわけでもないのに。それでも、「社会人なんだから当たり前でしょ」っていう感覚に囚われすぎちゃって、遊び心がなくなっていく……そういうのが嫌だなと思って。なので、「遊び」は大事にしています。
見た目で9割が判断されてしまう社会で生きていくということ
―今のお話を聞いて改めて思うのですが、ASOBOiSMさんの表現は、「怒り」とか「悲しみ」とか、特定の感情を伝えたり訴えたりすることが目的なのではなく、あくまでも自分を幸せにするためのものなんですよね。
ASOBOiSM:そうだと思います。誰かのために曲を書くんじゃなくて、自分のために曲を書いているので。それが、蓋を開けてみると私と同じ体験をしていたり、同じ感情を抱いたりする人がいて、そういう人たちが「よく言ってくれた!」とか「救われた」と言ってくれる人がいる。そして、そういう人がいてくれることで、私自身、「同じ人がいたんだ」と思ってホッとできる。今のこの感じがすごくいいなと思っています。本当に、私自身が、音楽に救われている感じがしますね。
ASOBOiSM“スクランブルメンタル”を聴く(Apple Musicはこちら)
ASOBOiSM:今、私も就職活動をしているんですけど、「そんな髪じゃダメだ」と言われるのでカツラを被りながらやっているし、そういうのを聞くたびに、「はあ……」ってなっちゃって。私は、そういうことを簡単に受け入れて満足できる人間ではないんですよね、なぜか。
―就職するのに髪色は関係ないだろうって感じですよね。
ASOBOiSM:そうなんですよ。ホント、人って見た目が9割で判断されるんだなって思います。私自身、ASOBOiSMとして、こうやってサングラスをかけて、派手な髪形をするようになってから「カッコいい女性」と言われるようになったんですけど、別に中身は変わっていないんですよね。
やっぱり見た目で9割は判断されるんだなって思う。それが悲しいなと思うこともありつつ、まあ、「イメージが作れる」という面ではいいんですけどね。
ASOBOiSM:私がサングラスをかけて派手な格好をしているのも、リスナーが「こうあってほしい」と思うASOBOiSMの姿だったりすると思うからだし。でも、私も家に帰れば泣いたりするんですけど。
―「弱さ」というのも、このアルバムの深くに漂っているものですよね。
ASOBOiSM:私はもう、弱小です(笑)。別にメンタルが強いわけでもないし、病気とかもしてきたし、「強そう」とか、「お酒強そう」とかよく言われるんですけど、全然そんなことないんですよね。酒、めっちゃ弱いですからね(笑)。本当に強くない、弱小なんです。
“ナイーブ”のような曲は特に、私の弱さが出ている曲だと思うんですけど、ああいう曲を出しても、それでも「強い」と言われるのは、「強くないですよ」と普通に言えることが強いことだと受け取られるんですよね。そう考えると、自分の醜い部分も、人には自慢できないような部分も曝け出すことができる強さは、自分にはあるかもしれないです。
自信がなくても、キラキラじゃなくても、人生は一度きりだから
―1曲目の“PRIDE”の歌詞を見ると、これは肩書きのような「強さ」を纏うことしかできない人間を皮肉っているように思えますね。
ASOBOiSM:“PRIDE”は、働いていたときに体験したことが基になってるんですけど、私が音楽をやっていることを、めっちゃバカにしてくる人がいて。「俺、タワマン住んでたんだよね」とか、「この間、女の子フってさー」とか……そういう話ばっかりしてきて、「しんどいなあ」って。「この気持ちを全部曲にしてやろう」と思って、書きました。書いたときはスッキリしましたね(笑)。
―(笑)。当時勤めていた会社を辞められたのは、なぜだったんですか?
ASOBOiSM:同僚もどんどん辞めていっちゃったんですよ。それで職場が「おはよう」も「お疲れ様」と言わない環境になってしまって。そういう会社にいると、「自分は必要?」「なぜここにいるんだろう」って心が病んできてしまって。会社勤めしていると曲のネタはたくさんできるし、その反動で音楽活動も楽しめたけど、心の健康は大事だから。それで、辞めました。やっぱり、人生って1回しかないから。
―当たり前のことだけど忘れそうになりますよね、人生は一度きりなんだって。
ASOBOiSM:出し渋っている場合じゃないなって思う。会社もつらければ、すぐに辞めればいい。自分の人生なんだから、そういう選択も自由にできるはずなんだけど、いろんな責任なんかがまとわりついてきてしまう……。でも、人生は一度きりだから。
高校生の頃、アメリカに留学したことがあったんですけど、そこのホストファミリーのお母さんが、毎朝、「後悔しないように生きなさい」と言って送り出してくれたんです。今言ったことは、そういうところから根付いていった精神のような気もします。おかげで、アメリカから帰ってきたばかりの頃は、めちゃくちゃ自尊心が強かったんですけど(笑)。
―その自尊心は、今はどうなんですか?
ASOBOiSM:曲作りに関しては、かなり自信はあるんですけど……でも、それ以外の部分では、過度な自信はないのかなあ。自分の容姿も自信ないし、音楽でご飯を食べることができていないことに未来に対して不安を感じることもあるし。自分が、いつどこでどうなるかもわからない。
たまにCINRA.NETのインタビューとかを読むと、みんなキラキラして、「未来へゴー!」って感じだけど(笑)、そういうのと自分を比較してしまうこともありますよね。
―ははは(笑)。
ASOBOiSM:働いていた頃は、暇な時間にいろんなアーティストのWikipediaを見て、誰がどのタイミングで売れたのかを調べたりしていた頃もありました(笑)。でも、どれだけインタビューを読んだり、Wikipediaを見たりしても、結局はいろんな感情をぐるぐる回るだけなんですよ。
自信がない日があれば、自信がある日もあるっていうだけで、どのタイミングでも同じなのは、「自分がやるべきことを、やるしかない」ということだけなんですよね。どれだけ誰かと比べてみても、行きつくのは、いつもその答えなんです。なので、自分が最高の曲を出して、最高のパフォーマンスをする。そうやって、やれるべきことを、謙虚にやっていくだけだなって今は思っています。
ASOBOiSM『OOTD』を聴く(Apple Musicはこちら)
- リリース情報
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- ASOBOiSM
『OOTD』 -
2020年10月16日(金)配信
1. PRIDE
2. あまのじゃく(feat. 関口シンゴ)
3. YOU
4. TOTSUKA(feat. サイプレス上野)
5. HAPPOUBIZIN(feat. なみちえ)
6. UCHOTEN(feat. TACK)
7. スクランブルメンタル
8. Uwagaki
9. ROOM205(feat. 森心言)
10. Whateva♡(feat. issei)
11. ナイーブ
12. Wasabi
- ASOBOiSM
- プロフィール
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- ASOBOiSM (あそぼいずむ)
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1994年生まれ、横浜市戸塚区育ちのソングライター / シンガー / ラッパー。飾り気ないOLライフを遊び心あふれる歌&ラップで描いたガールシティポップで、2018年より怒涛の配信シングルを発表。なみちえやサイプレス上野らラッパーとのコラボも注目を集めたほか、『ねこねこ日本史』(NHK Eテレ)やアイドル・神宿などへのジャンルを超えた楽曲提供で「作家」としても高く評価されている。
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