12月にデジタルでリリースされたGotchの新作『Lives By The Sea』は、2020年という特殊な1年の空気を吸い込みながら、それを普遍的な「生の肯定」へと昇華した、素晴らしい作品だ。ゴスペル色の強いR&B / ヒップホップのムードは、資本主義社会の加速に対して、静かな祈りの時間の重要性を伝え、雑多なジャンルのフィーチャリングゲストの参加は、分断の進む時代に、混ざり合うことの力強さを改めて提示している。
2021年でASIAN KUNG-FU GENERATION(以下、アジカン)は25周年を迎えたが、後藤正文としても、Gotchとしても、常に大事にしてきたのは「繋ぐ」ということだったように思う。人を繋ぎ、文化を繋ぎ、歴史を繋ぎ、その中で生きることの喜びと苦しみをともに鳴らしながら、キャリアを積み重ねてきた四半世紀。彼はよく「自分たちは歴史の川下に立っている」という表現を使い、それも「繋ぐ」ということに対する意識の表れだと言えるが、その川が流れ着いた先にある海辺の暮らしは、こんなにも穏やかで、こんなにも豊かだった。
産業構造と「音楽の喜び」の狭間で。コロナ禍に後藤正文が気づかされたこと
―年末の取材ということで、まずは非常に特殊な1年となった2020年をどのように過ごしてきたか、振り返っていただけますか?
Gotch:いろんなコンサートが延期になったり、中止になっていった中で、アジカンのツアーもなくなって、しばらく仕事がないというかね、ほとんど自宅待機みたいな感じになって。幸い僕はスタジオを持っているから、スタジオと自宅を行き来しながらリモートワークでアジカンの曲を作ったりしていましたけど、ソロに関してはmabanuaのトラックに反応したり、積み上げてあったフレーズの整理をしたり、そういうことからやっていった感じですね。
あとは、仲間たちの心配をしていましたね。3月とかは、まだ「夏フェスなら何とかできるんじゃないか」って期待を持っていたと思うけど、「どうやら夏にも収まらないぞ」となっていって……。
―結局1年どころか、まだまだこの状況は続きそうですよね。ただ、COVID-19の感染拡大が本格化する手前の3月に“Nothing But Love”をリリースしていて、その頃からアルバムには向かっていたと思うので、ライブがなくなって、結果的に制作に集中できたという側面はあるのかなと。
Gotch:コロナがなかったら、2020年にアルバムは出せてなかったと思います。
Gotch:2021年はアジカンが25周年だから、「今年は制作でしょ」って空気だったので、コロナさえなければ、2020年のうちにアジカンの曲作りを終わらせて、年明けくらいからロンドンでレコーディング、みたいなイメージだったんです。でも、この状況では海外になんて行けないから、ソロに充てる時間が取れた。いろいろ考えちゃいましたけどね、「僕たちの活動時間は何に持っていかれてるのかな」って。
―何を目的としているのか、みたいなことですか?
Gotch:どうしても、作って売らないといけないってことが重くのしかかってくるんです。資本主義社会の中で食べていかなきゃいけないってことが、どこか重荷になっているというかね。たとえば、プロモーションがクリエイティブな時間を奪っているところもあって。
音楽だけで食べてないインディーのミュージシャンたちって、自分の仕事があるがゆえの苦労もあるでしょうけど、だからこそ、音楽活動では好きなことしかやらないに決まってるじゃないですか。toeとか見てるとかっこいいなと思うし、以前一緒に仕事をした8ottoもそうだし(関連記事:8otto×後藤正文×五味岳久 未来世代のために語る音楽と生活の話)。
「とにかくみんなで作品を作るっていう、この喜びだけは絶やしたくないと思った」
―音楽業界全体の危機に対して、いろんなアーティストがアクションを起こした1年でもあったわけですが、普段ただ自分たちの好きな音楽だけを作ってきたtoeが、ライブハウス救済のためのコンピレーションを作ったというのは非常に印象的で(関連記事:toe発起のライブハウス支援プロジェクトにナンバガ、東京事変、ceroら約70組)。
Gotch:「友達の仕事を作りたい」ってことは正直思いましたよ。僕も仕事が欲しいから、自分のためでもあるけど、現場があるとすごく明るい気持ちになるんですよ。スタジオに入れるなら入って、そうすればスタジオにもお金が入るし、みたいな。
Gotch“Endless Summer(feat. YeYe)”を聴く(Apple Musicはこちら)
―後藤さんとは別の取材で「シェア」の重要性をお話しましたけど、その感覚はあのコンピレーションにもあったし、多くのアーティストが参加した『Lives By The Sea』にも内包されてるものだと思うんですよね。
Gotch:そういう場作りは許される範囲でどんどんやりたい気持ちが強くなっていきましたね。だから途中からは、「今年、アルバムを作らないとダメだ」っていうか、2020年のうちに出したいと思うようになったんです。フィジカルは絶対間に合わないけど、配信なら申請から2週間で出せるわけだし。
―ストリーミングでは12月にリリースされて、CDとLPは3月リリース予定ですね。
Gotch:すべてを同じ日に出すと、一瞬のさざ波だけで忘れ去られかねないし、その日に向けて全てのスケジュールを組んじゃうと、そこに向けて取材とかプロモーション稼働をしなきゃいけないから、こっちの首を絞めることになる。それだとこれまでの繰り返しだから、もうちょっとゆるくみんなに届ける方法があってもいいなと。とにかくみんなで作品を作るっていう、この喜びだけは絶やしたくないと思ったんですよね。
Gotch“Eddie”を聴く(Apple Musicはこちら)
<この世は生きるに値する>――現代社会のほころびの上で生の肯定を歌う
―アルバムの音楽性としては、序盤にあるゴスペル色の強いR&Bやヒップホップが全体のムードを決めていて、トレンド的な意味だけではなく、2020年という時代のムードが反映されているようにも思いました。
Gotch:2020年だからこの音になってると思います。ゴスペルの、祝福というよりは、祈りの側面が強くなっていったというかね。2020年に用意してもらった静かな時間があったからこそ、そういう音楽が作れたんだろうなと思います。
これまでの流れでやっていたら、もう少し気張って、“The Age”をさらに展開させて、もっと派手にしていく方向もあったかもしれない。だけど、“Worthless Man”みたいな静かな曲が入っているのは、やっぱりコロナの影響もあるというか、けばけばしいものではなく静かなほうを選択したというかね。
Gotch“Worthless Man”を聴く(Apple Musicはこちら)
―さきほど話に出た資本主義の加速に対するアンチのような姿勢もあったのでしょうか?
Gotch:そこは無意識ですけどね。ただ、普段生きながら、スピードが速いなとは思ってるわけです。「どうして欲望をこんなに駆り立てられなきゃいけないのかな?」とかね。
そもそもこんなに商品がいるのかって話もあって、僕たちの社会はフードロスがすごいわけですけど、その一方では食べることのできない人たちがいるっていうすごく歪な世の中に暮らしていて、そこで生まれた富は本当に限られた人たちの手元に渡っている。そういうことに日々憤っているから、自分の音楽とも、どこかで繋がってるとは思う。だけど、ただ頭で考えてこういう作品になったというよりは、フラットに「こういう曲がいいな」って感じではあって。
―言葉はシリアスで、やるせなさや悲しみを書き記しつつ、音には温かみもあって、どちらもちゃんと刻んでいるのは後藤さんのもともとの人間性の反映でもあるでしょうしね。
Gotch:普段は作品の中ではあんまり思わないことだけど、今回これだけはちょっと抗いたいなと思ったことがあって。有名人の自殺とか、メディアが言わなくてもいいところまで報道して、それに煽られて、みんなが心をやられちゃっているのを感じて、この重苦しい空気は押し戻したかった。ソロではこれまでも生きたり死んだりをずっと書いてきたし、そこには抗いたくて、それで<この世は生きるに値する>みたいな言葉が出てきたんです。
―“The Age”のラストでポエトリーリーディングのようなスタイルで語られる、重要な箇所ですよね。
Gotch:これはロックミュージシャンが書かなきゃいけない言葉というか、「It’s gonna be alright」みたいな言葉よりも強い語気で言わないといけないタイミングなんじゃないかと思いました。
そういう部分では、フラットとは言い切れない、気持ちが入ったところはあって。「メッセージ」とまではいかないけど、友達と一緒に素敵な音楽を作って、僕自身がそれに生かされている、生きるエネルギーをもらっているところもあるから、そういうのも音に宿ってるだろうし。
BASI、唾奇、JJJといった制作を共にしたラッパー陣の言葉に対する鋭い感覚。3人へのリスペクトと共に語る
―「言葉」という点では、今回3人のラッパーがフィーチャリングで参加していて、彼らから受け取った刺激が作品に反映されている部分も大きいかと思います。
Gotch:大きいですね。一緒に作業をして、彼らのすごさがよりわかったというか、言葉に対してすごく意識が高いし、先鋭的だと思いました。書き方や声色でどう自分らしさを打ち立てて、曲の中でどう主役になるかってことに対して強い気持ちがあるんですよね。
だから、歌詞に関して深い話もできたし、でも何十回もメッセージのやりとりをしたわけじゃなくて、こっちがパッと送ったものをちゃんと咀嚼して、リアクションしてくれる。当然ながら、すごく知的なんですよね。僕のヴァースに対してちゃんとラップで返してくれて、コミュニケーションになっているんですよ。フリースタイルのラップバトルとも違うけど、ラッパーなりの作法があるというか、BASIさんなんかも1行目で完全に持っていっちゃう感じがあって。
―<口に合わないなぁそのビーフは ここはピースにビールで乾杯ってのはどう?>というラインは、その前の後藤さんの<「ポリティクスには興味はねえ」って いい歳こいて そんなことまだ言ってんの?>(ともに“The Age”のリリック)に対する返答でもあるわけですよね。
Gotch:そうそう。BASIさんは、窮屈に罵り合う社会全体の風潮を切りにいってるんだとは思うけど、僕の太ももくらいをついでに切ってるっていうか(笑)、その感じがいいじゃないですか。
ただ僕を盛り立てようとしているわけじゃなくて、楽曲全体への愛がありつつ、引っかかる言葉を選ぶ上手さ。唾奇にしても、僕が<君のためじゃないぜ>って歌ってるのに対して、<君のためだよ>(ともに“The End Of The Days”のリリック)って言ってたり、そういう返し方がラッパーらしいなって思います。
―タイトルトラックのJJJも素晴らしいですよね。
Gotch:1曲目の“The End of The Days”で<Keep in on your beat/The beat, your heart><誰のためでもない それぞれに生きるため>って歌っていて、この曲の説明なんて一度もしてないのに、“Lives By The Sea”に、<心臓は一つのdrum 皆がピッチ刻む>って入ってたのは衝撃でしたね。「繋がった!」って。コンセプトの話はしたけど、「この言葉が出てくるんだ」とシンクロニシティを感じました。
―JJJがさっきのラインに続いて<余すことはなく 俺はこう生きる>とラップしているように、「それぞれの生き方がある」というのもアルバムのテーマになっていますよね。それは芸能人の自殺に象徴されるSNSでの誹謗中傷に対するリアクションなんでしょうかね。
Gotch:それは普段から考えてることで、“Lives By The Sea”はそんなに強い何かというより、淡々と海辺の命とか暮らしを描いていくイメージ。「Life」っていう個の切実な何かじゃなくて、複数形の「Lives」を描いていくというかね。
だから、「生の肯定」はテーマだったかもしれない。「生きる」ってことへの想いが、コロナになって強まったのかもしれないです。これまでは死ぬことばっかり歌ってきて、1stアルバム(2014年リリースの『Can’t Be Forever Young』)は自分のお葬式に行くってコンセプトのジャケットで喪服を着たけど、そこから反転したところがあるなと。コロナの中で、「生き延びなきゃ」っていう気持ちもあったのかもしれない。それがミュージシャンとしてなのか何なのかはわからないけど。
音楽を、日常のガス抜きではなく、日々を生きる希望として届けるために
―“Lives By The Sea”のラストの<ほらそう言えば今までもそんな歩き方>というラインも秀逸だと思いました。<ありふれた日々を抱きしめているよ>とも歌われていて、これはありふれた日々が失われた2020年だからこその歌詞とも言えるけど、最後のラインが来ることによって、2020年のドキュメントでありつつもっと普遍的なテーマに昇華されるというか、これまでも大事にしてきたことの再確認なんだというムードになっているなと。
Gotch:JJJが書いてくれたように、人生にはビターな瞬間が結構ありますよね。だけど、それを抱きしめるでも、携えるでもなく、ただそのまま内面化して歩いていくしかないというか、「それでも暮らしていくしかない」っていうのが人間のあり方だと思うんです。
彼の最後のリリックで、みんながそれぞれの街の暮らしとか雑踏に戻っていく感じになって、その温度もよかった。そこで高らかに歌い上げちゃうと、ハッピーエンドの映画のエンディングみたいになっちゃうから。
Gotch“Lives By The Sea(feat. JJJ & YeYe)”を聴く(Apple Musicはこちら)
―“White Boxes”では<あの映画のラストシーンみたいに終われないから>とも歌われています。
Gotch:僕たちの人生はよくも悪くも続いていくわけだから、アルバムの終わらせ方はすごく考えて、それで最後はラップがいいと思ったんです。日常と音楽の境界線がなるべくないほうがいいというか、「音楽に課せられてるもの」の違和感って、案外そこにあったりするんですよね。
―日常との乖離ができてしまう?
Gotch:「特別なものを見せてほしい」みたいな期待って、わかるんだけど、危うくもあるんですよね。その2時間だけ楽しいもの、スカッとするものを求める気持ちもわかるけど、音楽がただのガス抜きになっちゃって、家に帰っても何も解決してないことがあるかもしれない。今はそういうものよりも、日常にじんわり馴染むような、境目のないもののほうが自分の温度に合ってるし、そっちのほうが生きる希望になるんじゃないかとも思います。
Gotch“White Boxes”を聴く(Apple Musicはこちら)
―それはアジカンでロックのスペクタクルな側面をある種引き受けていて、音楽のそういう役割も強く信じているからこその視点というか、そうじゃない音楽のあり方もあっていいという提案とも受け取れますね。
Gotch:アジカンが背負っていることもすごいことだと思うけど、でもやっぱりちょっとした危うさもはらんでるという自覚もあります。いろんな音楽があって、アコギ1本担いでいろんな街に行ったりもしたから、そういう日常に限りなく近い音楽の美しさもすごくわかって、ソロでやるときはそういうものでありたい。フォークではないけど、街中に馴染む音楽でありたいというか、「フォークロア」は意識するというかね。
―「伝承」みたいな部分も含めて、ということですよね。
Gotch:そう。伝承音楽みたいな、市民とか民衆、人々のものなんだっていう感じ。ある種の権威から逃れたところに「僕たちの音楽の幸せ」があるのは事実で。
Gotch:「芸術」みたいな括りでやっちゃうことで、参加しづらいものになってしまった時代もあったと思うし、今はロックだってある種の権威性を纏ってるから、年間ベストとかを見ても、なんか違うなって思うというか(笑)。ああいうのより、いろんな人のベストを見たほうが、「この人はこの温度だったんだ」って感じることができていいなと思ったりもするんですよね。
他者と他者を繋ぎ、知見や喜びをシェアし合うコレクティブ的発想について
―それぞれの生き方、それぞれの価値観があって、それが混ざり合って生まれる力の強さはここ数年改めて感じていて、『Live s By The Sea』を聴いて連想したのは2010年代後半のシカゴの音楽シーンでした。音楽的に、チャンス・ザ・ラッパーやピーター・コットンテイルの流れにあるというのもそうだし、ジャンルも人種も思想も違う人たちがシーンを作り上げているあの感じと、『Lives By The Sea』には近いものがある。シカゴには上の世代にWilcoがいて、歴史も踏まえながら、新しいものが生まれているのもいいなと思います。
Gotch:だから、バンドってよりも「コレクティブ」っていう、より柔軟で広がりのある集団の捉え方のほうが大事なんじゃないかな。「自分のソロは僕の手柄」って感じじゃなくて、自分のやりたいことを仲間たちに支えてもらって実現した、みたいなイメージで。シカゴも人脈というか、仲間内でやってるわけですよね。チャンスがいて、ピーター・コットンテイルがいて、ジャミーラ・ウッズがいて、ダニー・トランペットがいて、みたいな。
―そうですね。
Gotch:すごく有機的だなって思います。おっしゃったように、Wilcoからの流れもあるし、チャンスのアルバムにはDeath Cab For Cutieのボーカルのベン・ギバードが客演で呼ばれたりね(2019年発表の『The Big Day』に収録)。
Gotch“Stay Inside(feat. Achico & Mabanua)”を聴く(Apple Musicはこちら)チャンス・ザ・ラッパー“Do You Remember feat. Death Cab For Cutie”を聴く(Apple Musicはこちら)
Gotch:僕の1stアルバムのエンジニアはジョン・マッケンタイアで、2ndアルバム(2016年発表の『Good New Times』)はWilcoを思い描きながら作って、そのプロデュースをデスキャブのクリス(2014年に脱退したクリス・ウォラ)がしてくれたり。時代性もあると思うんですよ。フィーチャリング文化が主流になると、どういう集団で、どういう仲間たちで作るかが大事になる。でもバンドは閉じた文化になりがちだから、どうしても一点突破型になっちゃう。
―もちろん、それがゆえのよさもあるわけですけどね。
Gotch:Radioheadとかくるりみたいに変化し続けるバンドは稀ですよね。まあ、くるりもコレクティブスタイルというか、2人が時代の中でいろんな人と絡みながら歩んできたから、先取りしてたのかもしれない。バンドはどうしてもThe Rolling Stonesみたいになっちゃうというか、本来金太郎飴型になるのは不可避ですから。でもコレクティブだと、もっと全体の底上げになるというか。
―今はそっちのほうがスタンダードになりつつありますよね。
Gotch:若い子たちはそれが自然にできていますよね。石若くん(石若駿)、君島くん(君島大空)、King Gnuとかも含めて、みんな豊かだなって思うし、誰かが必殺技みたいなのを見つけたら、あの界隈全員一気に上がってくるんだろうなっていうか(笑)。
Gotch:インターネット以前は、それぞれの場で誰が一番すごいか合戦をしなくちゃいけなかったけど、もはや何かを知っていることに大した優越感はなくて、どの道みんなでシェアするものって感じだから、そうなると、誰かがやりたいことをみんなで叶えるほうが圧倒的に楽しいし、圧倒的にみんな幸せなはずで。「売れなかったけど、いいものできたよね」みたいに言い合えるしね(笑)。
―何枚売れたとか何回再生されたかっていう数字的な価値じゃなくて、そこでの経験が次の出会いに繋がって、いろんな作品に参加して、やがて名盤が生まれたりとか、長い目で見るとそっちのほうに価値があったりすることも往々にしてありますよね。
Gotch:「あいつ売れたからオファーしよう」みたいな考え方って、もう業界人くらいしかしてないんじゃないですか? 僕たちは「何あのビート?」とか「あのギターの音どうやって出してるんだろう?」とか、そういう新しい出会いを求めていて、やっぱり作品には嘘がないから、時代を乗り越えていくのはそういう力しかないんじゃないかな。だから、もっともっとミュージシャンが繋がるといいなって思いますね。
Gotch“Taxi Driver”を聴く(Apple Musicはこちら)
静けさを通じて見つめ直した、生き方、繋がり方を忘れてしまわないように
―『Lives By The Sea』というタイトルに関して、これまで後藤さんは比喩として「川」を多く使う印象があって、自分たちが歴史の川下に立って、受け継いでいくということを意識されていると思うのですが、今回「海」を選んだのは何か理由があったのでしょうか?
Gotch:海は異界への入口なので、比喩としては「あの世」ですよね。海の向こうには見たことがない場所があるわけで、それは古来より冥界への入口じゃないですか。「海辺の暮らし」って言うとポップな感じですけど、生きるってことは死と隣り合わせで、だから、ちょっとした死への願望も歌われていて。<沖まで僕を手繰ってよ>(“Lives By The Sea”)って。
―死を見つめながら、生きることを歌う。
Gotch:波打ち際でいろんなことを思ったりするのが、生きることの揺らぎの比喩でもあるというかね。ただ暮らしがあるんじゃなくて、どうしたって死が目の前にあって、でもそこに僕たちの切実な命がある。それがどんなものかは人それぞれ違うわけだけど、ミュージシャンとしてそれをちゃんと肯定したいし、一人の生活者に戻ると、そういう社会であってほしい気持ちもあるから。
Gotch“Farewell, My Boy”を聴く(Apple Musicはこちら)
―そこもゴスペルのムードと結びつくところですよね。
Gotch:ある種その宗教観には憧れちゃいますよね。僕たちの社会では何百年もかけて神殺しに成功したけど、それで本当に幸せになったのかはわからないじゃないですか。
強い宗教観で歌われるゴスペルのフィーリングに「おっ!」って思うこともあるし、仏教の静かな精神性もわかるような気がする。日本は宗教とか信仰を避ける人が多いけど、信仰とか宗教的なものものが守ってきた何かもあると思う。それが僕たちの加速にブレーキをかけるエネルギーにも見えてくるというか。金のためにアクセルを踏むときに、僕たちを止めるのはちょっとした罪悪感なわけじゃないですか。
そういう倫理を高めるうえで、古くは神って存在が大きかったんだと思うし、そういう蓋がなくなって、僕たちは暴走してる部分もあるというか。とはいえ、誰が何を信じるかはプライベートな話だから、難しいけどね。
―ただ、少なくとも2020年という年は少し加速を緩めて、それぞれが静かな時間の中でゆっくり考えることができた1年になったわけですよね。おそらく、2021年に入ると、この1年を取り戻すべく再び加速する動きが強まるようにも思うんですけど、そうじゃなくて、このタイミングだからこそ、ゆっくり物事を進めていくことが大事なのかなって。
Gotch:やっぱり、祈りみたいな時間が大事なんだと思いますよ。思考以前の、何かに対してゆっくり思いを馳せるような、そういう時間も悪くないですよね。
どうしてこんなに何もかも便利になったはずなのに、いろんなものに追われる感覚が強まっていたのか。でも本来はこのペースでいいんじゃないかってコロナの静かな時間の中で思ったし。もちろんコロナがよかったとは当然思ってないですけど。
そうやってもっと広い視点で、自分のことだけじゃなく、世の中の問題も含めてシェアをするというか、繋がれなかった時間を経て、新しい気持ちでもう一度繋がり直すというかね。じゃあ、どういう繋がりだったら自分たちが心地よくて、干からびていくような生き方をしなくて済むのか。そういうことを考え直さなきゃいけないと思います。
- リリース情報
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- Gotch
『Lives By The Sea』 -
2020年12月2日(水)配信
1. The End Of The Days(feat. 唾奇)
2. Nothing But Love
3. The Age(feat. BASI, Dhira Bongs & Keishi Tanaka)
4. Endless Summer(feat. YeYe)
5. Eddie
6. White Boxes
7. Stay Inside(feat. Achico & Mabanua)
8. Worthless Man
9. Taxi Driver
10. Farewell, My Boy
11. Lives By The Sea(feat. JJJ & YeYe)
- Gotch
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- Gotch
『Lives By The Sea』(CD) -
2021年3月3日(水)発売
価格:2,500円(税込)
ODCP-0261. The End Of The Days(feat. 唾奇)
2. Nothing But Love
3. The Age(feat. BASI, Dhira Bongs & Keishi Tanaka)
4. Endless Summer(feat. YeYe)
5. Eddie
6. White Boxes
7. Stay Inside(feat. Achico & Mabanua)
8. Worthless Man
9. Taxi Driver
10. Farewell, My Boy
11. Lives By The Sea(feat. JJJ & YeYe)
- Gotch
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- Gotch
『Lives By The Sea』(LP) -
2021年3月3日(水)発売
価格:4,600円(税込)
ODJP-009
- Gotch
- プロフィール
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- 後藤正文 (ごとう まさふみ)
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1976年静岡県生まれ。ASIAN KUNG-FU GENERATIONのボーカル&ギター。新しい時代とこれからの社会を考える新聞『THE FUTURE TIMES』の編集長を務める。インディーズレーベル『only in dreams』主宰。
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