渋谷系ならぬ「神泉系」をテーマに活動する5人組バンド、フレンズ。2016年5月に1stミニアルバム『ショー・チューン』をリリースし、男女ツインボーカルによるポップでキャッチーなメロディーと、シティポップやAORを消化した風通しのいいアレンジが、音楽好きの間で話題沸騰中です。
メンバーは、長島涼平さんをはじめ、ひろせひろせさん、おかもとえみさん、三浦太郎さん、そしてSEKIGUCHI LOUIEさん。全員が別のバンドでデビュー経験を持っていることも、フレンズの大きな特徴の1つであり強みといえるでしょう。「1人1バンド」にこだわらない、自由な活動形態はバンドにどのような影響をもたらしているのでしょうか。彼らが拠点とする東京・神泉のスタジオを訪ね、おかもとさんとひろせさんに話を聞きました。
「将来なりたいものは『音楽』」。幼いころから音楽に夢中だったひろせとおかもと
フレンズの中で、ソングライティングの中核を担っているのが、おかもとえみさんとひろせひろせさんです。東京出身の2人は幼いころから音楽が好きで、とりわけJ-POPに夢中になっていました。
おかもと(Vo):父がイラストレーターだったため、アニメや特撮などの作品が家にたくさんありました。父が持っていた『魔法使いサリー』のDVD BOXセットをよく見ていましたね。“魔法のマンボ”という挿入歌が大好きで、自分のリズム感の基礎になっているような気がします。
あとは、ポケットビスケッツ(日本テレビ系『ウッチャンナンチャンのウリナリ!!』から誕生した音楽ユニット。内村光良、千秋、ウド鈴木による3人組)や野猿(フジテレビ系『とんねるずのみなさんのおかげでした』から生まれた音楽ユニット。とんねるずと番組のスタッフから構成)のような、テレビ番組の企画で生まれたグループが大好きだったのと、SPEEDのメンバーになりたくてダンスを始めたくらい、彼女たちに夢中でした。中学生になったら、当然ダンス部に入るつもりだったんですが、部の先輩たちが怖すぎて……(笑)。それで軽音楽部に入部したのが、バンドを始めたきっかけですね。
ひろせ(Key):保育園の卒園アルバムの「将来なりたいもの」を書く欄に、大きく「音楽」って書くくらい音楽が好きでした(笑)。小学生のころは劇団に所属していたのですが、『さわやか3組』(NHK教育テレビで放映されていた小学生向けの教育ドラマ)にも出ていて、その稽古のために渋谷へ行くと、CDシングルを買ってもらうのがすごく楽しみだったんです。PUFFYの吉村由美さんの“V・A・C・A・T・I・O・N”(1997年)や、Le Coupleの“ひだまりの詩”(1997年)など、大好きだったのを覚えています。
小学校5年生くらいのときに「アカペラブーム」が訪れて、それがきっかけで楽曲のハーモニーがどうなっているのかを調べたり、それを譜面ソフトに打ち込んで再現してみたりすることに夢中になって。当時やっていたことが、DTM(パソコンを使った音楽制作)の始まりだったと思いますね。
ひろせの誕生日会を機にゆるやかに始動したという、フレンズの結成裏話
幼いころから音楽に慣れ親しんでいた2人は、10代半ばにはすでにオリジナル曲を作るようになっていました。その後、おかもとさんはTHEラブ人間のベーシストとして、ひろせさんは3ピースバンド・nicotenのベーシストとして、メジャーデビューを果たし、精力的に音楽活動を開始します。
ひろせ:えみそん(おかもとの愛称)とちゃんと話したり、遊んだりするようになったのは、飲みの席がきっかけでした。僕ら1990年生まれなんですが、OKAMOTO'Sのハマ・オカモトくんや、ねごとの沙田瑞紀ちゃん、黒猫チェルシーの澤竜次くんとか、同い歳のミュージシャンが多いんですよ。それで「たまに飲もうよ」ってことで、「平成2年会」を一時期よく開いていました。当時、僕はあまりお酒の飲み方がキレイではなくて、今でもこんなに仲よくしてもらえているのが奇跡なくらい何回も迷惑をかけてるんです(笑)。しかも「フレンズ」っていう名前のバンドをやっているんだから不思議ですよね。
当時は同じベーシストだからパートも被るし、えみそんと一緒にバンドをやるなんて想像もしてませんでした。ただ、一緒にカラオケに行ったとき、初めてえみそんが歌っているのを聴いて、すげえ上手くて驚いたんです。
そのとき、自分が書いた曲をおかもとさんに歌ってほしいという気持ちが芽生えたひろせさん。最初は軽い気持ちで共同作業をもちかけました。
ひろせ:「これからは『渋谷系』じゃなくて『神泉系』でしょ」みたいな話をしました(笑)。僕が作った曲を渡したら、えみそんがすごくいい歌詞をあっという間に仕上げてくれたので、早速メロディーをつけて。そうやって完成したのが、フレンズのデビュー曲にもなった“ベッドサイドミュージック”だったんですよ。
おかもと:最初は発表するつもりもなくて、「土岐麻子さんに歌ってもらえたら嬉しいね」なんて言いながら作っていました。2人で曲をたくさん作って、コンペなどにもどんどん出していけたらいいね、って。
それぞれにキャリアを積んできたメンバーが「表舞台に出るために一致団結!」というノリでは全くなくて、気の合う仲間同士で自然発生的に生まれたのがフレンズだったのです。
ひろせ:ベーシストが集まる飲み会で長島涼平さんと出会って遊ぶようになって。「えみそんって、めちゃ歌上手いの知ってますか?」って言って“ベッドサイドミュージック”のデモ音源を渡したんですよ。そしたらある日、長島さんから「この前の“ベッドサイドミュージック”を演奏してみない?」って話になったんです。
おかもと:ただ、それも最初は本気ではなくて、企画っぽいノリなのかなと思っていました。なので、ひろせくんの誕生日会がバンドの初のお披露目だったんです。私自身もソロ活動を始める前で、楽器を持たずに歌うことなんて初めてだったし、メンバーはみんな友達だし、「楽しいな」くらいの感じでスタートしたんですよね。
メンバー間の共通認識は、「やりたいことをやって、楽しむ」ということだけ
当初はひろせさんのお誕生日会でお披露目し、その後の発展は何も考えていなかったというフレンズ。しかし、やってみたら思いのほか楽しく、「せっかくだからライブもやってみたいね」という話になり、気づけばメンバー全員の温度もグッと上がっていました。2016年2月、前任ギタリストから三浦太郎さんにバトンタッチすると、活動はさらに活発化。4月に配信シングル“夜にダンス”を発表しました。
おかもと:バンド名が正式に決まったのも、「フレンズ結成」のネットニュースを出すギリギリのタイミングでした。私はこの名前、気に入っていたんですが、周囲の評判があまりよくなくて……。検索にも引っかかりにくいし、ダサいから「レジェンド」っていう名前が候補に挙がってたり(笑)。
でもたとえば、ゆずさんだったり、いきものがかりさんだったり、日常にありふれた名前で活動している人たちは、みなさん大スターで子どもから大人まで知られているじゃないですか? それを信じて「フレンズ」を推し続けました。あ、あと、お笑いコンビは「ン」と濁点が入ってるコンビはブレイクするからいいって、ひろせくんがずっと言ってましたね(笑)。
ひろせ:「音楽的にどういう方向性でいくか?」みたいな話し合いも全くなかったんです。お互い、やりたいことをやって、楽しむっていうことだけが共通の認識としてあって。“夜にダンス”のあと、ミニアルバムを作ることになったときも、まずは僕らが楽しくやっている雰囲気が伝わればいいな、と思っていましたね。ただ、サウンドの質感にはこだわりました。特にドラムの音はかなり重要だと思いますね、時代感が出るから。
おかもと:歌詞を書くとき、「神泉系」というのは頭の片隅にありました。私、キリンジさんの歌詞がすごく好きなんですよ。パッと聴いた瞬間に「最高!」って思っても、あとから読み返してみると、何だかよくわかない。“千年紀末に降る雪は”(2000年)とか、何回読んでもいろんな考えが出てくる。そういうのが大好きなんです。 でも、一方で西野カナさんの“会いたくて 会いたくて”(2010年)みたいな、ストレートに届く歌詞もすごく好きで。『ショー・チューン』を作っているときは、キリンジさんと西野カナさんの、ちょうど間くらいの歌詞が書けたら最高だなって思っていました。
フレンズ結成以前から、2人にとってキーワードとなっている「神泉系」。「最初、深い意味は全くなかった」とひろせさんは言います。
ひろせ:バンドをやっていると、よく「どういう系?」って聞かれるんですが、これに対する正解ってなんだろうって、いつも考えていたんです。そういうときに、「○○系です」って答えられたらいいなっていうのがまずあって。「神泉系」の由来は、えみそんとの最初の楽曲制作テーマが神泉だったから、というだけなんです。で、ニュース出しするときにそのワードを入れてたら、いつのまにか「フレンズ(神泉系バンド)」みたいな感じでタグづけされるようになってて(笑)。
おかもと:音楽好きの方のブログなどにも、「神泉系、つまり渋谷の喧騒から1駅離れたような、ちょっと落ち着いたサウンド」みたいに紹介してもらってて。「あとからめっちゃ意味づけしてくれてる!」と思いました(笑)。
ひろせ:やっぱり、「〇〇系」というのは自ら積極的に言っていって、自分たちのイメージやブランドを形成していくべきなのかなって思いました。今後、「それ、神泉系だよね?」って言われるようなフォロワーが生まれてくれたら、すごく嬉しいですね。
「1人1バンド」という考えは自分たちらしくない。フレンズが提示する新しいバンド観
また、フレンズの特徴として、複数の活動をかけ持ちしているメンバーが多いことも挙げられます。たとえばおかもとさんは、科楽特奏隊ではシンセ&ボーカル、南波志帆さんのサポートではベースを担当し、SCOOBIE DOのナガイケジョーさんとはツインベースのユニットを組み、アイドルへの楽曲提供もしています。ひろせさんはnicotenで今もベースを弾き、長島さんも様々なバンドにゲスト出演、またはサポートとして参加しています。
ひろせ:「1人が1つのバンドにしか所属しない」という時代ではないなと思ってて。そういった固定観念を壊してくれたのは、川谷絵音さんだなって思う。昔はバンドをかけ持ちしていると、「どっちが本命?」なんて聞かれたと思うんですが、川谷さんがゲスの極み乙女。とindigo la Endの両方でメジャーデビューして作家活動もしてからは、あまりそういうことも言われなくなったと思っています。
何より、やりたいことって、やらないと意味がないと思うし、やりたいことを形にしていないのは、音楽として一番よくないんじゃないかなと思うんです。やりたいことがあるなら、全部やればいいし、キツかったらやめればいいだけの話っていうか。
「バンドは運命共同体」などと言われた時代もありましたが、「このメンバーとじゃないと、音楽をやっている意味がない」といった、一蓮托生的な考え方ではなく、もっとゆるやかなつながりでフレンズは成立しています。近すぎず、遠すぎず、程よい距離感で音楽を楽しめるのは、やはりセカンドキャリアだからこその「余裕」から生まれているのではないでしょうか。
おかもと:確かに、そうかもしれないですね。ファーストキャリアで経験した、いろんな成功と失敗がフレンズに昇華されていると思う。音楽的なことだけじゃなく、たとえばCDの発送作業も、やったことある人がノウハウを伝えるなど、みんなの経験が持ち寄られていい関係ができていますね。
そんなフレンズですが、「より多くの人に自分たちを知ってもらいたい」という強い野望も、メンバー全員が持ち合わせているのだとか。
おかもと:こないだワンマンツアーを回ったときに、「それぞれの場所の、1番大きいところでワンマン公演をやりたい!」ってMCで叫んだんです(笑)。それは、言っただけで終わらせるのではなく、ちゃんと実行したい。どんどん大きな会場でやって、どんどんいろんな人と会いたいです。
おかもと:“ビビビ”には、「イエー!」ってかけ声をするところがあるんですが、最初メンバー5人で言ってたのが10人になって、100人になって。1000人、そして1万人が、「イエー!」って言ってくれるようになったら、めっちゃ嬉しいだろうなぁって思うんです。私たちの声が聞こえなくなるくらいの「イエー!」を聞きたい! その日を目指して、これからも頑張ります。
場所はもちろん神泉。フレンズの極上のポップソングはここから
ここは、神泉にある「Snake Monkey Studio」。フレンズの拠点であり、レコーディングはもちろん、プリプロダクションや、ライブのためのリハーサルなども行なっています。『ショー・チューン』を制作する際、おかもとさんが歌詞を書き、ひろせさんが最終的なアレンジを行なうというルールを決め、それをフレンズのカラーにしたそうです。「名曲に、名イントロあり」を信条とするひろせさんの曲作りのこだわりは、「最初の5秒でリスナーを掴む」こと。1分でも、30秒でもなく、5秒。このこだわりから、極上のポップソングが生まれているのでしょう。
お気に入りの機材1:KORG「MS2000B」
KORG「MS2000B」(最新ラインナップ)
アナログモデリングシンセサイザーの名機として、今も名高いモデル。フロントパネルに主要な音色パラメーターを配置することによって、演奏中に音色を変化させたり、多彩な音色エディットを感覚的に行なえたりするところが、多くのミュージシャンに愛されている理由の1つでしょう。ボコーダー機能や、アルペジエーター機能も搭載されています。
ひろせ:ギターの太郎さんがやってたバンド、HOLIDAYS OF SEVENTEENのキーボードの方から太郎さんが譲り受けたものです。『ショー・チューン』の中の“とけないよ”という曲のベースはこれで弾きました。音ももちろんですが、とにかく見た目が最高(笑)。機材は見た目もすごく大事だと思うんですよね。今後はライブでも使っていきたいと思います。
お気に入りの機材2:KORG「microKORG S」
KORG「microKORG S」(商品詳細)
レトロでキュートなデザインからは想像もつかないほどの本格的なサウンドで、世界のスタンダードとなったアナログモデリングシンセサイザー「microKORG」。リニューアルした「microKORG S」は、新設計の「2+1スピーカー・システム」を内蔵し、スピーカーに繋げなくても音が出せるようになりました。
おかもと:以前はKORG「R3」を使っていたのですが、2年前に壊れてしまって。その3日後にライブの予定があったので、慌てて楽器屋に行って見つけたのが「microKORG XL」だったんです。アナログシンセの音がすごくよくて、メロトロンみたいな音色も気に入りました。ライブのときに、シンセのリードソロを弾いたりしています。この「microKORG S」は、内蔵スピーカーから音も出るし最高ですね!
お気に入りの機材3:Nord「Electro 4D」
2001年に初めて登場し、バーチャルアナログシンセサイザーのスタンダードとして瞬く間に地位を築きあげたNord「Electro」。改良を重ねたパネルレイアウトにより、ディープな音作りやセンセーショナルなサウンドも、シンプルな操作で作成可能となりました。
ひろせ:フレンズを結成してから使い始めたシンセです。自宅ではMIDIキーボードとしても使っています。打鍵のタッチがピアノに近いので、これで弾くとベロシティー(強弱)のニュアンスなどがつけやすいんですよ。ライブでは、基本的にエレピとピアノ、オルガンの音を使っています。パネルが見やすくて、ライブのときのとっさの判断でツマミを動かす際にも迷いがない。あと、イコライザーがついているのも嬉しいですね。会場によって低音の回り方も違いますので、その場で調整できるのは心強いです。
お気に入りの機材4:KORG「nanoKEY Studio」
KORG「nanoKEY Studio」(商品詳細)
nanoシリーズの新製品「nanoKEY Studio」は、キーボード、ノブ、トリガーパッド、タッチパッドを搭載。iPhone / iPad、Mac / Windowsとのワイヤレス接続 / 電池駆動が可能で、しかもA4サイズのバッグに収納できるくらいコンパクトな、モバイルMIDIキーボードです。どのキーを弾いても音楽的なフレーズを生み出すイージースケール機能など、多彩な演奏モードも備えています。
おかもと:普段の打ち込みは、KORG「KROSS」でやっています。モバイル用の「nanoKEY」を触るのは初めてですが、これさえあればどこでもできますね。歌詞はいつも移動中に電車の中で書いているのですが、「これからは曲作りも電車でできる!」と思って感動しました。山手線を1周しているうちに、5曲くらいできそう(笑)。iPhoneやiPadでソフトを立ち上げて、Bluetoothを使えばワイヤレスでも操作できるなんてすごい! トリガーパッドやタッチパッドまでついていて、まるで幕の内弁当みたいです(笑)。
おかもとが左手で操作している「nanoKONTROL Studio」と併せて使うことで、創作の利便性もより広がる(商品詳細)
「誰も聴いたことないような、新しい音楽を生み出すことは僕たちにはできないけれども、フレンズというバンドは『ポップアイコン』に絶対なれると信じています」――インタビューの最後に、そう話してくれたひろせさん。過去の音楽のエッセンスを抽出し、現在進行形のポップミュージックとして再構築していくフレンズから、誰もが口ずさむ国民的ヒット曲が生まれる日は、そう遠くないかもしれません。
- リリース情報
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- フレンズ
『ビビビ』(CD) -
2016年11月3日(木・祝)からライブ会場&通販限定で発売
価格:500円(税込)1. ビビビ
- フレンズ
- プロフィール
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- フレンズ
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2015年6月8日、おかもとえみ、ひろせひろせ、長島涼平、SEKIGUCHI LOUIE、takeにより結成。2016年2月takeと三浦太郎がバトンタッチ、現在のメンバーとなる。渋谷系ならぬ「神泉系」をテーマに発信する男女混成5人組。2016年5月25日、ファースト・ミニアルバム『ショー・チューン』を発表。同年11月3日、ワンコインシングル『ビビビ』をリリースした。
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