青春は、「若い時代」で終わるものではない
「一生青春」なんて言葉があるけれど、10代を終えると、「青春」とは無縁だと思ってた。辞書を引くと、青春とは「夢や希望に満ち活力のみなぎる若い時代を、人生の春にたとえたもの」(『大辞泉』より)と書いてある。そう、青春とは「若い時代」のことを指す――そんな固定観念を切り崩し、「人生の春」は30代になっても続けられると教えてくれたのは、6月17日、恵比寿LIQUIDROOMのステージに立った、モノブライトの三人だった。
今年結成10年を迎え、4月20日に、「33歳の等身大の思い」を綴ったアルバム『Bright Ground Music』を発表したモノブライト。アルバム完成時に、フロントマンの桃野陽介(Vo)は、オフィシャルサイトにてこんな言葉を綴っている。
自分にとって何が正解かを、自分で決めていった方がいいよ、という思いを込めて作りました。僕にとって真実とか嘘ってどっちでも良くって(というのも、ほとんどの情報(ネットやTV)に信憑性を感じない、信じるのが難しい)、どんな大嘘でも正解だと思うなら突き進んだ方が、他人を責めずに自分らしく生きていける様な思いがあります。
モノブライトは、前回のコラム(モノブライトは、人生の「迷走」は楽しくて正しいと教えてくれる)でも紹介したように、突然のメンバー加入や衣装チェンジ、改名など、大胆な変化を幾度も重ね、その都度世間を驚かせてきたバンドである。しかし、それらの決断に「売れたいから」とか「市場に合わせるため」といった戦略的思想は一切なかった。
30代半ばになっても、演奏の隙間から「青春」をチラつかせる三人が教えてくれたのは、自分が大事にしたいことを選び続ける姿勢を失わなければ、何歳になっても青春の輝きを放てるということ。モノブライトが、大人になると見えてしまう日常の歪みや現実の厳しさを鋭く歌いながらも、「希望に満ち活力のみなぎる」といった様子を感じさせるのは、「自分にとっての真実」と向き合いながら10年間突き進んできたからこそである。
ラブソングさえも「歪さ」を含めて描いてしまう、桃野という詩人
「おはようございます、モノブライトです」と、桃色のシャツを着た桃野の挨拶からライブはスタート。エンタメジャズバンド・カルメラからホーン隊3人と、KENSUKE.A(Dr / SISTER JET)、村上奈津子(Key / WONDERVER)を引き連れ、“紅色 ver.2”“あの透明感と少年”と鮮やかな演奏を聴かせる。そして、「今日は9万人くらい来てるんですか?」と、桃野はさっそくひと笑いを取る。
一気にフロアのテンションを高めた後、最新アルバムに収録されている「日常の歪み」を歌った2曲をぶつけてきた。1曲は、不倫を歌っているかのように読める“HELLO”。もう1曲は、「危険ドラッグや覚せい剤で捕まるミュージシャンが嫌で作りました」と桃野がコメントしている“末裔シンドローム”。そんなスキャンダラスな事柄でさえも、「見る角度を変えれば、否定できないところもあるよね」と語りかけてくる言葉を聴いていて、改めて桃野の物事に対する多角的な視点と、それを歌詞に落とし込む詩人としてのスキルの高さを感じさせられた。
フロアを見渡せば、モノブライトの深い音楽知識とオルタナミュージックへの愛を基盤に作り上げた予測不可能な展開のサウンドに、オーディエンスがそれぞれ身体を揺らしながらも、「言葉」にじっくり耳を傾けていることがわかる。
7曲目に演奏された“愛飢えを”も、まさに桃野の詩人としての力が証明されている1曲と言えるだろう。『Bright Ground Music』リリース時のインタビューで、桃野はこの曲について次のように語っている。
「愛し合う」っていうのがそもそも僕は成立しないと思っていて。お互いの「愛」の分量がぴったり同じじゃないと、「愛し合う」っていう状態にならないんじゃないかと。ちょっとでも分量が違うと、どちらかがきっと違和感を感じるんじゃないかって思うんですよね。ということは、「愛し合う」というよりも、自分がどれだけ相手を愛しているのかを伝える、それだけが「愛」だと思うんです。
(バンドという未来、進化するモノブライトに空想委員会・三浦と迫るより)
<愛し、会わなくてもいい>というフレーズや“愛飢えを”というタイトルに表れているような「言葉遊び」を多用しながら、ただロマンチックさを封じ込めて「愛してる」と歌うのではない、一癖あるラブソングを書いてしまうところこそ、桃野のソングライティングの真髄と言っていいと思う。
武道館や夏フェスで、「33歳の等身大」はどう響く?
終盤のMCで、モノブライトの三人は「やりたいよ、武道館!」と堂々と宣言していた。哀愁漂う桃野の歌声は、歌謡曲に通ずるところも多いにあるが、歌謡曲の先輩方のコンサートのように、大きなスクリーンに歌詞が映し出されながらライブが繰り広げられるところを観てみたいと思った。
そしてこの夏は、『ROCK IN JAPAN FES.2016』をはじめ、いくつものフェスに出ていくことも発表。ライブ終盤のクライマックスでは、桃野がハンドマイクでフロアを盛り上げた“テクノロジックに抱いて”など、デビュー当時の楽曲と並べて聴いても時代の差を感じさせない、勢いのあるダンスロックナンバーも最新の武器として持っていることを示した。さらに、この日MCで何度も笑いを取っていたり、“空中YOU WAY”では「えらいこっちゃ」と言いながらステージの隅々へと飛び回っていた桃野の姿は、彼が詩人であるとともに、ユーモラスなエンターテイナーでもあることも改めて証明していた。
そんなフェスに向けても準備万端なモノブライトが体現している、「いくつになっても、『自分の真実』を貫く活力を忘れなければ、『一生青春』と言える日々を過ごせる」というメッセージは、暑い日にかき氷を食べたときのような爽快感と、頭がキーンとなるような軽いショックを、年齢問わず、受け手に与えてくれる。
- イベント情報
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- 『Bright Ground Music ~B.G.M~ Tour』
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2016年6月17日(金)
会場:東京都 恵比寿 LIQUID ROOM
- リリース情報
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- モノブライト
『Bright Ground Music』(CD) -
2016年4月20日(水)発売
価格:2,916円(税込)
ASCU-20161. HELLO
2. ビューティフルモーニング(Wake Up!)
3. こころ
4. テクノロジックに抱いて
5. MOTHER
6. ショートホープ
7. 末裔シンドローム
8. TOWER(instrumental)
9. 冬、今日、タワー
10. 愛飢えを
11. ファミレス
- モノブライト
- プロフィール
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- モノブライト
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2006年に桃野陽介(Vo)を中心に、松下省伍(Gt)、出口博之(Ba)の北海道の専門学校時代の同級生で結成。UKロックシーンを背景にした、感情と刹那がたたずむ音像は桃野陽介というシンガーソングライターの手によって、ひねくれポップロックへと変遷していく。その象徴ともいえる作品、『未完成ライオット』で2007年にメジャーデビュー。2015年6月のツアーをもって、結成当初のメンバーでもあったドラムが脱退。夏にはそれぞれのソロ活動を経て、同年10月に新体制での再始動を発表。配信シングルのリリースとワンマンライブを開催。特に、ライブ編成に大きな注目が集まる中、2016年1月、サポートメンバーとしてドラム、キーボード、さらにホーンセクション3名を加えた8人編成で現れ、その溢れるパワーで会場を揺らせると共に、再び世間を驚かせる。4月20日、最新アルバム『Bright Ground Music』をリリース。
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