まさに「表現のるつぼ」。いまVRという新たな領域にクリエイターが集っている
『NEWVIEW AWARDS 2018』は、ファッション / カルチャー / アート分野のVRコンテンツを世界中から募る新しいアワード。「超体験をデザインせよ」をテーマに、世界7か国、総計219点の応募作が集結した。先日、そのファイナリスト作品群を実体験できる『NEWVIEW EXHIBITION 2018』が開催された(渋谷GALLERY X BY PARCO、2018年8月30日~9月2日)。新たな領域にクリエイターが集う「表現のるつぼ」となった、その現場をレポートする。


NEWVIEWは、3次元空間の新たな表現と体験を開拓するプロジェクト / コミュニティ。Psychic VR Lab、パルコ、ロフトワークによる共同プロジェクトだ。『NEWVIEW AWARDS』では、アーティストに空間表現の場を提供するVRプラットフォーム「STYLY」を使った作品が対象となる。それ以外の参加条件はほぼ自由で、テーマの「超体験をデザインせよ」を自分流に解釈してエントリーする。結果、VRの手練れからVR初挑戦のミュージシャンや写真家までが集う「表現のるつぼ」的状況が生まれた。
3次元空間を活かし、様々な趣向を凝らした応募作
『NEWVIEW EXHIBITION 2018』では、そうして集まった世界7か国の219作品から、ファイナリストに選ばれた19作品を実際にVR機器で体験できた。そこでこの記事では、10月の最終審査結果を前にその様子を紹介したい。
VR表現の醍醐味のひとつは、仮想の3次元空間を自由に回遊できることだろう。ヘッドマウントディスプレイを装着して全方位に視線をめぐらせ、実際に歩き回るかコントローラーを使って、空間上の好きな場所に移動できる。

『FAMILIAR』(作者:FUKUPOLY、日本)はこの魅力をわかりやすく活かした作品。南国風の仮想の小島に奇妙な「重機」たちが群がり、思い思いのダンスを踊る。だが、カーニバルの狂騒に誘われるままグルリと島を回っていくと、その裏には創造と破壊の両面性を考えさせる意外な光景が……。実空間でのインスタレーションとは異なる没入感も、ここではその「オチ」を効果的に見せるのに一役買っている。

また、音楽の持つ空間性を幾何学的モチーフで表現した『ENCLOSURE』(作者:TeamMIKAMI、日本)は、視覚と聴覚の共感覚的な世界が心地よい。一方、時が止まった未来遺跡のような、ダークファンタジー的世界を彷徨う作品が『Myth Building』(作者:Trudy Erin Elmore、カナダ)。そこで何が起きるわけでもないが「全てが起きてしまった」後の世界のような、ある種の宗教空間に通じる奇妙な安らぎも感じさせる。


『DAYDREAM』(作者:Lagthorin、日本)では、体験者の視線を受けたクリーチャーやモノが小さな反応を示す仕組みがあり、VR空間での「見る」と同時に、「見られる」ことも想起させる。これは作者がシンガーソングライターでもあることを考え合わせると興味深く、ミュージックビデオにおけるVRがより自然な選択肢となる将来も想像させた。


ユニークな発想でVR空間を「展覧会」に見立てた作品たち
一方で、同じ回遊型でもVR空間を「展覧会」に見立てるタイプの作品群がある。『EMMA VR: PAINTING LIFE』(作者:Wyatt Roy、アメリカ)は、友人のアーティストの展覧会を訪れるという設定。「絵画の中に入る」などVRならではの仕掛けを通じ、美術作品の背後にあるものについて考えさせる。なお作者は別の作品『WHISPER NATIONAL PARK: GLOWWORM』でもファイナリスト入りしていて、どちらも現実の営みとVRを接続する手つきがユニークだった。

『IMMERSIVE PHOTO EXHIBITION "美少女は目で殺す"』(作者:chiepomme & Albina Albina & APOLIA、日本)は、こちらを見つめ返す謎めいた少女たちの写真や、オリジナルの衣装を展示する。一見すると実空間でも可能そうな構成だが、フォトグラメトリー(複数の写真群から対象の形やサイズを求める測量法)や、立体視写真を撮影できるMirage Cameraを取り入れ、写真と3次元表現が奇妙に交錯した世界となった。

同じ写真展でも『prints』(作者:Yuki Matsuoka、日本)はまた異なるアプローチで、被写体との距離情報を取得できる「深度カメラ」による写真群を使い、その画素を奥行き付きで3次元にマッピングしていくというもの。結果、鑑賞者はある地点に立ったときだけ、そこに何が写っているのかを知ることになる。これにゲーム性を感じて楽しむこともできるし、作者が目指したであろう「この世界のもうひとつのとらえ方」として体験することもできる。

他にも、バーチャルYoutuberのえもこ(日本)が彼女のVRアート作品と、その制作過程を同時に見せる『EMOCO'S FIRST PRIVATE EXHIBITION』などがファイナリストに選出されている。
えもこ『EMOCO'S FIRST PRIVATE EXHIBITION』(作品の詳細を見る)(STYLYで作品を見る)
自由回遊型と展覧会型のハイブリッド的な作品が、『身体の形状記憶装置 -SHAPE MEMORY OF YOU-』(作者:Discont、日本)。都市や水辺、庭園など現実世界の断片とCG表現が絡み合う空間で、現実にはあり得ない視覚効果を活かしたインスタレーションを巡っていく構成だ。建築学のバックグラウンドを持つ作者は、「VRの中で喪失してしまった身体と身体感覚を取り戻す」ことを目指したという。


暴力的ともいえる知覚体験も、VRのひとつの可能性
こうしたとりあえずの類型には当てはまらない作品もある。『MAILLOTS DE BAIN』(作者:Mask du Video、日本)は、19世紀に発明された古典的な映像装置「ゾートロープ」(回転のぞき絵。連続する静止画を並べた円筒を回すと、絵が動いているように見える)を、現代都市を疾駆する巨大美少女という形で再現した。なぜこれをVRで? という動機をふくめ、異色感は随一だった。

同作は、巨大ゾートロープが駆動する一連の流れをシナリオに沿って体験するもので、後半はその機構の裏側に鑑賞者を誘う。これは絶叫系アトラクションで逆さ吊りになるような感覚。いわゆる「VR酔い」しやすい人には要注意だが、この半ば暴力的ともいえる知覚体験も、VRのひとつの可能性であることは確かだ。
他に、VR空間の表現をドラッグ&ドロップなどで直感的に行えるSTYLYの特性を活かして「VRゲームをコーディングなしで作れるか?」に挑んだ『SOLVITUR AMBULANDO』(作者:Alejandro Zamudio S.、台湾)のような作品も。同アワードの背景を制作アイデアに結び付ける視点がユニークだった。

日々、よりポピュラーになりつつあるVR表現の制作環境と体験環境
ファイナリスト19作品は最終審査が行われ、10月上旬に受賞作品が発表される。3つの審査基準「新しさ / 独創性」「体験」「インパクト」をもとにグランプリに選ばれた作品には、2万ドル(約220万円)の賞金も用意された。
審査陣にはアーティストのデビッド・オライリーや、ミュージシャンのm-flo、編集者の伊藤ガビンなど多彩な面々の名が並ぶ。なお、CINRA.NETでは審査員のひとり、「寿司くん」ことこやまたくやのVR体験レポート(ヤバTこやまたくやがSTYLYでVR作り「これ絶対流行るでしょう」)も公開中だ。

VR表現の制作と体験する環境は日々、よりポピュラーになりつつある。将来的には、スマホで映像を楽しみ、買い物をするのに近い感覚で、日常に取り入れられることも夢物語ではないだろう。
来年以降も続く予定だという『NEWVIEW AWARDS』には、これからのVRコンテンツの質と多様さを豊かにする牽引役が期待される。その意味でも、初回となる今回の審査結果に注目したい。
- アワード情報
-
- 『NEWVIEW AWARDS』
-
新たな表現やカルチャー、ライフスタイルを追求し、「超体験のデザイン」を牽引する次世代クリエイターを発掘することを目的として立ち上げられたアワード。世界7か国、応募総数219作品のなかから一次審査を通過したファイナリスト約20作品が決定。10月15日(月)には、公式サイトにてグランプリ以下各賞の受賞作品が発表される。
- イベント情報
-
- 『NEWVIEW EXHIBITION 2018』
-
2018年8月30日(木)~9月2日(日)
会場:東京都 渋谷 GALLERY X BY PARCO
時間:11:00~20:00(8月30日は13:00~、8月31日は17:00まで)
- サイト情報
-
- NEWVIEW
-
Psychic VR Lab、パルコ、ロフトワークによる新たな表現の追求と、次世代クリエイターの発掘・育成を目的とするプロジェクト。ファッション、音楽、映像、グラフィック、イラストレーションなど、各分野で活動するクリエイターが参加し、3次元空間での新たな表現と体験のデザインを開拓していきます。
- サービス情報
-
- STYLY
-
アーティストに空間表現の場を提供するPsychic VR LabによるVRプラットフォーム
- フィードバック 1
-
新たな発見や感動を得ることはできましたか?
-