ミツメが6枚目となるニューアルバム『Ⅵ』(シックス)を完成させた。多くの同業者と同じく、活動の縮小を余儀なくされた2020年を彼らは楽曲制作に費やした。時勢の影響もあり、制作の方法論も変化した。リモートでデモ作りを進め、メンバーそれぞれがこれまで以上に独立した状態で各パートのフレーズやソングライティングと向き合いながら1曲1曲を作り上げ、アルバムとして編んだ。その結果、ノーコンセプトでありながら、バンドグルーヴには宅録感と肉体性がナチュラルに融和し、歌には平熱のポジティビティが宿り、ミツメのスタンダードを再構築したような作品が仕上がった。
ボーナストラックにはミツメにとって初のコラボレーション楽曲となる“Basic(feat. STUTS)”を収録。nakayaanとSTUTSは小学校の同級生であり、かつてSTUTSのライブと制作にnakayaanが参加した縁もあり、今回の共作が実現した。ミツメとSTUTSの共通項をピックアップするならば、さまざまな音楽的要素を独自のスタイルで昇華しながら、いかに同時代的かつ普遍性のある曲を作れるかというトライアルをしている点であろう。この対談ではミツメとSTUTSの接続点を軸に、『Ⅵ』及び“Basic(feat. STUTS)”の制作エピソードを紐解いた。
小学校の同級生だったnakayaanとSTUTS。少年時代をお互いに回想
―実はSTUTSくんとnakayaanさんが同級生だという。STUTSくんのバンドメンバーとしてnakayaanさんが参加するずっと前からつながりがあったんですね。
STUTS:そうなんです。小学校の同級生で。
nakayaan(Ba):地元が一緒です。
STUTS:小5のとき同じクラスで、(nakayaanの)おウチに行ってポケモンカードやったりしてました。
nakayaan:僕はSTUTSくんの家に行ってNINTENDO64やらせてもらったり。中学から別々になって、大学生のころにお互い音楽をやっていることを友だち伝いで知ったんですよね。そこから数年前にSTUTSのバンドで自分がベースを弾かせてもらって(2018年11月に渋谷WWW Xで開催された『STUTS “Eutopia” Release Tour』)。
川辺(Vo,Gt):一緒にHomecomingsのイベントに出たこともあったよね。
STUTS:あー、ありました! 大阪ですよね(2017年12月に梅田CLUB QUATTROで開催された『Homecomings presents「Casper the Friendly Ghost」』)。
―小学生のころから時を経て、STUTSくんのバンドで一緒に演奏したときはどんな感覚でした?
STUTS:不思議な感覚はあったかもしれない。小学校から間が空いてるので、記憶と現実があまり結びつかない感じというか。
―それぞれが音楽にハマっていったのも小学生からあとかもしれないし。
nakayaan:自分が大学1年のときの同級生にSTUTSと中高が一緒だった共通の友だちが一人いて。STUTSが中高生のころからでっかいMTR持っていてMPCも叩き始めてという話を聞いて、小学校のころのイメージと全然結びつかなくて「マジか!」ってなりました(笑)。それで連絡をとって「俺もバンドをやっていて」って話をしたんですよね。STUTSは小学生のころからあまり変わってないんですよ。
STUTS:あ、マジすか(笑)。でも、当時はすごい太ってたでしょ。
nakayaan:でも、雰囲気は変わらない。周りの人たちに愛されて、可愛がられていて。そこが変わってないのが素晴らしいことだなって。
―STUTSくんが見ていたnakayaan少年の印象は?
STUTS:尖ってた面もあった記憶がありますね。
nakayaan:たしかに尖ってたかも(笑)。
―友だちとつるんだりすることもそんなになく?
nakayaan:そういう感じではなかったですね。自分は小学生の時点で中二病に足を突っ込んでいたところがあったので(笑)。歳の離れた兄がいたから「俺はおまえらとは違う音楽を聴いてるぜ」みたいな態度をとってたと思います。当時は兄の影響でThe BeatlesとかRadioheadとかOasisとかをよく聴いていて、家にある『rockin’on』とかを読んでましたね。
―なおさらSTUTSくんが音楽をやっていることに驚いたのかもしれないですね。
nakayaan:そうなんですよね。今では(星野源のサポートメンバーとして)『紅白』とかにも出ているので。
STUTS:いやいやいや。
シャムキャッツ主催イベント『EASY』など、ミツメとSTUTSの音楽活動が交わり始めた2010年代半ばの記憶
―STUTSくんはミツメの音楽にどのように触れ、どんな印象を持ってますか。
STUTS:小学校の同級生がベースを弾いてるバンド、ということで聴き始めたんですけど、2014年くらいから海外のインディアーティストのライブにちょこちょこ出させてもらっていた時期があって。そのころからミツメと現場が一緒になることも増えてきたんですよね。
そうだ、2015年くらいにnakayaanのソロプロジェクトのライブでMPCを叩いたこともあって(2015年3月に神保町試聴室で開催された『シンギング・ゲーム』。共演は菅原慎一のバンドセット、may.e名義のmei ehara)。
―そういう共演もあったんですね。
nakayaan:言われるまで忘れてた(笑)。
STUTS:ミツメの作品は『A Long Day』(2016年)というアルバムがすごく好きで。ミニマルでタイトな音像の中に浮遊感のあるサウンドが鳴ってるあの感じが新鮮でした。これまでもずっとミツメは近い存在に感じてましたね。
―ミツメのメンバーはSTUTSくんの音楽性にどのような印象を持ってますか?
川辺:STUTSくんが一人でMPCを叩いてるイメージも大きくあるんですけど、ビーサンの北里さん(Alfred Beach Sandal名義で活動していた北里彰久)とやってるアルバム(2017年リリースの『ABS+STUTS』)を聴いて、「こういうポップス的なアプローチもできる人なんだな」って少し印象が変わって。懐の広いアーティストなんだなと思ったんです。そのうえで一本筋が通って真ん中にMPCがドンとあるから職人的でカッコいいなって。
須田(Dr):僕も最初はやっぱりサンプラーを叩いている姿が印象的で。なんのときだったか、nest(TSUTAYA O-nest)でライブを観たんです。
STUTS:たぶんシャムキャッツさんの『EASY』というイベントだと思います(2014年10月にTSUTAYA O-West / O-nestの2会場で開催されたシャムキャッツ主催イベント『EASY』)。
須田:ああ、シャムの『EASY』だ。そのときのライブが本当にカッコよくて。それ以前にもYouTubeでストリートライブをやっている映像は見ていたんですよ。
―ニューヨークのハーレムでパフォーマンスしている映像ですね。
須田:そう。生で観たときに「人間ってこんなふうにサンプラーを叩いてライブができるんだ……」と思って。シンプルに動物的な動きとして感動してしまって。
一同:(笑)
須田:「なんでここまでMPCの演奏を突き詰めたいんだろう?」という興味も湧いたし。それ以降、活動や音楽性の幅も広がっていって、今回一緒に曲作りする前から常に惹かれるものがありましたね。これは本人がいるから言うとかではなくて。
STUTS:ありがとうございます。
須田、大竹、nakayaanが順番にSTUTSの真面目さ、センス、向上心を賞賛。STUTSは頭を抱える
須田:あと、僕の友だちがやっている楽器のスクールがあって。その友だちから「そういえば、最近STUTSくんが通い始めてさ」って話を聞いて。そこでも驚いたんですよね。
STUTS:そうなんです。1年半前くらいから月1行くか行かないくらいで鍵盤とギター、最近は生ドラムの先生にも少しだけ教えてもらっています。
須田:そうやって音楽を貪欲に学ぶ姿勢も素晴らしいなと。
―STUTSくんは生楽器を体得したいフェーズでもあるんですか?
STUTS:今までサンプリングする対象として捉えていたものを、自分で楽器を弾いて演奏して表現できるようになったらより楽しいだろうなって常々思っていて。でも、なかなかチャレンジできずにいたので、スクールに通ってみようと思ったんです。
須田:そこのドラムの先生が「すごく筋がいい」と言ってると噂で聞きました。
STUTS:いやいや、全然です。
大竹(Gt):最初は僕もビートの人というか、路上でMPCを叩いてる姿が印象的で。今回、一緒に曲を作らせてもらってポップス的なすごく開かれたセンスがあるなって思いましたね。
nakayaan:音楽に対する向上心が本当にすごいと思うし、尊敬してます。新しい作品(2020年リリースの『Contrast』)では歌やラップもしてるしね。ライブでやっていたフリースタイルもよかった(関連記事:STUTSがマイクをとる 数々の音楽家から受けた刺激と経験を武器に)。
STUTS:いやいや……。
川辺:(STUTSが)頭を抱えてる(笑)。
―ラップや歌について言われるのはまだ照れくさいですか?
STUTS:まだ恥ずかしさがありますね。でも、「恥ずかしさがある」ってあんまり言わないほうがいいと思うんですよ(笑)。褒められるのはありがたいです。
「トレンドを意識したアプローチをしても、結局自分の音にしかならないというところも似てる」。ミツメとSTUTSに共通する感覚
―今作にSTUTSくんを呼ぼうとなった経緯は? ミツメにとっては初のフィーチャリングゲストですよね。
川辺:去年はたくさん曲作りをしながら、今までやったことのないチャレンジをしてみようという流れがあって。その一環でtofubeatsさんに“トニック・ラブ”をリミックスしてもらったんですね。それを経て、人と一緒に曲を作るトライもしたいとなったんです。
“トニック・ラブ(tofubeast remix)”を聴く(Apple Musicはこちら)
川辺:ただ、ミツメは長年活動してきてメンバー4人の空気が固まってるところがだいぶあって。4人の空気の中に自然と入ってこれて、自分たちのやりたいことを理解できる人は誰か、と考えたら、STUTSくんがいいんじゃないかと思ったんです。他に候補者が挙がるわけでもなく(笑)。
須田:最初の候補者にSTUTSくんの名前が出て、すぐ「それだ!」ってなりました。
―ミツメとSTUTSくんの共通点を見出すならば、2組ともいろんな音楽的要素を独自のスタイルで昇華しながら、「いかに同時代的かつ普遍性のある曲を作れるか」というトライアルをしていると思うんですね。
STUTS:たしかに。僕もそういうことは感じていますね。
川辺:同じことをやり続けてトライ&エラーを繰り返しながら変形しているところがお互いあると思います。そういうことをずっとやり続けているから共有できる感覚があるのかなと思うんですよね。
須田:手法としても、ミツメは宅録バンドでもあると思ってるので。今回の作り方は今までと違うところもあったけど、基本的にはやっぱり宅録で作り上げていくバンドだから。
音楽性は違えど、そういう手法的なところでSTUTSのやってることを理解できるし、制作でもスムーズなやりとりができたのかなって。すごく自然に曲は完成しましたね。
ミツメ“Basic (feat. STUTS)”を聴く(Apple Musicはこちら)
―お互いトレンドも意識はしてると思うけど、それをわかりやすくアウトプットしないですよね。
STUTS:そうだと思います。トレンドを意識したアプローチをしても、結局自分の音にしかならないというところも似てるのかなと。ミツメの曲を聴くと「あ、ミツメだ」ってすぐにわかるので。それは一つ共通点としてあるのかもしれない。
川辺:それが同じことをやり続けて出た厚みだったらいいなと思いますね。
「パソコンが『ミツメさん』というか(笑)」。あんまりバンド的ではないと頻繁に言われてきたミツメの「バンド感」を自己分析
川辺:あと、ミツメって考え方があんまりバンド的ではないと言われることはよくあって。僕らは宅録好きの4人が集まって、淡々と作業のように作っているから、ロックバンド的な感じが希薄なのかなというふうな考えをもつようになったんですよね。
たとえば、GEZANがやっているようなことはできないし、すごくカッコいいし好きだけど自分たちがやることではないと思うから。自分は観客をステージから熱狂させるロックバンド的な資質を持ち合わせてるとも思えないし。STUTSくんもそうだけど、ビートメイカーの友だちと喋っていると、わりと考え方が近いなと感じることがよくあるんです。たまたま活動形態がバンドとソロアーティストで違うだけで。imaiさんとかも同じことをやり続けてるじゃないですか。
―imai氏のビートも誰とも似てないですよね。
川辺:そういうところにシンパシーがあったりして。
STUTS:その感じは今回、レコーディングに参加させてもらったときにすごく感じたことで。メンバーそれぞれに持ち場があるんだけど、結果的にそれがまとまったときにミツメとしか言えないような音楽になってる。それを目の当たりにして素晴らしいな、素敵だなと思いました。一般的なバンド感はないかもしれないけど、4人の頭脳が集まってまとまったらミツメになる。そこにミツメならではのバンド感を感じましたし。
大竹:年々、一人ひとりが独立してる感じがエスカレートしてるかも(笑)。前までは誰かがビジョンを持ってきてまとめたりしていたんですけど、今は完全に無政府状態なので(笑)。
一同:(笑)
―それでも絶妙に調和しているという。
須田:これは僕のイメージなんですけど、曲を作ってるときにはいつもパソコンがあって、そこにそれぞれのメンバーのケーブルがつながってて、いわゆるバンドらしい直接的なつながりというよりは、一つハブを挟んでる感覚があるんですよね。そのパソコンが「ミツメさん」というか(笑)。
川辺:パソコン本体がミツメ(笑)。
須田:ミツメさんという脳みそを通して、僕らが司令を受け取ってるのかもしれない……(笑)。しかもその脳みそって、僕らがコミュニケーションしながら作ったものじゃないんですよ。
須田:僕らはお互いが「ああしてほしい」「こうしてほしい」と言うような直接的なコミュニケーションとることはほとんどなくて、バンドを始めたころはそこにモヤモヤすることもあったんですね。
でも、そういうコミュニケーションが得意じゃないバンドだということがだんだんわかってくるし、年々それがなくてもお互いのOKラインがわかってきて。そういうこれまでの活動を経て、「ミツメ=意識の集合体」みたいな感覚が生まれてきたのかなって思います。
―ましてや今作は時勢もあって、ライブが満足にできなかったからこそ、こういうアルバムになったところもあるだろうし。
川辺:たしかに今回の無政府ぶりはライブがなかった影響もかなりあると思いますね。
「手法としても新しい扉を開けてもらえたと思います」(川辺)
―“Basic”の制作は具体的にどう立ち上がっていったんですか?
川辺:僕が最初にギターのコード進行と歌のデモを送りました。いつもだったらそこからメンバーでデモを完成させていくんですけど、今回はその前にSTUTSくんに解釈してもらったデモを作ってもらって。それに対してメンバーそれぞれがパートを乗っけていく流れでした。
―鍵盤がすごく印象的に鳴ってますね。
STUTS:サウンドの移り変わりを意識しました。あと、ミツメの曲でピアノがガッツリ入ってる曲を聴いたことがなかったので。
―STUTSくんとコラボレーションするうえでいろんな方向性を考えられたと思うんですけど、結果的にミツメの音楽像にナチュラルにSTUTSくんのテイストが溶け込んでいる仕上がりになっているなと。
STUTS:たしかにそういう感じかもしれないですね。自分の曲はループものが多いし、こんなにいっぱいコード進行のある曲はまだ作ったことがないので。間奏を作るのもすごく楽しかったです。
川辺:STUTSくんが今までリリースしてきた曲を一通り聴いて、いろんなコード進行が順々に展開していくような曲ってあまりないなと思って、そういう曲を一緒にやりたいと思いました。もっとリズムを押し出した曲をやるのもいいかなと思ったけど、そういうことは他でもたくさんやってるだろうし。今回、レコーディングではSTUTSくんが生ピアノを弾いてくれたんですよ。
―そうなんですね。“Basic”は、STUTSくんが音楽的に学んでることを形にできた曲、という言い方もできるんじゃないですか?
STUTS:それは自分でも思いました。初めて自分で弾いた生ピ(生ピアノ)を録音できて、とても貴重な体験をさせてもらいました。
須田:グランドピアノで弾いてる姿がまたすごくよくて。スタジオでは後ろ姿しか見えないんですけど、僕らから見るとサンプラーを叩いてるときと同じなんですよ。
一同:(笑)
STUTS:本当に楽しかったです。当たり前ですけど、やっぱり生ピアノってMIDI鍵盤とは全然違うんだなって。
―ビートに関してはどういう方法論で組み立てていったんですか?
須田:STUTSが作ったビートとツインドラム的に組み立てる方法もあったけど、基本的にはSTUTSが打ち込んだドラムがあって、そこに僕が録音した生ドラムのフレーズが一部で重なってる感じですね。
川辺:手法としても新しい扉を開けてもらえたと思います。
6作目にしてバンドの「新しいスタンダード」を手にできた背景
―アルバム本編の楽曲群はどのように制作していきましたか?
川辺:アルバムに向かってトータルで考えるというよりは、1曲1曲独立させて作っていきました。2020年全体の活動をどうしていくかという話からアルバムのことを考えだしたので、どうなるかわからないまま曲を作り始めたところがあって。
―コロナ以降、実際にアルバムを制作しリリースしてもツアーをどのタイミングで打てるかも不明瞭だし。
川辺:そうなんですよね。実際にライブで先に演奏してアレンジを詰めていく曲があってもいいと思ったし、メンバーだけで録音したりとか、新しいこともやりながらラフな感じでリリースできたらいいなというイメージもあったんですけど、それも叶わなくなってしまって。
ただ、それでも曲の制作は続けたんです。結果的に、新しいチャレンジを形にできたのはtofubeatsさんのリミックスとSTUTSくんとのコラボレーションくらいなんですけど。
須田:いつも僕らが倉庫でプリプロしているくらいの状態の音源を、フットワーク軽くポンポン新曲としてリリースしていくのもいいかもって話もアイデアとしてはあったんですよね。
―ただ結果的に、このアルバムは2020年を記録するという感触に加えて、ミツメのスタンダードを再構築した印象があります。
川辺:たしかにマスタリングしたときに「あ、自分たちの2020年が形になったね」という印象が最終的にはありました。やっぱり近い時期に作った曲をギュッと集めると一つのムードが生まれるのかもしれないですね。ドキュメンタリーとして残せたアルバムというか。
須田:今までのアルバムは曲を作っていく中で全体のトーンを意識してきたけど、今回のようにその意識がなくても自然とそのときのムードが出るんだというのは新鮮な発見でもありました。
―2020年から2021年になっても引き続いている時代のムードを冷静に言葉にしたり消化するのはこれから先になると思うし、このアルバムに閉じ込めたムードをメンバーが言語化するのは難儀だろうと思います。でも実際には、アーティストはこうしてその時代を生きている感覚をオンタイムで表現に昇華できるわけで。
須田:そうですね。そういう意味でも純粋に2020年の1年間に僕たちが作った曲たちを記録したアルバムというか。写真の「アルバム」に近い感じのニュアンスもあるかもしれないですね。
―大竹さんはどうですか?
大竹:たとえば前作(2019年リリースの『Ghosts』)はシンセとかギターではない楽器もいろいろ重ねて、音色的な面白さを探っていたんですね。でも、今回はギターで表現できることを増やそうと思って。そういう個人的なテーマを決めて制作に取り込んだので、自分の中では統一感があるなと思っています。
ミツメ“ダンス”を聴く(Apple Musicはこちら)
―たしかにソロも含めて印象的なギターフレーズが多いですよね。nakayaanさんはどうですか?
nakayaan:僕もこのムードを言語化するのは難しいんですけど、コロナで2か月くらいメンバーとまったく会わない時期を経て、曲作りをリモート化したんです。その結果、一人ひとりのフレーズは以前よりも練られていると思うんですよね。
ドラムのビートも個性的な曲が多いと思うし、ギターのコード感の重ね方も複雑化していたり。それぞれのアイデアを受けて、それを活かして形にしていくことをみんなが意識的にやっていたように思います。それがあって今までとは違う一つのムードが生まれたのかなと。
「今までのアルバムとはグルーヴが変わって、晴れた日に聴いて晴れた日に聴いて気持ちいいと思うような作品だなと」(STUTS)
―STUTSくんはこのアルバムをどう聴きましたか?
STUTS:今までのミツメのアルバムには独特の湿度があった印象があるんですけど、今回のアルバムは音像的にもカラッとしてるなと思いました。グルーヴもよりタイトになっていて。最高だと思います。今までのアルバムとはグルーヴが変わって、晴れた日に聴いて気持ちいいと思うような作品だなと。
須田:今まではLogic(Apple製の音楽制作ソフト)上で擬似的なセッションをやりながらアレンジをしていたんですね。ドラムも適当に打ち込んで事故的に生まれた変な隙間も活かしながら、生ドラムに差し替えるということをやっていたんです。でも、今回はデモの時点で生ドラムを入れてわりと肉体的なグルーヴ感が強いと思うんですよね。
―ファンクとヒップホップの間をいくような肉体的なビート感のある曲が散見しているなと思いました。
須田:そうですね。生ドラムならではの16分(音符)の方向性があって。自分が最近聴いてる音楽も含めてそういう傾向が強かったですね。BPMが90前後の曲も多くて、いろいろ試しやすいテンポでもあるんです。去年の後半は特にスタジオにいる時間も長かったので、ずっとマイクを立ててドラムを録って、「ああでもない、こうでもない」という詰めの作業をしてました。それも初めての試みでしたね。
ミツメ“睡魔”を聴く(Apple Musicはこちら)
「架空のいい時間を」。川辺が歌詞に託した思い
―歌詞に関しては「ささやかに願っている」というようなニュアンスをいろんな曲に感じたんですね。
川辺:今、前作『Ghosts』みたいな不在を意味するような言葉を立てるのもキツいなとは考えました。シビアなことを表現するのは、あまりに救いがない世界だなって。せめて自分たちが作る音楽くらい、ポジティブでいこうと思ったんです。ポジティブなマインドで創作に向き合ってこの状況を乗り越えていきたい気持ちが強くあって、それが歌詞に関して共通してるところだと思います。
創作って「あ、そういうふうな捉え方もできるよね」ってジャンプできるような、いい作用があると思うんですけど、それが今までよりも前に出ている歌詞にしたかった。だから言っていただいたような「ささやかな願い」というニュアンスが自分の中から出てきたんだと思います。
―ただ例外的に“システム”には、不穏な時代感が珍しく直接的に反映されているなと思いました。
川辺:ハードSFみたいな小説が好きで普段からよく読んでるんですけど、“システム”にはそういう趣味の感じがちょっと出ているかもしれないです。でもそれも、基本的には楽しく創作したいという気持ちなんですよね。今、聞き流せないようなハッキリとしたメッセージのある曲って聴けますか? 自分は辛くて。けっこうキツくなったりしません?
―たしかに日本語の歌詞は特に意識して聴こうとしないと入ってこないし、耳に入れようとしてないかもしれない。
川辺:ビートに的に鳴ってる言葉のほうが聴けるというか。でも、ミツメというバンドには自分が書いた日本語の歌詞が必要だと思うので、それならポジティブにいこうという感じでしたね。
―曲にいい時間を閉じ込めたかったというか。
川辺:そうです。架空のいい時間を。
―最後に、またSTUTSくんとコラボレーションする機会があったらどういう曲を作りたいか、イメージできますか?
川辺:いや、もう、次はガチガチのビートで。音程もない、みたいな(笑)。
STUTS:面白そう。そういう曲は僕もあんまり作ったことないです(笑)。
nakayaan:あとは、STUTSが歌う曲ですかね。
須田:僕らは全員コーラスでね。
STUTS:いやいや!(笑)
- リリース情報
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- ミツメ
『Basic(feat. STUTS)』 -
2021年3月17日(水)配信リリース
- ミツメ
『Basic(feat. STUTS)』(7インチアナログ盤) -
2021年4月21日(水)発売
価格:2,200円(税込)
PEKF-91035 mitsume-028[SIDE-A]
1. Basic(feat. STUTS)
[SIDE-B]
1. ジンクス
- ミツメ
『VI』(2CD) -
2021年3月24日(水)発売
価格:3,000円(税抜)
PECF-1183/4 mitsume-026[CD1]
1. Intro
2. フィクション
3. 変身
4. ダンス
5. 睡魔
6. メッセージ
7. システム
8. VIDEO
9. リピート
10. コンタクト
11. Interlude
12. トニック・ラブ
13. Basic(feat.STUTS)(ボーナストラック)
[CD2]
1. Intro
2. フィクション(instrumental)
3. 変身(instrumental)
4. ダンス(instrumental)
5. 睡魔(instrumental)
6. メッセージ(instrumental)
7. システム(instrumental)
8. VIDEO(instrumental)
9. リピート(instrumental)
10. コンタクト(instrumental)
11. Interlude
12. トニック・ラブ(instrumental)
- ミツメ
『VI』(アナログ盤) -
2021年3月24日(水)発売
価格:3,200円(税抜)
PEJF-91034 mitsume-0271. Intro
2. フィクション
3. 変身
4. ダンス
5. 睡魔
6. メッセージ
7. システム
8. VIDEO
9. リピート
10. コンタクト
11. Interlude
12. トニック・ラブ
- ミツメ
- イベント情報
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- 『WWMW』
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2021年3月31日(水)
会場:東京都 恵比寿 LIQUIDROOM
- プロフィール
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- ミツメ
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2009年、東京にて結成。4人組のバンド。オーソドックスなバンド編成ながら、各々が担当のパートにとらわれずに自由な楽曲を発表し続けている。そのときの気分でいろいろなことにチャレンジしています。2021年3月24日、ニューアルバム『VI』をリリース。
- STUTS (スタッツ)
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1989年生まれのトラックメーカー/MPC Player。2016年4月、縁のあるアーティストをゲストに迎えて制作した1stアルバム『Pushin’』を発表し、ロングセールスを記録。2017年6月、Alfred Beach Sandalとのコラボレーション作品『ABS+STUTS』を発表。2018年9月、国内外のアーティストをゲストに迎えて制作した2ndアルバム『Eutopia』を発表。現在は自身の作品制作、ライブと並行して数多くのプロデュース、コラボレーションやCM楽曲制作等を行っている。
- フィードバック 7
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