すべてを明かしたドキュメンタリー映画公開後の初ツアー
昨年行われた『THE GIFT TOUR 2017』で訪れることのできなかった土地を回るという趣旨で、Hi-STANDARD(以下、ハイスタ)が12月に全国6か所にて開催したのが『THE GIFT EXTRA TOUR 2018』だ。ただ、ハイスタのバイオグラフィ全体で見れば、11月から公開されているドキュメンタリームービー『SOUNDS LIKE SHIT』で3人自身がハイスタの全史と栄光と崩壊を語り尽くして以降のライブだと見ることもできる(参照記事:Hi-STANDARD元スタッフによる『SOUNDS LIKE SHIT』レビュー)。観客にしてみても、ハイスタが自分たちの手だけで夢を叶え続けた側面だけでなく、大きな歪みを抱えて分裂した時期のことも生々しく吐露された映画の後には思い入れが改めて増したはずだ。「今こうしてハイスタを観られているのは奇跡のようなことだ」と。
たとえば12月22日の横浜アリーナ公演で“Stay Gold”を演奏する際に、難波が「俺はHi-STANDARDに救われてきた。俺を輝かせてくれてありがとう、ツネちゃん、健くん」と語ると、すぐさま恒岡が「何を言ってるんだよ、3人でHi-STANDARDですから。2人のことも愛してるし、みなさん(観客)のことも愛してます!」と返した場面。これが、横山と難波のコミュニケーションが多く交わされていた、あるいは横山や難波が恒岡に話を振ってきたこれまでとは異なる3人の関係性を象徴している一幕だったと思う。
自分たちの意志で自由を貫いてきた、Hi-STANDARDの美学が更新
横山が「あの映画はバンドにとってのデトックスになったよね」と話す場面もあったが、前述したドキュメンタリー映画では、これまであまり多く触れられてこなかった恒岡の病気のことも告白されていた。3人でひとつのバンドなのだという実感を改めて掴んだ前ツアーからここに至るまで、より一層それぞれが自分を解き放ち爆発させられるようになっていることが、音、会話、そして一切お互いに遠慮をしない音のぶつかり合いからビシビシと伝わってくる。新曲を手にして現在進行形のバンドとなった前ツアー以上に、3人それぞれが「Hi-STANDARD」という生命体を自由かつ豪胆に振り回しているような。3人それぞれがハイスタでありながら、それぞれがハイスタという枠にまったく収まっていないとでも言えばいいのか、個々が初っ端からトップギアで自身を解放し、その3つの爆走が曲の中でビシッと交わる瞬間が目に見えるのである。
たとえば1曲目に披露された“My Heart Feels So Free”を鳴らし終えた瞬間に恒岡がドラムスティックを天高く放り投げた場面。これまでも、恒岡がエモーショナルになる場面で何度も目にしてきたスティックの放物線だが、冒頭から体も心も強烈に前のめりになっていることが伝わってきた。『THE GIFT』の楽曲が主軸ではありながら、2011年以降一度も演奏されてこなかった“Spread Your Sail”を筆頭に、“This Is Love”、さらには“Kids Are Alright”まで、いわゆる「レア曲」もズラリと並んだセットリストの自由さも、3人自身がハイスタをさらに伸び伸びと楽しめるようになったことの表れだったのではないかと思う。
終始マイクに食らいつくようにして歌に没頭し続ける難波の集中力も、何度もスティックを放り投げたりドラム台の上で観客に手を振ったりする恒岡の明るい表情も、一切の遠慮なく爆音で前に前に突き進む横山も、Hi-STANDARDを「自分自身が自由になれる場所」として捉えているような、DIYで自由を追い求め続けたハイスタの本質がそのまま3人自身にも跳ね返ってきているような、そういうパフォーマンスだった。
Hi-STANDARDとオーディエンスの関係性にも変化が見えた
そして、その姿に突き動かされるようにして会場全体がとにかく歌う、歌う。この歌の大きさと、歌でバンドと観客が繋がる瞬間の興奮が突き抜けていたのがこのライブの最も素晴らしい部分だった。
『AIR JAM』を除けば、スタンド席もあるアリーナでハイスタがライブを行うのは前ツアーが初めてのことだった。多くのオーディエンスがライブへ行けるようにという意図も関係しているだろうが、それ以上に、かつては一切の制限を排さないと気が済まない、自由に自分を解き放てる場所を作りたい、という精神性であったことも大きいだろう。
そもそも1990年代はアリーナでのスタンディングライブが不可能だったこともあるが、どちらにせよハイスタは、1990年代から「自由」を求めて闘い続けてきたバンドである。DIYを徹底し続けたこともその美学を最も象徴しているし、日本にフェスという言葉がなかった頃から開催してきたフェス『AIR JAM』も、ブロック制限のないライブを実現するためにはどうしたらいいのかと葛藤した結果として興された遊び場だった。
だが今は、スタンドであれスタンディングであれ、「世代を超えたみんなの歌」という一点に向かって、バンドも観客も己を自由に解放している。モッシュやクラウドサーフの隆起も変わらず凄まじいが、自分の歌として歌う人々の姿は自由そのものである。これは、速さや衝動性以上に歌心に向き合った楽曲の多い『THE GIFT』がもたらしたライブの進化でもあるだろうし、2011年以降の活動の中で嘘のないスピードでバンドを修復し、そのドキュメントを自分たち自身で発信してきた跡の結晶でもあるだろう。難波が「願い続ければ叶うって、俺たち自身が体現してるよね」と語っていた通り、ゆっくりとでも進み続ければ「いつか」がやってくるのだと。そう感じさせるバンドだからこそ、人々は自分の人生をそのまま乗せて歌うのだ。
アリーナにはブロック分けの柵がある。広い分ステージは遠い。それでも、今のハイスタと人々にはもう心の距離はない。左右が翼のように大きく開かれ、観客のすぐ近くまで動けるように設計されたステージも、ハイスタ自身も己のすべてを曝け出せたことで、観客との、何よりも3人それぞれにとっての「Hi-STANDARD」との距離をさらに縮めることができたことの表れだったのだろう。そこに垣根はもうないのだ。
3人自身にとっても、観客にとっても、何の抑制もなく本当の自分を晒して自由になれる場所。ハイスタはそんな存在になって、今もなお大きく、そして寛容になり続けている。
- イベント情報
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- 『THE GIFT EXTRA TOUR 2018』
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2018年12月22日(土)
会場:神奈川県 横浜アリーナ
出演:
Hi-STANDARD
Crystal Lake
COKEHEAD HIPSTERS
- 作品情報
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- リリース情報
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- プロフィール
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- Hi-STANDARD (はいすたんだーど)
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横山健(Gt,Vo)、恒岡章(Dr)、難波章浩(Vo,Ba)によるパンクロックバンド。通称「ハイスタ」。1991年8月、4人で結成。1992年9月より、現在の3人体制となる。1994年にミニアルバム『LAST OF SUNNY DAY』をリリース。『GROWING UP』(1995年)、『ANGRY FIST』(1997年)と、2枚のフルアルバムをメジャーレーベルから発表。1997年には、主催フェス『AIR JAM』をスタートさせる。1999年に、自主レーベル「PIZZA OF DEATH RECORDS」を立ち上げ、アルバム『MAKING THE ROAD』をリリース。インディーズとしては異例の国内外で100万枚以上のセールスを記録する。2000年に活動休止。2011年、『AIR JAM 2011』の開催と再始動を発表。2016年10月5日には、シングル『ANOTHER STARTING LINE』を突如リリースした。2017年10月4日、18年ぶりのアルバム『THE GIFT』をリリース。2018年11月10日より、ドキュメンタリー映画『SOUNDS LIKE SHIT: the story of Hi-STANDARD』が全国約80館で上映。
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