いつもより急ぎ足で桜が立ち去ろうとしている2021年の春。新たな出会いや別れが生まれ、たくさんの人が岐路に立つこの季節に、大阪のポップバンド・アポロノームが初の全国流通盤となるミニアルバム『Moment』をリリースした。
卒業アルバムのような“君へ”をはじめ、学生生活で抱いた憧れ、幼い恋愛の甘酸っぱさや友情といった、さまざまな青春の断片が散りばめられ、未来へ背中を押してくれるような楽曲が、多様な表情のポップスとして描かれたこの作品。アポロノーム結成から今作に至るまでの迷い、そしてメンバー4人それぞれが経験してきた「青春」について聞いた。
高校の同級生を中心に結成。一度は別の道に進んだメンバーが、1stシングルのレコーディング3日前に直談判して急遽加入
―もともとアポロノームはどうやって結成されたんですか?
おおにしれいあ(Vo,Gt):私がツインボーカルのバンドを見て「めっちゃかっこいい!」って衝撃を受けて、高校時代に軽音部で一緒だった(辻村)アリサに声をかけたのが始まりです。それでアリサがおーしゃんを誘ってくれて。ちゃぎも部活が一緒だったんですけど、アポロノーム結成時はまだメンバーではなかったです。
―おーしゃんさんも部活が一緒だったんですか?
おーしゃん(Gt):僕だけ学年も学校も違うんですよ。辻村がスタッフをしていたライブハウスに僕が入り浸っていて、そこでたまたま誘ってもらって。だから最初はただ「他校の先輩に誘ってもらった」みたいな感覚で、1年くらいはずっと敬語で話してて(笑)。
辻村アリサ(Vo):その時はとにかくメンバーは集めたかったんですけど、誰から誘っていいかわからんくて。ライブハウスのスタッフとしていろんなライブを観ているなかで、おーしゃんがギターを弾いてる姿を見て「一緒にできたら楽しいやろうな」と思って声をかけました。
―ちゃぎさんはどのタイミングで入ったんですか?
おおにし:2018年11月11日の始動に合わせてリリースした『EnDマーク』ってシングルのレコーディングの3日前に、ちゃぎが突然「アポロノームに入りたいです」って連絡をくれて。
―直談判だったんですね。しかもレコーディング3日前(笑)。
ちゃぎ(Key):そうなんです(笑)。高校を卒業してからも、れいあともあーりん(辻村)ともそれぞれとごはんに行ったりしていて、アポロノームが始動するまでに「今こういう曲ができていて」「今こういう活動がしたくて」っていう近況や夢をいっぱい聞いていたんです。私もバンドをやりたいなっていう気持ちは心の奥底にあったんですけど、保育系の大学への進学も決まっていたし、無理やろうなって思ってて。
アポロノーム『Moment』を聴く(Apple Musicはこちら)
おおにし:その時は、ちゃぎと一緒にやりたいなって思ってたけど、完全に保育の道に進むと思っていたので、私たちからしたら誘えない人やったんですよ。だから、お互い思い合ってはいたけど、みたいな状態で。
ちゃぎ:そんななかで、私は大学に入って部活もなくなって、ほんまに勉強だけになって。同時に、レコーディングに向けてどんどん完成形に近づくアポロノームの曲を聴いて、「私もバンドやりたい」っていう気持ちがどんどん強くなったんです。やるとしても自分で一からバンドを作るというよりは、れいあとあーりんの歌でやりたいと思って。
ちゃぎ:それで高校の時からお世話になってるライブハウスの方に相談したら「アポロノーム、もう始動するから言うなら今しかないで」って言われて、勇気を出して「入りたい」って電話しました。それで始動タイミングのCDのレコーディングから参加し始めました。
高校1年のときは「ほんまに仲良くなかった」ボーカルの2人。「(一緒に)バンドやるなんてまったく思ってなかった」
―バンドのプロフィールに「高校の同級生だった辻村とおおにしを中心に結成」と書いてあったので、高校時代からずっと一緒にやっているのかなと思っていたのですが、それぞれがバラバラに活動していたんですね。
おおにし:そうなんです。高校時代もバラバラでした。私たちがいた軽音部はひとつのコピーバンドを3年間続けるっていう風習があったので、各自違うバンドでずっと活動していて。
おーしゃん:れいあさんは当時ブイブイ言わせてましたよね。
おおにし:私とおーしゃんは高校時代ブイブイ言わせてたタイプやな(笑)。
辻村:私とちゃぎは楽しくほんわかやってた。
―ブイブイ言わせてた人たちとほんわかやってた人たちが今一緒になっているのって不思議な感じがしますね。
おおにし:そうですね。特に私とアリサは高校1年の時はほんまに仲良くなかったです(笑)。その頃はアリサとバンドやるなんてまったく思ってなかった。
おおにし:入学してすぐ、軽音部の仮入部の時、ボーカル希望の人はひとりずつ歌わされるんですよ。みんな「緊張する」とか言ってるなか、私は負けず嫌いでプライドがすごく高かったのもあって、「とりあえず早く私が歌いたい、私が絶対いちばんええし」って思ってたんですけど、アリサがやっぱりうまくて。そこでライバル意識が芽生えたんですよね。たぶんアリサもそうやったと思う。高2で同じクラスになって、ようやくちょっとずつ打ち解けていきました。
辻村:そうやな。最初は「あ、ちょっと気悪いな」みたいな感じやった(笑)。部活の時、ほかのバンドが練習しているところが見えるんですけど、れいあのバンドの視線を感じると「なんでこっち見てるの?」って思ってましたね(笑)。
ちゃぎ:今笑いごとみたいに言ってますけど、当時は周りから見てもわかるくらい結構すごかったんですよ。今一緒にやってるのほんま信じられないです。
バラバラだった音楽性から、「絶対ポップな音楽」という確信を得るまで
―そして、結成時にいたメンバーの脱退などを経て、2020年の頭から現在の4人体制になるわけですよね。タイプの違う4人が集まって、音楽的な方向性はすぐに決まったんですか?
おおにし:最初はほんまに恥ずかしいくらいバラバラでした。始動して初めて出した3曲入りのシングルも、今は絶対にやらないような強い世界観のオルタナっぽい曲からギターロック、今の私たちに近いポップな曲まで入っていて。そのあともいろいろ作ってたんですけど、本当に迷いに迷ってました。
―迷っていたからいろいろなジャンルの曲を作っていたんですか?
おおにし:いろいろやってみて、自分たちの「これだ!」っていうものを見つけようって思っていたところもありましたし、「いろんな曲を作れるよ」っていうスタンスでやりたいと思っていたところもありました。でも、やっぱりポップな曲を作ったり、演奏したりしている時が、いちばん自分たちにしっくりきて楽しかったんです。だから今は絶対ポップな音楽やなと思います。
―いろいろやることで何かひとつ軸になるものを探していた感覚があったのでしょうか?
おおにし:その頃は軸を探そうとしていた意識はなかったです。でも、『Amor』(2020年4月リリースの1stミニアルバム)でポップ調の曲が増えた時に「あ、これかも」ってなんとなく気づいて。それで、アポロノームのテーマソングを作ろうってなって“Ribbon”(同年9月発表)っていう曲ができて、「これが理想やな。この先これでやっていくんや」って思えるものがかたちになったというか。
「今だったら『ポップで、歌を大事にしてる』って自信を持って言える」(おおにし)
―バンドの指標となるような曲ができて、さらに活動をブーストさせたいタイミングで、コロナ禍に突入してしまいました。レコ発なども中止になりましたが、どんなことを考えて過ごしていましたか?
おおにし:自粛期間は時間ができたので他のアーティストさんの映像をじっくり見るようになったんです。それによって「メジャーアーティストになりたい」っていう気持ちが強くなって。今までいろいろ迷ってたけど、ポップであることが自分たちらしいんじゃないかって“Ribbon”で気づいたから、より「めっちゃポップな音楽やりたい!」って思うようになりました。自粛期間は何もできないからこそ、できるようになった時に向けて「やるぞ!」っていう気持ちを蓄積させていた感じです。
―バンドに対してのパワーを溜める期間になっていたんですね。
おおにし:そうですね。活動を始めた頃や自粛期間前も、自信がなかったわけじゃないけど、どこかちょっと不安な部分が拭えなかったんです。でも、自粛期間を経たことでやっていきたい音楽がより明確に見えて。
「アポロノームってどういう音楽なん?」って言われても、前はどこか決まりきってない感覚があったんですけど、今だったら「ポップで、歌を大事にしてる」って自信を持って言える。見えている景色の色が明るくなったというか、すごく楽しみがいっぱいあるなって感じられるようになりました。
―そういう気持ちの変化を経てできたのが今作の『Moment』なわけですね。
おおにし:まさにそうですね。“Ribbon”を出してすぐ、去年の10月、11月くらいから制作していて。そのタイミングから私はエレキギターをアコギに持ち替えて、ライブでも制作でも同期を入れるようになりました。自分たちのやっている楽器のみでアレンジしていたんですけど、『Moment』からは、「より壮大でポップな音楽をやる」「全国に届けられるくらいスケールの大きい音楽を作りたい」っていうことをメンバー4人で話し合って。
完成させたのは「卒業アルバムのような1枚」。ポップの枠のなかで違う表情の曲が作れるようになってきた
―今作は「青春」がテーマになっていて、「卒業アルバムのような1枚」になったということですが、なぜ「青春」や「卒業アルバム」というキーワードが出てきたんですか?
おおにし:これは完全に“君へ”ができたからですね。前から新しいアルバムのために卒業ソングを作ろうって決めていたんですけど、ただただ「卒業ソング」というだけだと難しくて。「卒業」っていうテーマから曲を考えていくうえで、卒業アルバムみたいにこれまでの日々、青春を思い出せるような曲にしようと作ったのが“君へ”でした。
―つまり、“君へ”ができたことで、アルバムのコンセプトが決まっていった?
おおにし:そうですね。1曲目である“君へ”を「卒業アルバム」というコンセプトにして、他の曲たちを学生生活だったり恋愛だったり、青春を切り取ったようなものにしようということになりました。
―冒頭3曲は疾走感と爽快感のあるギターサウンドが印象的で、まさに青春ソングですよね。それだけじゃなく、ダンサブルな曲や、アコースティックで素朴な感じの曲、少し大人な雰囲気の曲もあって。最初は音楽性がバラバラで迷っていたとおっしゃっていましたが、「ポップ」という方向性のなかでも曲の表情を広げていけるのは、とにかくいろいろ作ってきたことが功を奏しているんじゃないかなと思いました。
おーしゃん:まさにそうですね。いろいろなタイプの曲を作ってたのはほんまに大きいと思います。
おおにし:迷っていろんなタイプの曲を作っていたのが、いい感じに強みになってますね。あの頃いろいろ作ってて良かったです(笑)。だからこそ、「ポップ」っていう枠のなかで違う表情の曲を作れるようになってきたのはたしかにあると思います。
「バンドを始めてからのほうが青春してる。感情がいっぱい動かされることが青春かなって思います」(辻村)
―みなさんが卒業アルバムを見返すように思い出す「青春」と、それに合う『Moment』の収録曲ってなんでしょうか?
おおにし:私は部活を頑張ってたことですね。小さい頃7年間くらい新体操をやっていて、キャプテンだった時期もありましたし、中学時代は吹奏楽部で副部長をしていて。もともと吹奏楽部に入るつもりはまったくなかったんですけど、先輩がテナーサックスを吹いているところを見て、「かっこいい! 私もああなりたい!」って急に入部を決めたんです。
おおにし:それをそのまま歌詞にしたのが“GLOW”なので、私の青春がぎゅっと詰まった曲になっています。で、高校ではさっきも言ったように軽音部。小学生の頃から、ひとつのことに打ち込むということをずっとやっていたので、部活や習いごとが私にとっての青春です。
―おーしゃんさんは何を思い浮かべますか?
おーしゃん:僕は、ほんまにデモをもらったときから“恋する”がすごく好きで。自分の小中学校のときのあまーい体験を思い浮かべながらギターリフを作ったんです。今思えば照れてしまうような思い出なんですけど、小学校の夕方の帰り道を思い出したりして。合唱みたいな感じを出したくて、ラスサビではギターをオクターブで弾いています。
―幼い恋心の雰囲気が音として表現されていますよね。ちゃぎさんの青春はどうですか?
ちゃぎ:青春って言われていちばん記憶に新しいのはやっぱり高校時代です。高2から高3にかけて、生徒会長とか軽音部の部長とか、いわゆる人の上に立つ経験を結構していて。その立場にいるんだから、自分が引っ張っていかないとっていう気持ちがすごく強くて、いろんなことをひとりでやってしまっていたんです。でも、やっぱりそれだとしんどかったし、キャパオーバーして。
ちゃぎ:そこから、自分を信じて、周りも信じて、「頼ることも大事なんだ」って身をもって学びました。そうやって頑張ってた時間はもうなかなかできない経験だし、青春やなって思います。だから、私の経験にいちばん近いのは、“信じて”かな(笑)。4人でボーカルをとっていたり、楽曲のアレンジ面でも「信じる」ということを表現できているんじゃないかなと思います。
―卒業アルバムで青春を振り返ることがテーマの作品ですが、最後に入っているこの曲は、まさにいろんなものを信じて未来に向かわせてくれるような曲ですよね。アリサさんはどうですか?
辻村:私は学生時代というより、高校を卒業してアポロノームを始めてからのほうが青春してますね。もちろん高校時代のコピーバンドも真剣にやっていたんですけど、今ほどじゃなかった。今のほうが絶対的に頑張りたいし、絶対的に結果を残したいと思えるから、楽しいとか悔しいとか悲しいとか、いろいろな気持ちを経験できるんですよ。そうやって感情がいっぱい動かされることが青春かなって思います。
「ストレートに背中押してくれるバンドにも憧れるけど、私たちは私たちらしく、生活に寄り添う感じで背中を押していけたら」(おおにし)
―部活って学生時代という限られた時間しかできないし終わりがあるからこそ、瞬間瞬間を楽しめばやっていけるけど、アポロノームを始めて長期的な目標がイメージできたことで、感じられる楽しさの種類が増えたのかもしれないですね。
辻村:たしかにそうかもしれないです。今は目の前のことが楽しいというよりは、未来に向けての過程も楽しいし、そこに行き着いたときにもっと楽しいし、っていう気がしていて。だから、アポロノームを始めてからのほうが、感情が動く瞬間が多いのかなと思います。
辻村:そうやって考えているなかで、今の自分にいちばん刺さるのが、ちゃぎとかぶるんですけど、“信じて”なんですよね。私は優柔不断やし、迷うことも多いけど、この曲は<正解はひとつじゃない>とか<いつだって君にしかない答えを>とか、自分のなかの正解をしっかり持っててええんやって背中を押してくれます。
おおにし:「頑張れよー!!」ってストレートにめちゃくちゃ背中押してくれるバンドさんもめちゃくちゃかっこいいし憧れるけど、私たちは私たちらしく、生活に寄り添う感じで背中を押していけたらいいなって思うよね。
おおにし:歌詞が日常的で、曲調がポップだからこそ、ふと聴いてもらったときにいつもの風景がちょっとだけでもカラフルに見えるんじゃないかなって。少しでもみなさんの気持ちがプラスになるような音楽をどんどん追求していきたいと思っています。
辻村:「人生を変える!」とか「超ハッピー」とか「めっちゃ泣いちゃう」みたいな音楽も素敵やと思うんですけど、ふとした瞬間に頭で流れたり、シャッフル再生でたまたま流れてきたりしたときに「あ、ちょっとわくわくする」「こういう切ない感情もあるんだ」とか、本当にちょっとだけ日常を彩れたらいいなと思います。
- リリース情報
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- アポロノーム
『Moment』 -
2021年4月7日(水)発売
価格:2,200円(税込)
EGGS-0581. 君へ
2. GLOW
3. TROT
4. Last Night
5. 恋する
6. 愛ふれる
7. 信じて
- アポロノーム
- プロフィール
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- アポロノーム
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おおにしれいあ(Vo・G)、辻村アリサ(Vo)、ちゃぎ(Key)、おーしゃん(G)による、大阪豊中発ツインボーカル・フルカラーポップバンド。2017年に高校の同級生であるおおにしと辻村を中心に結成。2018年に始動と同時に1stシングル『EnDマーク』を発表し、その2ヶ月後には、10代の才能を発掘するプロジェクト「十代白書2019」でキタ大阪エリア代表として決勝に進出。2020年4月に1stミニアルバム『Amor』、9月に配信限定シングル“Ribbon”をリリース。「Next Age Music Award 2020」でグランプリを獲得。2021年4月、初の全国流通盤となる2ndミニアルバム『Moment』をリリース。
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