藍坊主がライブで表現、音楽をやめようとした時期を経た「今」

なぜ、人は「言葉」を必要とするのか?

感情と言葉は会えないんだ 感情はいつでも動いてるから
ものすごい速さで動いてるから 言葉は追いつけない 追いつけない
(藍坊主“うさぎとかめ”より)

言葉は、遅い。進む時間、移ろいゆく季節、揺れる心、老いていく体、増える知識、忘れる面影――自分の外側も内側も「変わるもの」や「動くもの」で満ち溢れているこの世界で、言葉という存在は、どうしようもなく速度が遅い。言葉は、ものや事象に名前を付け、意味を付着させる。本来は具体的であるものを、抽象的にしてしまう。

「ねぇ、『音楽』の話をしよう?」。こんな会話がなされたとき、きっと、僕と君が思い浮かべる「音楽」の形は違う。そんなことを頭でっかちに考え続けてしまうと、いつしか、こんな暴言も吐きたくなってしまう――「言葉って結局、全部嘘なんじゃないの?」。

冒頭に歌詞の一部を引用した“うさぎとかめ”は、藍坊主が2016年にリリースしたアルバム『Luno』に収録された1曲。藍坊主というバンドは、その音楽のなかに常に独特の文学性を持ちながらも、同時に、ずっと言葉というものの存在に懐疑的なバンドであったのかもしれない。今年、ミニアルバム『木造の瞬間』リリース時に筆者が担当したボーカリスト・hozzyへのインタビューにおいて、彼はこんなふうに語っている。

hozzy:これまで「藍坊主は歌詞がいいね」って言っていただくことも多かったんですけど、実は、歌詞にそこまでこだわったことがなかったんです。今回、初めて言葉にこだわって音楽を作ったくらいで。いままでは、とにかく音楽的に変な刺激を求めていたんですよね。崖から落ちてしまうような刺激、というか。(中略)まわりから「これ、プログレだよ」って言われるぐらい複雑な構成の組曲みたいなものを作ってみたり、キーがどこにあるのかわからないくらい、めちゃくちゃな動きをするメロディーをあえて作ってみたり……音楽的にギリギリを攻める、みたいなことに重きを置いていた時期が長かったんです。
(インタビュー記事「藍坊主が今ようやく明かす、バンド解散危機と再生のストーリー」より引用)

続けて、彼はこうも語っている。

hozzy:いまは「音楽に言葉を乗せる」っていう、そのシンプルなことに面白さを感じていて。やっぱり、言葉がちゃんと立っていると、ライブでのお客さんの反応も変わるんですよ。「伝わっているな」っていうことが、明確にわかるようになる。 (インタビュー記事「藍坊主が今ようやく明かす、バンド解散危機と再生のストーリー」より引用)

これまで藍坊主を突き動かしてきた「ギリギリを攻めたい」という「音」に対する表現欲求は、音楽家として実に真っ当なものに思える。しかし、最新作『木造の瞬間』において、藍坊主は真っ向から言葉に向き合った。歌詞表現のみならず、hozzyは、初回限定盤に付属するブックレットに3万字にも及ぶ文量で、ここ数年間の藍坊主を巡るストーリーを書き綴ったのだ。これまで「音」に対する表現欲求に実直で在り続けたバンドが、なぜ、今言葉に向き合ったのか? その答えは、端的に言えばひとつ――「伝えたかったから」に他ならない。

なぜ、人は言葉を必要とするのか? なぜ、名付け、抽象化し、ときに「嘘」とわかりながら、それでも人は言葉を紡ぐのか? それは、「伝えたい」と思い、「わかりたい」と思うからだ。人と人の距離を埋めるもの、それが「言葉」だ。

ライブから見えた、藍坊主の今のモード「楽しいって、すごいよな」

3月11日、新宿BLAZEにて開催された、『木造の瞬間』のリリースツアーのセミファイナル公演。ライブは、『木造の瞬間』から“かさぶた”で幕を開けた。2015年にそれまで所属していたメジャーレーベルを離れ、自主レーベル「Luno Records」を設立し、アルバム『Luno』をリリースした直後の心境が綴られているというこの曲でライブが始まったのは、「今の藍坊主がここから始まった」ということを、暗に示しているように思えた。

藍坊主。『aobozu TOUR 2018 ~木を隠すなら森の中~』新宿BLAZE公演の模様
藍坊主。『aobozu TOUR 2018 ~木を隠すなら森の中~』新宿BLAZE公演の模様

hozzy
hozzy

続く“ダンス”“オレンジテトラポット”“桜の足あと”“うさぎとかめ”といった楽曲たちに宿った、この15年間、藍坊主を突き動かし続けた蒼く直情的なエネルギー。そして、“ウズラ”“同窓会の手紙”“水に似た感情”“トマト”には、まるで波のように揺らめきながら聴き手をそっと包み込むメランコリーが。

藍坊主。『aobozu TOUR 2018 ~木を隠すなら森の中~』新宿BLAZE公演の模様

藍坊主。『aobozu TOUR 2018 ~木を隠すなら森の中~』新宿BLAZE公演の模様

「15年もやっていて楽しいって、すごいよな」――そんなhozzyの言葉に続けて始まった“スプーン”と“テールランプ”。とんでもない起爆力を持った『木造の瞬間』を象徴する楽曲“群青”と、その熱気を引き継いだ“ハローグッバイ”。

そして、バンドの気持ちに応えるように、フロアからハンドクラップと合唱が巻き起こった“ホタル”。今の藍坊主の詩情が、端正な旋律と共に紡がれた、本編の最後を飾った名曲2曲――“嘘みたいな奇跡を”と“ブラッドオレンジ”。

『木造の瞬間』から全曲、さらに過去の代表曲も詰まった新旧織り交ぜたセットリストは、現時点での藍坊主のベストと言えるものだった。そして、演奏された全ての曲に、「伝えたい」「わかり合いたい」という、その気持ちに突き動かされたバンドが持つ慈愛のような優しさが滲んでいた。

藍坊主。『aobozu TOUR 2018 ~木を隠すなら森の中~』新宿BLAZE公演の模様

藍坊主。『aobozu TOUR 2018 ~木を隠すなら森の中~』新宿BLAZE公演の模様

アンコールでは、hozzyの衝動的な歌唱が素晴らしい“星のすみか”、そして『Luno』に収録された祝祭感に溢れた1曲“魔法以上が宿ってゆく”が披露された。さらに、3月10日が誕生日だった藤森のためにバースデーケーキが登場するという、とても幸福な場面も。

藤森真一
藤森真一

人が集まることで生まれる「温かさ」を見つめ直す

このツアーのタイトルは『aobozu TOUR 2018 ~木を隠すなら森の中~』と名付けられていた。この「木を隠すなら森の中」というフレーズは、ミニアルバムのタイトル『木造の瞬間』に由来するものだろう。

上記したインタビューでhozzyは、別れを経験した人間の心の質感を、脆く、しかし柔らかくて温かな木造住宅にたとえていた。だとしたら、「木を隠すなら森の中」と名付けられたこのツアーで、藍坊主が目指した空間の在り様も見えてくる。柔らかくて温かい、木造の心が集まった森のような空間。人と人とが集まり、「伝え合う」ことで、その距離をそっと埋め合うような空間。藍坊主は、そんな空間を見事に作り上げた。

藍坊主。『aobozu TOUR 2018 ~木を隠すなら森の中~』新宿BLAZE公演の模様

藍坊主『木造の瞬間』
藍坊主『木造の瞬間』(Amazonで見る

イベント情報
『aobozu TOUR 2018 ~木を隠すなら森の中~』

2018年3月11日(日)
会場:東京都 新宿 BLAZE

アプリ情報
『Eggs』

アーティストが自身の楽曲やプロフィール、活動情報、ライブ映像などを自由に登録・公開し、また、リスナーも登録された楽曲を聴き、プレビューや「いいね」等を行うことができる、アーティストとリスナーをつなぐ新しい音楽の無料プラットフォーム。登録アーティストの楽曲視聴や情報は、「Eggsアプリ」(無料)をダウンロードすると、いつでもお手もとでお楽しみいただけます。

料金:無料

リリース情報
藍坊主
『木造の瞬間』通常盤(CD)

2018年1月24日(水)発売
価格:1,944円(税込)
TRJC-1078

1. 群青
2. ダンス
3. 嘘みたいな奇跡を
4. 同窓会の手紙
5. トマト
6. かさぶた
7. ブラッドオレンジ

イベント情報
『aobozu TOUR 2018 OTOMOTO~木を隠した森の中で~』

2018年8月5日(日)
会場:大阪府 バナナホール

2018年8月11日(土)
会場:福岡県 INSA

2018年8月12日(日)
会場:岡山県 IMAGE

2018年8月18日(土)
会場:東京県 TSUTAYA O-WEST

2018年8月19日(日)
会場:北海道 札幌 DUCE SAPPORO

2018年8 月25日(土)
会場:愛知県 APOLLO BASE

プロフィール
藍坊主
藍坊主 (あおぼうず)

神奈川県小田原市出身の藤森真一(Ba)、hozzy(Vo)、田中ユウイチ(G)、渡辺拓郎(Dr)からなる4人組ロックバンド。2004年5月にアルバム『ヒロシゲブルー』でメジャーデビュー。2011年4月にTVアニメ『TIGER & BUNNY』エンディングテーマ“星のすみか”を発表し、翌月にはバンド自身初となる日本武道館公演を成功させた。2015年、自主レーべルLuno Recordsを設立。藤森真一(Ba)はこれまでに関ジャニ∞“宇宙に行ったライオン”や水樹奈々“エデン”等、楽曲提供も手掛ける。hozzy(Vo)はジャケットデザインの描き下ろしや楽曲のトラックダウンを自身で行う等、アーティストとして様々な魅力を発揮しており、よりパーソナルでコアな表現活動のためのプロジェクト、Normの活動をスタート!



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