聴き手の心を射抜く「ポップ」な表現の材料とは?
CINRAと音楽アプリ「Eggs」が共同主催する無料音楽イベント『exPoP!!!!!』。筆者はここ数回の同イベントにレポーターとして通っていて、毎回「あ、この感じ、今まさに観たかったやつだ!」と、そのブッキングセンスの同時代性に唸ってきた。ただ、第83回目にお馴染みの会場O-nestに集まった4組――イエスマン、GOMESS、CICADA、LILI LIMITが巻き起こしたダイナミズムに関しては、簡単に「センスいいわぁ」だけでは済ませられないほどの巨大なダイナミズムが渦巻いていたように思う。そして、このダイナミズムを言葉にするのなら、それは一言、「ポップ」だった。
優れたポップとは両義的であり、だからこそ「絶対」ではないが、それゆえに「中心」たりえる。私たちは法律や一般常識を守りながら毎日を必死に理性的に生きているが、その反面、常に「ずっと眠っていたい」とか「死ぬほど遊びたい」という欲望だって強烈に持っている。つまり、毎日必死にバランスをとりながら生きているのだが、それは裏を返せば、私たちは生きている間には決して、理性と欲望、そのどちら側にも完全にイキきることはできないということでもある。優れたポップが暴くのはそこだ。生と死、過去と未来、女と男、正気と狂気、正義と悪……誰もが引き裂かれながら生きている、その「引き裂かれた」状態を提示するからこそ、ポップは時代と人の心のど真ん中を射抜く。この日出演した4組は、見事にそれを体現していた。
何事も丸ごと肯定する、イエスマンの姿勢
たとえばトップバッターとして登場したイエスマンは、そのバンド名が放つ肯定的なバイブや、フロントマン・NAGAMUU(Vo,Ba)の天真爛漫な佇まいの裏側に、この世界に対する、そして自分自身に対する徹底した「ノー」の姿勢を感じさせた。
実際、NAGAMUUの歌とキュートなメロディーは柔らかく、浮遊感をもっているが、その土台にはヒップホップ由来の肉体的なグルーヴ感があり、ベースはときにリズム楽器ではなくノイズ楽器へと変化する。このアンビバレンスを耳で感じながら思ったのは、イエスマンは決して「イエス」だけを言いたいからイエスマンなのではなく、「ノー」の存在に対してもイエスマンなのだということ。イエスとノーに引き裂かれた状態を肯定する――イエスマンから感じたのは、そうしたポップさだった。
時を刻むことの尊さを知るGOMESSが紡いだ言葉
続いて登場したラッパーのGOMESSは、1分1秒と過ぎていく時間のなかで、すぐに過去になってしまう今この「瞬間」を、矢継ぎ早に繰り出す言葉で「永遠」に繋ぎ止めようとする切実さが何よりポップだった。GOMESSはきっと、私たちが何の気なしにやり過ごす他者と共に喜んだり悲しんだりする時間が、本当はいかに尊くかけがえのないものかを知っている。だからこそ彼は、まるで何かに追い立てられるように、刹那を即興的に言葉へ変換していく。
この日、彼は「僕はラップをやっているときだけ輝けばいいので」と言っていたが、それは自嘲でも何でもなく、自分の言葉が誰かに届く、その瞬間こそが「生きている」ことなんだという彼自身の「生」に対する執着が産んだ言葉だったと思う。自身のラップを組み込んでゲストボーカルのAnna Ishiiと共に歌った2曲のカバー曲、MY LITTLE LOVER“Hello, Again~昔からある場所~”と、いきものがかり“花は桜 君は美し”は、どちらも失われてしまったものの美しさを抱きしめ、それが永遠に記憶の中にあり続けることを願う、祈りの歌だった。
二人の両極端なソングライターが存在するからこそ、至極の曲を生み出すことができるCICADA
3番手のCICADAは、若林と及川という二人のソングライターがバンドメンバーでありながらライバル関係剥き出しという特殊なバンドだが、あのジョンとポールのように、異なる個性が同居しているバンドは、その異質さ自体が武器となる。実際、CICADAの音楽にはR&Bやヒップホップを昇華したしなやかなファンクネスを持ったビートと、この先より多くの人々の人生を飲み込んでいくことを予感させるスケールの大きなメロディーが、見事なバランスで拮抗している。だからこそCICADAの音楽は、聴き手の身体も、細やかな感情の機微も、そのすべてを抱きしめることができる。この日も、完全にオーディエンスの身体と心、両方を持っていくような完全包囲的な演奏を見せていた。
そして、そんなバンドサウンドを従えるようにステージのど真ん中に立ち、フロア全体を掌握するような歌声を響かせる紅一点ボーカル・城戸の「姉御」感こそ、CICADAがバランスを崩すことなくポップで在り続けることができる理由そのものなのだと感じた。
「行ってはいけない向こう側」に迫るLILLI LIMIT
そして、最後に登場したLILI LIMIT。最初にも書いたように、私たちは常に理性と欲望のバランスをとりながら生きているわけだが、その生き方が如何に綱渡りのような行為であるか、そして、その綱渡りから落ちた先に待っているのが、どれほど狂気じみた世界であるのか……そういうことをまざまざと見せつける圧倒的なステージングだった。
もしかしたら今のLILI LIMITは、音源とライブ、その両方に触れてこそ、凄まじさを本当の意味で体感できるのかもしれない。音源だけを聴けば、綿密に積み重ねられた和音に宿る密室的な内省、あるいは忘我の彼方へと誘うようなダンスミュージックとしての野性、それらを見事に構築してみせる理性的なバランス感覚に息をのむが、ライブでの彼らは、その一歩奥を見せる。たとえば、スピッツの草野マサムネは、その柔らかく普遍的な世界観の奥に「行ってはいけない向こう側」を垣間見せるからこそ中毒者を産み出すが、LILI LIMITもそれに近い。構築された楽曲から、まるでタガが外れたように溢れ出す感情と欲望。ボーカル・牧野は、「すべて満たされているはずなのに、何も満たされていないんだ!」とでも言いたげな表情で聴き手に迫ってくる。これはGOMESSもそうだったのだが、誰もが生きる上で必要としているバランスの、その奥にある「本音」を剥き出してもなお、楽曲としての強度を失わないからこそ、彼らの存在は圧倒的だった。
この日のO-nestにいた人たちの中には、音楽に対する価値観が変わった人も多くいたのではないかと思う。それくらい、この日の『exPoP!!!!!』に出演した4組はそれぞれの間に相乗効果を産み出しながら、人が生きることのど真ん中を貫いていた。それはまぎれもなく「ポップ」そのものだった。
- イベント情報
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- 『Eggs×CINRA presents exPoP!!!!! volume83』
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2016年3月31日(木)OPEN 18:30 / START 19:00
会場:東京都 渋谷 TSUTAYA O-nest
出演:
CICADA
GOMESS
LILI LIMIT
イエスマン
料金:無料(2ドリンク別)
- 『Eggs×CINRA presents exPoP!!!!! volume85』
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2016年5月26日(木)OPEN 18:30 / START 19:00
会場:東京都 渋谷 TSUTAYA O-nest
出演:
平賀さち枝
Junk Robot
Moccobond
vivid undress
and more
料金:無料(2ドリンク別)
※会場入口で音楽アプリ「Eggs」の起動画面を提示すると入場時のドリンク代1杯分無料
- プロフィール
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- イエスマン
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2013年に活動開始。2014年にメンバーチェンジを経て現在のsayoko NAGAMUU、たかきひでのり、サポートメンバーの水井涼佑(123の八)の三人編成に。2015年には『SMA HARENOVA』に出演し、その後、大阪のサーキットフェス『見放題』の東京初開催に伴うオーディションを勝ち抜き『mihoudai.tokyo』に出演。現在デモ盤『kikikiki』『赤黄青盤』『くりだせ!ムーンナイト盤』の3枚を発表している。
- GOMESS (ごめす)
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1994年生まれ、静岡出身。第二回高校生ラップ選手権準優勝。自閉症と共に生きるラッパーとして注目を集め2014年にCDデビュー。自身について歌った代表作「人間失格」「LIFE」の迫る言葉、また彼の生き様は表現者として各所に評価される。中原中也の朗読カバー「盲目の秋」は中原中也記念館でも楽曲展示され、民謡日本一の朝倉さやとのコラボ楽曲「River Boat Song」収録のCD「River Boat Song-Future Trax-」が第57回日本レコード大賞企画賞を受賞など、ジャンルを超えた数多くの表現者との交流/共演を多くこなし、GOMESSは新しいカルチャーとして確立し始めている。4月27日、『情景 -前篇-』をリリース。
- CICADA (しけいだ)
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HIPHOP/R&B等のブラックミュージックからtrip hop/エレクトロニカ等のミニマルミュージックをルーツとした死角無しのアンサンブル、Vo.城戸あき子の艶やかで時にキュートな歌声は正にニューポップスのドアを叩く極上の完成度。4月13日、新作EP『Loud Colors』をリリース。5月26日、自身初のワンマンライブが渋谷CLUB QUATTROにて開催決定。
- LILI LIMIT (りり りみっと)
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2012年に山口で結成されたロックバンド。牧野純平(Vo)と黒瀬莉世(Ba)ら4人組で結成。メンバー脱退を経て、土器大洋(Gt)が加入。2013年に丸谷誠治(Dr)、志水美日(Key)が参加し5人体制に。これまで2枚のミニアルバムをリリース。2016年7月、1st EP『Living Room EP.』にてキューンミュージックよりメジャーでビュー決定。
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