WWWを舞台にした、いつもとはひと味違う『exPoP!!!!!』
7月10日、ライブハウス・渋谷WWW(以下、WWW)にて、CINRA主催の無料音楽イベント『exPoP!!!!! 番外編』が開催された。
『exPoP!!!!!』は毎月1回、TSUTAYA O-nestで開催されているイベントなのだが、なんと今年の7月は、ひと月に2度も開催。今回の『番外編』は、WWWといういつもより大きな会場で、登場するメンツも、普段とはひと味違った趣向のアーティストたちが揃った。
トップバッターはimai。フロアを煽り沸かす姿は、獣のようだった
トップを飾ったのは、現在活動休止中のgroup_inouのトラックメイカーであり、去年より本格的にソロ活動を開始したimai。
「こんばんは、imaiです」と、ステージに出てきたときの姿は普通に気のいい兄ちゃん。だが、ひとたび音を出せば、前傾姿勢でサンプラーとPCに向き合う彼の姿は、もはや「獣」だ。その獰猛な音の洪水で一気にフロアの熱量を上げていく。
序盤~中盤は強靭なダンスビートを基軸にした、ノイジーで爆発力のあるトラックで攻め立てる。そのサウンドはもちろんだが、プレイ中のimai自身の「とにかく音を出すのが楽しくて仕方がない!」といった熱狂的なパフォーマンスも、フロアを盛り上げる一因となっている。「もっと速くてもいけるよね? これBPM178だよ?」と、徐々にスピードも上げながらフロアを煽る。
後半は、彼の代名詞とも言える、エモーショナルでポップなトラックを連続して投下。その覚醒感のある旋律とビートで、初っ端からフロアを熱気の渦に巻き込んでみせた。
観客を茫然とさせた、DUB-Russellの轟音とHEXPIXELSの鮮烈な映像
続いてはエレクトロニックミュージックデュオ、DUB-Russellが登場。さらに、この日は比嘉了とKezzardrixから成るユニット、HEXPIXELSもVJとして参加し、音楽と映像によるコラボパフォーマンスが展開された。
DUB-Russellのライブは即興的な音の積み重ねによって成立しているが、重層的に迫ってくる音楽とバックスクリーンに映し出される映像の、聴覚と視覚を同時に攻め立ててくるさまは圧巻。HEXPIXELSによるVJでは、たった1人でパソコンの画面を見つめる人間の姿がグラフィックイメージとなって映し出されたかと思えば、群衆となってなにかに熱狂する人間の姿も映し出される(参考記事:HEXPIXELSの比嘉了とKezzardrixが語る、最先端のVJ表現)。そこには、「ライブ」という現場や現象に対しての批評的な視点が窺える。
そんな映像と、DUB-Russellによるフリーキーに荒れ狂った轟音ノイズとビートが重なることで、まるでフロアにいる聴き手一人ひとりを孤独にし、その場にいる自分自身の足元や心の中を見つめさせるような表現が完成されていた。約30分のパフォーマンスが終わった後、なんだかとても茫然としてしまった。
人の痛みと悲しみを知る、真摯で誠実なリリシスト・C.O.S.A.
3番手に登場したのは愛知県知立出身のラッパー / ビートメイカー、C.O.S.A.。
最近ではサニーデイ・サービス『Popcorn Ballads』(2017年)収録の“街角のファンク”に、KID FRESINOと共にフィーチャリングで参加していたことも記憶に新しい彼のラップからは、彼の誠実な人柄、表現に向き合う真摯な態度が滲み出ている。
バックDJのRyo Kobayakawaが鳴らす、重く、深く、体の芯に響いてくるようなトラック。そのトラックに乗せてラップを繰り出すC.O.S.A.。その強面の巨体とは裏腹に、彼の紡ぐ言葉からは、人の痛みも悲しみも抱きしめるような繊細なリリシズムに溢れ、観ているこちら側の心にも染み渡るように伝わっていく。
父親への想いを見事なストーリーテリングによって綴った“知立Babylon Child”や、フロアとの一体感も生まれた“1AM in Asahikawa”など、記憶に残る瞬間の連続。ラップには様々な魅力があると思うが、「人生を語る」ということ、「自分自身を語る」ということに宿る凄みと美しさを教えられるようだった。
この日唯一のバンド編成で登場。気持ちのいいグルーヴで踊らせたTENDRE
4番手は、Yogee New WavesやKANDYTOWNなどのレコーディングやライブにも参加するマルチプレイヤー、河原太朗のソロプロジェクト、TENDRE。
今年の初めには『exPoP!!!!!』本編にも出演しているが、5人編成のバンドで出演した今回は、より大きなスケール感のあるパフォーマンスを披露していた。どの曲もグルーヴとハーモニーのバランスが見事で、バンドアンサンブルも綿密に構築されており、アレンジには「2018年のポップス」としてのモダンな感性を取り入れながらも、根底にあるオーセンティックなソウルの輝きももちろん忘れていない。
演奏中でも、「あ、間違えた!」とか「なんか恥ずかしくなっちゃった」と言ってのける河原のユーモラスな人柄は、このバンドのチャームポイントにもなっている。そんな彼の柔らかくジェントルな人柄は、アンサンブルにも深く影響を与えているのだろう。凛としながらも柔和なグルーヴ感がフロアを包み込んでいく。最後に演奏された“RIDE”の高揚感溢れるグルーヴは、まさに波に乗るような気持ちよさだった。
マイク1本、体ひとつで、観客一人ひとりを全肯定した田我流
トリを飾ったのは、山梨県を中心に活動するラッパーの田我流。
これは「カリスマ性」と呼べばいいのか、「スター性」と呼べばいいのか、彼の人柄は、むしろそうした言葉を使わずに表現したほうがいいように思えるのだが、ただ、田我流というラッパーは目の前にいる人の人生に、音楽を通して光を与える力……そこにある「肯定の力」が、とにかくハンパない。
ステージに登場するやいなや、バックDJのMAHBIEが鳴らすビートに乗せて、縦横無尽にステージを駆け回り言葉を連射していく田我流。ときに攻撃的に、ときにユーモラスに、ときに辛辣な批評眼も持ちながら、最後はガハハと笑って「まぁ、大丈夫だって!」と言ってくれるような、底知れない強さと優しさが、ステージ上の彼からは溢れ出る。
“やべ~勢いですげー盛り上がる”では、ステージからフロアに突入しオーディエンスに囲まれながらラップする場面もあり、とても感動的だった。ラストには名曲“ゆれる”も披露。
揺れ動く日々、揺れ動く自分、その全てを許し抱きしめるようなメロウなビートと田我流のラップが、この日1日を生ききった自分の心に静かに着地していった。
WWWという、いつもより大きな会場で行われた『exPoP!!!!! 番外編』だが、5組全てを観終えて思ったのは、出演者の誰もが、まるでオーディエンスと1対1で向き合うような真摯さを持ったアーティストばかりであった、ということ。
それぞれのアーティストが、それぞれの音楽に対してあまりに誠実で、実直であるがゆえに、彼らのパフォーマンスを観ることは、「自分にとって、音楽とはどのような存在なのだろう?」と、その関係性の奥底に入り込んでいくことにも繋がっていた。とても深く個人的な音楽体験を堪能できた夜だったと思う。
- イベント情報
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- 『CINRA presents「exPoP!!!!! 番外編」』
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2018年7月10日(火)
会場:東京都 渋谷 WWW出演:
田我流
C.O.S.A.
DUB-Russell
imai
TENDRE
料金:無料(2ドリンク別)
- 『Eggs×CINRA presents exPoP!!!!! volume112』
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2018年8月30日(木)
会場:東京都 渋谷 TSUTAYA O-nest出演:
ayU tokiO
TAMTAM
Dos Monos
中村佳穂
and more!!!!!
料金:無料(2ドリンク別)
- プロフィール
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- imai (いまい)
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group_inouのTRACK担当。2017年より本格的にソロ活動を開始。
- DUB-Russell (だぶらせる)
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東京を拠点に活動する首藤陽太郎とNOEL-KITによるユニット。オンラインレーベル"+MUS"から、自作の音楽ソフトウェアを同梱してリリースされた"Grasp Echoes"および、"Prank Poles"の両タイトルは、各方面の反響を呼び高い評価を受けた。CHANELのOfficialPVへの楽曲提供や、Jeff Millsをはじめとするアーティストへのリミックス提供の他、各メンバーのライブシステムをそのままソフトウェア化した"2020 THE SEMI MODULAR BEAT-MACHINE"や"MONOLITH"の開発などを行っている。ライブにおいては、即興的なプロセスで多層レイヤーを織り成し、次元をねじ曲げたような強烈なビートと、その奥に見え隠れする美しいサウンドスケープを併せ持つ斬新なサウンドで圧巻のパフォーマンスを魅せる。
- C.O.S.A. (こさ)
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Rapper, MdM crew, Summit. Born & Raised in C-City Yonkers, 1987 Chiryu-Yonkers, Somewhere, Other Shits.
- TENDRE (てんだー)
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河原太朗のソロ・プロジェクト。自身のバンド、ampelでの活動を中心に、ベース、ギター、鍵盤やサックスなども演奏するマルチプレイヤーとしてYogee New WavesやKANDYTOWNを始め様々なバンドやアーティストのレコーディングやライブに参加する他、呂布の最新作『Blur』では共同プロデュースを担当。2017年12月にTENDREとしてのデビューEP『Red Focus』をリリース。2018年5月23日にシングル『SOFTLY - RIDE』をデジタルリリースした。
- 田我流 (でんがりゅう)
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山梨を中心に全国的に活躍するラッパー。2011年に公開された富田克也監督の映画「サウダーヂ」で主演を務めたことをきっかけに名前が広がり、2012年4月に発表したアルバム「B級映画のように2」でその評価を確固たるものにする。その後eastern youthの企画イベント「極東最前線」にヒップホップアーティストとして初めて出演し、さらにフラワーカンパニーズとのツーマンライブも実施。ヒップホップというジャンルを超えて、さまざまな音楽シーンで活躍している。2013年、ライブドキュメンタリーDVD「B級TOUR -日本編-」発表、2014年には地元一宮のラップグループstillichimiyaとしてアルバム「死んだらどうなる」を発表し、全国ツアーを敢行。2014年より自身のバンド・プロジェクト「田我流とカイザーソゼ」を始動し同名のアルバムを発表。これまでにeastern youth、THA BLUE HERB、七尾旅人、cero、OGRE YOU ASSHOLE、フラワーカンパニーズ、在日ファンク、ZAZEN BOYSなどと対バンしている。
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