81回目の開催となった『exPoP!!!!!』
去る11月26日、TSUTAYA O-nestにて、CINRAとEggsによる入場無料のライブイベント『exPoP!!!!! volume81』が開催された。『exPoP!!!!!』とは、CINRAが2007年より定期的に主催している入場無料の音楽イベント。過去には、SEKAI NO OWARI(当時は「世界の終わり」表記)、相対性理論、ceroなど、ここ数年の音楽シーンに大きく影響を与えているアーティストたちが、まだ駆け出しの頃に出演してきた。今回は、音楽アプリ「Eggs」と共同主催し、アプリをダウンロードした来場者には、ドリンクチケットとEggs特製ラバーバンドがプレゼントされた。
インタビュー記事に対する意見に、音楽で応えたメガホンズ
トップバッターは福井から上京してきたばかりの19歳3人組、メガホンズ。実は、前日に公開されたCINRA.NETのインタビュー(取材は筆者が担当)に賛否両論のコメントが寄せられている真っただ中であったが、ライブ前に会った泰平(Vo,Gt)は「大切なのは音楽ですから!」と強く語ってくれた。しかし気負いもあってか、実際のライブは、泰平が吠えるように歌ったり、Moh(Ba,Cho)がベースを振りかざしたりと、パフォーマンス重視な側面が強かった印象。でも、全力で目の前にあるものにぶち当たっていく彼らの姿には、絶対に希望があると僕は思う。彼らはこの日も大人たちを指差して、「世の中で起きていることを他人事と思うな」と叫んだが、今こんなにも外に向かって何かを伝えようという姿勢を持つバンドはそうそういない。何かを伝えようとする強い想いは、「伝わらない」という悲しみも生む。しかし、その悲しみを乗り越えようとする時、見えない何かに想いを託せるのであれば、その時生まれる音楽はとても強い力を持って響くと思う。メガホンズ、この先が本当に楽しみな逸材である。
日常と理想の軋轢を鳴らすヘンショクリュウ、日常を抱きしめるodol
続いてはフィリピン生まれのフロントマン、ヂーノ(Ba,Vo)を擁する3ピース、ヘンショクリュウの登場。サポートのパーカッションを加えた4人編成のライブだったが、これがもう圧巻! 彼らの音楽は、ヂーノの実生活をモチーフにしながら、その日常を一気に非日常へと導くようにうごめく歪なファンクネスが何よりの持ち味だが、そんな彼らのドープな世界観が見事に再現されたライブだった。会場を揺るがすソウルやヒップホップを昇華したグルーヴィーなビートと、歌謡性の高い妖艶なメロディーが、融和したり摩擦を生み出したりしながらフロアを浸食してくさまは、ヂーノの脳内にある現実と理想の軋轢が表出した姿なのだろう。その軋轢に揺れる会場。ヘンショクリュウにしか鳴らせない不穏なファンクが鳴っていた。
3番手はodol。“飾りすぎていた”や“生活”といった曲のタイトルが示すように、彼らの音楽の根底にあるのは、何気ない生活の中にこそ、何に変えることもできない輝きを見出そうとする意志だ。日々の些細なあれこれや、感情の細やかな機微を、丁寧にすくい上げるように響く歌声とピアノの旋律。そして、それらを抱きしめるように覆い尽くすギターノイズ。その音を聴くと、ノイズは何かを隔てたり突き刺したりするだけでなく、大切なものを守るために響かせることができるのだと実感する。ヘンショクリュウが強靭なファンクネスで揺り動かそうとする日常の景色を、odolは宝物のように守ろうとするのだ。この日、演奏された新曲のタイトルは“退屈”。退屈すらも彩ってみせる彼らの音楽は、とても穏やかな優しさに満ちていた。
8人の男たちが騒ぎ、感動ももらたした、どついたるねん
そして、4番手に登場したのは、どついたるねん。どつと言えば、やはり「楽しい!」とか「面白い!」の印象が強いと思うが、ライブを観るたびに思うのは、彼らの中に頑ななまでに存在する「俺たちが楽しむ!」という姿勢である。「誰かを楽しませよう」ではないのだ。メンバーだけが存在することを許される、スピリチュアルな空気すら漂う「どついたるねん」という名のコミュニティー。それは誰にも侵すことのできない、触れたくても触れられない聖域のようなものだ。1曲目の“MUSIC”からラストの“生きていれば”まで、新作『ミュージック』のダンサブルなモードを基調としたクオリティーの高いトラックに踊らされ、僕はゲラゲラ笑いながらも、最高の仲間と最高に面白いことをやっている――そんな彼らに憧れるしかなかった。
『exPoP!!!!!』最多出演の中野陽介率いるEmerald
トリを飾ったのは元PaperBagLunchboxの中野陽介率いる5人組、Emerald。ジャズやR&B由来の太くしなやかなビートと、水面に反射する陽光のようにキラキラと揺らめくメロディーの絡み合いによって生まれるバンドアンサンブルが有機的でとても心地よく、中野が「あの記事(CINRA.NETに連載されていた『音楽を、やめた人と続けた人』)のせいで女の子にモテません」なんていうMCで笑いを誘うなど、とにかく穏やかな空気が会場を満たしていく。様々な受難を経て、傷つき傷つけて、それでも中野が音を鳴らし続けるのは、きっと音楽でしか辿り着けない場所が彼には見えているからなのだろう。PaperBagLunchbox時代に比べてヴェールを剥いだように肉体的に、そして素直になったEmeraldのサウンドと言葉に触れて、彼がまた、その場所に一歩近づいたことを実感した。
こうして全5組のライブがこの日を彩った。突き刺したり、揺らしたり、守ったり、隔てたり、超越したり。五者五様のアプローチで、それぞれが現実に対して音楽を鳴らしていた。「音楽じゃなきゃいけないもの」を探し求めていた。音楽で世界を変えられるわけじゃないかもしれないけど、音楽にしか作り得ない空間がある。音楽だから見つけられるものがある。そんなことを改めて感じさせてくれる5組の演奏だった。
- イベント情報
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- 『Eggs×CINRA presents exPoP!!!!! volume81』
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2015年11月26日(木)
会場:東京都 渋谷 TSUTAYA O-nest
出演:
メガホンズ
ヘンショクリュウ
odol
どついたるねん
Emerald
- プロフィール
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- メガホンズ
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福井県出身ロックバンド「メガホンズ」。全員が1996年生まれの今年19歳。高校2年生で結成され、地元でのライブハウスではキャパ100人ほどの会場に200人以上を集めるなど、県内外を問わず話題を呼んだ。2015年4月、高校卒業と同時に地元福井を離れて上京。R&Rやブルースを基調とながらも、様々なジャンルを柔軟に織り交ぜた楽曲、社会や大人への憤りがあふれた歌詞、そして爆発的なライブでもって、着々と日本を斡旋しつつある。1st E.P.『コドモ・フルコース』を12月4日にリリースし、それに合わせて、11月から3月にかけて総計60か所を巡る『コドモ・プチツアー』『コドモ・フルツアー』を敢行する。
- ヘンショクリュウ
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ハギハラ''ZINE''ヂーノ(Vo,Ba)と奥村大爆発(Dr)が高校時代から活動していたバンドに、ライブハウスで出会ったエルベッコ(隅田川リンス)(Gt,Vo)が2014年10月に参加。2015年、GREAT HUNTING主催のバンドオーディション「バンド・オン・ザ・ラン」において、3000を超えるバンドの中から最優秀に選ばれ、プロデュース・亀田誠治、デザイン・木村豊、MV・島田大介とトップクリエイターとのコラボでデビューアルバム『NIPPOP』を9月9日にリリースする。ファンクミュージックをルーツにしながらも、自分たちだけにしか出せない不穏な空気をダンサブルに伝えることを目標としている。
- odol (おどる)
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福岡の中学校の同級生だったミゾベと森山を中心に、東京で結成。2014年2月に1st ep『躍る』、7月に2nd ep『生活/ふたり』をbandcampにてフリーダウンロードで発表(※現在は終了)。同年、『FUJI ROCK FESTIVAL'14 ROOKIE A GO-GO』に出演。Vocalミゾベの繊細さと力強さを併せ持った歌声、ディストーションの効いたギターと美しいピアノのフレーズが絶妙な調和を聴かせるサウンド、抜群のメロディ/アレンジセンスで、耳の早いリスナーから注目を集める。 2015年5月20日に1st Album『odol』をリリース。
- どついたるねん
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2007年に先輩、ワトソン、山ちゃん、うーちゃかを中心に結成。2014年からDaBass、浜公氣、ファック松本、小林4000を含めた8人編成となる。2011年発表のファースト・アルバム『ダディ』から、2014年に発売の峯田和伸(銀杏BOYZ)プロデュースによる『BEST HITS』にかけて、7枚のアルバムをリリース。日本各地で精力的にライヴ活動を行い、2015年には変名"SUSHI BOMBER"として、2週間にわたるアメリカ西海岸ツアーを敢行。2015年10月21日、自主レーベルTrain Train Recordsより初のR&Bアルバム『ミュージック』をリリース。2016年からは47都道府県を回るリリースツアーを予定している。また、セレクトショップBEAMSのモデルや、演劇・映画への出演、写真集『MY BEST FRIENDS』の出版、AVメーカーHMJMより『どついたるねんライブ』発売&AVオープンエントリーなど、活動が多岐にわたる純音楽集団である。
- Emerald (えめらるど)
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Pop music発 BlackMusic経由 Billboard/bluenote行。2011年結成、都内を中心に活動中。 ジャズ、ヒップホップ、ファンク、ネオソウル、さらにダブやシューゲイザーといった、ジャパニーズオリエンテッドではない音楽を軸にした楽曲群に、中野陽介の持つジャパニーズポップスの文脈を加えることで、サウンドを全く新しいポップミュージックへと昇華させている。2012年7月、1st EP『This World ep』をリリース。 2014年9月に1st Full Album『Nostalgical Parade』を全国リリース。2015年1月、新代田FEVERにて1st Album Release Party『YELLOW INSTANCE』をsleepy.abを迎えて開催し、SOLD OUTとなる。 2015年7月、2nd EP『2011 ep』をリリース。
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