ASIAN KUNG-FU GENERATIONの後藤正文が高校時代までを過ごした静岡県の島田市。市の中心には川幅1キロにも及ぶ大井川が流れ、かつては宿場町としても栄えた歴史ある地域だ。また、肥沃な牧之原台地には茶畑が広がり、お茶の生産地としても全国的に有名。今回は後藤に、故郷・島田の思い出や街の魅力について語ってもらった。
印象的だったのは、「なんとかなるら」という言葉に象徴される、島田の人々の楽天的でフランクな性格について。
後藤といえば、自書『何度でもオールライトと歌え』を発表してもいるように、「オールライト」というフレーズが代名詞になっているが、この言葉の背景として、島田市で過ごした少年時代はとても大きいのかもしれない。そして、「オールライト」=「なんとかなるら」の感覚は、大井川をはじめとする豊かな自然環境が育んだものなのではないか。後藤自身のフランクな語り口を聞きながら、そんなことを考えさせられる取材となった。
大井川での川遊びや歴史の勉強ーー生まれ育った島田の思い出を振り返る
―後藤さんは高校生まで島田市にいらっしゃったそうですね。少年時代はどんな風に過ごし、どんな場所で遊んでいましたか?
後藤:遊ぶ場所はいろいろありましたけど、やっぱり大井川は象徴で、町のシンボルなんですよね。例えば、小学生のときはソフトボールをやっていたので、河川敷で練習をしたり、遠足にも行きました。高校は島田高校に通っていたんですけど、川沿いの土手の下にあったので、「土手高」と呼ばれてて(笑)。野球部だったので、堤防の上を走らされたり。夏になると泳ぎにも行きました。川にまつわる思い出は本当にいろいろあります。
―大井川は市の中心を流れている、まさに象徴ですよね。
後藤:川でバーベキューもよくやりましたね。近くのスーパーが鉄板を貸し出していて、高校生の頃はそこで借りてきた鉄板で、焼きそばを焼いて食べたり。川はみんなのもので、運動してる人もいたり家族づれもいたり……憩いの場ですよね。今は僕が住んでいたときよりも、堤防沿いがすごくきれいになってます。
あとは、ちょっと山の方ですけど、伊久身(いくみ)ってところまで行けば、キャンプ場もあります。中学生のときは、頑張ってチャリで行ったりしました。
―歴史好きの後藤さんとしては、島田の歴史なども勉強されましたか?
後藤:僕らの頃は地域学習がしっかりしていて、防水の歴史は一通り学ぶんですよ。水害から家を守る工夫として昔から「船形屋敷」っていう家の造りがあったり、僕の家の近所には地元の偉人を祀ってある「五郎神社」と呼ばれてる神社があるんですけど、その人が作った「五郎堤」っていうのが残ってたり。
あとは、僕の実家の近くには「島」がつく地名が多くて、要するに、昔はみんな中洲の島に住んでたんですよね。川の周りは宿場町として栄えて「川越人足(かわごしにんそく)」っていう、人を雇って川を渡る、そういう歴史を学んだりもしました。
―やはり、川の歴史とともにある地域なんですね。
後藤:同じ静岡県でも、牧之原市はどうやって台地に水を通すかが問題だったりするんです。治水の歴史はちゃんと学んで、それもすごく記憶に残っています。だから……川の話になるとうるさいですよ。島田の人には川の話は聞かない方がいいと思う(笑)。
―島田市はSLも有名ですよね。
後藤:金谷(かなや / 島田市内の地名)にあるおじいちゃんの家が線路の近くだったから、よく見に行っていました。親戚一同が田植えをしてるのを見てると、近くをSLが通ったり。
後藤:2回くらい乗ったことがあるんですが、車掌が車内放送で歌を歌い始めて、最後にカセットテープを売ってたんですよ。自分で歌を吹き込んだ自主制作のカセットテープで、大井川にまつわる歌とかを歌ってて(笑)。今はトーマス号とかも走ってますよね。まあ、SLも大井川鐵道で、川沿いを走るから……。
―言ってみれば、それも「川」から派生してる。
後藤:そうそう。お茶もそうだし、ミカンもそうですよね。そういう地域だと思います。
島田市民の、明るくて楽天的な「なんとかなるら」の精神
―島田市の人たちの人柄についてもお伺いしたいです。島田に行ったときに印象的だったのが、コンビニやチェーン店でも、マニュアル対応ではなく、すごくフランクに話しかけてくれるみなさんの人柄でした。道端でも、女子高生やおばあちゃんが挨拶してくれたのをすごく覚えていて。
後藤:あはは。いい人もいれば、嫌なやつもいると思うんで一般化はできないですけど、話しかけてくる人は多いかもしれないですね。おばあちゃんが「ばかに天気んええら」とか言ってて、独り言なのか、僕に言ってるのかわからないみたいなことは、よくありました(笑)。話しかけられたときって、静岡弁でしたか?
―おじいちゃんだと、語尾に「ら」がついていることが多かったです。若い人は「だもんで」をよく使っていました。
後藤:「だっけもんで」とか言いますよね。あと、語尾が長いんですよ。「だよ~」とか「だら~」とか。昔はおばあちゃんが言ってることとかよくわかんないときもあったけど(笑)、確かに静岡弁はフランクな感じしますよね。
だから、わりと明るい人が多いかもしれない。もちろん、暗い人が「いない」ってことはないでしょうけど、自分の周りはわりと楽天的な感じがします。「なんとかなるら」みたいな、そういう人が多い感じしますね。
―島田の移住者の方にお話を聞くと、受け入れてくれるけど、なにかを強要されることはなくて、ちょうどいい田舎付き合いができるとおっしゃってました。
後藤:確かにそうかもしれないですね。僕も、いい大人に見守られながら育った気はします。田舎なんで、悪いことをするとすぐにバレるんですよ。「あそこの家の子が変なバイク乗って帰ってきた」とかすぐ言われちゃうけど、でもそういうのが踏み外さないための防波堤にもなる。それが嫌で東京とかに出る人もいるかもしれないけど……でも、監視し合ったりするような、過干渉な地域ではないと思います。
―環境的にも、住んでいる人の人柄的にも、住みやすい場所だと言えそうですね。
後藤:そうですね。やっぱり自然があるのは大きくて、ちょっと行けば海も山もあるし、大井川を下っていくと大井川港があって、そこで釣りもできますしね。でも、文化的なものに触れるには、静岡市まで出ないとないかな。昔は地方都市にもそれなりに文化的な施設があって、島田にも映画館があって、『ランボー3』と『孔雀王』の2本立てを観に行ったのを覚えてます(笑)。
―時代を感じますね(笑)。
後藤:あとは、もともと宿場町だったから、商店街もあるんですけど、景観とかはもっと守るすべがなかったのかなと。せっかく宿場町の歴史があるから、観光資源にもなるはずなのに、でっかいビルとか建てちゃったのはもったいない。
まあ、僕は街を出ちゃった人間だし、商店街の衰退は全国的に難しい問題でもあるし、とやかく言える立場にはないですけど、条例とかで規制して、宿場町の風情が感じられるような歴史的な景観に戻していった方がよかったのになと思います。
―場所によっては宿場町時代の名残が残っているわけですか?
後藤:お祭りは有名ですね。『帯まつり(島田大祭)』とか『髷まつり(島田髷まつり)』とか。『帯まつり』は「日本三奇祭」のひとつと呼ばれていて、『髷まつり』は「文金高島田」の発祥が由来ですよね。レガシー化していくというか、古い宿場町として売っていくのもアリなんじゃないかと思ったりもしますね。
島田を代表するお茶や、後藤がオススメするローカルフード
―島田市の特産品と言えば、やはりお茶ですよね。
後藤:僕としては、お茶は水と同じ感覚でしたね。給食にもやかんで出てきたし、お茶でうがいをしろって言われたり。首都圏に出てくると、緑茶はそこそこ高級品なわけですけど、僕らはお茶はほとんど買わないですね。
近所や親戚からもらえるもの、みたいな感覚で。昔はペットボトルのお茶もそんなになかったですし。うちも金谷の親戚を辿ると川根でお茶をやってる農家があるはずで、そういうところからもらってたんじゃないかな。
―最近では、メーカーに卸して生計を立てつつ、自分の畑では違う種類を育てたり、発酵させた独特なお茶を作ったりして、人気の農家さんが増えているそうです。
後藤:僕の友達にも、無農薬で農園をやってるやつがいて。
―後藤さんが編集長を務める『 THE FUTURE TIMES』でも、以前取材をされてましたよね(参考記事:『THE FUTURE TIMES』「いちから学ぶ有機茶園」取材 / 文:後藤正文)。
後藤:そうそう。放棄された茶畑を使ってるんですけど、でも結構大変だって言ってました。有機でお茶をやるのは、場所によっては近隣との関係もあって大変だと。農業を始めることと農薬を買うことがセットになってるのはどうなんだろうっていう話をしてましたね。
より環境にとってもいいものを作ってくれると、出身者としては鼻が高いです。農家の方のご苦労を考えると、勝手なことは言えないですけど、でも若い人がこれから始めるんだったら、そういう方が魅力があるんじゃないかな。
―島田市では「茶草場農法」という伝統的な農法によって生物の多様性が守られていて、世界農業遺産に指定されているそうです。
後藤:へー、すごい、やっぱり知恵があるんですね。そういう歴史を掘ってみるのも面白そうです。
茶畑の風景は壮観ですし、金谷駅から山の方に登って行くと、見晴らしのいい展望台とかもあるんで、そこから街を見下ろすのもいいと思いますよ。神戸が100万ドルだとすると、1万ドルくらいでしょうけど(笑)。
―ちなみに、お茶以外で後藤さんお勧めのローカルな特産品ってありますか?
後藤:本通(ほんとおり / 島田市内の地名)で言うと、「小饅頭」っていう渋い酒饅頭があって。それを小学生の頃に友達がすげえ食べてて、そいつはファミコンも上手かったんで、一目置いてましたね(笑)。
「よしむら」って鯛焼き屋も有名で、よくみんなで学校の帰りに買って食べてました。あとは、僕のおじさんがやってる「ペアバルーン」っていうサンドウィッチ屋が市役所の近くにあって、そこ美味しいんで宣伝しといてください(笑)。アジカンのツアーで静岡に行くと、差し入れで持ってきてくれるんですけど、カツサンドとか本当に美味いんですよ。
「僕らみたいなミュージシャンはもう都会に住む必要はあんまりない」
―今年はリモートワークが浸透したことによって、「働き方」に対する考え方がより多様化したように思います。今の時代の働き方、都市と地方について、後藤さんはどんな風にお考えですか?
後藤:僕らみたいなミュージシャンはもう都会に住む必要はあんまりないと思っていて、音楽を作るのはどこでもできるから、なんなら田舎でもいいじゃんと思います。島田に安い土地があって、いい建物を建てられるなら、そこでやってもいいですしね。空家をスタジオにリフォームしてもいいし。
静岡はそもそも東京からそんなに遠くなくて、新幹線で日帰りも可能だから、便利だと思いますよ。気候もいいですし……冬は川からの風がヤバいんですけど(笑)、でもそれ以外は本当に住みやすいんで、移住とかを考えてる人にとっては、いいと思います。
―仕事をする環境としてもいいと。
後藤:農地もあるし、工場も多いので仕事はいろいろあると思います。島田市はもともと林業が盛んで、家具の町でもあったし、木工製品でも有名だから、そういうのも含めて、可能性がある町だと思う。歴史もあるし、観光資源もあるし、農作物も採れるし、魅力的な要素はいろいろありますよね。
―いずれは後藤さんも島田市にスタジオを持ったりとか……?
後藤:僕が島田に自分のスタジオを作っちゃうと、知れ渡っちゃってダメだと思う。市で作るなら全力で手伝いますけど(笑)。多分、親戚とか友達がのぞきに来ちゃって、仕事になんない。空港に行けばわかるけど、静岡の人は「なんだか?」って見に来ちゃうんで(笑)。
―そのフランクさも魅力ではありますよね。ちょうどいいコミュニティ感というか。
後藤:そうですね。六合みたいな田舎のいいところに住めば、地域のコミュニティもしっかりしてるから、なにかあったときには公民館や小学校にも逃げられる。両親の話を聞くと、そういう面でも住むにはいい場所なんじゃないかと思います。
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- 島田市 ふるさと納税特設サイト
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お茶といえば静岡。その静岡茶の歴史は島田の地から始まりました。静岡県島田市の中央を流れる大井川流域の茶業の歴史は古く、その始まりは、江戸時代初期に残る川根・伊久身地区の記録に見ることができます。記録によると江戸時代初期にはお茶を年貢代わりに納めていることがわかっています。江戸時代全般を通して島田地域では、茶生産技術の改良や改善に取り組み、茶業の基盤を作りました。
- リリース情報
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- Gotch
『Lives By The Sea』 -
2020年12月2日(水)配信
1. The End Of The Days (feat. 唾奇)
2. Nothing But Love
3. Endless Summer (feat. YeYe)
4. The Age (feat. BASI, Dhira Bongs & Keishi Tanaka)
5. Eddie
6. Worthless Man
7. Stay Inside (feat. Achico & mabanua)
8. White Boxes
9. Taxi Driver
10. Farewell, My Boy
11. Lives By The Sea (feat. JJJ & YeYe)
- Gotch
『Lives By The Sea』(CD) -
2021年3月3日(水)発売
価格:2,500円(税込)
ODCP-026
※12月2日(水)~1月11日(月・祝)SPMストアにて予約受付中
※受付期間中にご予約いただいた方には直筆サインカード付き1. The End Of The Days (feat. 唾奇)
2. Nothing But Love
3. Endless Summer (feat. YeYe)
4. The Age (feat. BASI, Dhira Bongs & Keishi Tanaka)
5. Eddie
6. Worthless Man
7. Stay Inside (feat. Achico & mabanua)
8. White Boxes
9. Taxi Driver
10. Farewell, My Boy
11. Lives By The Sea (feat. JJJ & YeYe)
- Gotch
『Lives By The Sea』(LP) -
2021年3月3日(水)発売
価格:4,600円(税込)
ODJP-009
※12月2日(水)~1月11日(月・祝)SPMストアにて予約受付中
※受付期間中にご予約いただいた方には直筆サインカード付き1. The End Of The Days (feat. 唾奇)
2. Nothing But Love
3. Endless Summer (feat. YeYe)
4. The Age (feat. BASI, Dhira Bongs & Keishi Tanaka)
5. Eddie
6. Worthless Man
7. Stay Inside (feat. Achico & mabanua)
8. White Boxes
9. Taxi Driver
10. Farewell, My Boy
11. Lives By The Sea (feat. JJJ & YeYe)
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- 後藤正文 (ごとう まさふみ)
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ASIAN KUNG-FU GENERATIONのボーカル&ギター。新しい時代とこれからの社会を考える新聞『THE FUTURE TIMES』の編集長を務める。インディーズレーベル『only in dreams』主宰。
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