進化し続ける、amazarashiの「総合芸術」
10月15日、幕張メッセイベントホールにて、『amazarashi LIVE 360°「虚無病」』が開催された。この日のライブは、ミニアルバム『虚無病』の初回限定盤に封入されているボーカル・秋田ひろむの書き下ろし小説『虚無病』の物語と、ホール中央に設置されたステージを囲む4面のイメージメッシュ(透過性LED)の映像がリンクする形で展開されるというコンセプチュアルなもの。amazarashiは一昨年にも同じく小説を基にした『あまざらしプレミアムライブ 千分の一夜物語「スターライト」』を開催しているが、今回は設定や演出がより緻密に作り込まれたものになっていた。
小説『虚無病』のあらすじを簡単に紹介しておこう(現在、特設サイトにて第2章まで公開中)。人間を無気力、無感動にし、能動的なコミュニケーションを不可能にする原因不明の「虚無症候群」(通称、虚無病)がネットやテレビ、ラジオ、新聞などのマスメディアを触媒として日本全国に広がり、パンデミックが起きる。
ライフラインが止まり、苦しい生活を強いられていたナツキ、サラ、ヒカルの三人が食料を求めて旅に出るも、虚無病患者を神と崇める新興宗教「涅槃原則」の開祖・クニヨシと、その信者であるタダノリに捕まってしまい……というもの。近年ディストピア的な世界観の漫画やアニメのヒット作が続き、amazarashiはその代表例のひとつである『東京喰種』のテーマ曲を担当したこともあるが、今回は秋田自身がそんなディストピア的な世界を描いたものだと言える。
オーディエンスが息を呑みながらステージを観続けた2時間半
モニターにクニヨシが現れ、「涅槃原則を信じなさい」と説くオープニングでオーディエンスを『虚無病』の世界へと引き込むと、続いて、ステージの中央で秋田による小説の朗読が始まり、それに連動して文章とアニメーションがモニターに映し出される。
そして、章の終わりごとにバンドの演奏が行われ、再び次の章の朗読へという構成でライブは進行。朗読中にはステージが90度ずつ回転し、モニターの裏側にうっすらと見えるバンドの姿を、様々な角度から楽しむことができるようにもなっていた。
ライブの演出に関しては、お馴染みのタイポグラフィーや、4面のモニターを生かしたシンプルながらも動きのあるグラフィックを中心としつつ、モニターのみならず、ホールという環境を生かして天井にレーザーで歌詞を映し出すなど、多彩なアイデアが盛り込まれていた。
中でも印象的だったのが登場人物のアニメーション。モーショングラフィックスによる奇妙な動きが緊迫した物語に独特の違和感を与え、さらにはバンドの演奏に合わせてキャラクターがダンスを踊ったりと、小説をベースとしながらも、あくまでエンターテイメントとして再構築されている。本編最後に一切の演出なしで演奏された“僕が死のうと思ったのは”に至るまで、観るものを決して飽きさせない見事な構成だった。
「1曲単位」で活動しない、amazarashiのクリエイション
毎年新たな試みで僕らを楽しませてくれるamazarashiだが、面白いのはひとつのクリエイティブが新たなクリエイティブを生み、その世界がアメーバ状に広がっているということだ。
例えば、おそらく今回の「虚無病」というテーマは、<僕が死のうと思ったのは 心が空っぽになったから>と歌う“僕が死のうと思ったのは”が発端になっているのだろう。この曲はもともと2013年に中島美嘉に提供した楽曲で、今年中島のトリビュートアルバムに秋田による弾き語りのセルフカバーが収録されている。それを再度バンドでカバーするにあたり、この曲を起点とする『虚無病』という物語が生まれ、そこに「360度」というコンセプトや、最新のモーショングラフィックスなどの技術が結びついていき、こうしたクリエイティブの連鎖によって、今回のイベントが形作られていったのだと考えられる。
もうひとつ面白いのが、今回の小説のキャラクターが過去のamazarashiの楽曲をモチーフとしているということ。主人公のナツキは“夏を待っていました”、サラは“ジュブナイル”、タダノリは“アノミー”と、確かに歌詞とキャラクターにリンクが感じられ、中でも「涅槃原則」の開祖であるクニヨシが、<ねえママ あなたの言う通り 自分を善だと信じて疑わないときは 他方からは悪だと思われてるものよ あなただけが私の善なのよ>と歌う“性善説”をモチーフとしているということは、考えさせられるものがある。何にしろ、こうしてamazarashiの楽曲自体もまた、アメーバ状の広がりを見せているのだ。
核にあるのは、amazarashiが表現する「救い」のメッセージ
“僕が死のうと思ったのは”が演奏され、モニターにクレジットが映し出されて本編が終了した後、<僕らはここに居ちゃ駄目だ>という歌詞が映し出され、アンコールで披露されたのは“スターライト”。前述の『千分の一夜物語』で初披露されたこの曲は、当時2年間部屋に閉じこもっていた主人公が部屋を出るという物語の結末と共に演奏されたが、今回は「涅槃原則」の施設から逃げ出した主人公を連想させるように、夜の街を車で疾走する映像と共に演奏された。
そう、虚無に抗うためには、同じ場所にとどまっていてはいけない。常に新たな刺激を追い求めることこそが、虚無に抗うということである。それはamazarashiがデビューから一貫して投げかけ続けるメッセージであり、またプロジェクトとしてのamazarashiが体現し続けている姿勢そのものでもあると言えるだろう。
- イベント情報
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- 『amazarashi LIVE 360°「虚無病」』
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2016年10月15日(土)
会場:千葉県 幕張メッセ イベントホール
- ウェブサイト情報
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オリジナル小説『虚無病』第2章まで公開中
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- リリース情報
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- amazarashi
『虚無病』初回生産限定盤(CD+DVD) -
2016年10月12日(水)発売
価格:2,160円(税込)
AICL-3175~7[CD]
1. 僕が死のうと思ったのは
2. 星々の葬列
3. 明日には大人になる君へ
4. 虚無病
5. メーデーメーデー
[DVD]
『amazarashi Premium LIVE VIEWING「世界分岐二〇一六」』
・穴を掘っている
・この街で生きている
・ナモナキヒト
- amazarashi
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- amazarashi
『虚無病』通常盤(CD) -
2016年10月12日(水)発売
価格:1,620円(税込)
AICL-31781. 僕が死のうと思ったのは
2. 星々の葬列
3. 明日には大人になる君へ
4. 虚無病
5. メーデーメーデー
- amazarashi
- プロフィール
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- amazarashi (あまざらし)
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青森県在住の秋田ひろむを中心とするバンド。日常に降りかかる悲しみや苦しみを雨に例え、僕らは雨曝だが「それでも」というところから名づけられたこのバンドは、「アンチニヒリズム」をコンセプトに掲げ、絶望の中から希望を見出す辛辣な詩世界を持ち、前編スクリーンをステージ前に張ったままタイポグラフィーと映像を映し出し行われる独自のライブを展開する。2016年2月にリリースされたフルアルバム『世界収束二一一六』ではオリコンアルバムウィークリーチャート4位にチャートイン。また、ミュージックビデオではCGアニメーションが使われた作品と、プロジェクションマッピングを使った作品などを公開し、文化庁メディア芸術祭で優秀賞を受賞するなど国内外で高く評価されている。
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