ニトロデイのドラマー率いる男女ツインボーカル、エルモア・スコッティーズ
4月26日、CINRAと音楽アプリ「Eggs」の主催による無料音楽イベント『exPoP!!!!!』が、TSUTAYA O-nestにて開催された。
この日のトップバッターを飾ったのは、エルモア・スコッティーズ。新世代グランジとして注目を集めるバンド、ニトロデイのメンバーでもある岩方ロクロー(Dr,Vo)も在籍する男女混成3ピースバンドだ。
エルモア・スコッティーズは、岩方と紅一点・大森遥(Ba,Vo)が曲によってメインを変える、ツインボーカルスタイル。岩方の歌声は、どこか朴訥とした響きのなかに切なさが宿り、大森の歌声には、女性らしい艶やかさと力強いエモーションが宿る。ボーカルがリズム隊であることが大きいのか、曲によって柔軟にアプローチを変えていくリズムと歌のマッチングが非常によく、くぬぎみなと(Gt)のギターは、そんな歌とリズムの合間を彩るように繊細に奏でられていく。
3人がそれぞれの音を丁寧に絡み合わせながら、今のリアルな心情を音に刻んでいる、そんな印象を受けるパフォーマンスだった。
5年の休止期間を挟み、your gold, my pinkは今、ピュアなロックンロールを鳴らす
2番手に登場したのは、メンバーの脱退や小塚宇紘(Vo,Gt)の療養を経て、去年、5年ぶりの活動再開を果たしたyour gold, my pink。
1曲目の“A DAY IN THE LIFE”から、The Beatlesをモチーフにピュアで衝動的な音楽への想いを歌いあげ、活動再開後に発表された新曲“Long Blue”では、The Libertinesのピート&カールよろしく、小塚と板持良祐(Vo,Gt)が1本のマイクをシェアする場面も。
2009年にデビューしたyour gold, my pinkは、2000年代から2010年代へと移行していく時期に、その変わりゆく時代の空気感を無邪気に自らの音楽性に取り込んでいたバンドだった。海外のインディーロックサウンドを基盤としつつ、最終的にアウトプットされる音は、明快なジャンルわけが無意味なほど複雑な構造を持ち、そして臆面もなくポップだった。そのエクストリームなポップさは、フェスやライブハウスでロックバンドとアイドルが共存しはじめた、当時の時代に呼応しているような感覚すらあった。
しかし、5年の月日を経た今、彼らが鳴らす音楽は、臆面もないロックンロールだ。時代性ではなく、とてもシンプルでピュアな音楽への想いだけに突き動かされているようなロックンロール。この日は、そのシンプルさとピュアネスに、強く心動かされた。
全員94年生まれ、The Songbardsが垣間見せた輝きと蒼さ
3番手に登場したのは、神戸出身の4ピースバンド、The Songbards。2017年に結成されたばかりだが、既に『ROCK IN JAPAN FESTIVAL』や『SUMMER SONIC』などの大型フェスのオーディションで注目を集める、メンバー全員が1994年生まれのニューカマーだ。
淡々と楽曲を演奏していく緊張感あるパフォーマンスのなかで、今の彼らの音楽性は、少年的で性急なロック路線と、歌謡性の高いフォークロック路線という、大きく2つの要素にわけることができる。ライブ前半は“太陽の憂鬱”や“ハングオーバー”など、切れ味の鋭いサウンドと日本語詞の絡み合いが小気味よいロックンロールをたたみかけ、中盤は“街”や“春の香りに包まれて”など、切なくも柔らかなメロディーと言葉の抒情性が際立った楽曲と上野皓平(Vo,Gt)の澄んだ声で、しっとりと歌を聴かせた。
これからどのような音楽性を表現していくのか楽しみだが、個人的には後者の路線に、このバンドの持つ才能がキラキラと発光する瞬間を見た気がした。ラストの“雨に唄えば”演奏後、4人全員が揃ってお辞儀をしてステージを後にした光景が、とても蒼くてよかった。
「折坂悠太」という音楽に、衝撃と感動がほとばしった
4番手に登場したのは、折坂悠太(合奏)。シンガーソングライターの折坂(Vo,Gt)に、寺田燿児(Ba)、青野慧志郎(管楽器、弦楽器)、飯島はるか(Pf)、田中久仁彦(Dr)という「合奏」名義のメンバー、さらにこの日は、ヴィブラフォンに影山朋子を加えた6人編成で登場。
プロフィールによれば、折坂は鳥取で生まれ、幼少期をロシアやイランで過ごし、帰国後は千葉で暮らす、という人生遍歴を持っている。だからだろう、彼の音楽からは重層的、混合的な文化の在り様を感じることができる。
ブルースやジャズなど西洋的なポップスの基盤となる素養も感じさせつつ、東欧圏での見聞が影響しているのか、普段はあまり耳にすることのないエキゾチックな旋律がそこに混じり合い、同時に、確実に日本的な土着性も感じさせる。いわば「キメラ音楽」。その歌唱法も、シンプルな歌、スキャット、さらに「語り」まで取り込んだ多様なものだ。
なぜ、こんな音楽が生まれるのか? それは、「折坂悠太という人間がそこにいるから」としか言いようがない。「国籍は○○だ」とか「性別は○○だ」とか、本来そういった一元的な見方では捉えきることができないのが「個人」のアイデンティティーというもの。折坂のように様々な文化体験を積んできたであろう個人が(もちろん、インターネットの影響もあるだろう)、その私的な文化背景をストレートに発露すれば、こんなにもマルチカルチュラルで楽しい音楽が生まれる。
折坂の音楽は、聴く者にとっては斬新な発明だが、おそらく彼自身にとっては、とてもパーソナルものでもあるだろう。音楽自体も最高だったが、「人」という生き物の凄みに、とてもシンプルな感動を覚えた素晴らしいパフォーマンスだった。かなり衝撃的。
人懐っこくも大胆不敵。キイチビールのロックスター性
そして、この日のトリを飾ったのは、キイチビール&ザ・ホーリーティッツ。
フロントマンでコンポーザーのキイチビールは、MCで「一度質屋に入れて、その後取り戻したはずの父親譲りのギターを、再び質屋に入れた」というトークを展開し、バンドメンバーすらもドン引きせていた……が、キイチビール&ザ・ホーリーティッツの奏でる音楽には、そういう男だからこそ描ける、やりきれなさやロマンがある。そしてそれが、どうしようもなく涙腺を刺激してしまうのだから本当に困る。
キイチビール&ザ・ホーリーティッツの男性メンバー4人は、同じ大学のジャズ研究会に所属していたというが、その影響もあるのか、アップリフティングな楽曲も実はとても繊細な構造を持っていて、その繊細さが、<世の中のことわからない/だけども君のそばにいたいよ>(“世の中のことわからない”)と歌い切ってしまうような、モラトリアムな詩情に見事にマッチングしている。
特に印象的だったのは、本編最後を飾った“東京タワー”から“ちっちゃなハート”の流れ、そしてアンコールで演奏された新曲。この3曲はメロウなフォークバラード、強烈なガレージパンク、スケールの大きなミディアムロックとそれぞれ曲調は違うのだが、どの曲も共通して「吹っ切れている」――そんな感覚があった。まるで「失恋したので会社休みます」と上司に直電してしまうような大胆不敵さ、とでも言おうか。そこに、キイチという男のなかにあるロックスター的な素養をヒシヒシと感じさせられた。
あまりにも個性的なメンツが揃った今回の『exPoP!!!!!』。5組ともが、それぞれの人生で見てきたもの、感じてきたものを実直に音楽に投影しようとしている感覚があって、とても濃かった。
- イベント情報
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- 『Eggs×CINRA presents exPoP!!!!! volume108』
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2018年4月26日(木)
会場:東京都 渋谷 TSUTAYA O-nest出演:
折坂悠太(合奏)
キイチビール&ザ・ホーリーティッツ
The Songbards
your gold, my pink
エルモア・スコッティーズ
- 『Eggs×CINRA presents exPoP!!!!! volume109』
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2018年5月31日(木)
会場:東京都 渋谷 TSUTAYA O-nest出演:
Gateballers
jan and naomi
Klan Aileen
ロザリーナ
and more
- プロフィール
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- エルモア・スコッティーズ
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横浜発、Dr.Vo.岩方ロクロー(ニトロデイ)とBa.Vo.大森遥の男女ツインボーカルにGt.くぬぎみなと(フライングメイヤー)のブルージーなギターが合わさった、ノスタルジーな夕暮れロックバンド。Dr.Vo.岩方ロクローとGt.くぬぎみなとはそれぞれのバンドの他に、betcover!!、ハイエナカ―、山﨑彩音等にサポートで参加。現在、メンバーは全員19歳。2017年10月、初の自主盤ミニアルバム『cashew』を発表。
- your gold, my pink (ゆあ ごーるど まい ぴんく)
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2007年秋に大阪で結成。2009年10月、ミニアルバム『parade』でデビュー。自主企画イベントの開催、海外アーティストとの共演、「SUMMER SONIC」「COUNTDOWN JAPAN」など大型フェスに出演。2012年2月、1stフルアルバム『TEENAGE RIOT』をリリース。全国ツアーを経て活動休止。2017年8月4日、活動再開を発表。新作『Twinkle Little Star / Long Blue』をリリース。
- The Songbards (ざ そんぐばーず)
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2017年3月より地元・神戸を中心に活動開始。バンド名は、「Songbird=さえずる鳥」と「bard=吟遊詩人」を掛け合わせた造語。UKロックに影響を受けた作詞作曲を手掛けるツインギターボーカルと、エヴァーグリーンなグッドミュージックに映える4人の息の合ったコーラスワークが魅力。今年1月に自主レーベル「Nowhere Works」から5曲入り1st mini Album「Cages in the Room」を全国初流通。7月23日(月)には、神戸VARIT.で初となるワンマンライブを開催。8月には渡英ライブも決定。
- 折坂悠太 (おりさか ゆうた)
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鳥取生まれのシンガーソングライター。幼少期をロシアやイランで過ごし、帰国後は千葉県に移る。2013年よりギター弾き語りでライブ活動を開始。独特の歌唱法にして、ブルーズ、民族音楽、ジャズなどにも通じたセンスを持ち合わせながら、それをポップスとして消化した稀有なシンガー。その音楽性とライブパフォーマンスから、ゴンチチ、後藤正文(ASIAN KUNG-FU GENERATION)、伊集院光、小山田壮平(ex.ndymori)、坂口恭平、寺尾紗穂らより賛辞を受ける。
- キイチビール&ザ・ホーリーティッツ
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16年6月、90年代のロックバンドの影響を感じさせつつも、彼ら独特の"ハッピーサッドの先にあるハッピー"を歌うソングライティングセンスを見せつけた初の自主制作EP『俺もハイライト』をリリースするや、タワーレコード渋谷店の未流通CDコーナーにて7ヶ月連続TOP10入りを果たすなど、20歳前後の同世代のリスナーを筆頭に、90年代に青春期を過ごした年上のリスナーなど、様々な世代のキイチビーラーが急増。17年夏には、〈ROJACK2017/でれんの!?サマソニ!?2017〉という2大夏フェスの出演権を得る新人コンテストでW受賞し、一躍注目を浴びる存在に。2018年2月7日に1st full album『トランシーバ・デート』(初の全国流通盤)をリリース。翌日の8日に渋谷WWWにて開催したリリースパーティーは完売し、大盛況のうちに閉幕した。3月には初のリリースツアーを敢行し、3月24日に開催した初のワンマンライブ(リリースツアーファイナル@渋谷スターラウンジ)も完売し、彼らのゆるりとした快進撃は続く。
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