ジャズに、コントに。Calmeraがちょっと変わった音楽をやる理由

独自の道で大衆音楽を目指す、エンタメジャズバンド

6月2日、恵比寿LIQUIDROOMにて、Calmeraのワンマンライブが開催された。タイトルは『ThanX!!! Worldwide Tour 2019』。2010年5月に1stアルバム『Hello!!ワールドワイド』をリリースし、2010年7月に初ワンマン『Welcome!! World Wide』を開催したCalmeraにとって、この日のワンマンライブは、「Hello!!」と世の中へ初めて挨拶したときから「ThanX!!!」と感謝を示せるようになるまでの活動・気持ちの変化やストーリーを表す場のように見えた。

Calmeraは「エンタメジャズバンド」を自ら標榜しており、この日も約20分のコントあり、紗幕やプロジェクションマッピングを使った映像演出あり、ダンスあり、J-POP的なポップソングありと、「ジャズ」を基盤にしながらもその枠にはハマりきらないエンタメステージを繰り広げた。Calmeraのライブは、音楽に詳しくなくても、老若男女が楽しめるほどのわかりやすさがあり、表面的に見ても楽しいものに仕上げられているが、深いところまで覗くと、彼らがいかに「ミクスチャー」な音楽とライブをやっているかが見えてくる。

撮影:Yasunari Akita

お笑いに、漫画に、クラブジャズに、ハードロックに。ついには楽器を持たない場面も

オープニングの登場シーンから、大歓声が沸き起こっていた。紗幕にメンバーのイラストを映像で投影し、照明で影を作る演出を施すなかで、メンバーが一人ずつ登場。映像演出を担当したのは、お笑いトリオ・パップコーンのメンバーである松谷ヒロキで、イラストを描いたのは、漫画『天元突破グレンラガン』「男シリーズ」の作画を担当しているののやまさき(Calmeraの最新アルバム『浪花OVER-BLOW』のジャケットイラストも担当している)だ。

撮影:Yasunari Akita
撮影:Yasunari Akita

冒頭の“IDOLA”“No Chaser”では、ジャズらしくソロ回しのパートがありながらも、サビでオーディエンスの腕が上がり、ロックライブのようなフロアの盛り上がりを見せる。

撮影:Yasunari Akita

そもそもCalmeraは、1990〜2000年代に日本で盛り上がりを迎えた「クラブジャズシーン」の重要人物であるSOIL&"PIMP"SESSIONSや須永辰緒をリスペクトし、この日もリアレンジバージョンが演奏された“地中海に浮かぶ女”は2010年発売の須永によるコンピレーションアルバム(『須永辰緒の夜ジャズ・外伝~All the young dudes~すべての若き野郎ども』)に収録されるなど、彼らにフックアップされ、彼らを継ぐ存在である。さらに言うと、リーダーである西崎ゴウシ伝説は「ジャズを大衆音楽に戻したいという、勝手な使命感がある」と話し(オフィシャルサイトのインタビュー記事より)、クレイジーキャッツをも引き継ごうとしている。そうやってこの国のジャズの文脈に敬意を示し、メンバー自ら「すべての楽曲においてジャズの要素がある曲作りをしている」と言いながらも、特筆すべきは、作曲の多くを担っている西崎とギター・宮本敦のルーツには「ロック」が根強くあることだ。たとえば最新曲“満身創痍”では、頭を振りかざしながら演奏し、ドラムはツインペダルでドカドカ鳴らし、ハードロックさながらのパフォーマンスを見せた。

撮影:Yasunari Akita
撮影:Yasunari Akita

3曲目“真夜中の510”ではクラブジャズサウンドでありながら、リズムはサンバキックを踏むなど、全曲においてジャズの要素を入れながらもあらゆるジャンルをミックスさせるのがCalmeraなりの音楽の作り方だ。そして、その「ミクスチャー」は、作曲法だけに留まらない。

5曲目“CHANCE”では、ついに楽器を置いて7人が踊り出す。そして6曲目“SUNSET DRIVER”でも、ミュージックビデオの振り付けを踊る。どこまでも自由で柔軟な発想を持っているエンターテイナーミュージシャンたちだ。

なぜ、そこまで振り切るのか? Calmeraが手にしたい、シンプルなもの

さらに、ライブ定番曲“乾杯ブギウギ”では、曲の途中でアメリカの人気バンド「Curtis Rainbow」(Calmeraメンバーが演じる、架空のバンド)が乱入し、約20分のコントを繰り広げる。「なぜコント……?」とも一瞬思ったが、Calmeraは誰になにを言われようとも、たとえ「邪道だ」などの批判を受けようとも、自分たちのやりたい「エンタメジャズ」をやり通すことを、今日までの歩みのなかで腹をくくってきた人たちだ。

撮影:Yasunari Akita

はっきり言って、これまでずっとメンバー全員がそれを厭わず、戸惑わずにやっていたわけでは決してない。たなせゆうや(Tb)が『笑っていいとも!』の企画でちょんまげにしたときも(2013年)、6thアルバム『ゴールデン・バラエティー』(2014年)で本格的にロックもポップスも含めた幅広いジャンルの音楽をやっていくことを示したときも、メンバー全員が違和感を1ミリも抱かなかったと言えば嘘になる。

2013年のCalmera。左から三番目が、ちょんまげのたなせゆうや

しかし、お客さんの笑顔のために、世界で類似のないバンド / ライブを目指すために、そして「ジャズを大衆音楽に戻す」という目的のために、彼らはあらゆるミクスチャーを起こすことで新たなエンターテイメントを作ろうとしてきたし、世の中にとって「違和感」であることをあえて生み出すことで新鮮な驚きを与えてきた。

撮影:Yasunari Akita

コントをやり終えたあとには“ルピナス”を演奏。その前のMCで西崎は、ルピナスの花言葉が「いつも幸せ」「あなたは私の安らぎ」であることを伝え、「(ライブで)初めましての人がどんどん笑顔になっていく景色を見てると、すごく幸せやなと思って、その幸せな気持ちをメロディーにできへんかなと思って作った曲」と話していた。本編の最後は<ギンギン・ギギン・ギンギンギン 燃えろお前の元気ギンギン>と歌って会場が一体となるCalmeraのライブ定番曲“ロックンロール キャバレー”(『R-1ぐらんぷり』のテーマ曲でもある)で締めくくり、ダブルアンコールではタイトル通りの想いが込められた“Singin’ For Your Smile”を歌った。活動12年目に突入したCalmeraは、ただただシンプルに、聴いてくれた人、観てくれた人を、「幸せ」「元気」「笑顔」にすることにどこまでも誠実なバンドなのだ。

Calmeraの夢は、「先輩方を『超えて差し上げる』」こと

ライブの途中で、恵比寿LIQUIDROOMでワンマンライブをすることは8年前からの夢だったと明かされた。2011年6月に、同じ会場で、SOIL&"PIMP"SESSIONSとquasimodeのツーマンライブのオープニングアクトとして出演させてもらい、それがきっかけでCalmeraの認知が広がっていったのだと言う。

アンコールでは、「みんなの夢も、僕らの夢も、いつか誰かが気づいてくれる、叶う日がくるに違いない」という想いを込めて“Someday You Will Understand”を歌ったが、その前のMCで「まだまだ僕ら、夢の途中でございます。もっともっとたくさんの人に、日本だけでなく世界各国の人たちに、Calmeraの魅力に気づいてもらいたい。そんな夢を持ちながら活動しています」とこの先への意欲を語っていたことが印象的だった。

Calmera“Someday You Will Understand”を聴く(Apple Musicはこちら

5月29日発売されたニューアルバムのタイトルは『浪花OVER-BLOW』。Calmeraは浪花出身であることに誇りを持ち、最近ではテレビドラマ『ミナミの帝王ZERO』(関西テレビ)の劇伴を担当しながら出演も果たすなど「浪花」の看板を背負う存在であるが、彼らはその「浪花」という言葉に「OVER-BLOW」を付けた。「OVER-BLOW」とは、「強く吹く」などの意味合いもあるが、このタイトルにはもうひとつのストーリーがあるようにも読み取れる。

辻本美博(Sax)は以前CINRA.NETの対談で、「先輩方を『超えて差し上げる』っていうのが、後輩の役目だと思うんです」と話していた(参照記事:TRI4TH×カルメラ対談 J-JAZZやインスト音楽への問題意識を語る)。アルバムのなかには、ジャズ界の巨匠・ハービー・ハンコックの“BLOW UP”のカバーが収録されており、西崎はこの曲を、自分がインストバンドを始めるきっかけとなったバンド「hot hip trampoline school」が演奏していたことで知ったそうだが、この世代を超えた「BLOW」の継承を含め、過去の文化や姿勢を受け継いでいきながらも、それを「OVER=超える」ための活動に取り組むことを、ここに宣誓しているかのようにも読み取れる。歴史を継承しながら、「ミクスチャー」な手法を大胆に交えて、新たな大衆音楽を生み出そうとするCalmeraの歩みを、この先も見ていたいと思う。

イベント情報
『ThanX!!! Worldwide Tour 2019』

2019年6月2日(日)
会場:東京 恵比寿 LIQUIDROOM

『NIPPON OVER-BLOW TOUR 2019-2020』

2019年6月22日(土)
会場:福岡県 DRUM Be-1

2019年7月26日(金)
会場:愛知県 伏見 JAMMIN’

2019年8月4日(日)
会場:大阪府 Music Club JANUS

2019年8月17日(土)
会場:東京都 Shibuya WWW

リリース情報
Calmera
『浪花OVER-BLOW』(CD)

2019年5月29日(水)発売
価格:2,700円(税込)
FABTC-5

1.Conatus
2.満身創痍
3.クリムゾン
4.島之内ギャラクシー
5.IMPARACTION
6.Moonlight
7.BLOW-UP (cover)
8.Jump Out!!
9.春に唄えば
10.蒼い衝動
11.サヨナラノカワリ
12.Hello Mr.Sebastian

Calmera
『ミナミの帝王ZEROサウンドトラック』(CD)

2019年5月29日(水)発売
価格:2,500円(税込)
FABTC-6

1.ミナミの帝王ZERO〜メインテーマ〜
2.チーム銀次郎
3.真実は闇
4.あいがまブルース
5.記憶の断片
6.また来てくれたら嬉しいわ
7.WILD PINK
8.愛する菜穂子
9.深く青い瞳
10.中沢THEイリーガル
11.覚悟
12.長老の眼差し
13.ひだまり
14.FLASH BACK
15.阿久都天勝
16.また来てくれたら嬉しいわ〜ballad ver.〜
17.愛する菜穂子〜true love ver.〜
18.ミナミの帝王ZERO〜メインテーマ(Guitar ver.)〜
19.ミナミの帝王ZERO〜メインテーマ(Piano ver.)〜

プロフィール
Calmera
Calmera (かるめら)

全国各地の野外イベントへの出演や『SUMMER SONIC』への出演経験もある、大阪発エンタメジャズバンド。直近リリースした5作品中3作品が、オリコン週間インディーズチャートでトップ10入りしている。ライブのキラーチューン“犬、逃げた。-ver. 2.0-”がSONYハイレゾウォークマンのCM曲に使用されたり、“ロックンロール キャバレー」が『R-1ぐらんぷり』のテーマになり、また渋谷エリア最大の都市型周遊フェス『YATSUI FESTIVAL』や音楽バラエティ番組でのバックバンドなど、どんな状況えも対応する演奏力やアレンジ力の評価も高い。年間200本近くステージに立ち、エンタメ感満載のライブでリピーターが増加中。前作『JAZZY GOLD CHAIR』のジャケットは、『じゃリン子チエ』の作者・はるき悦巳氏が彼らのために描き下ろし大阪地区を中心に話題になった。また同作に収録の”IDOLA“のミュージックVRがSNSに投稿され、全世界から550万以上のアクセスを記録した。最近では、カンテレドラマ『ミナミの帝王 ZERO』(2019年4月クール)の劇伴を担当するなど、あらゆるメディアから依頼が殺到している。



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