これは単なる記念日ではない。「ベースの日」にみる新しい動き

11月11日に一体何が起こっているのか

ベースは4本の弦があるから、1が4つ並ぶ様を弦に見立てて11月11日は「ベースの日」だという。この「ベースの日」は単なる記念日とは状況が異なり、ライブハウスや楽器店ではスペシャルなイベントが企画され、SNS上ではベースをテーマに盛り上がりをみせている。

音楽プロデューサーで日本屈指のベーシストでもある亀田誠治がラジオ番組に端を発し、ベースという楽器を通して音楽の楽しさを分かち合う日として「ベースの日」を提案。2014年にクラウドファンディングで賛同を集め、誕生した。

2回目となる今年は、都内3か所で同時にベース主役のライブイベントが催され、さらに盛り上がりをみせた。目黒ブルースアレイでは「孤高の天才ベーシスト」ジャコ・パストリアスを敬愛するミュージシャンが集結した『Jaco Night』が開催され、ブルーノート東京では「ジャズベースの王者」ロン・カーター率いる九重奏によるステージが繰り広げられた。

そして赤坂ブリッツでの『THE BASS DAY LIVE 2016』では、KenKen(RIZE、Dragon Ash、LIFE IS GROOVE、他)、ミト(クラムボン)、ハマ・オカモト(OKAMOTO'S)、亀田誠治のベーシスト四名を中心に、各々がゲストと共演したベース主役のセッションライブイベントを繰り広げた。本稿ではその模様を詳しくお届けしたい。

破天荒に疾走するグルーヴを生み出すKenKen、ベースの音を無限に拡張してみせたミト

トップバッターは、SPEEDER-Xとしての活動で知られるベース・KenKenとドラムス・中村達也(MANNISH BOYS、The Golden Wet Fingers)の二人組。

突如急発進するや否や、オフロードを変速してぐねぐねとうねるように蛇行する。それもつかの間、一気にアクセル全開で加速直進し、崖から真っ逆さまに落ちて消えていく。そんなトリッキーで激しいパフォーマンスで観客を魅了した。

左から:KenKen、中村達也 撮影:上飯坂一
左から:KenKen、中村達也 撮影:上飯坂一

中盤からは、日本舞踊家の花柳凜が登場。リバーブを効かせた幻想的なベース音と艶めかしいドラムに合わせて扇子を持った和装の女性が舞うというまさかの組み合わせは、まさしく異次元。KenKen曰く「0.3秒先が見える」ほど見事にシンクロした圧巻のセッションだった。

日本舞踊家の花柳凜が登場 撮影:上飯坂一
日本舞踊家の花柳凜が登場 撮影:上飯坂一

続いてのベース・ミト、チェロ・徳澤青弦、エレクトロニクス・澤井妙治のセッションも別の視点で特筆すべき内容となった。

打って変わって、放たれた音は薄いホワイトノイズがかかり、薄くハウリングを起こした繊細で優雅な音色。ベースのひとつの爪弾きがしなやかな布のようにまとわりつき、幾重の音が旋律に変化し包み込まれる。チェロの旋律が重たい低音に変わったと思いきや、リフレインして突如カオスになる。

ミト 撮影:上飯坂一
ミト 撮影:上飯坂一

一時もひとつの状態に止まることなく微細に、しかしダイナミックに絶えず変化を繰り返す音像は、感覚や言葉で捉えようとするとスルリとその手を抜けていき、全く触れることができない。そんなベースの音色を無限に拡張する、文字通り幻のようなセッションとなった。

途中からはドラムス・石原雄治が参加し、Squarepusher“Iambic 9 Poetry”や“Delta-V”のカバーを披露。繊細さとハードの間でどんな音にも似ていない、とにかく唯一無二の音を聴かせた。

左から:石原雄治、ミト、徳澤青弦、澤井妙治 撮影:上飯坂一
左から:石原雄治、ミト、徳澤青弦、澤井妙治 撮影:上飯坂一

ハマ・オカモト、吉田一郎が湧き起こす新感覚のグルーヴ、亀田誠治の温かい愛と喜びに溢れた重低音

続いて登場したのは、ハマ・オカモトと吉田一郎(ZAZEN BOYS)。観客の手拍子をリズムにして、ふんだんにアドリブを加えたD'Angelo“Sugah Daddy”のベースリフにのせて歌った“ベースが弾けると”は、観客を爆笑の渦に巻き込んだ。その後“ピザトースト”を始めとした吉田一郎の楽曲をツインベースで披露しつつも、コミカルで独創的な動きをはさみ、客席から笑顔が絶えることはなかった。たしかなテクニックに裏打ちされたグルーヴィーなベースのリズムにノリつつ、演奏を楽しむことを忘れない二人の、新感覚且つ心を掴むパフォーマンスとなった。

左から:ハマ・オカモト、吉田一郎  撮影:上飯坂一
左から:ハマ・オカモト、吉田一郎  撮影:上飯坂一

イベントのMCを務めたクリス・ペプラーは「KenKenが焼肉で、ミトが創作料理、ハマ・オカモトはホルモン専門店」と言っていたが、この日のトリとなる亀田誠治を同じように料理にたとえるのなら「家庭料理」になるのではないか。

ベース・亀田誠治、ウクレレ・ウクレレジプシー(キヨサク / MONGOL800)、ドラムス・RONZI(BRAHMAN、OVERGROUND ACOUSTIC UNDERGROUND)の三人は全員アロハシャツという常夏スタイルで登場。冒頭の“What a wonderful world”から緩やかにつながるMONGOL800の“あなたに”。そして、同じくMONGOL800の“小さな恋のうた”で、会場は温かく幸せな空気に包まれた。

左から:亀田誠治、RONZI、ウクレレジプシー 撮影:上飯坂一
左から:亀田誠治、RONZI、ウクレレジプシー 撮影:上飯坂一

続くThe Beatles”Blackbird”は、和音を駆使した粘りのあるベースライン。そして「ずっと夢を見ていきたい」という亀田の言葉からスタートした“デイ・ドリーム・ビリーバー”での亀田のソロは、とにかくベースをプレイする楽しさに溢れていた。

亀田誠治 撮影:上飯坂一
撮影:上飯坂一

この日「みんなと幸せになりたい」と言った亀田の思いは実現できたはずだ。亀田の「支えるって楽しい」という言葉は、楽器のベースというポジションとしても本質的なことかもしれないが、ベースに限らない、何にも当てはまる根本的で大切なことに聞こえた。

共通項はベース。ただそれだけで境界を乗り越え、何かが起こる

四組すべてのセッションが終わった後も、観客のざわめきは止まなかった。ステージ上が物々しくセッティングをし始めたからだ。その後、KenKenのリードで始まったのは、ミト、吉田一郎、ハマ・オカモト、亀田誠治の五名揃ってのベースセッション。それぞれのスーパーテクニックが一気に競演するという、まさしくスペシャルな出来事は、会場が震えるほどの圧巻の低音の渦と相まって会場の熱気を更に高めた。

撮影:上飯坂一
撮影:上飯坂一

この日、観客に聞いた「ベースをやっている人?」という問いかけには過半数の観客が手を挙げた。終演後は「ベース」コールが発生していたほどだ。

音楽ジャンルの境界を解放し、多様性を前提に自然発生したこの「ベースの日」で起こったことは、ベースが楽器や音楽を越えて、これからの多様性のあり方をまざまざと実感として伝えてくれていたのではないか。ウェブサイト上ではすでに来年の「ベースの日」のカウントダウンが始まっている。

イベント情報
『THE BASS DAY LIVE 2016』

2016年11月11日(金)
会場:東京都 赤坂BLITZ
出演:
KenKen(RIZE、Dragon Ash、LIFE IS GROOVE、ほか)
中村達也(MANIISH BOYS、The Golden Wet Fingers)
花柳凛
ミト(クラムボン)
徳澤青弦
澤井妙治
石原雄治
ハマ・オカモト(OKAMOTO'S)
吉田一郎(ZAZEN BOYS)
亀田誠治
ウクレレジプシー(キヨサク from MONGOL800)
RONZI(BRAHMAN、OVERGROUND ACOUSTIC UNDERGROUND)

番組情報

『魁!ミュージック』
2016年11月22日(火)25:25~25:55にフジテレビで放送

『BEHIND THE MELODY~FM KAMEDA』
2016年11月22日(火)13:25~13:35にJ-WAVEで放送
出演:
ミト(クラムボン)
徳澤青弦
澤井妙治
石原雄治

2016年11月24日(木)13:25~13:35にJ-WAVEで放送
出演:
ハマ・オカモト(OKAMOTO'S)
吉田一郎(ZAZEN BOYS)

『BEAT PLANET』
2016年11月24日(木)11:30~14:00にJ-WAVEで放送
出演:
亀田誠治
ウクレレジプシー(キヨサク from MONGOL800)
RONZI(BRAHMAN、OVERGROUND ACOUSTIC UNDERGROUND)



記事一覧をみる
フィードバック 0

新たな発見や感動を得ることはできましたか?

  • HOME
  • Music
  • これは単なる記念日ではない。「ベースの日」にみる新しい動き

Special Feature

Crossing??

CINRAメディア20周年を節目に考える、カルチャーシーンの「これまで」と「これから」。過去と未来の「交差点」、そしてカルチャーとソーシャルの「交差点」に立ち、これまでの20年を振り返りながら、未来をよりよくしていくために何ができるのか?

詳しくみる

JOB

これからの企業を彩る9つのバッヂ認証システム

グリーンカンパニー

グリーンカンパニーについて
グリーンカンパニーについて