これはジャンルレスな時代の必然。Quentinの「タランティーノ的」なサウンド
2018年11月29日、CINRAと音楽アプリ「Eggs」の共同主催による無料音楽イベント『exPoP!!!!!』が、渋谷のライブハウスTSUTAYA-O-nestにて開催された。
この日のトップバッターを飾ったのは、2ピースエレクトロバンド、Quentin。
様々なジャンルが昇華された楽曲がポップに、ジャンクに、快楽的に展開していくステージングは、バンド名の由来であるクエンティン・タランティーノを彷彿させる。登場SEではFrancis and the Lightsが流れていたが、そうした現行のポップスやモダンなダンスミュージック、またヒップホップなども昇華したサウンドは、この「ジャンルレス時代」の必然性を感じさせるものだった。
ただ斬新なスタイルだけに回収されず、「いま歌うべき言葉」を真摯に紡ぐ歌心を感じさせる点も素晴らしかった。初っ端からかなり刺激的なステージングとなった。
「俺には暗い曲しかねぇ。何故なら、人生は暗いから」。youheyheyの生々しく切実なラップ
続いて登場したのは、東京・瑞穂町出身のラッパー、youheyhey。
ステージにひとり立ち、オートチューンがかかったボーカルでまくし立てていく言葉と、太く重く響くトラック。そこからは、ヒップホップがどれほど濃密に、切実に、彼の人生に関わってきたのかが、ひしひしと伝わってくる。
「俺には暗い曲しかねぇ。何故なら、人生は暗いから」――そんな言葉を曲間に突き刺すyouheyhey。個人と世界の間に生まれる摩擦熱がそのままフロア全体に伝播していくようなステージングを繰り広げていく。この日新曲として披露された“Crying Over You”もそうだが、youheyheyの音楽は、リリックでは人生や東京に感じる閉塞感を生々しく吐露する一方で、トラックはそんな閉塞感を打破しようとするかの如き覚醒感に包まれている。
ハープを含む5人組、んoonの不思議で魅惑的なサウンド
3番手に登場したのは、ボーカル、パーカッション、キーボード、ベース、それにハープという5人編成バンド、んoon(読み方は「ふーん」)。
彼らが奏でるのは、ジャズ、ソウル、ラテン、さらにオルタナティブロックまで昇華したエクレクティックなポップサウンド。1曲目の“Amber”から、躍動感溢れるファンキーなリズムと、ハープの繊細でリリカルな音色が絶妙に絡み合い、いままで聴いたことのないような、しかしながら世界中の音楽と血がつながっているような、そんな不思議で魅惑的なバンドアンサンブルを展開していく。
太く饒舌なリズム、軽やかにたゆたうハープとキーボード、そしてJC(Vo)の柔らかくささやくような歌声が絡み合い、聴き手の心の置き場所となるような「隙間」が絶妙に生まれていて、それがとても心地よかった。
歌とラップを行き来するRude-αの自由かつ柔軟なステージ
4番手は、沖縄出身のラッパー、Rude-α。バックバンドが先陣を切って登場し、メンバーのISSEIがビートボックスでフロアを沸かせたところで、Rude-αがステージに現れた。
序盤はバンドのエネルギッシュな生演奏で熱く激しくフロアを揺らし、中盤は打ち込みのトラックに乗せて、メロウでエモーショナルな世界観を披露。そして終盤は、再びファンキーなバンドサウンドでぶち上げる。
1回のステージで様々な表現形態を駆使しながら「自分」を表現する自由かつ柔軟な様は、まさに現代のポップシンガー。そして、そんな多様な表現方法をもって、徹底して自らの世界にオーディエンスを巻き込もうとする姿からは、華やかさの奥にある、表現者としての芯の強さも感じさせる。
「人前で音楽を演奏するとはどういうことなのか? 人前で自らを語るとはどういうことなのか?」――そんな問いに対して、Rude-αは独自の哲学を持っている。そう考えさせるようなとても屈強なパフォーマンスだった。
シンプルなバンドサウンドのなかで光った、eillのシンガーとしての魅力
この日のトリを飾ったのは、eill(エイル)。
既にSKY-HIやPAELLASといったアーティストの作品に参加している実績があるが、そうしたキャリアだけでこのシンガーを語るのはフェアじゃないと思わせるような、堂々としたパフォーマンスを見せる。
eillの音楽については、日本語に留まらず韓国語や中国語までも曲のなかに盛り込むボーダレスな発想力や、R&Bやトラップの影響も感じさせる独特なビート感のトラックを自在に歌いこなす柔軟性といった「新しさ」が注目されがちだった。しかしバンド編成で登場したこの日は、シンプルでダイレクトなバンドサウンドのなかだからこそ、シンガーとしてのオーセンティックな魅力に気づかされた。
しなやかなバンドサウンドの真ん中で歌う彼女は、力強さと繊細さの狭間、大人びた色気と若者らしい初々しさの狭間……そうした、様々な「狭間」にある絶妙なニュアンスを、歌、動き、存在そのもので表現していて、「その時代に、言葉で定義づけしきれないものを表現しうる」という優れたアーティストが持つ力を、彼女もまた持っているのだと強く感じさせられた。
この日の『exPoP!!!!!』には、ポップミュージックが前進している、「いま、この瞬間」を見事に捉えた5組が集っていた。また5組それぞれが、本当に自由に音楽を奏でていつつも、自らの人生や感情を音楽のなかに刻もうともがいている姿も、生々しく感じることができた。いまを生きる表現者たちは、まだ表現されていない感情や人生を表現するために、音を鳴らし続ける。そんなことを考えさせられる夜だった。
- イベント情報
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- 『Eggs×CINRA presents exPoP!!!!! volume117』
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2019年1月31日(木)
会場:東京都 渋谷 TSUTAYA O-nest出演:
Kaco
さなり
絶対忘れるな
Frasco
ロイ-RöE
料金:無料(2ドリンク別)
- プロフィール
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- Quentin (くえんてぃん)
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木村勇輝、青山力也の2人で構成されたエレクトロバンド。2016年ごろから曲やMVを作り始め、YouTubeなどにアップロードを始める。2017年6月からライブ活動を開始。2018年1月にAno(t)raksから初EP『Feel Better EP』をリリース。今鳴らすべき事をテーマにHONNE、Toro Y Moi、The xx、Mura Masa、The Smithsなど全てのクールだと思うものをタランティーノ的に再構築
- youheyhey (ようへいへい)
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1993年。誰も知らない町、東京は瑞穂町出身。ラッパー、ビートメイカー、DJと三つの顔を併せ持つ。悪く言えば器用貧乏。2018年7月に自身初となるオフィシャルEP「moonlight」を各種配信サイトにてリリース。また中野Heavysick ZEROにて、隔月でヒップホップイベント「Oll Korrect」を共催。毎回名だたるアーティストをゲストに呼び、自身もスキルと経験を詰む。「26歳までに売れなかったら定職に就く」という母との約束に怯えながら、インターネットを主戦場として今日も元気に活動中。
- んoon (ふーん)
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2014年結成、ハープ、ベース、キーボードのインスト編成でスタート。2016年よりボーカル、パーカッションが加入して現体制になる。サウンドやワーディングはそれぞれメンバーが思いつくままに持ち寄りセッションによりつくりあげる。ジャンルに対して特定の文脈を特に意識はしていないが、それぞれの楽器の持つ音色の文化的な土着性はなるべく迂回するようにはしている。JC(Vo)のハイパーメロウなささやきが、シリアスな楽器隊の変拍子も転調も優しく結わえる。ジャンルを無駄にクロスオーバーさせるより、その境界面に揺蕩うことを重視する。
- Rude-α (るーどあるふぁ)
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1997年2月8日生まれ。21歳。沖縄県沖縄市出身。沖縄市の多様な人種、多様な音楽の中で育つ。高校2年生の時にはじめたラップをきっかけに音楽活動をスタート。翌年、第6回全国高校生ラップ選手権に出場し準優勝。2015年6月、1st EP「098 ORCHESTRA」リリース。沖縄限定発売ながら2000枚完売。2016年4月から東京に拠点を移動。2018年2月、東京上京後初の新作EP"20"をリリースし、iTunesヒップホップアルバムチャートで初登場1位を獲得。3月にはアメリカ・オースティンで行われている音楽フェスSXSW(サウス・バイ・サウス・ウエスト)、そして全米7都市を廻るSXSWジャパンツアーに参加し、初の海外ライブを敢行した。
- eill (えいる)
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東京出身のシンガーソングライター。15歳からJazz Barで歌い始め、その頃から作曲も始めるようになる。透き通る歌声、スキルフルなボーカルワークは聴く人の脳裏に惹き込み魅了する。高校生の頃には、PAELLASのアルバム「Pressure」の収録曲”P house””にてフィーチャリング(当時はENNE名義で活動)参加をしている。また、韓国ヒップホップシーンで活躍するアーティストRHEEHAB、OCEANとのコラボレーション曲「721(feat. RHEEHAB,OCEAN)」の楽曲制作を行うなど積極的に活動している。2018年6月のデビュー曲「MAKUAKE」では、Apple Music「今週のニューアーティスト」に選出され、セカンドシングル「HUSH」では高橋海(LUCKY TAPES)プロデュースによる作品をリリース。10月3日、1stミニアルバム「MAKUAKE」がリリースされた。
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