世界最大級の古書街、神保町で見つけた一度は泊まってみたい個性派ホテル

新緑の香りに包まれた春の東京の街を、ぶらぶらと散歩。ふと気づくのは、まるで次々と芽吹く樹木と競い合うかのように、そこかしこでホテルやゲストハウスの建設工事が進んでいること。 『東京オリンピック・パラリンピック』を2020年に控える東京はいま、宿泊施設の開業ラッシュに沸いています。もちろん神保町も例外ではありませんが、ここではほかの街とは趣向の異なる、個性的なホテルが続々とオープンしています。そのなかから、4つのホテルをピックアップしてみました。

日常を忘れて、漫画の世界にどっぷりつかれる『MANGA ART HOTEL, TOKYO』

東京ドームや皇居、小石川後楽園、古書店街などの観光名所や、交通の要衝である東京駅も至近の神保町での宿泊は、ビジネスにも観光にも便利。東京での滞在をより印象深いものにしてくれます。

まずご紹介したいのは、神保町エリアの東側、秋葉原へも徒歩圏内の場所に位置するスタイリッシュなデザイナーズビル。その4Fと5Fに『MANGA ART HOTEL, TOKYO』はあります。

ここは「眠れないホテル」がテーマのカプセルホテルで、提供するのは、「一晩中漫画体験=漫泊(まんぱく)」。ただひたすら、漫画の世界に浸る時間を過ごせるホテルです。

なかに入ると、フロアの壁には漫画がびっしりとディスプレイ。漫画に囲まれる光景は壮観で、「ここが本当にホテル?」と思わずにはいられません。

4Fが女性専用フロアで、5Fが男性専用フロア。入り組んだ本棚の間にベッドユニットが見え隠れしながら配置されています。

ベッドユニットを上下左右、さまざまな向きに配置することで、本棚とベッドユニットの間に心地よい「くぼみ」が生まれ、窮屈さを感じさせない、奥行き感のある空間が形成されています。

ベッドは100×200cmのシングルサイズで、十分に広く、ゆったりと足を伸ばしてくつろげます。ベッドユニット内にはコンセント2口とライト、ハンガー、貴重品ロッカーがあり、入り口のカーテンを閉めれば、どこか懐かしさを感じる秘密基地のようです。

寝具、タオル、耳栓、歯ブラシなどは無料で利用でき、Wi-Fiももちろん利用可能。でもせっかくなら、スマホやPCの電源を切って、漫画だけに没頭する贅沢を味わいたいものです。

ディスプレイされる約650タイトル、約5,000冊の漫画は、代表の御子柴(みこしば)さん、吉玉(よしたま)さんらが自らキュレーション。選書の基準は「アート」で、知名度にこだわらず、装丁や内容のアート性を重視しているようです。

セレクトの中には、あまり知られていない漫画、見たことがないような漫画も多く取り揃えており、

「有名な作品ですと、『ONE PIECE』や『キングダム』は置いていません。『進撃の巨人』も悩んだのですが、海外の方に人気がありますので、日本語版は置かず、英語版だけ置いています。スペースの問題で、並べられない作品がたくさんあるのが悩ましいですよ」

と御子柴さんは話します。

すべての漫画に選書理由のコメントが添えられていて、「面白そう」と自然に手が伸びます。普段なら手に取らないような漫画と出会えるのも、ここならではの楽しみ。気に入った漫画は購入することもできますので、印象に残った一冊をお土産として持ち帰るのもよさそうです。

ゲストはどのように過ごしているのか御子柴さんに伺ったところ、

「やはりずっと漫画を読んでいる方が多いですね。外出せず、どっぷりと漫画の世界に浸っています。出張ついでに興味本位で宿泊し、付加価値として漫画の魅力を再発見する方もいらっしゃる。うれしいですね、本当に」

2019年2月のオープンからまだ間もないが、欧米を中心とした訪日観光客を含めて、稼働率はほぼ100%だという。

英語版の作品も約1,000冊用意しているといいますが、ほかはすべて日本語版。それでも海外の方は楽しめるのでしょうか?

「私も心配していたのですが、海外の方は、日本語の作品でも楽しんでくれるんですよ。漫画は絵の情報量が多いため、アート感覚で楽しんでもらえているようです。特に美しい描画の作品が好まれ、たとえば、先日宿泊したロシアの女性は絵が素敵だからという理由で、鶴田謙二氏による著書『冒険エレキテ島』を購入していかれました」

と御子柴さん。「MANGA」はやはり、世界共通言語のよう。

従来のカプセルホテルとも違えば、漫画喫茶とも異なる『MANGA ART HOTEL, TOKYO』。国内外の旅行者はもちろん、東京在住の方もぜひ利用してみて。身も心も漫画の世界に浸る特別な時間は、忙しい毎日に潤いを与えてくれるはずです。

MANGA ART HOTEL, TOKYO
住所:東京都千代田区神田錦町1-14-13 LANDPOOL KANDA TERRACE 4F・5F
URL:https://mangaarthotel.com/

ミニマル&シンプルなカプセルホテル『ナインアワーズ竹橋』

神保町駅A9出口から徒歩5分。皇居のお堀が間近に広がり、ビジネス街の大手町・丸の内エリアからも徒歩圏内の好立地に位置するカプセルホテルが『ナインアワーズ竹橋』です。

周辺には雑居ビルが林立しますが、そんな雑多な雰囲気だからこそ、爽やかな白亜のビルが自然と目に留まります。

2009年の第一号店開業以来、必要最小限の睡眠スペースと設備、そしてリーズナブルな価格というカプセルホテルの要素に、利便性とデザイン性をプラスし、「狭くて安いだけのホテル」というイメージをガラリと変えたのが『ナインアワーズ』。

ホテル名の由来は、「1h(汗を洗い流す)+7h(眠る)+1h(身支度)=9h(ナインアワーズ)」。

「少しだけ落ち着いて仕事がしたい」「汗をかいたのでシャワーを浴びたい」など、24時間好きなときに立ち寄って利用してもらいたい、というメッセージが込められています。

建築・設計は気鋭の建築家・平田晃久氏が担当。『ナインアワーズ竹橋』ならではの設計である、吹き抜け空間を持つCの字型の構造は、皇居のお堀からインスピレーションを得たのだとか。中央の吹き抜けには階段が設けられ、それを取り囲むようにスリーピングポッドと呼ばれる客室が配置されています。

カプセルのなかに入った第一印象は、「想像以上に広くて清潔」。これはきっと、全フロアが吹き抜けになった構造がもたらす上空の開放感、そして、ガラス張りの壁一面に惜しげもなく差し込む大量の日の光によるものでしょう。

内装は白を基調としたミニマル&シンプルなデザインで統一され、受付、廊下、ロッカー、トイレ、曲線的なフォルムで近未来的な雰囲気で知られるスリーピングポッド、どこを見ても無駄な装飾がありません。

スリーピングポッドは男性76室、女性53室の全129室。2Fから5Fが男性専用、6Fから8Fが女性専用と、男女のフロアは分けられています。エレベーターとシャワールームも同様です。

スリーピングポッドは上下2段が交互に重なったレイアウト。FRP(繊維強化プラスチック)を用いた滑らかかつ柔らかな質感が特徴で、明るく清潔感があり、安心して眠りに就ける印象です。

体圧分散にすぐれたマットや、自然な寝返りをサポートする枕が用意されているほか、設備面では、光量調節つまみとコンセントを用意。十分な奥行きと暖かみのある照明によって、包み込まれているような感覚が味わえます。

皇居周辺を走るランナーが多いエリア特性に合わせて、24時間利用できるランニングステーションとしての顔を持つのも『ナインアワーズ竹橋』ならでは。シャワールームやロッカーの提供はもちろん、タオルセットのレンタルサービスのほか、ランニングシューズを無料で貸し出しています。

効率を重視して画一的に設計するのではなく、それぞれのエリアでサービス内容を変えているのがユニーク。

旅先のホテルとして利用するだけでなく、仮眠やショートステイ、ランニングの拠点など、さまざまなシーンで気軽に活用してみては?

ナインアワーズ竹橋
住所:東京都千代田区神田錦町3-11-15
電話番号:03-5217-0017

古きよき日本の粋が生きるレトロモダンホテル『SAKU REN JIMBOCHO』

日本随一の古書店街をはじめ、ノスタルジーあふれる街並みがいまなお点在している神保町によく馴染む、華やかかつクラシカルな外観。古書店が軒を連ねる靖国通り沿いにあるのが、2018年2月にオープンした『SAKU REN JIMBOCHO(サクレン神保町)』です。

コンセプトは「レトロモダン」。1920年代に日本で流行した、日本古来の和のテイストと欧米のデザイン様式「アール・デコ」が融合したデザインを取り入れるなど、独特な世界観が感じられるホテルです。

エントランスを抜けロビーへと歩を進めると、まず目に留まったのは、壁面に美しくあしらわれたガラスのディスプレイ。水引(紐状にした紙)の花や書籍を中心に、インテリア性の高い装丁の洋書やレコードが飾られています。

支配人の森本さんいわく、「ゲストや従業員、神保町周辺の人との出会い(縁:EN)をこの水引の花に例え、その花を大きく咲かせたいという想いを込めました」とのこと。確かに言われてみると、ホテル名の『SAKU REN』にも縁(EN)が入っています。

レセプションは、色鮮やかな照明や障子など、古きよき神保町の街並みを彷彿とさせるクラシカルなしつらえが印象的で、そこには、映画、音楽、落語、サブカルなどあらゆるジャンルの古書が並びます。

極めつけは、1926年製造のアメリカ・ヴィクター社製手巻蓄音機ヴィクトローラ「クレデンザ」によるレコード演奏。

希少な蓄音機が奏でる耽美な音色に耳を傾けながら、古書を繰り、多くの文化人を培った神保町の文化に思いを馳せるなんて、これほど豊かな時間の過ごし方はありません。

客室は2Fから12Fで、全32室、5種類のタイプが用意されています。全客室に和の要素が取り入れられていますが、部屋のデザインやレイアウトは5タイプそれぞれで異なります。

たとえば、12Fに1室だけ用意されている「プレミアム禅ツインルーム」。和室があるのはこの部屋だけで、畳や盆栽、茶器セットは特に外国人に人気が高く、「器を購入したい」という方もいるのだとか。

和室の内装もレトロモダンにこだわり、ホテルのテーマカラーである赤いダマスク柄の壁紙を使用。トラッドな印象のダマスク柄は畳によく馴染み、ちょっとした茶室気分が味わえます。37㎡の広々した客室で、温かみのある「和」の文化をゆっくりと楽しんでみてはいかがでしょう。

ほかにも、2台のダブルベッドを備え、4人まで宿泊が可能なプレミアムツインルームや、マッサージチェア付きのコンフォートリラックスツインルーム、デスクが設えられたコンフォートツインルームなど、特色のある部屋が数多く用意されています。

どの部屋もゆったりと寛げるよう、23㎡以上の広さを確保している点もうれしいポイント。部屋ごとに壁紙の色合いやレイアウトが異なるため、リピートしても飽きずに楽しめそうです。

海外からはアジア圏のゲストが多く、特に中国、台湾、香港の方によく利用されているとのこと。「宿泊場所でも日本らしさを感じたい。でも老舗の旅館は少し格式が高い。気軽に和モダンを感じられるホテルとして、利用いただいているようですね」と森本さんは顔をほころばせます。

神保町に深く根差し、街の古書店や喫茶店との「縁」を大切にしながら質の高いサービスを提供している『SAKU REN JIMBOCHO』。レトロモダンな世界観は、それ自体が東京滞在の忘れられない思い出になるはずです。

SAKU REN JIMBOCHO
住所:東京都千代田区神田神保町2-5-13
電話番号:03-6261-0340

都心とは思えないゆったりと落ち着いた空気が流れる『庭のホテル 東京』

高層ビルがひしめく東京の路地裏に、緑豊かな「庭」がひっそりと佇んでいます。東京にいることを忘れてしまうような、静謐な空間と時間。神保町エリアの北側、水道橋駅からも徒歩3分の場所にある『庭のホテル 東京』です。

日本の「庭」は、木々や土、石、水などをできるだけ自然に見えるようにするのが特徴。人間は自然の一部という感性を持っている日本人にとって、庭は自然に近ければ近いほど美しく、心をなごませてくれると感じるのです。

ホテルのコンセプトは、「美しいモダンな和」。日本の伝統的な趣と、都会にふさわしい現代的なエッセンスを融合し、心地よい上質な日常を感じてもらえる新しいタイプのホテルをつくろうと、2009年にオープンしました。

ホテルの正面に立ち、さまざまな植物が生い茂るエントランスを見ているとなんだか、森のなかに佇むホテルを訪れたかのような気分がします。

ロビーは天井が高く、ゆったりと落ち着いた印象。日本の伝統的な照明器具、行燈をイメージした大きな照明の足元に縞模様の絨毯を敷くことで、室内でも「庭」を表現する心憎い演出も。

ほかにも、和紙や木、和をモチーフにしたオブジェなどが随所に配されており、館内全体を通して「美しいモダンな和」が演出されています。

客室は全238室。5タイプある客室はすべて洋室で、ベッドタイプとなりますが、和紙や障子、木の素材を活かしたインテリアのほか、畳をイメージしたカーペット、木の格子のモチーフが使われた茶棚やデスクなど、さりげなく和の要素が取り入れられています。

内装全体としては落ち着きある端正な和のトーンで、儚くも美しい「侘び寂び」に価値を見出した、いかにも日本人らしいデザインセンスが光ります。

『庭のホテル 東京』の代名詞となっているのが、館内中央にある中庭。

120㎡ほどの小さな庭ながら、四季折々の草花が彩り、小川が流れ、眺めていると、水遊びに憩う小鳥たちの姿も見て取れます。そこに漂う安らぎの時間と、凛とした空気に心がほどけ、つい足を止めて深呼吸したくなります。

中庭とはうって変わって、3階のテラスは洋風デザイン。ウッドデッキに木製のテーブルが用意され、植栽と水景の調和が取られています。のんびりビールを飲みながら、リラックスした時間が過ごせそうです。

和洋2つの直営レストランがあり、日本料理「縁(ゆくり)」では、ゆったりとした雰囲気の中で本格的な懐石料理が楽しめます。「縁(ゆくり)」は古語で「人の縁」を意味し、「人と人とが出会い、縁を結び、そしてゆっくりと寛ぎの時間を過ごしていただきたい」といったメッセージが込められています。

いっぽう「ダイニング 流(りゅう)」は、契約農家から直接届く新鮮な野菜やハーブなど、素材にこだわったカジュアルフレンチが自慢のレストランです。

ゲストの半数以上は訪日外国人とのこと。和の趣でまとめられた館内はたしかに、外国人観光客に喜ばれそう。ロビーに外貨の自動両替機が設置されているのも、客層を意識してのこと。

ホテル周辺には、古い建造物や文化財、歴史ある神社や仏閣などが数多くあるので、『庭のホテル 東京』を拠点に散策してみるのもおすすめです。

静寂な時間と空気が流れる『庭のホテル 東京』はまさしく、人々がゆったりと羽根を休める「東京の庭」のような存在。小川がせせらぐ緑豊かなエントランスを抜け、「美しいモダンな和」を体感してみてはいかがでしょうか。

庭のホテル 東京
住所:東京都千代田区神田三崎町 1-1-16
電話番号:03-3293-0028
URL:https://www.hotelniwa.jp/


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