メランコリーと熱情――感情のコントラストで魅せた、ゆるふわリムーブ
6月29日、CINRAと音楽アプリ「Eggs」の共同主催による無料音楽イベント『exPoP!!!!!』が、TSUTAYA O-nestにて開催された。
トップバッターは、広島を拠点に活動する4ピースバンド、ゆるふわリムーブ。既に広島では「もみじ銀行」のCMに楽曲が起用されるなど、根強く認知を広げているバンドで、その不思議なバンド名はTwitterの「バンド名診断」で出てきたものをそのまま付けたという、なんとも現代的な若者たち。
日々の暮らしのなかに沈殿する陰鬱さやもの悲しさがそのまま表出したようなメランコリックなメロディーを響かせながら、時折、その陰鬱さや悲しさがスパークして熱情に変わる瞬間がやってくる――そうした、楽曲のなかで生まれる感情のコントラストがとても印象的だった。
MONO NO AWAREが展開した、時間感覚も麻痺する濃密なステージ
2番手は、今年の『FUJI ROCK FESTIVAL』への出演も決定している4ピースバンド、MONO NO AWARE。このバンドの音楽性を言葉にするとすれば、「下町の銭湯で一風呂浴びたあと、コーヒー牛乳を飲みながら銀河鉄道に乗って火星まで行っちゃう感じ」。
軽快なメロディーと淡々と刻まれるリズムがクールな1曲目“マンマミーヤ!”に始まり、ビートが粘っこくファンキーな“ブーゲンビリヤ”、切なくも幽玄なサウンドスケープが壮大に展開する“me to me”など、個々の楽曲のサウンドは多種多様ながら、それぞれの楽曲が緩やかにつながり、ひとつの世界を創造していく。
その世界は「緩急」とか「静と動」とか、そういった二元論的な言葉では言い表せないほどに綿密に構築され、なだらかに姿を変えていく。そうして音と感情の微細なグラデーションを描きながら作り上げる、たった30分とは思えないほどの濃密なステージングは圧巻だった。
音楽の本来の「豊かさ」を提示したMUSIC FROM THE MARS
MONO NO AWAREの演奏によってスペーシーな空気が満ち溢れるなか、3番手に登場したのは、その名もまさに「火星からの音楽」、『exPoP!!!!!』には約10年ぶり3回目の出演となる、MUSIC FROM THE MARS。
サックスとフレンチホルンも含めた6人編成の彼らが奏でるのは、フリーキーでありながらも極めて有機的なバンドアンサンブルで魅せる、ジャズ、ポストロック、プログレなど、様々な要素を飲み込んだ、まさにジャンルレスミュージック。それぞれのプレイヤーの機智に富んだプレイが絡み合う曲の構造は複雑でありながら、変拍子でも踊れるし、メロディーやコーラスはとても人懐っこい。
この豊潤な技術や素養に裏打ちされたポップネスに身を預けていると、「音楽を聴く」「音楽で踊る」という行為が、とても贅沢な喜びなのだと実感できる。MUSIC FROM THE MARSが提示するのは、この時代においてとても稀有な「豊かさ」だ。
「過剰さ」こそがポップだ。クウチュウ戦の優れたエンターテイメント性
4番手は、こちらも『exPoP!!!!!』2度目の登場のクウチュウ戦。1曲目、ボーカルのリヨがラップを披露する新機軸“セクシーホモサピエンス”が始まった段階から、ステージ上で生み出される全てが「過剰」。メンバーの色気のある一挙手一投足も、耽美で、エモーショナルで、ときに破壊的なパフォーマンスも、全てが狂おしいほどに過剰。
しかし、その「過剰さ」こそが、クウチュウ戦の持つ「ポップさ」なのだ。その過剰な音や動きからは、「ほら、音楽って、人間って、こんなにすごいし、こんなに面白いんだよ」――そんなメッセージが聞えてくる。“ぼくのことすき”の白昼夢のなかを駆けるような透明な疾走感、“アモーレ”の咽び泣くようなギター、そして“白い十代”の出口の見えない悲しみ……全てがヒリヒリと生々しく、同時に、優れたエンターテイメントでもある、そんなステージングを披露したクウチュウ戦。
この日は「1st love album」と称する新作『愛のクウチュウ戦』をリリースしたばかりのタイミングとあって、フロアにはバンドに対する期待が充満していたのだが、この日の彼らは、その溢れる期待に見事に応えてみせた。
妄想から生まれたWUJA BIN BINの音楽が織り成す幸福体験
そして、この日のトリを飾ったのは、MUSIC FROM THE MARSでもベースを弾いていたケイタイモ(ex.BEAT CRUSADERS)を中心とする13人編成の大所帯バンド、WUJA BIN BIN。
O-nestのステージに13人のメンバーと楽器が並んでいる、その絵面だけでも圧巻だったが、音はさらに圧巻! 一つひとつの楽器が奏でる音が重なり合って生まれる重厚な、それでいて風通しのいい楽器同士のハーモニー。「スキャット」という、意味を持たない非言語的な表現がもたらす、身体的なグルーヴ感。その全てを自分の体と心で受け止めることができるのは、あまりに幸福な体験だ。
そもそもプロフィールによれば、WUJA BIN BINとは、ケイタイモの「妄想」を具現化するために生まれたバンドだという。「一体、ケイタイモの頭のなかは、どれほどの幸福に満ちていたのだろう?」なんて感じてしまうのだが、考えてみれば、「妄想する」ということは、すなわち「知っている」ということでもあるのだ。
なぜなら、人は「知らない」ことについては、頭に思い描くことすらできないのだから。人には、頭のなかで存在を知ってはいるけど、現実には簡単に手に入らないものがある。でも、想像と創造によって、人はそれを現実に生み出すことができる。WUJA BIN BINのパフォーマンスは、その事実を証明していたように思う。
ときとして音楽は、聴き手を「ここではないどこか」へと連れて行ってくれる。この日の『exPoP!!!!!』は、そのための想像力と創造力に満ちたアクトが揃った、とても刺激的な夜となった。
- イベント情報
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- 『Eggs×CINRA presents exPoP!!!!! volume98』
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2017年6月29日(木)
会場:東京都 渋谷 TSUTAYA O-nest
出演:
MONO NO AWARE
MUSIC FROM THE MARS
WUJA BIN BIN
クウチュウ戦
ゆるふわリムーブ(オープニングアクト)
料金:無料(2ドリンク別)
- 『Eggs×CINRA presents exPoP!!!!! volume99』
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2017年7月20日(木)
会場:東京都 渋谷 TSUTAYA O-nest
出演:
sui sui duck
TOKYO HEALTH CLUB
YOUR ROMANCE
岩ヰフミト
トリプルファイヤー
料金:無料(2ドリンク別)
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- 『exPoP!!!!! vol.100』
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2017年8月20日(日)
会場:東京都 日比谷野外音楽堂
出演:
相対性理論
Yogee New Waves
クリス・コーエン
and more
料金:無料(2ドリンク別)
- プロフィール
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- ゆるふわリムーブ
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本田(Ba)、網谷(Gt,Vo)、久保(Gt)、高宮の(Dr)の4名による、地元広島を拠点に勢力的に活動中のギターロックバンド。2015年8月度の「MUSH A&R MONTHLY ARTIST」に選出され、同年12月にはスペースシャワー主催オーディション『Day Dream Believer』にて全国3569組より最終選考4組に残る。2016年1月にはタワーレコード店舗限定ワンコインシングル『透明な藍のようにe.p.』をリリースするも発売より9日で完売。以降一年間にタワーレコードEggsレーベルより3枚のシングルをリリース。2017年3月には、広島で開催された新たなサーキットイベント『HIROSHIMA MUSIC STADIUM-ハルバン'17-』にて1日目トリを飾った。2017年6月21日には満を持して初の全国流通ミニアルバム『芽生(めばえ)』をリリースし、全国へ挑戦する。
- MONO NO AWARE (もの の あわれ)
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東京都八丈島出身の玉置周啓、加藤成順と共に大学で出会った同級生の竹田綾子、柳澤豊で構成される。2013年結成。2015年1月からドラムが柳澤豊に変わり、徐々に現スタイルに。『FUJI ROCK FESTIVAL '16』「ROOKIE A GO-GO」3日目の締めに出演。同年の9月には、『りんご音楽祭』にも出演。1stシングル『イワンコッチャナイ/ダダ』は会場&限定店舗で販売し即完売。2017年3月には、1stフルアルバム『人生、山おり谷おり』をP-VINEより全国流通。2017年4月放送、テレビ東京『世界の闇図鑑』のエンディングテーマに「me to me」が決定。2017年7月、ROOKIE A GO-GO「FRF'17 出演権獲得!目指すはメインステージ!」で堂々の第1位を獲得し、見事『FUJI ROCK FESTIVAL '17』メインステージへの出演が決定。バンド名のごとく曲ごとにその曲調は大きく流動しつつも、一筋縄ではいかないメロディラインと、言葉遊びと独特のリズムに溢れる歌詞で、どの曲も喜怒哀楽では測りきれない感情を抱かせる。
- MUSIC FROM THE MARS (みゅーじっく ふろむ ざ まーず)
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ロック、ジャズ、ハードコア、ラテン、AOR、ソウル、パンク、プログレ、即興音楽・・・あらゆる音楽の美味しいところを濃縮したサウンドに思わず口ずさんでしまうメロディ。藤井友信(Vo,Gt)のソウルフルな歌を中心に遊び心と構築美溢れる緻密なアレンジ。機知に富んだインタープレイの応酬。常にオリジナルでオルタナティヴな音楽を作り続けている姿勢と熱量たっぷり圧倒的ライブパフォーマンスで若手からベテランまで多くのミュージシャンから絶大な支持を得ている。2016年には9年振りの新作『After Midnight』を発表。1997年結成。活動20周年を迎える6人組。
- クウチュウ戦 (くうちゅうせん)
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クウチュウ戦。2015年5月に1stミニアルバム『コンパクト』、2016年1月に2ndミニアルバム『Sukoshi Fushigi』、同年8月に3rdミニアルバム『超能力セレナーデ』をリリースし、幅広い世代のmusic loverたちをその唯一無二の世界観で魅了してきた「平成のビューティフル・ロックカルテット」。6月14日には、彼らが満を持して2017年に放つ真新しい作品集、『愛のクウチュウ戦』がリリースされる。正統派プログレバンドとしてスタートし、周囲の音楽関係者やバンドマンたちに衝撃を与えた彼らが新たに辿り着いた、愛と美が炸裂するポップミュージックの世界。
- WUJA BIN BIN (うじゃ びん びん)
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ケイタイモ(ex.BEAT CRUSADERS)が抱き続けた妄想の中から生まれた楽曲を具現化するために結成された、総勢13名の大所帯プログレッシブ吹奏楽バンド。ケイタイモ自身の本来のベーシストとしてのプレイは圧巻。プラス多方面で活躍中の個性豊かな豪華メンバーが集まり、形に捕われず好き放題演奏していくスタイルにより、ジャズ、ファンク、ブラジル音楽、映画音楽、等々を内包した、今までにない「WUJA BIN BIN」という音楽ジャンルを確立すべく活動中。フランク・ザッパなどの変態性とデューク・エリントンなどの正統性、ジャコ・パストリアス・ビッグ・バンドのような確かな演奏力を武器に、ROVO、菊地成孔DCPRG、渋さ知らズなどに対する次世代の解答というべき音楽を展開している。
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