(メイン画像撮影:みらい制作)
第100回目『exPoP!!!!!』と、第1回目『NEWTOWN』が同時開催
CINRAが渋谷のライブハウスO-nestにて10年にわたり開催し続けている無料音楽イベント『exPoP!!!!!』。その記念すべき第100回目が、8月20日、日比谷野外大音楽堂にて開催された。
コアな音楽カルチャーの磁場が渦巻くO-nestを飛び出し、夏の野音にて盛大に開催された今回の『exPoP!!!!!』。事前に行われたクラウドファンディングの支援者に対しては、リターンとして優先入場券やVIP席チケットが配られたが、基本的に入場料は無料、必要なのは2ドリンク代の1000円のみというシステムはいつも通り。メモリアルな日だが、あくまで、それまでの99の夜と地続きにある『exPoP!!!!!』だ。
この日は、日比谷公園の「にれの木広場」にて開催されていた、同じくCINRA主催のカルチャーフェス『NEWTOWN』の2日目でもあった。『NEWTOWN』のロゴは、『exPoP!!!!! vol.100』の出演アーティストでもある相対性理論・やくしまるえつこが描き下ろしたもの。
『NEWTOWN』内のフードカートや似顔絵マーケット、古本市なども楽しみつつ、その流れで『exPoP!!!!!』になだれ込んでいく人たちも多く、音楽もアートも食も含めた、様々なカルチャーがなだらかにクロスオーバーする空間が広がっていた。『NEWTOWN』は、そこにある様々なものがお洒落で洗練されているのだけど、同時に手作り感にも溢れていて、会場を漂う空気感がとても優しくて居心地がいい。筆者も、フードカートのピザで腹ごしらえし、ぶらぶらと『NEWTOWN』を散策しながら野音入り。
オープニングを飾ったのは「ニュータウンポップ」を掲げるYOOKs
14時45分に、『exPoP!!!!! Vol.100』開演。無料音楽プレイヤー「Eggs」が選出したオープニングアクトは、自らを「ニュータウンポップ」と名乗る、京都からやってきた新世代バンド・YOOKs。この22~3歳の若き青年たちが、なぜ「ニュータウンポップ」を掲げるのかについては、事前に公開されたインタビュー(YOOKsインタビュー シティポップブームの次を継ぐ新世代の台頭)に詳しいのでそちらに譲るが、ひとつ言えるのは、YOOKsはまったく新しい価値観で、自分たちが生きる世界と、そこで鳴り響くべき音楽を見据えているということ。
あくまでも「暮らし」と繋がった音楽を志す彼らの楽曲は、1曲1曲が「間」や「空間」を大事にしながら丁寧に奏でられるのだが、その穏やかなメロウネスは、日比谷野音という会場に見事にはまっていた。序盤は若干の緊張を感じさせたものの、曲を追うごとに柔らかく雄大になっていくアンサンブル。1音1音の隙間から溢れ出る優雅なアンビエンスは、とても美しく会場を彩っていた。
シャムキャッツの初期から現在までが表現されたステージ
続いて登場したのは、シャムキャッツ。全員がお揃いの青いシャツ姿でステージ上に登場した四人。その出で立ちは、彼らの「バンド」という共同体としての奇跡的な繋がりの深さ、優しさ、そして蒼さを体現しているようだ。
ライブは“花草”でスタートし、続く“GIRL AT THE BUS STOP”では、その写実的でありながら、時折フワッと幻想のなかに誘われるような歌詞世界に引きずり込まれる。初期の名曲“忘れていたのさ”も披露。MCで語られたのだが、この曲は、かつてCINRAが発行していたフリーCDマガジンに収録されていた曲で、主催者とバンド、双方の歴史を感じさせる1曲だ。
その後も、“Coyote”で四人が向き合いながら力強くアウトロを奏でた「ザ・ロックバンド」な瞬間や、それまでアコギを弾いていた夏目がギターを持ち替え、菅原がメインボーカルとして優し気な歌声を響かせた“Four O'clock Flower”“Riviera”への流れなど、現在のシャムキャッツ最良の瞬間が連続して訪れるような充実のステージングを披露。菅原の繊細なバラード“Riviera”が終わると共に、夏目が「おしっ、セックスの曲をやります!」と力強く言い放ち“Lemon”が始まった瞬間に、どうしようもない愛おしさを感じた。
海外からもゲストが。USインディー界の才人、クリス・コーエンが登場
3番手は、唯一の国外からの出演者、クリス・コーエン。2000年代前半にはDeerhoofにギタリストとして参加し、脱退後は自身のバンド・Cryptacizeでスフィアン・スティーブンスが主宰するレーベル「Asthmatic Kitty」から作品をリリース、そして近年は、Mac DeMarcoなどを擁する名門レーベル「Captured Tracks」よりソロアルバムをリリースするなど、USインディー界の重要地点にさりげなく居続ける才人だ。
この日は、クリス(Vo,Gt)の他にベース、ドラム、キーボードを従えた4ピースのバンド編成で登場。性急でアグレッシブな展開を見せる“As If Apart”、穏やかな歌心が映える“Heart Beat”、そして“Don't Look Today”のあたたかみのあるハーモニーなどなど、もちろん1曲1曲の演奏も素晴らしいのだが、まるでセット全体を通して、予測不可能な動きを見せる波の流れのなかにいるような気にさせられる、不思議かつ心地よい演奏。まるで現実社会を遮断するかのような、どこかノスタルジックで不思議な享楽性をも感じさせるその世界観は、都心のなかに突如として現れる森=日比谷野外音楽堂で響くことで、より一層、その耽美さを強固にしていた。
日が暮れるなか、美しいライブでオーディエンスを沸かせたYogee New Waves
そして4番手は、Yogee New Waves(以下、Yogee)。メンバーがステージに登場するや否や、客席全体が総立ち。「Yogeeこそが日本の音楽シーンのヒーローなのだ」とビシビシ伝わってくる、そんな期待と熱気が会場を覆う。
この日、ステージを熱いまなざしで見つめる若者たちを見ていて思ったのだが、きっと今、Yogeeが若いオーディエンスに提示しているのは、音楽の素晴らしさだけではない。何にも縛られることなく、自由であること。大切な何かを愛しながら生きるということ――そんな「生き方」もまた、Yogeeの音楽は彼らに伝えているのだろう。
ライブは“Megumi no Amen”“Good Bye”のグルーヴィーな流れでスタート。印象的だったのは、中盤、「俺らが一番大切にしている夜の曲をやります」と始まった名曲“Climax Night”。演奏の最中、次第に日が暮れ始め、本当の夜がやってくる。夜の野外会場で鳴り響く“Climax Night”のロマンティシズムは極上。そして、そこから<終わりなき夜には価値はない>と暗闇を切り裂くように始まった“World is Mine”“Like Sixteen Candles”への流れは最高だった。最後に演奏された“HOW DO YOU FEEL?”の、光に包まれるような壮大なスケール感まで含め、この日のYogeeは完璧すぎるほどの美しさを見せてくれた。
最後は、野音をアート空間化させた相対性理論の圧巻のパフォーマンス
そして、トリを飾ったのは第10回目以来の『exPoP!!!!!』出演となる相対性理論。夜の野音にやくしまるえつこが神鈴をシャンシャンと鳴らしながら登場。まず、それまでの出演者と一線を画す、その照明演出に驚いた。野外の会場と言えど、完璧に自分たちの空間を作り上げてしまう視覚的な演出は圧巻。1曲目の“たまたまニュータウン”から、暗闇に包まれた野音の会場を虹色の流線形レーザーが行き交う。
ステージ中央、まるで司祭のように存在する、お団子頭のやくしまるえつこは、神鈴をギターに持ち替え(!)、手元に光るオリジナル楽器の「dimtakt」と組み合わせた演奏も披露。
そこから永井聖一のギターが激しくバーストする“キッズ・ノーリターン”。やくしまるのギターも呼応し、吉田匡のベースがうねる。そして「先生、私まだニュータウンにいたいよ」という、やくしまるの言葉に導かれるように演奏された“地獄先生”。山口元輝とitokenによるツインドラムを含む5人編成での演奏は、ちょっと呆然としてしまうほどに圧倒的だ。
その熱量の高い演奏との相乗効果で次第にボルテージを上げていくオーディエンス。客席のあちこちから怒号とも歓声ともつかない声が響き、野音全体が異様なテンションに包まれるなか、中心にいるやくしまるだけが、まるで違う場所にいるかのように凛と佇んでいる。本当に、この「やくしまるえつこ」という人は一体何者なのだろう?
この日は、他にも“天地創造SOS”に“ウルトラソーダ”、それにやくしまるが作詞と共同プロデュースしたMONDO GROSSO“惑星タントラ”のセルフカバーも披露。“LOVEずっきゅん”では会場中が「待ってました!」と言わんばかりの盛り上がりを見せたが、本編ラストを飾った“FLASHBACK”では、この日の彼らの演奏が生んだあらゆる熱気と興奮を、どこにも着地させることなく空気中に放出するような、そんな不思議な感覚が会場中を満たしていた。やくしまるの「グンナイ」という一言を残してステージを後にしたメンバーだったが、アンコールに応えて最後の最後、壮絶なキレ味と疾走感でもって“スマトラ警備隊”を披露。
禍々しさすら感じる演奏にて幕を閉じた100回目の『exPoP!!!!!』。ちょっと1組1組が独立したヤバさを持ちすぎていて簡潔にまとめることなど不可能なのだが、それもまた、いつもの『exPoP!!!!!』だった。
また、次回の『NEWTOWN』が11月11・12日、多摩・三本松小学校にて開催されることが発表された。このカルチャーフェスもまた、『exPoP!!!!!』のように、様々なアーティストとともに歴史を作っていくことになるのだろう。
- イベント情報
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- 『exPoP!!!!! vol.100』
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2017年8月20日(日)
会場:東京都 日比谷野外音楽堂
出演:
相対性理論
クリス・コーエン
シャムキャッツ
Yogee New Waves
YOOKs
料金:無料(2ドリンク別)
- 『NEWTOWN』
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2017年8月19日(土)~20日(日)START 11:00 / CLOSE 20:30
※ 雨天決行 / 荒天中止
料金:入場無料
場所:東京都 日比谷公園 にれの木広場
- イベント情報
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- 『Eggs×CINRA presents exPoP!!!!! volume101』
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2017年9月28日(木)
会場:東京都 渋谷 TSUTAYA O-nest
出演:
RIDDIMATES
すばらしか
東京塩麹
ナツノムジナ
YAJICO GIRL
料金:無料(2ドリンク別)
- イベント情報
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- 『NEWTOWN』
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2017年11月11日(土)、11月12日(日)
会場:東京都 多摩センター デジタルハリウッド大学 八王子制作スタジオ(旧 八王子市立三本松小学校)
料金:無料(一部プログラムは有料)
- プロフィール
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- 相対性理論 (そうたいせいりろん)
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音楽シーンのみならず、ドローイング、美術作品、テキストなど多彩な分野で活躍するやくしまるえつこを中心に、一貫してインディペンデントでの活動を続ける。2016年にはアルバム『天声ジングル』を発表し、レコード会社にもプロダクションにも所属しないアーティストとして史上初の日本武道館公演『八角形』を開催。坂本龍一、マイ・ブラッディ・ヴァレンタイン、ジェフ・ミルズ、サーストン・ムーア、マシュー・ハーバートら国内外アーティストとの共演・共作も多数。また、ポップミュージシャンとして極めて異例となる山口情報芸術センター[YCAM]での特別企画展『天声ジングル - ∞面体』も実施された。
- 『Eggs×CINRA presents exPoP!!!!! volume101』
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2017年9月28日(木)
会場:東京都 渋谷 TSUTAYA O-nest
出演:
RIDDIMATES
すばらしか
東京塩麹
ナツノムジナ
YAJICO GIRL
料金:無料(2ドリンク別)
- 『NEWTOWN』
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2017年11月11日(土)、11月12日(日)
会場:東京都 多摩センター デジタルハリウッド大学 八王子制作スタジオ(旧 八王子市立三本松小学校)
料金:無料(一部プログラムは有料)
- Yogee New Waves (よぎー にゅー うぇいぶす)
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2013年6月に活動開始。2014年4月にデビューep『CLIMAX NIGHT e.p.』を全国流通でリリース。その後『FUJI ROCK FESTIVAL'14』《Rookie A GoGo》に出演。9月には1stアルバム『PARAISO』をリリース。年間ベストディスクとして各媒体で多く取り上げられる。2015年2月に初のアナログ7inchとして新曲『Fantasic Show』を発表。12月には2nd ep『SUNSET TOWN e.p.』をリリース。2016年は『RISING SUN FES』『GREENROOM FES』『森道市場』『STARS ON』『OUR FAVORITE THINGS』など多くの野外フェスに出演。2017年1月にBa.矢澤が脱退し、Gt.竹村、Ba.上野が正式メンバーとして加入し再び4人編成となり始動。 5月17日に2ndアルバム『WAVES』をリリースし初の全国8都市ワンマンツアーを決行し各地ソールドアウト。11月から全国公開の映画『おじいちゃん、死んじゃったって。』の主題歌に“SAYONARAMATA”が起用される。
- クリス・コーエン
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Deerhoof(2002〜2006年)、The Curtains, Cryptacizeなどに在籍したシンガーソングライター。ソロ名義ではMac DeMarcoやWild Nothingなどでも有名なブルックリンのレーベル「Captured Tracks」より2枚のアルバムをリリース。自身が結成したバンドCryptacizeでは、スフィアン・スティーヴンスの主宰するレーベルより2枚のアルバムをリリース。また、アリエル・ピンク、キャス・マコームス、ニコラス・ケルゴヴィッチ、タラ・ジェイン・オニールなどの作品への参加、Fleet Foxesの5年ぶりとなる復活ライブのフロントアクトに抜擢されるなど、USインディーの中で注目を浴びる才人。
- シャムキャッツ
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メンバー全員が高校3年生の時に地元浦安で結成。2009年春、アルバム『はしけ』でデビュー。同年、河川敷でのゲリラライブを収録した『BGM』、2012年に初期アンセム“渚”“なんだかやれそう”を収録した『たからじま』、2014年にバンドの評価を決定づけたギターロックの金字塔『AFTER HOURS』、そして2015年にバンド最大のヒット作となったミニアルバム『TAKE CARE』を発表したあと、それまで所属していたレーベルから独立。自主レーベルを立ち上げ、2枚のEP『マイガール』『君の町にも雨はふるのかい?』を経て、2017年6月21日に3年3か月ぶりとなるフルアルバム『Friends Again』をリリース。
- YOOKs (よーくす)
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京都発ニュータウンポップ。福家佑輔(Vo,Gt)、清水佑(Ba)、松井規広(Dr)。2015年3月大学の同級生により前身バンド「雨の降る街」を結成。フォークロックやインディーポップ、ポストロックやシティポップ等様々な音楽から影響を受けた「ニュータウンポップ」を掲げ、京都を中心に活動中。
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