自己主張ができなかった。弱さを脱ぎ捨て歌う優利香が目指すもの

自分の弱さに気づいた時、それに目をつぶったことはないだろうか。シンガーソングライターの優利香は、自分の弱さを認め、強くなりたいと願い、そして音楽の道に歩み始めたばかり。

前を向く強さ(Strong)を込めた最新(Newest)の5曲を収録した初の全国流通ミニアルバム『Newestrong』は、優利香が強くなりたいと願う意思表示だ。自分の意思を言葉にできなかったという自身の弱さに気づいた瞬間や、それを直さなければと決意した大切な人との別れ、そして音楽を始めたきっかけなど、初めてのロングインタビューで語ってもらった。

ちょっとボイトレに行ってただけの状態で急に専門学校に行ったら、ほんまに私はゼロの状態やなって。

―専門学校で音楽を学んだそうですが、音楽を仕事にしようという気持ちは幼い頃からあったんですか?

優利香:いえ、興味はあったんですけど、もともと音楽をやってきていなかったですし、音楽を職業にする勇気はなかったです。でも、中高生の時にUVERworldさんやYUIさんを聴いて、自分たちで楽曲を作って、歌を届けていることがすごくかっこいいなと思って。それで、私も曲を作りたいなとは思っていました。

優利香(ゆりか)
兵庫県神戸市出身。シンガーソングライター。専門学校卒業後、大阪を中心に東京や名古屋で本格的に活動を開始。関西最大級の音楽コンテスト『eomusicTRY2017』でファイナリストに選出。ABCテレビのオーディション『OHA-1グランプリ』でグランプリを獲得し、“眩しい朝日”が情報番組『おはよう朝日です』のテーマ曲に選出。2021年3月10日に初の全国流通ミニアルバム『Newestrong』をリリース。

―実際に音楽を始めたのはいつですか?

優利香:歌がうまくなりたい気持ちがずっとあって、高校3年生の時に趣味でボイトレに通い始めたんです。実際にボイトレを始めてから、人前に立つとこんなに緊張して歌えへんのやって実感したんですけど、ちょっとずつ歌えるようになっていくのが楽しくて。

そのあと、進路をどうするか考えた時に、音楽しかやりたいことがなかったし、ボイトレを始めたことでさらに音楽をやりたいって意思が固まって専門学校に行くことに決めました。

―ボイトレに行ってなかったら進路を迷っていたかもしれないんですね。ギターも同じ時期から始めたんですか?

優利香:ボイトレに行ってなかったら違う道に行っていたかもしれないです。ギターは専門学校からです。楽器自体やったことがなかったですし、曲も作ったことがなかったですし……。

優利香:ちょっとボイトレに行ってただけの状態で急に専門学校に行ったら、ほんまに私はゼロの状態やなっていうことがわかって。最初はコードもわからなくて、「構成音」って言われてもなんやろうって思ってたし、「意味がわからへん!」ってなってました(笑)。

常に悔しい日々でした。コンテストで毎回最終審査まで行くんですけど、賞を獲ったことが一度もなくて。

―周りは中高時代に部活で楽器をやっていたとか、音楽経験のある人が多かったんじゃないですか?

優利香:そうですね。ミュージシャン科のシンガーソングライターコースっていうところに入ったんですけど、軽音部だった人が多くて、ほんまにみんな歌も上手やし、高校の時から曲を作っててすでにオリジナル曲を持っていたり、ダンスまでできたりして。

―そんな人たちを見て焦りませんでした?

優利香:焦りましたけど、とにかく夢中でした。夕方くらいに授業が終わったら、学校が閉まるギリギリ、夜9時くらいまで残って曲を作ったり、歌の練習をしたり、毎日楽しかったです。ギターもめっちゃ難しかったんですけど没頭してました。

周りの人たちはすでにすごく弾けていて、自分も弾けてるつもりなんだけど音が鳴ってないみたいなことがたくさんあったんです。コードを教えてもらって曲を作る授業があって、そこで初めて作曲にも挑戦しました。難しかったですけど、評価してもらえて「次もいいものを作りたい!」という気持ちになりました。

―専門学校をすごく楽しんでいたようですが、悔しい思いをしたことはありますか?

優利香:あります、あります。常に悔しい日々でした。学校内のコンテストで毎回最終審査まで行くんですけど、賞を獲ったことが一度もなくて。友達がグランプリを獲っているのを見たりして……。卒業してから『eo Music Try』っていう関西の大きいコンテストに出た時も、800組くらいの中からファイナルの7組に選んでいただいたんですけど、何も獲れなかった。賞はいくつもあったんですけど、一個も獲れなくて。ずっと悔しいです。

夏休みの宿題も最終日に徹夜でやって、寝不足で始業式に行くタイプなんです。ダメですね(笑)。

―たしかにそれは悔しいですね。その悔しさはどのように消化していたんですか?

優利香:あかんなあって思ったら、とにかくずっと練習してます。悔しくて、また音楽を始めるっていうことの繰り返しです。実力が足りないから悔しい結果になっているので、自分なりに何があかんかったんやろうって考えて音楽に向き合ってはいるんですけど、周りからは「猪突猛進」って言われていて。

―それは良くない意味で?

優利香:良くない意味ですね。データ分析をするのが下手くそっていう(笑)。やるぞって決めたら最後まで走っていけるんですけど、そこに何が足りひんとか分析したり計算したりするのが下手です。頑張ってノートに書いたりするんですけど、結局細かいことが苦手ではあります(笑)。

―優利香さんとしては、猪突猛進のまま進みたいですか? それとももうちょっと分析して進んでいきたいと思います?

優利香:分析もやってみようって思うんですけど、「でも、これがやりたいわけちゃうしな」って結局は思っちゃう。でもやらなあかんっていうのもわかってるし……。私、夏休みの宿題も最終日に徹夜でやって、寝不足で始業式に行くタイプなんです。ダメですね(笑)。

―(笑)。ダメって思いつつも、きっとそれが優利香さん自身のリズムとしてはちょうどいいのかもしれないですね。

優利香:そうですね。やらなあかんっていう罪悪感は抱えながらも、先にやりたいことをやっていました。今は自分のやりたいことやゴールを決めて、そこから逆算して計画を立てて、そのうえでやらなきゃいけないことも含めて、自分が楽しんで計画を進められるようなマップを描きます。

自分の気持ちをうまく言葉にできず、感情をあまり外に出してこなかった。

―2016年から毎月東京でもライブをしていますが、それもマップの道筋のひとつですか?

優利香:それは専門学校を卒業してすぐに、とりあえずなんでもチャレンジしようということで始めました。当時、東京で月1回やってるオーディションライブがあって。それをたまたまネットで見つけたんです。

優利香:東京に行ったらいろんな人と出会って繋がれるかなと思ったのと、しかも毎月ですから、自分がどれだけできるのか・できないのかを測るためにもいいなって。もちろん、「大阪でも頑張っていくぞ!」という気持ちはありつつ、やっぱり東京って一番の都市ですし、そこで腕試ししたかったんです。

―実際に東京での腕試しはどうでした?

優利香:オーディションごとにスタッフの人たちが、曲や歌詞、構成、パフォーマンスまでいろんなことを言ってくださるんですけど、「私、全然できてないんやな」って感じました。やっぱり私は大阪から参加してたこともあって最初のうちは集客も難しかった。ライブも全然できてないし、集客もできないし、私には何もないやんって思って。

優利香:でも、「絶対記録を塗り替えたる!」って頑張って、最終オーディションを勝ち抜きました。今振り返るといい経験だったし、勉強になりました。腕試しをした理由もそうですけど、とにかく強くなりたいっていう気持ちが大きかったですね。

―今作のタイトルも『Newestrong』で、優利香さんは「強さ」というものに意識的ですよね。「強さ」を意識するということは、逆に「弱さ」に向き合わないといけないことがあったのでしょうか?

優利香:小さい頃から自分は弱いなと思っていて。考えていることは常にあるんですけど、自分の気持ちをうまく言葉にできず、感情をあまり外に出してこなかったんですよね。何か原因があったわけではないんですけど、気づいた時にはもう自己主張しない人間になっていた。

優利香:「これ言ったら相手が傷つくやろうな」とか「こういう言い方あんまり良くないんかな」とかいろいろ考えてたら、いつの間にか言葉を発さなくなっていたというか。それで、いざ主張してみようとしてみても難しいなと感じてしまって。

優利香『Newestrong』を聴く(Apple Musicはこちら

意見がぶつかる時、納得していないのに周りに合わせてしまう自分がいて。

―周りの人に気を遣いすぎて、自分の意見を言うことが難しく感じてしまったんでしょうか?

優利香:そうですね。たとえば意見がぶつかる時、納得していないのに周りに合わせてしまう自分がいて。とにかくその場を丸く収めることを優先していたんです。喧嘩もそうじゃないですか。納得してないけど、丸く収めるために一旦謝っとこみたいな。でも、やっぱり納得してないからあとから爆発しちゃうんですよね。

―爆発してスッキリするわけではなかったですか?

優利香:それを繰り返していると自分が自分じゃないような感覚になっていって。こんなことをしてる自分は弱いなと思ったんです。アルバイトとか学校とか、いろんな人間関係がある中で、立場が上の人に一方的にいろいろ言われて「言い返せへんけど、これ理不尽すぎるねんけど……」って思ったりしてました(笑)。

―さきほど優利香さんが「原因があったわけじゃない」とおっしゃっていたように、それって小さい頃からの性格でもあると思うんです。そんな長年染み付いたものを変えようと思ったきっかけはなんだったのでしょうか?

優利香:専門卒業してすぐ、恋人に対してちょっと嫌だなと思うことがあっても、とりあえず丸く収めるために、言葉にせず我慢していた時期があったんです。伝えてないから相手は私が何か思ってるなんて知らなかったと思うんですけど、私の中では「ん?」っていうことが積み重なってて。

優利香:それが最終的に爆発して、関係が終わってしまったんですよね。それで、言わないと伝わらへん、伝えん自分が悪いって反省しました。それをきっかけに、ちゃんと言いたいことを伝えるための言葉を発しようと思って。

鎧の強さはなくていいし、それに頼るんやったら弱虫のままでいい。

―その時は「言わなくてもわかってよ」みたいな気持ちがあったんでしょうか?

優利香:「言わなくてもわかってください」って思ってましたね(笑)。一つひとつ相手に伝えることによって、どうしてもバチバチしちゃうことが面倒だなって思っていたんです。怖かったし、バチバチを避けるべく逃げていました。何かものごとについて話しているのに、そのトピック越しに自分自身が否定されているような気分になってしまっていたんやなって思います。

優利香:でもそれは攻撃されていると私が思いすぎていたところもあったし、丸く収めることって相手と向き合ってることじゃないんだって。それに気づいた時に直さなあかんって思ったんです。丸く収めたほうがいい時もあると思うんですけど、「ほんまは嫌やけど面倒やから……」っていうのはダメだなって。自分のその弱さを克服しないと、人と信頼関係が築けないと感じました。

―今作の収録曲は、どれも前に進むことを鼓舞してくれるものですよね。その中で、<泣き虫はいつだって真剣>(“e s c a p e”)、<今は弱虫なままでもいいんだ>(“ハートレス人間”)といったように、弱さを肯定するような歌詞もあります。優利香さんが肯定する弱さってどういうものでしょう?

優利香:私もほんますぐ泣きますし、でも泣いたからこそ「頑張ろう」ってなれるんですよね。ほんまの自分でいられる強さがあればいい。ただ、鎧をまとって自分を押し殺し続けて、ほんまの自分じゃないまま周りに合わせて笑ったり、ほんまはいいと思ってないのにいいと思い込もうとする、そして、その状態のまま強くなろうとするのは本当の強さじゃなくて、克服したほうがいい弱さだと思います。

―何かに頼ることなく、自分の身一つで強くなりたいというか。

優利香:鎧の強さはなくていいし、それに頼るんやったら弱虫のままでいいです。鎧を脱いだ弱さのままでも走っていけたらいいなと思っています。鎧があったら安全かもしれないし、強くなったような気もするけど、それは自分じゃないから結局居心地が悪いんですよね。音楽という夢を追いかける中で、自分の弱さもより見えてきて、曲にもそういう私の日々やストーリーが詰まっています。

優利香“ハートレス人間”を聴く(Apple Musicはこちら

挑戦して失敗したとしても、それを弱さによる失敗として終わらせるんじゃなくて、強くなるための学びに変えていきたい。

―自分を守るために鎧をまとっていたけど、それは実は逃げだったということですよね。それに気づき、生身で走っていこうとしている中で、今どんな強さがほしいですか?

優利香:前は自分を守るための鎧を着ていたけど、今は自分ではなくて、家族や友達、自分を支えてくれる人を守り抜く強さがほしいです。自分が書いた曲で少しでも勇気を与えていきたい。今まで自分に対して自信がなかったけど、今は自信がないからこそもっと頑張れると感じているし、それを重ねていくことで少しずつ自信がついてきて。

優利香:先日『OHA-1グランプリ』というオーディションでグランプリをやっと獲れたのですが、その嬉しさや喜びによって、自分も自分のことを認めてあげていいんだと思えるようになりました。何かに挑戦して失敗したとしても、それを弱さによる失敗として終わらせるんじゃなくて、強くなるための学びに変えていきたいです。

―弱さも失敗もたくさん経験するからこそ、強くなっていけるのかもしれないですね。

優利香:そうですね。失敗をごまかし続けて結局爆発して、大切な人とのつながりも自分のせいで切れてしまった。その時に向き合うことが難しくても、あとでわかることも多いと思います。前は繕うことを頑張っていたけど、今はもうそのままの自分でいたいし、鎧ガチガチのまま進んだり、頑張りすぎなくていいと思っています。

リリース情報
優利香
『Newestrong』(CD)

2021年3月10日(水)発売
価格:1,800円(税込)
EGGS-057

1. 眩しい朝日
2. ハートレス人間
3. ノスタルジーラムネ
4. 勇者
5. e s c a p e

イベント情報
『「Newestrong」Release Tour 2021 ~きっともっと強くなる~』

2021年4月24日(土)
会場:東京都 渋谷LUSH

2021年5月8日(土)
会場:愛知県 名古屋 sunset BLUE

2021年5月29日(土)
会場:大阪府 OSAKA MUSE

『「Newestrong」発売記念インストアイベント ミニライブ&サイン会』

大阪編
2021年3月13日(土)
会場:タワーレコード梅田大阪マルビル店 イベントスペース
時間:14:00スタート
対象店舗:タワーレコード梅田大阪マルビル店、梅田NU茶屋町店、難波店、タワーレコードあべのHOOP店

東京編
2021年3月26日(金)
会場:タワーレコード池袋店 イベントスペース
時間:18:30スタート
対象店舗:タワーレコード池袋店、渋谷店、新宿店、横浜ビブレ店

各対象店舗で新作『Newestrong』お買い上げの方に先着で「イベント入場引換券」と「サイン会参加券」をお渡しいたします。

プロフィール
優利香
優利香 (ゆりか)

兵庫県神戸市出身。シンガーソングライター。専門学校卒業後、大阪を中心に東京や名古屋で本格的に活動を開始。関西最大級の音楽コンテスト『eomusicTRY2017』でファイナリストに選出。ABCテレビのオーディション『OHA-1グランプリ』でグランプリを獲得し、“眩しい朝日”が情報番組『おはよう朝日です』のテーマ曲に選出。2021年3月10日に初の全国流通ミニアルバム『Newestrong』をリリース。



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