Suchmosの軌跡、彼らが変えた音楽シーン。夢の横浜スタジアムにて

デビュー当時から掲げていた夢が叶った日

9月8日、Suchmosがワンマンライブ『Suchmos THE LIVE YOKOHAMA STADIUM』を開催した。横浜はバンドにとって地元であり、まだ6人が何者でもなかった頃から目標に掲げていた横浜スタジアムでのワンマンライブは、彼らにとって、そして、場内を埋め尽くしたオーディエンスにとって、メモリアルな1日となったことは間違いない。

この日は台風の接近に伴い、開催自体が危ぶまれ、実際当日も時折強い雨が降ったが、ライブ中は比較的穏やかな天候で、演目を変更することなく、2時間半に及ぶ熱演を展開。同日の夜中には強い雨風が吹き荒れたことを思えば、奇跡的な開催だったと言える。

撮影:Shohei Maekawa
撮影:Shun Komiyama

3~4年前と同じ、この日のYONCEのファッションが象徴するもの

ライブはSuchmosらしいジャムから始まり、序盤は“YMM”や“Alright”といった初期曲を中心に構成。YONCEはトレードマークであるadidasのジャージと(おそらくはLevi'sであろう)ジーンズという格好で、ブレイク当時を連想させつつも、短髪に顎ひげを生やし、その表情ははっきりと精悍さが増している。

この格好はバンドの名前を一躍世間に知らしめた“STAY TUNE”のミュージックビデオと同じで、JamiroquaiやOasisといったイギリスのバンドと、Nirvanaをはじめとしたアメリカのバンドの影響を兼ね備えた、Suchmosの独自性を証明するもの。音楽とストリートファッションが新たな蜜月を迎え、「このジャンルならこの格好」という縛りなく、フラットにあらゆる音楽を愛し、自由なスタイルを楽しむ時代を象徴しているとも言える。

日本の音楽シーンにおいて、Suchmosの登場が変えたこと

Suchmosが『Essence』でデビューした2015年という年は、星野源が『YELLOW DANCER』、ceroが『Obscure Ride』、ペトロールズが『Renaissance』を発表し、日本の音楽シーンの風向きがはっきりと変わった年である。そして、翌2016年に“STAY TUNE”がラジオやインターネットを通じて広く聴かれ、2017年リリースのアルバム『THE KIDS』はインディーズながらビッグセールスを記録した。

個人的に、今でも印象的なのが、『THE KIDS』のリリース当日に行われた新木場スタジオコーストでのceroとの2マンで、あの日高城晶平(cero / Vo,Gt,Flute)はMCで「Suchmosが出てきてくれたおかげで、自分たちのやるべきことがはっきりした」と語っていたこと。ceroは2010年代後半に爆発した「シティポップ」ブームの基盤を(結果的に)作り上げたバンドであり、ここからさらにマスへとアプローチするのか、それとも、自分たちの理想とする音楽をひたすら追求するのか、その岐路にあった。そんな中、強い上昇志向を持って登場したSuchmosに前者の役割を託し、後者の道を選ぶ、そのきっかけがあの日だったように思うのだ。

翌2018年にceroは『POLY LIFE MULTI SOUL』という傑作を作り上げ、Suchmosは年末の『紅白歌合戦』に出場。「シティポップ」という言葉の良し悪しはここでは置いておくが、この言葉に関連付けられる現在の日本の豊かな音楽シーンは、彼らがインディとメジャーの境界を超えて、それぞれの道を歩んだことが、その背景として大きく関係しているはず。ライブの前半を締め括った“STAY TUNE”を聴きながら、そんなことを思った。

撮影:Shun Komiyama
撮影:Shun Komiyama

影の中を歩いた時期を超えて、6人の晴れやかな姿があった

ライブ会場もライブハウスからホール、アリーナへとその規模を広げていったが、急激な状況の変化はバンドの歩みに暗い影を落とすことにもなった。2018年以降の制作は困難を極め、最新作『THE ANYMAL』がどこか重苦しい雰囲気の漂う作風になったのは、多くの人の知るところだろう。さらには、HSUの体調不良によってツアーが数本延期となり、初の中国ツアーも一旦は白紙に。バンドにとって最も苦しい時期となった。

しかし、HSUが復帰を果たしたこの日のSuchmosは、憑きものが落ちたかのようにリラックスしていて、初のスタジアムワンマンというプレッシャーをものともせず、とにかくメンバーみんな笑顔だったのが印象的。いや、プレッシャーを感じないはずはないのだが、6人の生み出す音の渦に入ってしまえば、不安は自ずと消えていくのかもしれない。

撮影:Kayo Sekiguchi
撮影:Shun Komiyama

象徴的だったのが、TAIHEIを皮切りに、メンバー一人ひとりがMCを担当した場面で、とにかく全員の声が明るいのだ。OKが「俺たちは音楽で引き寄せ合った仲間」と語れば、HSUは「お待たせしました。お待たせし過ぎたかもしれません」と『全裸監督』ネタで笑わせ、3万人を前にしても、口を開けばあっという間に6人の世界になってしまう。さらにKCEEが「夢は叶わないものだと思ってたけど、この瞬間なんだな」と想いを語り、YONCEが「いろんなものを見つけていく旅をこれからも続けていきたい」と続けると、「しゃべり過ぎ!」と笑って、“MINT”へ。

仲間とのつながりを歌った“MINT”はSuchmosのアンセムであり、オーディエンスの大合唱はまるで“Don't Look Back In Anger”のよう。YONCEは<何も無くても 歩けさえすればいい>という歌詞を、<歩き疲れてもまだまだ行こう!>と変えてシャウトし、花道でギターソロを弾くTAIKINGと並んだシーンは、この日最初のハイライトとなった。

YONCE、TAIKING / 撮影:Shohei Maekawa
KCEE / 撮影:Shohei Maekawa
TAIHEI / 撮影:Shun Komiyama
HSU / 撮影:Shun Komiyama
OK / 撮影:Shun Komiyama

中盤ではミラクルが。“Hit Me,Thunder”~“Pacific”が作ったクライマックス

『THE ANYMAL』というアルバムは、もちろんただ重苦しいだけの作品ではなく、ブルース、プログレ、サイケなどの影響を消化した一大叙事詩であり、「問題作」と呼ばれる作品は、年を追うごとにその重要性が増していくはず。また、楽曲のスケールの大きさはまさにスタジアムで鳴らされるべきものであり、実際“In The Zoo”は“STAY TUNE”までの流れを一変させ、重厚な雰囲気を作り出し、新曲の“藍情”もまたスタジアム仕様のビッグロックであった。

撮影:Yosuke Tori

そして、『THE ANYMAL』の収録曲の中で、この日どうしても演奏されなければならなかったのが“Hit Me,Thunder”である。この曲はアルバム制作中のコミュニケーション不全により、曲作りが思うように進まなかった時期、<深い話は無しにしよう わかり合えなくたってお前が好きさ 思想や言葉 傷の場所も違うけど お前が好きさ>と、YONCEが本心を歌詞にすることで、バンドが先へと進む契機となった一曲。この曲でサイケデリックな轟音を響かせると、続けて披露されたのは、<Sunset pacific really two-way Florida marine-blue Africa searoad>と、地元のラブホテルの名前を並べたSuchmos流のホームタウンソング“Pacific”だ。

スクリーンにはメンバーの過去映像とともに、雲の切れ間から日の光が射す映像が流れ、激しい雷雨に打たれた苦難の時期を、メンバー全員で乗り越えたことを表しているかのよう。ここまでパラパラと降り続いていた小雨が、この曲を機にピタッと止まったのは、ミラクルだとしか言いようがない。

撮影:Shun Komiyama
撮影:Shun Komiyama

リスナーが知らない音を届け続けてきたSuchmosの姿勢は、間違ってないと証明された

“A.G.I.T.”から始まった後半戦は、一曲一曲がとにかく濃厚。『THE KIDS』のリード曲としてこの曲が公開されたときには、「ずいぶん攻めた曲をリードにするな」と思ったりもしたが、今ではすっかりライブの定番曲になっていることに驚かされる。ニーズに合わせて無難な曲を作るのではなく、常に一歩先にボールを投げて、オーディエンスとともにさらなる高みを目指す。その姿勢が当時から一貫していたことを、この曲は物語っている。

前述した新木場スタジオコーストともうひとつ、最近のSuchmosのライブで印象的だったのが、今年5月にさいたまスーパーアリーナで開催された『VIVA LA ROCK』でのステージ。直前のライブが延期となった中での、HSUの復帰戦だったことも大きいのだが、この日のメインステージにはSuchmosの他に、King Gnuやゲスの極み乙女。といった2010年代の新たな顔役が並び、歌そのものやパフォーマンスの熱量だけではなく、それぞれが高い音楽力で数万人規模のオーディエンスを魅了する様に、非常に感動したのだった。

撮影:Kayo Sekiguchi
撮影:Shun Komiyama

Suchmosがこの日終盤で演奏した曲に、J-POPの定型のような、わかりやすいポップソングは一曲もない。しかし、間奏にトランシーなダンスパートを挟み、これまでのライブでハイライトを作り出してきた“GAGA”から、賛否両論を呼んだ“VOLT-AGE”をラストに据え、さらなるハイライトを作り上げたのは、彼らの正しさを証明していたように思う。

撮影:Yosuke Tori

それでもなお、ここは通過点

アンコールでは、お馴染みのリヴァプールFCのユニフォーム(この日はファンを公言するスティーヴン・ジェラードではなく、今年引退したフェルナンド・トーレスのモデル)を着たYONCEをはじめ、やはりメンバー全員が笑顔で登場。スマホのライトでスタジアム全体が星空のように光り輝く中、最後に披露されたのは“Life Easy”。<誰のためでもなく 自分のために生きよう>と歌うこの曲は、バンドの精神性を改めて表明するとともに、この日集まったオーディエンスの一人ひとりが輝く星であると称えているかのようだった。

間違いなく到達点だが、それでもなおここは通過点。まだまだ6人の旅は続いていく。これからも、その苦悩や苦労をBlowして踊りたいんだ。

撮影:Shun Komiyama
撮影:Yosuke Tori
撮影:Shun Komiyama
イベント情報
『Suchmos THE LIVE YOKOHAMA STADIUM』

日程:2019年9月8日(日)
会場:神奈川県 横浜スタジアム

プロフィール
Suchmos
Suchmos (さちもす)

YONCE(Vo)、HSU(Ba)、OK(Dr)、TAIKING(Gt)、KCEE(Dj)、TAIHEI(Key)の6人グループ。2013年1月結成。ROCK、JAZZ、HIP HOPなどブラックミュージックにインスパイアされたSuchmos。メンバー全員神奈川育ち。Vo.YONCEは湘南・茅ヶ崎生まれ、レペゼン茅ヶ崎。バンド名の由来は、スキャットのパイオニア、ルイ・アームストロングの愛称サッチモからパイオニアとなるべく引用。2019年3月27日にニューアルバム『THE ANYMAL』をリリース。9月8日には、結成当初から公言しつづけてきた、地元・横浜スタジアムでのワンマンライブ『Suchmos THE LIVE YOKOHAMA STADIUM』を開催した。



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