二度は同じものが生まれない、この日限りの祝祭
4月3日、TSUTAYA O-EASTを会場に『CROSSING CARNIVAL -visual edition-』が開催された。「二度は同じものが生まれない、この日限りの祝祭」をコンセプトに掲げ、音楽を軸に様々なアートや人をクロスさせるという、カルチャーメディアCINRA.NETならではの都市型フェスティバル『CROSSING CARNIVAL』の特別編である。
The fin.、odol、indigo la Endの3組のライブに、クリエイティブカンパニーKITEが「Film & Stage Visual Producer」として参加し、映像・演出を制作。通常の「バンドとVJのコラボ」ではありえない、映像と照明の連動、3組のステージを通じてのストーリー性によって、文字通り「この日限り」の刺激的な空間が作り上げられていた。
The fin.、紗幕に映像が投影される中で音を鳴らす
Ryosuke Odagaki脱退後、サポートメンバーを迎えての初ライブとなったトップバッターのThe fin.は、ステージ前方に紗幕が下ろされ、そこに映像を投影しながらのパフォーマンス。もやのかかった映像がアトモスフェリックな音像と高い親和性を感じさせる“Chains”に始まり、“Pale Blue”では曲の展開に合わせて映像も次々に変化し、ラストはさざ波とブルーの照明が楽曲の世界観を引き立てる。全体的に抽象的な映像が多く用いられ、意味を限定することなく、イマジネーションを喚起していく。
近年はMr.Childrenや安室奈美恵といった国内のビッグアーティストにも携わるKITEの稲垣哲朗は、もともとUnderworld擁するクリエイティブ集団TOMATOに影響され、映像やライブ演出を志したという。UnderworldとTOMATOと言えば、ライブ映像とビジュアルをマルチアングルで収録した名作ライブDVD『Everything, Everything』が思い出されるが、現在イギリスを拠点とし、普段のライブでも映像を用いるThe fin.もまたUnderworld同様に、音と映像によって幸福な忘我の境地へと誘ってくれる存在だと言えよう。
ステージに設置された2つのミラーボールによる光の粒子と、メンバーのシルエットが紗幕に映し出される中で披露された“Afterglow”の高揚感、曲タイトルとも連動し、バンドの演奏が熱を帯びるとともに、ジワジワと青から赤へと変化して行ったラストの“Glowing Red On The Shore”も非常に印象的だった。
odol×KITEには、YMOやCorneliusへのリスペクトも
アンビエントな“声”でスタートした2番手のodolは、紗幕に映し出された図形と音が同期していて、キックと同時に図形が揺れ、幻想的な雰囲気を作り出す。
odol(おどる)
福岡出身のミゾベリョウ(Vo)、森山公稀(Pf,Syn)を中心に2014年東京にて結成した6人組。ジャンルを意識せず、自由にアレンジされる楽曲には独自の先進性とポピュラリティが混在し、新しい楽曲をリリースする度にodolらしさを更新している。2019年7月4日、渋谷WWWにてワンマンライブ『odol LIVE 2019 "O/g-10"』を開催する。
そして、2曲目の“愛している”の歌い出しと同時に紗幕が落ち、メンバーが姿を現すと、一転シンプルな照明で雰囲気をガラリと変えていく。
また、ダンスミュージック的な“four eyes”では、後方のスクリーンに4つの目と口がコラージュされ、抽象的だったThe fin.の映像に対し、具象的なアプローチへと変化を見せた。
ここまででパッと連想したのが、Corneliusの映像演出だ。音と映像の同期は『Mellow Waves』ツアーのオープニングとも通じるものがあるし、“four eyes”の目と口のコラージュは、ガムを噛む口を無数に映し出す“Gum”にも似ている。もちろん、「パクり」などという話ではなく、稲垣はCorneliusの『AUDIO ARCHITECTURE』にも関わる人物であり、これは「オマージュ」と言うべきだろう。
なぜなら、odolの森山公稀は以前からYMOをフェイバリットに挙げ、3月に行われた自主企画では“ONGAKU”をカバーするなどしていたが、小山田圭吾は言わずもがななYMOチルドレンの大先輩。そして、odolの音楽もCorneliusと同様に「配置」を特徴とするからこそ、今回のオマージュには意味があったのだ。
そんなodolらしさがさらに端的に示されていたのが、ミニマルな反復を基調とする中で、メンバーそれぞれのプレイが徐々に変化していく楽曲の面白味を、メンバーの数と同じ6本の線の変化で表現した“大人になって”。これはイベントに先立って行われた座談会(参照記事)の中で森山が話してくれた、「スピーカーと糸による音の視覚化」をモチーフとした映像演出だったように思われる。サカナクションの「NF」や、King Gnu常田大希の「PERIMETRON」のように、odolもまた音楽にとどまらないクリエイティブを追求する存在になっていくのかもしれない、そんな可能性すら感じさせた。
indigo la End、演奏の凄みも見せつけた
ラストに登場したのはindigo la End。1曲目“ハルの言う通り”がスタートすると、ここまでの映像演出とは異なり、リアルタイムカメラによって演奏をしているメンバーの姿がモノクロで大きく映し出され、スタイリッシュなイメージを提示する。さらには、季節のモチーフである桜に加え、「あやつり人形」を意味する「傀儡」という歌詞から連想されたであろう2つの手が映し出され、そのエッジーかつサイケな雰囲気がindigo la Endの音楽性ともリンク。また、“ほころびごっこ”ではメンバーの姿が斜線の入ったイラスト風になったりと、その見せ方も様々で面白い。
この日は映像とのコラボレーションがテーマだったわけだが、紗幕を下ろしたThe fin.のステージに始まり、徐々に演出の形をシンプルにすることによって、よりダイレクトに演奏の熱を伝えていく、そんなストーリーもあったのかもしれない。実際に、indigo la Endが後半で披露した“蒼糸”“夏夜のマジック”“インディゴラブストーリー”という流れは、映像も照明も比較的シンプルで、演奏や歌そのものの素晴らしさこそが印象に残っている。
ラストの“1988”では、ここまでの中心だったリアルタイムカメラの映像ではなく、川谷絵音の影のみが大きく映し出される。この曲は川谷自身の生まれた年がタイトルに冠され、<1988 生まれた影の音><ないものねだりの嫉妬の交差で 光を調整できたはず>と歌う、ある種の告白めいた内容。だからこそ、楽曲と演出には強い結びつきがあり、川谷の歌詞により深みが生まれていたのである。最後はシューゲイズな爆音とカオティックな映像がシンクロし、何とも言えない余韻の中、ステージが締め括られた。
『CROSSING CARNIVAL』、次回は5月18日に開催
いま振り返っても、とても1日限りのイベントとは思えない、濃密なコラボレーションの連続であった。そして、それは単に最新の技術を用いたからということではなく、アーティストが楽曲に込めた想いや信念を読み取り、その背景にある歴史や文化を解釈して、それに合わせた演出を各アーティストごとに考えたからこそ生まれた「濃密さ」だったと言える。
やはり、人と人とのクロッシングこそが、熱量の高いアートを生み出すのだということを、改めて感じさせられた。この日と同じものは二度と生まれない。ただ願わくば、こういった試みの連鎖こそが、次なる創造を生み出すことを期待したい。
『CROSSING CARNIVAL'19』は、5月18日に開催。Yogee New Waves、Spangle call Lilli line、蓮沼執太フィル、崎山蒼志 feat.君島大空、TENDRE feat.SIRUPなどが出演するほか、フィッシュマンズ・トリビュートライブ企画も実施される(サイトを見る)
- イベント情報
-
- 『CROSSING CARNIVAL - visual edition-』
-
2019年4月3日(水)
会場:東京都 渋谷 TSUTAYA O-EAST出演:
indigo la End
odol
The fin.
Film & Stage Visual Producer:KITE
-
- 『CROSSING CARNIVAL'19』
-
2019年5月18日(土)
会場:東京都 渋谷 TSUTAYA O-EAST、duo MUSIC EXCHANGE、clubasia、WOMB LIVE、TSUTAYA O-nest出演:
Analogfish
Amgala Temple(with member of Jaga Jazzist)
eill
Emerald(フィッシュマンズ・トリビュートセット with 木暮晋也、HAKASE-SUN)
[ゲスト:曽我部恵一、崎山蒼志]
Enjoy Music Club
OGRE YOU ASSHOLE
GEZAN
C.O.S.A.
Serph
崎山蒼志 feat.君島大空
SIRUP
Spangle call Lilli line feat.ナカコー
田我流
TENDRE feat.SIRUP
TENDOUJI
東郷清丸
Dos Monos
ニトロデイ
Nyantora
nhhmbase
蓮沼執太フィル
パソコン音楽クラブ feat.長谷川白紙
VaVa
BIM
fhána
betcover!!
Homecomings
bonobos
Polaris
ミツメ
MONO NO AWARE
ものんくる
uri gagarn
Yogee New Waves
料金:4,800円(ドリンク別)
- プロフィール
-
- indigo la End (いんでぃご ら えんど)
-
2010年2月川谷絵音を中心に結成。2014年8月に後鳥亮介が加入。2015年に佐藤栄太郎が加入し現在の体制となる。歌とギターのツインメロディとそれを支えるリズム隊、それらが絶妙なバランスで重なり合う。2019年5月19日より、全国ツアー『indigo la End ONEMAN TOUR 2019「街路樹にて」』を開催。6月30日には、日比谷野外大音楽堂にて、『indigo la End 追加単独公演「abuku」』を開催する。
- odol (おどる)
-
福岡出身のミゾベリョウ(Vo)、森山公稀(Pf,Syn)を中心に2014年東京にて結成した6人組。ジャンルを意識せず、自由にアレンジされる楽曲には独自の先進性とポピュラリティが混在し、新しい楽曲をリリースする度にodolらしさを更新している。全楽曲の作曲をしている森山公稀は、現在東京藝術大学に在学中であり、舞台や映像作品の劇伴、他アーティストへの楽曲提供なども手掛けている。2018年『FUJI ROCK FESTIVAL '18』に出演。2019年7月4日、渋谷WWWにてワンマンライブ『odol LIVE 2019 "O/g-10"』を開催する。
- The fin. (ざ ふぃん)
-
Yuto Uchino、Kaoru Nakazawaからなる兵庫・神戸出身バンド。2012年頃に活動開始。シンセ・ポップやシューゲイザーからチルウェイヴやドリームポップを経由したサウンドスケープが特色で、初期から海外を視野に入れた活動を展開。2019年7月5日、渋谷CLUB QUATTROにて、LUCKY TAPESを招いて『#thefin_02』を開催する。
- フィードバック 0
-
新たな発見や感動を得ることはできましたか?
-