Emeraldと環ROYという同世代のバンドとラッパーによるコラボレーションが実現。YAMAHAのシンセサイザー「MONTAGE」、エレクトロニック・アコースティック・ドラム・モジュール「EAD10」、ボーカロイド・キーボード「VKB-100」という3つの機材を用いて、Emeraldの“黎明”をリアレンジし、環ROY“フルコトブミ”のラップを組み合わせ、特別な1曲が誕生した。
本稿では楽曲の誕生までを、本人たちの発言も交えながら詳細にレポートするとともに、撮り下ろしのセッション動画を公開。なおこの2組は、4月22日に開催されるCINRA主催のスペシャルライブ企画『CROSSING CARNIVAL』への出演も決定しており、当日は今回のコラボ楽曲のパフォーマンスも予定している。
歌詞の抽象度を意識し、“黎明”と“フルコトブミ”を接続
Emeraldと環ROY。両者の音楽性のベーシックにあるのはネオソウルとヒップホップ、いわゆるブラックミュージックであり、そもそもはアメリカ産の音楽である。しかし、この2組の共通点は日本語に対する特別なこだわりを持ち、日本人としての表現を志向していることにある。
中野(Vo,Gt / Emerald):環ROYさんの『なぎ』はずっと聴いてて、「2017年に出た中で一番いいと思ったアルバム」という某ラジオの企画でも、『なぎ』を挙げさせてもらってたんです。
最近は、日本のミュージシャンでも英語のフロウで歌う人が多くて、みんなすごく上手なんですよね。なので、自分も英語でやるか悩んだ時期もあったんですけど、『なぎ』を聴いて、やっぱり日本語すげえなって思って。最初はしっくりきてなかった曲も、「何だろう?」って取っ組み合うように聴いていたら、いろんな角度から言葉が受け取れるように作られているのがわかって、日本語の可能性を改めて感じたんです。
Emeraldのメンバー。左から:高木陽(Dr)、藤井智之(Ba)、中村龍人(Key)、中野陽介(Vo,Gt)、磯野好孝(Gt)、藤井健司(サポート,VKB-100,Sampler)
日本語ラップを探求し続ける環ROYと、それに感銘を受けたEmeraldの両者らしく、コラボレーション作業は、お互いの最新アルバムの歌詞を見比べて、世界観の合致する曲を探す形に。その際、環ROYが重要視したのは、歌詞に対する「広い / 狭い」という視点だった。
環ROY:要は、歌詞で描く対象の抽象度の話です。曲ごとに詞のスケールがあって、例えば、桜の話か、花の話か、植物の話か、生き物の話かで、抽象度が上がっていくじゃないですか? 片方が桜の話をしているのに、片方が生き物の話をしていたら、スケールに差が出ちゃいますよね。片方が桜で、もう片方が向日葵だったら、近しいものになる。そこを気にしていました。
歌詞の相性がよさそうな曲を見つけると、演奏のノリやBPMを確認すべく何曲かセッションを行い、最終的には、Emerald『Pavlov City』のラストナンバーであり、ライブでも最後に演奏される“黎明”に、“フルコトブミ”のラップを組み合わせることに決定。楽曲の大枠が固まって、細かいアレンジ作業へと移行していった。
Emerald『Pavlov City』(2017年)を聴く(Spotifyを開く)
MONTAGE、EAD10、VKB-100、それぞれの機能の活用
MONTAGEは新音源システム「Motion Control Synthesis Engine」によって、滑らかでダイナミックな演奏表現、多彩なサウンドメイキングを可能にした、YAMAHAのフラッグシップシンセサイザー。生演奏のBPMを自動検出し、モーションシーケンサーやアルペジオを同期させる「ABS(オーディオビートシンク)」という機能も搭載している。今回の曲では、スネアドラムの音をトリガーにして、リアルタイムでシンセの音色を変化させるサイドチェイン的な使い方をし、印象的なイントロを作り上げた。
中村(Key / Emerald):MONTAGEはすごくハイエンドな機材。単純にグレードが高くて、高機能かつ複雑な作りですが、その分自由度が高く、出音もものすごくいいです。今回使用するにあたって、事前に何本か動画を見ましたけど、やっぱり実際に弾いて体感すると、全然違います。ABSの機能を使えば、ただ同期と合わせるのと違って、よりバンド感が増すと思うので、面白いですよね。
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イントロには「歌を演奏する」という新しい体験を提供するVKB-100も加わり、印象的なフレーズは裏メロとして楽曲全体で機能すると同時に、音色面で現代性を付与するなど、大きな役割を果たしている。専用アプリを使って、簡単に歌詞を入力できることもポイントだが、今回は「Wow」の雰囲気を出すために「ヲ」で歌わせているという。
中野の歌の裏メロになっている単音フレーズが、VKB-100で「ヲヲヲ」を歌わせているメロディー
左から:中野陽介(Gt,Vo / Emerald)、藤井健司(VKB-100,Sampler / Emeraldサポート)
藤井健司(VKB-100,Sampler / Emeraldサポート):最初に「ボーカロイドを使う」って話を聞いたときは、Emeraldにハマるのかな? って思ったんですけど、音色を作るにあたってすごくいろんなパラメーターがあって、もちろん初音ミクの声を使うこともできるし、例えばジェンダーっていうパラメーターを使えば、男性寄りにもできる。そこから、最近よく耳にするような声ネタ感に近づけるために、フィルターやオクターバーを使って、よりバンドに馴染ませることができたかなと思います。
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入力された歌詞「ヲヲヲ」が表示されているVKB-100の液晶画面(商品詳細を見る)
EAD10はバスドラムにセンサーを取り付けるだけで、ドラムセット全体の音をバランスよく収音・録音できるだけでなく、手元のコントローラーを操作することで、生ドラムにリアルタイムでエフェクトをかけることができる。今回の楽曲では、環ROYの2回目のラップシーン冒頭でEAD10を用い、ドラムにフェイザーをかけて、絶妙なアクセントをもたらした。
サビが終わり2番に入るところでEAD10のコントローラーを操作。ドラムにフェイザーのエフェクトをかけている
高木(Dr / Emerald):EAD10はある意味MONTAGEとは逆で、コンパクトだし、セッティングも楽だし、誰でも使いやすいと思います。今回はバンドで使わせてもらいましたけど、個人練にも便利で、マイクが内蔵されているから、自分のプレイがどういう音でマイクに拾われているのか簡単に体感できる。普通ドラムをレコーディングしようとしたら、マイキングだけで何時間もかかったりするけど、EAD10なら10分くらいで済みますからね。
高木:あと、録った音源をUSBに保存できるので、オケを流しながら、それにのっけて録音できたり、バンドだったら、デモを流してそこにドラムを付けたり、シンプルなんだけど、使い方次第でホントにいろんなことができる、奥が深い機材だと思います。
EAD10のセンサーユニット。バスドラムのフープに装着する(商品詳細を見る)
EAD10のコントローラー(商品詳細を見る)
お互いの言葉と音が包みあうような、不思議な体験
こうして、2曲の歌詞を接続させ、MONTAGE、EAD10、VKB-100の機能を活かした特別な1曲が完成。原曲よりもわずかにBPMが上がり、普段は抑制の中に豊かさを感じさせる中野の歌や環ROYのラップも、いつもより少しだけエモーショナルになっているのは、両者のセッションの熱が自然とそうさせたのかもしれない。
中野陽介(Vo,Gt / Emerald)。ギターはヤマハのRS502T(商品詳細を見る)
「展開やリズムの取り方で、普通とちょっとでも違う方向に行くと、頭の中が一瞬混乱して聴き手の印象に残る。そういうのが好き」という環ROYの提案を受けて、イントロのリムショットが一発目のみ裏拍から入っていたりと、細やかなアレンジも面白い。
藤井智之(Ba / Emerald)。ベースはヤマハのBBP35 VSB(商品詳細を見る)
また、コーラスの歌詞についても環ROYから「ラップが動く分、歌はあまり動かない方がいい」という提案があり、一番の歌詞を繰り返すことにして、なおかつ<僕らの痛み>を<僕らの光>に変えているのもポイント。コラボレーションに関しては一日の長がある環ROYだけに、フラッシュアイデアを試しつつ、柔軟に取り入れていく姿勢は流石だ。
もう少し歌詞について分析してみると、夜と朝の間を描く“黎明”に対し、“フルコトブミ”は『古事記』を題材にして、生と死の間を描いている。つまり、どちらも意味やシチュエーションを限定せず、ある種の曖昧さや隙間にこそ可能性を見出しているところが、両者が共有する日本人としての感覚なのではないかと思う。
環ROY:上手く演奏できてよかったです(笑)。「くっつけちゃう」って、わりと簡単にできると思っていたけど、いざやってみると、そんな簡単じゃなくて、でもそれができた感じがします。
中野:曲ができて、お互いを包みあうみたいな印象を受けました。俺らが包み込まれている感じもしたし、俺らが包んでいる感じもしたし、不思議な体験でしたね。それが音だけじゃなくて、言葉の間でも起きていると思うから、それを感じ取ってもらえたら面白いかなって。
- 商品情報
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- MONTAGE8
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音源システム「Motion Control Synthesis Engine」を搭載し、滑らかでダイナミックな演奏表現を実現した、新たなフラッグシップシンセサイザー。今回使用した88鍵盤モデルのほか、76鍵盤(MONTAGE7)、61鍵盤モデル(MONTAGE6)もラインアップ。
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- VKB-100
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音源部にボーカロイドエンジンを搭載し、自分で演奏したメロディーの通りに歌詞を歌わせることができるキーボード。専用アプリを使用したオリジナル歌詞の作成や、最大で5人のボーカロイドシンガーの追加も可能。
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- EAD10
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EAD10は、アコースティックドラムの練習方法、録音、演奏そのものを もっと豊かで楽しいものにしてくれます。センサー(マイク部)をバスドラムに取り付けるだけで、ドラムセット全体の音をバランスくマイキングアコースティックドラムサウンドを劇的に変化させる50種のプリセットシーンを搭載。カスタマイズした自分だけのユーザーシーンを200種保存可能。アプリを使ってEAD10による高音質な演奏動画をアプリから直接撮影、ミックス、編集、アップロードまで可能。
- イベント情報
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- 『CROSSING CARNIVAL'18』
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2018年4月22日(日)
会場:東京都 渋谷 TSUTAYA O-EAST、TSUTAYA O-WEST、TSUTAYA O-nest、duo MUSIC EXCHANGE出演:
KOHH
Chara×韻シストBAND
GRAPEVINE
大森靖子
藤井隆
おとぎ話
前野健太
Awesome City Club
world's end girlfriend × Have a Nice Day!
THE NOVEMBERS
GAGLE
WONK
DADARAY
Tempalay
King Gnu
LILI LIMIT
Emerald(ゲスト:環ROY)
料金:前売6,000円 当日6,500円(共にドリンク別)
- リリース情報
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- Emerald
『Pavlov City』(CD) -
価格:2,484円(税込)
MPLR-0031. G.W.
2. Pavlov City
3. Holiday
4. step out
5. JOY
6. Boreder Rain
7. ナイトダイバー
8. Sunny Moon
9. after blue
10. 黎明
- Emerald
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- 環ROY
『なぎ』(CD) -
価格:2,808円(税込)
DDCB-130351. あらすじ
2. offer
3. 食パン
4. はらり
5. On&On
6. 都会の一枚の本
7. ことの次第
8. exchange/ /everything
9. ゆめのあと
10. フルコトブミ
11. めでたい
- 環ROY
- プロフィール
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- Emerald (えめらるど)
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2011年結成。ジャズ、ネオソウル、AORといったジャンルを軸にした楽曲群に、中野陽介の持つジャパニーズポップスの文脈が加わったそのサウンドは、新しいポップミュージックの形を提示している。2017年10月には2ndアルバム「Pavlov City」をリリース。近年のチルウェイブ等の要素も取り入れつつアップデートされたサウンドは各方面から非常に高い評価を受け、SpotifyではTokyo Rising等複数のプレイリストが彼らの楽曲をピックアップ。2018年はすでに都内複数のサーキットフェスへの出演が決定。今後の活躍が楽しみな、今最も注目すべきバンドである。
- 環ROY (たまきろい)
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1981年宮城県生まれ。東京都在住。主にラップを用いた音楽作品の制作を行う。これまでに最新作『なぎ』を含む5枚のCDアルバムを発表し、国内外の様々な音楽祭に出演する。その他、パフォーマンス作品やインスタレーション作品、映画音楽、広告音楽などを制作。コラボレーションでの制作も多数行う。
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