マライア・キャリーのカバーも披露した、柴田聡子によるクリスマスライブ&トーク
街がすっかり冬の装いになった12月6日。東京・表参道のスパイラルで、柴田聡子によるライブ&トークイベント『MINA-TO×CINRA.NET presents Small Christmas Party with 柴田聡子』が開催された。これはスパイラル内にあるショップ「MINA-TO」で12月23日まで開催されているクリスマスフェア『MINA-TO Arts Marche vol.3 PIKKUJOULU -小さなクリスマスパーティ-』のイベントのひとつとして行われたもの。「部屋に花を飾るように気軽な気持ちでアートに親しんで欲しい」――そんな想いで企画された無料イベントは、告知後すぐ満席に達する人気ぶり。
イベントの前半は、柴田のアコースティックギターによる弾き語りライブ。MINA-TOで取り扱われているアート作品やプロダクトがステージを取り囲み、柴田の歌にぴったりの空間を生み出していた。
柴田は、“結婚しました”“涙”といった人気曲はじめ7曲を演奏したが、クリスマスイベントということでマライア・キャリーの“All I Want for Christmas Is You”のカバーも披露。ひと足早いクリスマス気分に観客の顔も思わずほころぶ。
そして、後半はトークショー。美大出身の柴田に、彼女とアートの関係をはじめ、クリスマスにおすすめの音楽や映画、本の話、さらに幼少期のクリスマスの想い出なども聞いた。家族にまつわるイイ話も飛び出して柴田ワールド全開! その一部をここで紹介したい。
「(アートを買うのは)いきなり家に来た猫を世話しているみたいな感じ。あるいはオバQですね」
―ライブお疲れさまでした。スパイラルで歌うのは初めてだと思いますが、プライベートで来られたりしますか?
柴田:CAY(スパイラルの地下にある、レストラン・バー)は何回かあるんですけど、スパイラルに入ったのは実は今日が初めてなんです。なんか大人っぽいし、オシャレだなあと思って足を踏み入れられなかった。地方(北海道)から来たので、なんだかキラキラしてて……。
―スパイラルには、さまざまなアート作品や雑貨が売られていますが、柴田さんはアートを買われたりしたことはありますか?
柴田:5~6年前くらいに友達の作品を買ったことがあります。木材の切れはしに絵が描いてあるもので。
友達の展覧会って、とりあえず行って挨拶して帰る、みたいな雰囲気があるじゃないですか。あれがちょっと解せなくて。その日は「今日こそ作品を買うぞ!」って決意して行ったんです。それで友達に「作品を買いたいんだけど、どれがおすすめかな?」って聞いたら、「これは100年残ると思うから」ってすすめられて。
―ついにアートを買った。
柴田:普通の買い物とは、ちょっと違う感じでしたね。なんか偉そうな気持ちになって(笑)、「よし、買ったぞ!」みたいな。すごく不思議な買い物でした。
柴田:雑貨を買うみたいな感じかな? と思っていたんですけど、もっと意味がない感じでよかったですよ。いきなり家に来た猫を世話しているみたいな感じ。あるいはオバQですね。何もしないけど、ただ「オバQだよ~」って言ってるだけみたいな。
―オバQが家にいたら楽しいでしょうね(笑)。その作品はいまどうしているんですか?
柴田:台所に飾っているんですけど、だんだん茶色くなってきました。ヤバいですよね、それが味なのかもしれないけど。
―100年残るんですよね?(笑)
柴田:そう、それを信じて飾ってます(笑)。
柴田がクリスマスにおすすめする3曲
―今回はクリスマスをテーマにしたイベントということで、柴田さんにおすすめのクリスマスの音楽や映画、本などを伺いたいと思います。まずは音楽から。先ほどマライア・キャリーの“All I Want for Christmas Is You”を歌われていましたが、前から好きな曲だったんですか?
柴田:はい、大好きな曲です。いま、Apple Musicで調べると、もうランキングのTOP100に入ってるんですよ。みんな好きなんだなあと思って嬉しかったです。この曲はメロディーもいいけど、歌詞もめちゃくちゃいいんですよ。
マライア・キャリー“All I Want for Christmas Is You”を聴く(Apple Musicはこちら)
―どういう歌詞なんですか?
柴田:曲は鈴の音がシャンシャン鳴ってて楽しそうなんですけど、歌詞は結構悲しいんです。恋人が全然来てくれない。サンタもオモチャも私を幸せにしてくれないし、クリスマスのプレゼントはあなたがいてくれるだけでいい、みたいなけなげな曲で、「クリスマスにはあなたにいて欲しい」ということをずっと言い続けてるんですよね。
―切なさを通り越して重い曲ですね。
柴田:そうなんです、泣いちゃうんですよ。そういう切なさがシャンシャンの楽しさにかき消されそうなのですが、この曲は恋人とふたりで聴いたりしちゃいけない曲だったのでびっくりしました。
―“All I Want for Christmas Is You”は、おひとりさま用のクリスマスソングだったんですね。Wham!の“Last Christmas”もお好きだそうで。
Wham!の“Last Christmas”を聴く(Apple Musicはこちら)
柴田:大好きですねー。最近聴き直してみたら、すっごいダウナーなアレンジなんですよ。もっとイケイケで「ズッドン、ズッドン」みたいな派手なビートかと思ってたら、スッ、スッ、スッみたい感じで、ボーカルもめちゃくちゃソフト。サイケっぽくてビックリしたっていうのが、最近の感想です。こんなサイケな曲が世界で死ぬほど売れてるなんて、音楽っていいなあと思いました。
―“Last Christmas”はサイケなクリスマスソングだった(笑)。もう1曲、柴田さんのおすすめが、山本精一さんの“人形が好きなんだ”。山本さんは柴田さんが影響を受けたアーティストですね。
柴田:はい。この曲は『なぞなぞ』(2003年)っていうアルバムに入っているんですけど、『なぞなぞ』は私の中で「死ぬ時に聴くアルバム」でバッハと競ってるオールタイムベストなアルバムなんです。精一さんは本当にすごい。最近、夏目漱石を読んでいて、そこに出てくるエピソードが精一さんの感じに似過ぎててビックリしてるんですよ。
―精一さん、夏目漱石の生まれ変わりかもしれないですね(笑)。
柴田:かもしれない! “人形が好きなんだ”はアコースティックギター1本で歌ってるんですけど、「とにかく人間が好きじゃないから人形が好き」みたいな内容なんです。ずっとそういうことを言って、でもメロディーはキレイで、精一さんの声も素敵なんです。それでキラキラキラ~って感じで曲は進んで、最後の最後にいきなり「メリークリスマス」って言って終わるんですよ。
―突然言うんですよね。
柴田:それが最高なんです。高校の時に初めて聴いたんですけど、もう、衝撃が強過ぎて。
―それに影響を受けて、歌詞に「メリークリスマス」というフレーズを入れたのが“涙”だとか。この曲が生まれた背景を教えて下さい。
柴田:この曲は<今年いちばんに欲しいものは? その次に欲しいものは?>っていう歌詞から始まるんですけど、それは正月に父親が兄の子供たちに言っていたことなんです。父はパフォーマンス好きなところがあって、子供たちがいると場を盛り上げようとするんです。
それで姪っ子や甥っ子に「今年一番欲しいものは?」って聞いて、子供達が「はい、はい!」って手を挙げて「スイッチ(Nintendo Switch)が欲しい」とか言ってたんですよ。兄は「またやってる……」みたいな感じでドン引きしてたんですけど、私はそれを見て、ちょっと泣きそうになっちゃって。やっぱり子供を守るべきだよなって。
―突然目覚めた?
柴田:はい。テンションが上がってる子供たちに、すごく心打たれたんです。自分の恋がうまくいかないとか、健康面の不安なんかもうどうでもいい。この子供たちを守らないと! って思いながら、でも、最終的にはどうでもよくなれずに私情も交えつつ作った曲です。
柴田がクリスマスにおすすめする、映画と本
―煩悩は追い払えなかった(笑)。続いてクリスマスに見たい映画ですが、『戦場のメリークリスマス』(1983年、大島渚監督)だそうですね。
柴田:クリスマスに見たい映画って何だろう? って考えて、初めて『戦場のメリークリスマス』を見たんです。そしたら、とんでもない映画で。
―いい映画ですけど、クリスマスに見る感じでもないですよね。
柴田:はい、これはおすすめできないかなと思いました。でも、私は『爆笑問題カーボーイ』(TBSラジオ)っていうラジオ番組が大好きで、そのなかに「怒りんぼ田中裕二」っていうコーナーがあるんですよ。そこで太田光さんがリスナーの手紙を読み上げてる間、すごく不穏な音楽が鳴ってるんですけど、それが『戦場のメリークリスマス』の中の曲だということがわかったのが嬉しかったです!
―映画の内容とはまったく関係ない感動があった(笑)。クリスマスに読みたい本は『サンタクロースっているんでしょうか?』(偕成社)だそうですが、これはどんな本ですか?
柴田:これはアメリカの19世紀の新聞の社説を本にしたものです。8歳の女の子が「サンタクロースなんていないよ」と学校で言われて、「本当にいないんですか?」っていう手紙を新聞に送ったんです。その返事を新聞が社説として掲載したんですけど、その女の子の手紙と社説が載っている本です。
―100年以上も昔のものがいまも読み継がれているわけですね。
柴田:まだみんなが理想を信じていた時代で、いまだったら「きれいごと言って」って冷ややかな目で見られそうですけど、こういう気持ちもまた大切だなって思うんです。
―子供の頃に読んでいたんですか?
柴田:はい。装丁は地味だし、サンタの絵もリアルなタッチで子供が飛びつくような本じゃないから、きっと親が買ってくれたんだと思います。
8歳の頃、ほんの少し目を離した隙に現れたサンタクロースの思い出
―柴田さんは8歳の頃、サンタを信じてました?
柴田:ガッツリ信じてました。いて当然って感じで。
―ということは、プレゼントがちゃんと届いていた?
柴田:そうなんです。みんな7~8歳の頃にサンタを見ようと思って夜中に起きていたことがあると思うんですけど、私もそうで。それで、待っている間に3秒ぐらい目をつむったんです。体感時間は3秒だけど、多分3時間くらい寝てたんでしょうね。起きたらプレゼントが置いてあって、すごい! ほんの少し目を離した隙にサンタが来た! って感動しました。
―3秒の間に素早くプレゼントを置いて帰ったと。
柴田:そう! たった3秒で! それで「サンタすげえ!」と思って、寝ている兄とかおばあちゃんを揺さぶり起こして「大変だ! サンタ来てるぞ!」って大騒ぎ。
―“涙”のエピソードを思わせる子供ならではのハイテンションぶりですね。プレゼントは何でした?
柴田:磁石のペンを使って、ホワイトボードに砂鉄を集めて絵が描けるやつです。もう大好きで、毎日、サンタさんありがとう! って思いながら遊んでました。最後には砂鉄が集まらなくなっているのに、ホワイトボードがへこむまでペンでぐりぐり押して描いてましたね。
―それがアートへの興味に繋がったのかもしれないですね。柴田さんはどんな女の子だったんですか?
柴田:ずるいというか、セコい子供でした。どうやって楽するかばかりを考えていて。スケッチブックを早く終わらせたくて、適当にグシャグシャ描いて「終わった!」って言って怒られたりしてました。
―計算高いというより、怠け者っぽい感じですね。
柴田:なんか孫悟空みたいな子供だったんです。いまも基本的なところは変わってないんですけど、頭に孫悟空みたいな輪っかを付けられて、時々「痛い! 痛い!」って悲鳴をあげてます(笑)。
―もしサンタがいるとしたら、今年のクリスマスには何が欲しいですか?
柴田:マキタの掃除機が欲しいです。3年ぐらいずっと迷ってるんですけど、なんか振り切れなくて買えないんですよ。
―という話を聞いたどこかのサンタさんが、事務所に届けてくれたりして(笑)。
柴田:そうですね、誰かが……いや! ダメだ! ダメだ! ダメだ! 自分で買う! 自分で買います!
- イベント情報
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- 『MINA-TO×CINRA.NET presents Small Christmas Party with 柴田聡子』
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2019年12月6日(金)
会場:東京都 表参道 Spiral 1階 MINA-TO
出演:柴田聡子
料金:無料
- 『MINA-TO Arts Marche vol.3 PIKKUJOULU -小さなクリスマスパーティ-』
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2019年12月2日(月)~12月23日(月)
会場:東京都 表参道 スパイラル 1階 MINA-TO
時間:11:00~20:00
参加:
いでたつひろ
エヴィリナ・スコブロンスカ
エレオノール・ボストロム
カワイハルナ
片岡メリヤス
zaziquo
studioBOWL
SPOLOGUM
ポーリー・ファーン
マリアンヌ・ハルバーグ
mie takahashi
and more
- プロフィール
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- 柴田聡子 (しばた さとこ)
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1986年札幌市生まれ。恩師の助言により2010年より音楽活動を開始。今年リリースした最新作『がんばれ!メロディー』まで、5枚のオリジナルアルバムをリリースしている。10月にはバンド編成「柴田聡子inFIRE」による、初のバンドライブ盤『SATOKO SHIBATA TOUR 2019 “GANBARE! MELODY” FINAL at LIQUIDROOM』をリリースしたばかり。また、2016年に上梓した初の詩集『さばーく』では現代詩の賞を受賞。雑誌『文學界』でコラムを連載しており、歌詞だけにとどまらず、独特な言葉の力にも注目を集めている。2017年にはNHKのドラマ『許さないという暴力について考えろ』に主人公の姉役として出演するなど、その表現は形態を選ばない。
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