なぜビルを建てず公園に? 「建てないこと」がソニーらしいという逆転の発想
2018年8月9日、東京・銀座に「Ginza Sony Park」が開園した。「Ginza Sony Park」は昨年3月で営業終了したソニービルを「公園」としてリニューアルし、朝5時から24時半まで開放。2020年秋までの期間限定で、その後はコンセプトを継承する形で新ソニービルの建設が進められ、2022年に完成予定となっている。
最大の特徴は、地上1階から地下4階までで構成される垂直立体型の公園となっていること。地下1階から地下3階までは吹き抜け構造となっており、地上は数寄屋橋交差点、地下は銀座駅コンコースや西銀座駐車場と隣接。パーク内の大部分は来園者が自由に過ごせる「余白」となっており、壁や扉も極力排除された公共的な空間となっている。
開園前日に行なわれた内覧会では、ソニー企業株式会社代表取締役・チーフブランディングオフィサーの永野大輔が、2013年からスタートしたという今回のプロジェクトについて説明。
ソニービルを建て替えるにあたって検討を進めるなか、2020年に向けて都内各所で様々なビルが建て替えられている今、むしろ「建てないこと」がソニーらしいのではないかという考えに至ったそうだ。もともと敷地内には10坪ほどの公共スペースがあり、これを創業者の一人である盛田昭夫が「銀座の庭」と呼んでいたこと、そして1966年のソニービル設立時のコンセプト「街に開かれた施設」を再解釈した結果、公園としてのリニューアルが行なわれた。
ただの公園ではない。地下4階から地上1階まで、垂直立体型な公園の全容
しかし、ただビルを取り壊して公園にしただけではない。地下部分は「リスペクトや感謝の意味を込めて」ソニービルの躯体をそのままにしており、テナントの入れ替わりで隠れていた50年前のタイルをあえて残したり、ボロボロになっている床があったり、「解体をデザインする」という考えのもと、解体中に発掘されたものを都度検証して工事を進めていったとのこと。
このほかにも、屋上にあったネオンをエレベーターがあった場所に組み込んだり、鉄筋や配管の穴がむき出しになっていたり、随所に歴史を感じさせる部分があるので、訪れた際には四方八方を見回すと思わぬ発見があるだろう。
パーク内ではフロアごとに個性的な取り組みも行なわれる。地上フロアに植えられた植物は、プラントハンターの西畠清順をプロデューサーに迎えて世界各地から集められているが、「買える公園」がコンセプトとなっており、購入やレンタルが可能。購入されるたびにパークの表情が変わることになる。
地上フロアにはTOKYO FMのサテライトスタジオ「TOKYO FM | Ginza Sony Park Studio」もオープン
季節限定でポップアップストア「トラヤカフェ・あんスタンド」も登場。地下3階にある店内で作られた「あんペースト」を使った銀座ならではのメニューが楽しめる
地下1階には藤原ヒロシをディレクターに迎えたショップ「THE CONVENI」があり、コンビニエンスストアをコンセプトにユニークなアイテムを販売。
そのほか、地下1階にはミシュラン星獲得店による飲茶スタンド「MIMOSA GINZA」がオープン
地下2階はイベントスペースで、9月24日までは「公園×音楽」をテーマにしたローラースケート場が出現。
地下4階は毎週金曜にライブが行なわれる(出演者は原則として当日午前に発表)。写真左に見えるのはSPRING VALLEY BREWERYのクラフトビール&デリスタンド「"BEER TO GO" by SPRING VALLEY BREWERY」
このほかにも8月17日から9月9日までは、約1000匹の魚で沖縄「美ら海」の生態系を再現した大水槽が地上フロアに展示される『Sony Aquarium 2018』を開催予定。その後も様々なイベントが予定されているが、常に旬なものを提供するために、半年以上先の予定は決めないことがルールとなっているそうだ。
また、パーク内は基本的に飲食可能となっており、ベンチやテーブルも数多く設置されている。ミシュラン星獲得店「MIMOSA」による飲茶スタンド、老舗和菓子屋「とらや」による店内製造「あんペースト」の直売所、クラフトビールとデリを販売する「BEER TO GO」といった飲食店があり、いずれもテイクアウトの店となる。
コンセプトは「ドレスダウン」――「本格」を知っている人たちが「着崩す」のが粋
そして園内放送の役割を担うのが、アメリカ生まれの可動式トレーラーハウス「エアストリーム」を改造したTOKYO FMのサテライトスタジオ「TOKYO FM|Ginza Sony Park Studio」。TOKYO FMがサテライトスタジオをオープンするのは、2017年1月に六本木のTOKYO FM Midtown Studioがクローズして以来、約1年半ぶりとなる。人気番組『SCHOOL OF LOCK!』など、数々の番組を作り上げてきたTOKYO FMの森田太は、その意義をこう話す。
森田:もともとラジオは想像力のメディアなので、話し手の見えるサテライトスタジオが、絶対に有益なものかというと、そうも言い切れないんです。でも一方で、ネットがデジタル上でどんどん人をつないでいったことで、逆にフィジカルな場所に価値が出てきている。ラジオ局とリスナーという顔の見えない関係だった者たちが、直接会う場所の必要性を再び感じていたところだったんです。
TOKYO FM|Ginza Sony Park Studioと森田太
森田:実はサテライトスタジオを新しく作る話は、ちょこちょこ出ていました。でも、ただどこぞのビルの一角にスタジオ作っても、それが面白いかどうか、と考えたときに、なんかモヤモヤしていました。そんなときにこの話が舞い込んだんですけど、この公園から園内放送担当として僕らがいて、この公園から巻き起こることを東京や世界に届けていく役目になるなら、意味あるものになるんじゃないかなって。
もうひとつ森田の心を動かしたのは、「Ginza Sony Park」の首謀者たちから言われた「ドレスダウン」というキーワードだ。
森田:ドレスアップは「着飾る」ですけど、ドレスダウンは「着崩す」。ただ崩れているだけではいまいちですけど、「本格」を知っている人が着崩すのは粋じゃないですか。この銀座という、本格を知る街の真ん中を公園にするというドレスダウン。それを聞いたときに、僕らは普段、局の大きなスタジオから放送していますけど、それを公園のトレーラーハウスから放送するというのは、彼らの目指している粋なドレスダウンとシンクロすると確信しました。同時に、僕らが電波の中から出かけて行って、公園までリスナーに会いに行く、ということもドレスダウン。まさに僕らがやりたいことと彼らのコンセプトに非常に近いものを感じて、これは絶対にやるべきだと思いました。
「僕らは音楽に根ざしたFM局なので、まずは世界に誇れる東京の音楽をこの場所から届けたい」(森田)
このサテライトスタジオからは、KEN THE 390がメインパーソナリティー、砂糖シヲリがアシスタントを務め、8月10日にスタートした新番組『TOKYO SOUNDS GOOD supported by Ginza Sony Park』が毎週金曜14時から生放送となる。さらに8月13日からは、毎週月~木曜の15時から放送されている人気番組『シンクロのシティ』もサテライトスタジオに引っ越しをする。
森田:『シンクロのシティ』のコンセプトは「VOICE of TOKYO」。東京の「声」を集めて、自分と重ね合わせて、東京という街とシンクロしていこうという番組が、週間100万人も行き交う銀座の数寄屋橋から放送される。まさに東京の中心とシンクロしていくようで、この場所に最もふさわしい番組だなと思って、真っ先にこの場所から放送することを決めました。
一方で銀座にはインバウンドの方たちがたくさん訪れていて、アジア圏だけじゃなく欧米の方も多い。そういう方々に、「いい感じ=サウンズグッド」な東京カルチャーを届けたいなという想いは前からあったのですが、ここはそれをやるのにピッタリな場所だなと。
『TOKYO SOUNDS GOOD』オフィシャルサイト(サイトを見る)
森田:僕らは音楽に根ざしたFM局なので、まずは世界に誇れる「東京の音楽」=幅としては『東京オリンピック』タームで1964年から2020年の間で生まれたグッドな東京サウンドたちをセレクトしてこの場所から届けたい。そして東京には面白いアートを生み出している人たちがいっぱいいるので、そういう方々が作り出す「東京のいい感じ」も、もっと伝えたい。という想いから『TOKYO SOUNDS GOOD』という新番組を作ることにしました。
「ラジオとかネットなんていう垣根が溶けてバターみたいになったらいいなと思います」(森田)
この『TOKYO SOUNDS GOOD』は、音楽ストリーミングの「Spotify」、アート情報のWEBマガジン「artscape」、そして「CINRA」とコラボレーションしたコーナーが設けられる。サテライトスタジオから放送する番組で、なぜこの3社をパートナーに選んだのだろうか。
森田:Spotifyとは一緒に「音楽のテイクアウト」をやってます。スタジオ前にQRコードを貼った黒板を置いて、それをスマホで読み込むと、当日オンエアした楽曲含め、東京のグッドミュージック満載のプレイリストが持ち帰れる。Spotifyのようなデジタルストリーミングのサービスと、公園で音楽の手渡し、みたいな事をやる。これもドレスダウンだと思うんですよね。それに、ああいうトレーラーハウスって、コーヒースタンドみたいじゃないですか。コーヒーを持って帰る感覚で音楽をテイクアウトできたら、それこそ「いい感じ」だなぁと(笑)。
Spotifyのプレイリスト
森田:artscapeはDNPのアート事業なのですが、アートも敷居が高いと思われがちなので、そこをドレスダウンして、公園で青空展覧会みたいなことをしたら面白いと盛り上がりました。でも、さすがに地面の上に本物の作品を置くのは難しいので、ARギャラリーにして、スマホをかざすと公園の中に『ミロのヴィーナス』が出てくるようにしたら楽しいよねって。それで第一弾は、『ルーヴル展』とコラボして、レプリカの絵にスマホをかざすとしゃべりだすARを作ってもらったんです。もはやラジオ関係ないんですけどね(笑)。
『TOKYO SOUNDS GOOD』のパーソナリティーを務めている砂糖シヲリ(チーム未完成)がARギャラリーを体験artscapeGINZA第1回展「It's 肖像画 Time!」では各階に1点ずつ展示しています!
— artscapeJP (@artscapeJP) 2018年8月10日
B1☞女性の肖像 通称〈美しきナーニ〉
B2☞マラーの死
B3☞アルコレ橋のボナパルト(1796年11月17日)
それぞれの絵画のトークをお楽しみください!(編)#artscapeGINZA #GinzaSonyPark pic.twitter.com/rfjiGBFekm
森田:そしてCINRAなんですけど、ネットとラジオは非常に相性がよくて、今はradikoもあるように、2つの世界の距離がどんどん近づいている。これをさらに強めて、ネットメディアと呼ばれるものと、僕らのような放送メディアをもっと同化させたいと常々思ってます。
森田:その想いがあるなかで、番組のコンセプトであるいい感じな音楽、アートを届けるっていう視座に立ってみたら、ネットではすでにCINRA.NETが老舗としてやられていたんですよね。それでソニーパークの空気感とめちゃくちゃハモるんじゃないかと思って、お声がけさせていただきました。
僕らが放送したものが、CINRA.NETを通じてネットワールドに広がって、ネットワールドで知った人たちがラジオ放送を聴いてくれて、それがぐるぐるまわっているうちに、ラジオとかネットなんていう垣根が溶けてバターみたいになったらいいなと思います。
最後に森田は、サテライトスタジオならでは役割について、絶妙なたとえを用いて話してくれた。
森田:さっき言ったARギャラリーって、実際には見えないけど、ここに来たら見える。それはサテライトスタジオも同じで、放送を聴いてるだけでは見えないけど、ここに来たら会える。もはやラジオと関係ないと言いましたけど、そういう意味では同じ概念だと思うんです。
ラジオが得意とするのは、想像して行動させること。たとえば、「世界で一番の美女がいるよ」ってラジオで言ってたら、ちょっと見に行きたくなりますよね? でも、テレビで映ってたら「そうでもないや」で終わっちゃうじゃないですか(笑)。だから、このソニーパークで行なわれる面白いことをラジオで発信して、それを聴いた人が想像して、そわそわして、この場に来てくれたらいいなと思いますね。
窓を開けてはじめました!!!
— TOKYO SOUNDS GOOD @ Ginza Sony Park Studio (@TokyoSoundsGood) 2018年8月10日
TOKYO FM | Ginza Sony Park Studio
からお送りする今日から始まった新番組
「TOKYO SOUNDS GOOD」
ラッパー・KEN THE 390 & チーム未完成・砂糖シヲリが
「#いい感じ」にお届けします♫#TSG80 #tokyofm #radiko #GinzaSonyPark pic.twitter.com/RiH24GUYwG
「Ginza Sony Park」のプレスリリースには、「『この場にしかない』『この場でしかできない体験』を、遊び心をもって創っていきます」と書かれている。ぜひ現地に足を運んで、その目で確かめてほしい。
- スポット情報
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- Ginza Sony Park (銀座ソニーパーク)
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開園期間 :2018年8月9日(木)~2020年秋
開園時間 :5:00~24:30(予定)
住所 :東京都中央区銀座五丁目3番1号
フロア構成:地上1階、 地下5階
※地下3階~地下1階は吹き抜け構造になっています。
※地下5階は機械室・管理室です。
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- TOKYO FM | Ginza Sony Park Studio
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場所:Ginza Sony Park地上1階(住所:東京都中央区銀座五丁目3番地1号
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